[ 優しい貴方は大好きですが、]







陽ももう沈んで落ちようとし、
そろそろ明かりが必要になってこようかというゴールドステージ、バーナビー宅。
いつもの部屋で、ふっ、とバーナビーは後方、テーブルにて揃ってこの部屋までの帰路の途中、
「腹減ったあ・・・・」 と本人自ら買い込んでいたテイクアウトの寿司にかぶりついている、
斜め後方の人物に視線を流した。
流しながら、


「虎徹さん、」
「んー?」
問いかけではなく、語りかけの意を含ませて彼の名前を呼ぶ。
呼びかけた相手は、いつも通り普段通り、変わらない表情そして変わらない口調で年甲斐もなく、
素直に真っ直ぐ返事をしてきながら、
「バニーは食わねーのか?」
一応、一・五人前のサイズで買ってきたんだぜ、と海老の握りを箸でつまみつつ、
勧めてくる虎徹に。
「僕はいいですから虎徹さんが食べてください」
実際、バーナビーとしてはほとんど空腹感も感じていなかったに加え、


あと少ししたら僕があなたを食べますから、


と、本音本心内心、プラス本性をココロの中で独白しながら、
ひとり、あえて芝居がかりまくりの台詞の台本を、まるで本人に読んで聞かせるように。


「僕にとって貴方が全てなんです」
「・・・・・・・・」
「心に巣食っている貴方を、いつもいつも消せない」
「・・・・・・・・」


――――――――― 貴方の為、に?
――――――――― 貴方のせい、で?
――――――――― 貴方の御蔭、で?


それぞれ微妙に異なる、自分の現状そして心情を現わす形容詞。
どれも当てはまりそうで、しかしどれも何かどこか違う。
そう自覚しながらも、あえて一番無難な形容を取り、無言を守り続けている後方の虎徹にバーナビーは向き直った。


「貴方の為になら、ヒーローを辞めてもいいです」


「んなコトしたら、失職しちまうだろーが」
身勝手極まりない言葉に、当の虎徹はさほど驚く様子もなく、ただ短く素っ気なく当たり障りのない返答をしてくる。


そしてまた数秒の沈黙。
これ以上間をおいても、虎徹から今以上の返事を引き出せないことを承知しているバーナビーは、
意識して首を傾げる仕種を選び取りつつ、言葉遊びを続けた。
「大丈夫ですよ。 しばらく無職でいてもそこそこ暮らせる程度に蓄えはありますから」
「・・・・・・・・羨ましいねえ」
「とは言っても、」
一度言葉を切り、ゆっくりと数歩、足を進めて。
「さすがに一生遊んで暮らすことは無理ですから。 いずれどこか別の国にでも行って、労働の見返りチップで暮らす生活もいいかもしれません」
「なんだそりゃ・・・・」


元々、周囲と名の付く有象無象の輩にほとんど興味というもの(外面というタテマエは別にして)、
そして理解と意義とを見出すことのできなかった自分が、
まさかここまで他人に固執するなんて、少し前までは想像すらしてもいなかった。
なのにいつの間にか、この年上の人物に興味を持ち、
気づけば興味が別のものに変わり、紆余曲折を経て、今に至る。


当初は、ツンとデレとを巧い具合に使い分け、彼を自分のペースに誘い込んで落とすつもりだった。
意識せず諮らずとも、今まで自分が積み上げ作り上げてきた経験によって、そうするつもりだった。
けれどことごとく失敗した。
理由は、実のところ今でもよくわからない。


誘い込んで落とすつもりだったのに、反対に堕とされた。
自分なしではどうにもならない位置まで彼を追い込みたかったはずなのに、立場は逆転、
虎徹にすぐ手の届かない場所で落ち着かなくなってしまったのは、
どうにもならない磁極に立ってしまったのは、自分。
彼の全てを奪い去るつもりで、彼に全てを奪われた。
それが失敗したと自覚し目論見が外れ、否応なく気付かされた事実。


