[ 何も起きないただの小話・2 ]






「なんつーかさ」
ある日曜日の昼真っ只中、
毛布の間からモソリと頭だけを覗かせながら、はじめが何を言ってくるかと思えば。




「アンタとなら完全犯罪企めそうな気がしてきた」




おそらくそんな台詞が一番そぐわない立ち位置にいる高校生であろうと同時、
そしてそれを言い放った瞬間に目の前にいる自分の職業、その他諸々を吟味すると、
一般論だとしてもとてもとても看過できる一言ではなく、
ふう、と明智は小さく嘆息した。
もちろん、冗談ですらないただの戯言だとわかっている。
それでも、
「何を世迷い言を。 それとも寝言ですか」
寝言は眠ってから言いなさい、と一応律儀に返答しつつ、
「ああ、」
今更ながら気がついた、というように。
「とりあえず君とのことは完全犯罪に近いかもしれませんね。 言わずともがな」
するとはじめは面白そうに笑った。
「わっかんねーし? オレ、もしかしたらそのうち口滑らせちまうかも」
そしたら明智さん、ゴメン。 と口先だけで謝りながらしかし、へらへら表情は変わらない。
だから悪趣味な台詞には、悪趣味な言葉をあえて選んだ応酬で返してやる。
「好きにしたらどうです。 まあ、口外したところで信用性はゼロですよ。 私はそういう生き方をしてきましたからね。 どこから誰が見ても清廉潔白です」
と、
「うーん」
はじめは数秒だけ考え込む素振りを見せ、それから。
「確かにアンタ、見た目からしてアルビノっぽいけどさあ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
果たしてはじめが正しい 『アルビノ』 の定義を理解しているかどうかはこの際、(面倒だから) 不問にしておきながらも、
「んじゃ、そこに汚点をつけたのがオレ?」
続けられた一言に、今度は嘆息ではなく、確実にタメイキをつく破目に陥る。
「自ら自分を汚点・・・・・・」
それで良いんですか金田一君は、とまじまじ顔を眺めてやると、
当のはじめはあっけらかんと。
「いいんじゃねー? だってオレ、自分が特別だなんて思ったコトねーもん」
これっぽっちも選民意識の欠片も無い響きで、悪びれもせず、たぶん本気本心からそう言ってきた。
「、」
作為も作意も、あまりに無さすぎるはじめの素振りに、明智ともあろう者が一瞬、詰まる。
「・・・・・・・・金田一君、」
無意識だからこそ自覚が無いからこそ、
全くの他者に対してこの上なく性質の悪い嫌味に成り得る言葉も多々あってしまうんですよ、
とここで自分が教えてしまうのも何だかどうかと数秒で思い直し考え直し、
そう遠くない未来、いつか自ら気付くことを念じながら。




「とりあえず、服を着なさい」




がらりと話を変えた。




「服を着て、ベッドから出なさい。 もう午後です」
「・・・・・・・・・・・・脱がせたのは誰だよ、ってハナシ」
「ほとんど自分から脱いでいたのでは?」
不服げにぼそっと呟かれても、普段通りにさらりと返してやる。
ついで、
「大体にして昨夜、私のところに突然押しかけてきたのも君からでしたよね? 違いましたか?」
いつもの調子でイヤミのオマケまでくっ付けて。
すると案の定、彼は予定通りの反応をした。
「あー、やっぱオレ、やっぱりオレ、アンタのコト」
「はい?」
「大っキライだ!」
「そうですか」
「いっつも高慢だし!」
「そうですか」
「すっげーイヤミだしさ!」
「そうですか」
「基本、やっぱオレと明智さんは相容れないんだっつの!」
「そうですね」




子供がどうわめこうと、がなろうと、頭を抱えようと涼しいカオで流してやって、




「で、今日はどうするんです。 夕方には帰るんですか? それとも明日の朝、早起きしてここから登校予定ですか?」




再びがらり。 話題を変える。
と、




「うーーーーーーーーーん・・・・・・・・・・・・」




どうすっかなーーーー、と真面目に考え出したはじめを横に、
考え込むということはおそらく今日も泊まりコースだな、と、
今までの経験とパターンを踏まえての明智の推察は見事、今回も外れることはなかった。




















月曜、朝。
明智の部屋を出る際のふとした、制服姿のはじめの一言。
「どうしてもひとつ、解けない謎があるんだよなーーーー」
「なんですか」
「一つめはどうしてオレ、明智さんなんかスキになっちまったのか」
「・・・・・・・・」
「そんでもって二つめ、なんで明智さんがオレをスキなのか」
「・・・・・・・・」
「な? わっかんないだろ? って、ヤベッ、もう時間ギリギリ! そんじゃ、また!」
騒々しく慌てて走り去るはじめを見送りながら、
明智は嘆息でもなくタメイキでもない息を軽く吐き、
自分も出勤するため、ドアを閉めた。
金田一少年にも解けない謎。




それでは一回り巡りめぐって、完全犯罪など無理だ。




たぶん、この謎はおそらく一生とけない。






















その日の午前中、珍しくも小さく欠伸を噛み殺す明智に気付いた剣持に、
「どうしたんですか、警視が欠伸なんて」 と訊ねられ、
「いや、金田一君の寝言があまりにうるさくて」
半ば恣意的、残り半分は意図的に答えると。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・聞かなかったことにします」
少し長い沈黙の後、しっかりオトナの判断をした剣持はやはり、年の功というべきか。
「そうしてもらえると助かります。 お互いのために」




「あと、金田一のためにもです」




小声ながらも間髪入れずの剣持の呟きに、思わず口許を緩めた。















イチャイチャさせすぎたー!
けどイチャイチャさせたかったーーー!
途中で「大好き」と言わせてみました(笑)。 どこかで立て読みーーーー
・・・・・・・・・・・すみません自己満足のためだけに書いた・・・・・・・・・・・・