[ まだ。 もう。]


※捏造に継ぐ捏造に次ぐ捏造です・・・・








「目的のためには、手段は選ばないって感じ?」








突然、子供が何を言い出すかと思えば。




「赤井さんってさあ、わりと 『来るモノは拒まず』 ってタイプ?」




でもそれにしちゃちょっとズルイよね、とコナンは続けた。
「・・・・・・・・」
思うに自分は、相応に怪訝な顔をしたらしい。
途端に眼鏡をかけた彼の少年は、少年らしくないそのたたずまいにあからさまとも思える重い重いタメイキを一つ、ふうっと吐いて。
「拒まないんだったら、もうちょっとボクの言うコト聞いてくれてもいいのにさ」
そうぼそっと呟き(もちろんしっかり赤井には届く声の大きさで)、
今度は更に更にあからさまの2乗、
先程とは正反対のやたら子供染みた仕種で飾り気もない椅子の上、
ぴょこんと飛び乗り膝を抱え、下から赤井をじいっと見つめ見上げてきた。
「・・・・そう、言われてもな」
さすがにマズイだろう、と続けようとした赤井の言の葉は、
「さすがにマ」 の 「マ」 の余韻を残し、
そこで止めざるを得なくなる。
何故って子供相手、
時間にして僅か数秒だが、ただ凡庸と立ち尽くしていたの自分の足と腰に、
椅子の上から小さな身体がしがみついてきたからで。




「―――――― マズくないって、全然」




一瞬、己の耳を疑ったほどに子供にしては大人びた、低い声。
それを発したのがコナンだという当たり前の事実に気付くのに少しかかってしまったほど、
今の言葉は声は真剣味を帯びていて、切なものを含んでいたと感じるのは気のせいか。




「ボクなら本当に、大丈夫なんだ」




「・・・・そんな訳ないだろう」




尤もだ。
どう考えてもどう受け取ってみても拙すぎる。
コナンが、少年(むしろ児童と表記した方が正しいか) がどう見ようとも。
年齢はたぶんにして2まわり程度にビハインド、
否、大体にして自分もこの子供も性別は同じであり、
しかも。
露見してしまえばまず間違いなく後ろに手が回る。
「法に触れるしな」
普段の自分なら、まったく重きを置くこともない点だがここは一応、常識論を持ち出してみた。
が。
「へえー。 言うと思ってたけどやっぱりそうやって法律を盾に持ち出してきたね。 それって、やっぱ仕事柄? FBIは正義の味方で、法の番人ってやつ?」
素っ頓狂に子供染みた質問符で返され(しかし目は笑っていない)、
思わず短絡的に、「そういう訳じゃない」 とつられて眼で否定してみれば、
「そうだよね〜? 法と正義が関係あるワケないもんね」
「、」
正に打てば響く、といったスパンの短さで否定は肯定で戻されてしまい息を飲む。
「法律っていうのはさ、世の中の正義が遂行されないからこそ制定されてあるわけだからさ☆」
あわせて続けて還ってきたのは辛辣で皮肉な科白。
「・・・・ボウヤ」
溜息と共に眼前、(いや、眼下か)
椅子に乗ってちょうど自分の胸の高さのあたりに来る眼鏡越しの瞳を諦め混じり、
覗き込めば。
「何度も何回も言うけど、ボク、赤井さんのこと大好きなんだよ」


FBIは法の番人ってわけじゃないみたいだけど、正義の味方でしょ?
正義の味方だったら、そのまま子供の味方でしょ、だからボクの言うこと聞いて?