「虎徹さん、」
「あー食った食った。 これであとは緑茶があったら文句ナシだったんだけどな」


また一歩近付いたバーナビーを、虎徹はガサガサとゴミと化した空の折り詰めをまとめつつ、
牽制するかのようあえて当たり障りのない台詞を吐く。
しかしここで逸らされては。肉食うさぎの名が廃る。


「まだ肌寒いですね。 温めて貰えたら嬉しいです」
「寒けりゃ暖房つけろって。 それで一件落着」
「常時、節電中です。 第一、職業云々は別にしても年上が年下に優しくするという不文律は、世間の常識ですよね」
「もう4月に突入したんだぜ? 春だ春」
「花冷えという言葉もありますし、そもそも僕は体温が低いので」


寒さには人一倍弱いんです、だから、


「温めてください」


一歩踏み込んで、その肩に手を伸ばし、触れる。


「〜〜〜〜ちょ、ちょっと待った、周りが思っちゃいるほど、実際のとこ俺だって特にそうそう平熱が高いってワケじゃなくてだな・・・・!」


肩に触れられて、途端に慌てだした虎徹をそのまま強引に引き寄せ、
吐息が触れ合う至近距離で、苦笑。


「そうなんですか? それなら、」
「な・・・・何だよ」


「僕が温めてあげます」
「な・・・・・ッ・・・」


苦笑をやんわりとした笑みに変え、固まりかけたその唇に口付ける。


「無茶はしませんから」
ついっと唇を離し、にっこりとそれこそ万人たるオブザーバーに見せるいつもの、
ツクリモノの笑顔で素振りで、
優しい声色でおねだりするのも、
「・・・・・虎徹さん?」
半疑問形で名前を呼ぶのも、
全て貴方の所為で貴方が原因だと告げたら、このオジサンは一体どんな顔をするのだろう。
「・・・・・しょうがねえなぁ・・・・」
タメイキを吐きながら、加減しろよな、と迂遠ながらも了承の意を示した虎徹に、
わかってます心配しないでください、と口先だけ極まりない言葉を返しつつ、
バーナビーは虎徹の唇をもう一度自分の唇で塞ぎ、




誰にも譲らない。 このヒトの身体も心も。 できることなら魂までも。




―――――――― 全て僕のものです、と心の中だけで、告げた。























































独りで眠るには大きすぎる感のあるこのベッドは、まるで彼とのこの情事のために設えられたかのようだ。
「・・・・・ッ、・・・・」
細身ではありはするけれど、相応に均整の取れた身体を仰け反らせる虎徹から僅かに漏れる、
掠れた吐息。
バーナビー自身を先程から受け入れている彼の内側は、熱くて熱くて、本当に心地悦い。
内部はバーナビーのたっぷりの愛撫でとうに解され、
そして手の内に握り込まれている虎徹自身も随分と張り詰めているというのに、当の彼はあまり声をあげてはくれず、
「・・・・悦い、ですか?」
甘声を聴きたくて、そっと耳元に唇を寄せてバーナビーが情欲混じりで小さく問いかけてはみるけれど、
結果はいつもと同じ、その口許から漏れる吐息はとてもとても熱く、湿り気を帯びているのに、
虎徹はいつもいつも喘ぎと声とを噛み殺す。
・・・・・・一度くらい、我を失ってしまうほど、この行為に耽ってほしい。
「・・・・・ッッ!!」
心情に引き摺られ、些か乱暴にグイッと内部の最も深いところを突き上げてみても、
声にならない声を喉の奥で放つだけの、そんな虎徹をバーナビーは目を細めて眺める。
「虎徹さん、・・・・イイ、でしょう・・・?」
腰も小さく戦慄き始めている彼に、あえて意識的に挑発めいた口調で投げかけてみても、
年上のコイビト(こう表現していいはずだ。 ・・・・たぶん) は、唇をきつく噛みしめるだけだ。