・・・・・・だなんて無茶をいう。




「あのなボウヤ、」
「なに?」
言いかけて真っ直ぐ見返され、瞬間戸惑う。
・・・・・・そもそも、この子供との始まり、関わりの発端はあまりよく覚えていない。
いつからかいつの間にか(もしかすると最初から始めから? ・・・・まさか)
事件絡み組織絡みでの関連と関係とで始まり、
そして今、ふと我にかえって現状を顧みてみれば、つい数十分前の如く、
『遊びに来ちゃった。 今夜泊めてよ赤井さん』
などとアポイントの一つも無いまま自分の部屋に押しかけてくるようになり、
(想像するにこの場所をコナンに教えたのはジョディあたりか)
そうしてこれもいつ頃からのことであるのか定かではないのだけれど、
先程の「大好き」宣言に端を発し、
「likeじゃなくてbe fond ofでもなくて、loveってイミで」
とか、
「そうやって告白しても強気で押せ押せで行ってもお願いしても、赤井さんは全然大丈夫なヒトだってベルモットが言ってたよ」
などなどエトセトラ、etc.
最後のベルモット云々、聞き捨てならない名前が出てきたところについては先日から深く問いただそうとはしているのだが、
「いーやーだ。 でもどうしてもって言うなら、ギブアンドテイクで教えてあげてもいいけど」
必ず首を横に振られ、そして続くは取り引き。
「最初に赤井さんがボクのいうことちゃーんと聞いてくれたら、いつボクがベルモットからそう聞いたのかちゃーんと教えてあげる」
ね? 簡単でしょ?
とコナンはあっさり軽く言ってのけ、笑いかけてくるものの、
しかしその 『ボクの言うこと』 とやら、彼の要求自体がこれまた難解というか尋常でないというか常識外というか人の道を外れまくっているというか、つまりその。








―――――― 抱いてくれとせがむ子供に、どう応えてやれば良いというのだろう。








「少しくらい痛いのは、平気だから」




「無理・・・・だろう、物理的に」
痛いとか痛くないとかの次元ではなく、精通さえ未だ迎えていない年齢であるはずなのに、
それすら見越したかのよう、コナンは重ねた。
「大丈夫、ちゃんと性欲もあるし赤井さんに面倒とかはかけないよ」
子供だけど子供じゃないし、一回試してみてくれたらわかってくれると思う、
と、また訳のわからない言葉と自信げな笑み。
「・・・・・・・・・・」
困る。
どうやら自分は心情・内情があまり外には出ない性質であるらしく、
表立って表情には出てはいないのだろうが赤井は困る。 困り果てる。
そうして身体にしがみつかれたまま、ようやく口をついて出た科白はといえば。
「―――― 手段を選ばないのは、ボウヤの方だろう」
まあこの場合、形振り構わずと表現した方が若干正しいのかもしれないが、
どちらかといえば主導権はコナンが握っているような錯覚さえ起こしかけているあたり、
この子供の手練手管は長けている。 オソロシイ。
「選ばないんじゃないよ。 選ばせないんだ」
そしてそんな子供はまたもや、さらり。 やはりオソロシイ。
オソロシイ少年は赤井の噛み殺した微かな嘆息に気付いているのかいないのか、
でもね、と。
「でもきっとボクは赤井さんの役に立つから」
傍に置いといて損は無いと思うよ、だなんて自信に満ちて言ってのけた後、
椅子の上、無理矢理背伸び、出来うる限りの爪先立ちをして。
「けど、まあとりあえず今日のところはこれで引き下がっとく」




「ボ・・・・」
「黙って」




前歯をぶつけかねない程の勢いと唐突さを持ち合わせた、
襲うようなキス。



しかし。




そうするには身長が足りなかったのか、
それとも実際のところは口ほどには経験を積んでいないのか、
(後者の場合、子供に対してこういう考え方をするのは我ながらどうかと思うが)、
そのキスはただ唇を重ねるだけの触れるだけのもので、
ここにきてようやく赤井は自分を取り戻す。




「―――― ボウヤ」




一度唇を離し、僅かに姿勢を低くして目線を同じ高さに揃え、
真正面から名前(?)を呼んでやって、
貰ったキスより幾許か上手に、捕食者として長めのキスを与えてやって、
つまりは簡単な意趣返し。




これからどうする。
頭の左片隅をちらりとそんな考えがよぎるが、先のことは考えていない。




何故、素晴らしくここまで子供らしくないのか、
何故、相手が自分なのか、
何故、その自分は彼を相手にしているのか。




息継ぎの合間もきちんと取って、浅いが長いキスはまだ続く。




解けない謎はないけれど、
答えの出ない問題もあって、
このままでは深まるばかりの関係にもなってしまいそうで、
面倒はとことん縺れて絡まり合う。




「ン・・・・」




息継ぎの拍子、ほんの僅か触れ合った互いの舌先の感触に、
一瞬コナンの身体が身じろいで、しがみついてくる指先にぎゅっと力が込められたことに、
きっとコナン本人、気付いていない。












気付かせるには、まだ早い。












―――――――――― けれど引き返すには、もう遅い。












書き逃げ脱兎!


しかし続きます。  はじめてものがたりに。 ←公約