それに無性に苛立って、自らを最奥に埋め込んだまま、
バーナビーは手の内の虎徹自身の先端を強くきつく指先で嬲ってみる。
「ッ!? ―――――― か、はッ・・・・!」
さすがにこの刺激には耐え切れなかったらしく、
ビクッと身体が大きく跳ね上がり、虎徹自身の先端から透明なものに混じって、僅かだが白濁したものが零れ落ちた。
同時、その腰が一層大きく戦慄き出す。
合わせて内側の弱いところを先端でぐいぐいと押し上げていけば、
先端からの体液に混じる白濁が目に見えて増え、限界がもうそこまで来ていることを身体が示して。
なのに、どこまでも声をあげようとしない虎徹に、バーナビーはもう諦めるしかなく。
きつく噛み締められた唇に唇を重ね、抵抗もされたが強引に歯列を割って舌を絡ませた。
どうせ声を聴かせてくれないのなら、せめて吐息だけでも閉じ込めて、奪っていたい。
「・・・・っ・・・!」
絡ませた舌を緩く強く吸い上げると一緒に、虎徹自身も上下に扱き上げながら内側は挿入を繰り返していく。
「――――― ッ、・・・・ッ!」
舌を捕らわれ、呼吸もままならないキスが苦しいのか、
虎徹自身に与えられている直接的な愛撫がきついのか、
それとも内側を掻きまわされ、突かれ続ける快楽が大きすぎるのか、
虎徹の腰ががくがくと震え出し、連動して内部のバーナビーをきつく締め上げた。
「、凄い・・・・」
思いきりの締まりの強さと内壁の蠕動にバーナビーも一気に煽られ、思わず会心の笑みを浮かべながら感嘆が漏れる。
互いの絶頂も近い。
組み敷いているのは自分の方のはずなのに、
ぞくりと背筋が震え、肌が粟立っていくのを抑えられない。
「・・・・くぁ・・・ッ・・・・!」
虎徹の、ほんの僅かな声。
直後、バーナビーの手の内で張り詰めていたそれがひくりと震え、そして、
「つッ・・・・!!」
最奥を突き上げると同時、
一際大きくその背中が弧を描いて、虎徹は己を弾けさせた。
その解放により、一層バーナビー自身に絡み付いてくる内側に引き摺られ、
一瞬の間を置いて、バーナビーも中に自らの欲を吐き出す。
合わせて、放ったばかりの虎徹自身をもう一度しっかり握り込んでやり、
軽く緩やかな扱き上げを繰り返して残りの白濁を全て搾り出してやりながら、
名残惜しみながらも虎徹の中から自らを引き抜き、
そのまま重力に任せて組み敷いた身体の上に、倒れ込んでその体温を、貪った。






























「あーーー・・・・、フラつく・・・・」
ホントもう歳かもしれねぇ、とぼやきながらシャツに腕を通し、
「バニーも三十越えたら一挙にガクッと来るからな。 覚悟しとけよ」
軽口を叩いて何事もなかったかのようないつもの雰囲気を衣服と同時に纏っていく姿を、
一段と闇が濃くなってもうほとんど視界の効かない暗闇の中、
それでも彼の影をじっと眺めながらバーナビーは思う。




このヒトが自分の傍から去って行かないのは、優しさという気質のせいなのだろう。
けれど、
だけど優しさは、時折僕の知らないところで僕のことを裏切るので要りません。
そう思う。




幼い頃に家族を失い、
プライベートもプライバシーも何もかも捨てて目的のためだけに生きてきた。
結果、貴方と知り合う前にもいろいろなことがあって、
知り合ったあと、それからこうして身体まで重ねる関係になってからもいろいろなことがあったけれど、
僕の今までの年月が貴方と出会うために用意されていたというものならば、
どんな苦悩であろうと理解はするし、苦痛でさえも愛しいものとして受け入れますから。




だから僕は貴方がいればいい。




貴方は、其処にいればいい。












―――――――― ただ  赦されるのかどうか  教えてほしい













黒うさ。 ていうか病うさ?
そこまでおかしくしたつもりは無いですが変な子になってしまいました