[ Darling  tigeeeeeer!2 ]







気付けば9月も中旬で、
今年も残すところあと三分の一、いつの間にかそんなところまで迫ってきている。


つい先日まで、「明けましておめでとうございます今年も宜しくお願いします」 的な定型文を、
至るところその都度その都度あちこちで口にしていたような気がするのに、
すぐまた数ヶ月後には 「今年も大変お世話になりました」 だの 「良いお年を」 だのこれまた定型文的な言葉と台詞とを散々聞かされる破目、そして自らも同じくらい告げる羽目に陥るんですよね、毎年毎年。
とのバーナビーの一言から始まった、こんな会話。


「こう、幼い頃と比べると、日々が過ぎ去っていくのが年々早く感じられますよね、大人になるにつれ」
「まあな」
「僕がそう感じるくらいですから、虎徹さんは余計早く感じるんじゃないですか」
「・・・・・・・・」
「僕より歳を重ねている分、より早く月日が経つのが早いんじゃ・・・・」


「あーわかったわかったわかってる、皆まで言うな」


どうせ俺はオジサンだよ、と一足飛びで先に結論づけて手をぶんぶんと振って遮り、
無理矢理虎徹はバーナビーの言葉を遮った。
もはやここ最近、『連れ立って帰る』 というより 『ほぼ強制的に連れ帰られる』 に移行しつつあるゴールドステージ、バーナビー宅。
虎徹宅とは段違いに豪奢ではあるけれど、モノ自体はあまりない(収納?) 彼の部屋で恒例通り向かい合ってアルコールを摂取しつつ、
なんのかんのと雑談、時折俗談などを絡めて小一時間ほどが経過した頃、
互いに少しばかり適度にアルコール成分が回り始めてきた頃合、そんな付近のこんな会話。


「結局、この夏も大した経験ができないまま終わりそうです。 虎徹さんもなかなか入籍してくれませんし」
「もう酔ってんのか・・・・」
虎徹、唖然。
「グズグズしていると、また今年も終わってしまいます。 だからせめて事実婚、ということで来月早々にでも此処に引っ越してきて貰えれば」
「完ッ全に、酔っ払っちまってるな・・・・」
虎徹、呆然。
いくら何でも酩酊状態に陥るには早すぎるだろ、と苦い顔をして、虎徹はアイスペールから彼のグラスにひょいひょいと氷を大量に放り込み、
バーナビーのアルコール摂取濃度を限界まで下げさせようとしつつ、
「そこまで酔ってません。 僕は事実を口にしただけです。 実際、今年になって何にも進展していませんし」
「よく言うぜ・・・・」
酔っ払っていないと言い張る年下の同僚兼相棒兼コイビト、がさらりと言い放った台詞に、
氷を追加する手を止め、三十路やもめは軽いが長いタメイキをついた。


「俺の記憶が正しいなら、」


タメイキ混じり、指折り数えつつ。


「縁日にも行ったし、花火も見たよなぁ? プールも一回だけだけど行って、そのあと有給取って一泊旅行もしただろ」
「ああ、行きましたね」
「それ全部が全部、お前に引っ張られて連れ回されたんじゃなかったっけな・・・・」
「そう言われてみれば、そうかもしれませんね」
「〜〜〜〜! そんだけ行ってて、何も無いとか言うなっての!」
「何も無かったです。 事実です」
まさかしれっとそんな返答が戻ってくるとは思わず、
「バ〜〜〜ニ〜〜〜ー〜〜〜!!」
やべえ会話が通じてねえ、と虎徹は頭を抱え込まざるを得ない。
どうやったら通じるんだこのバニーちゃんに、と煩悶していると、小さく笑われた。
「何だか、僕と虎徹さんとの記憶と解釈の仕方に天と地との相違がありますね」
その笑い方と口調からして、『あからさまに全てを理解していて、あえてそんな返答こんな返事をしています悪しからず』 的な余裕と含みを思いっきり湛えているのは明白で、
だから余計。
「・・・・・・・・天国と地獄くらいのな・・・・」
タメイキを吐息にかえて、そんなぼやきを零してしまったところ、


「じゃあ、今から天国に行きますか?」


いつの間にここまで移動していたのか、座っていた虎徹に対して斜め上からふっと覗き込まれ、


「うおッ!!」


突然のキレイな顔の接近に、思わずガタッと椅子を鳴らして半歩ばかり退き、危うく帽子を取り落としそうになるくらい、驚いた。
「そんなに吃驚しなくても」
「気配消して近付くのは卑怯ってもんだろ・・・・」
「気が付かない虎徹さんが悪いんですよ」
引き続きクスクス笑われながらも、バーナビーが元の位置に戻って再びグラスを手に取ったことに多少なりとも安心しながら、
「けっこう、色々あっただろ・・・・」
前述の、夏ならではの行楽・行事を虎徹が思い返してみれば。


まず縁日。
ある日の夕刻仕事帰り、たまたま通りかかった公園広場内の夏の催しとして行われていたから、
ふらっと立ち寄ってみればそこそこ大掛かりの催事祭事っぷりで行われていて、
並ぶ屋台や出店etc.が妙に懐かしく、オトナでも充分楽しめそうな勢いだったからその勢いで、
「近くにいるなら&ヒマなら来てみろよ」 とバーナビーを呼んでみた。
呼んで、二つ返事で訪れた彼と一緒にひょいひょい露天を覗いて、「僕は遠慮しておきます・・・」 なバニーちゃんを尻目に屋台や出店の食べ物をまさしく両手で食べ歩き、
隅々まで懐かしのジャパニーズ・祭(・・・・?) を満喫しきって気付いてみればもう時間も遅い時間帯になっていて、途中で一杯二杯とひっかけたジョッキビールのほろ酔い加減も少々手伝って、
「それじゃ僕のところで飲み納めますか」と誘われるままバーナビーのマンションに立ち寄ったその流れ、
なだれ込んで組み倒されて(・・・・)、その後はまさしく読んで字の如く 『後の祭り』 になってしまった。


次は花火大会。
ちょうど仕事も終わる頃から開始されたその大会、
時間もあるし自由もきくし、実際花火を眺めつつ一杯やりたいことはやりたいのだけれど、
残念ながら俺んちからよく見えないんだよなああ、とちらっと話したところ、「僕の部屋からならよく見えますよ」 と招かれた。
結果、確かに確かに特等席、障害物も何もなくてバーナビーの部屋から夜空に打ち上げられた花火を堪能することができたのも本当だ。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・二時間あるプログラムのうち、前半部分だけ、だったが。
残りの一時間は、バニーちゃんの下で花火の音だけを聞かされる破目に陥った。


そして続くプールに行った日。
この時はカリーナとパオリンも一緒に連れ立って来ていて、
二人の水着姿をオトナとしての嗜みもあって当然にして 「可愛いぞ! よし、二人ともすげえ可愛い!」 と誉めまくっていたら、
帰ってから案の定、根に持たれてチクチク皮肉混じりに言われた。(しかもナニユエに何も疑わず連れられて帰ったところが此処、つまりバーナビー宅だったのか今でも思い出すと不思議だ)
「だってよお、レディが二人もいたらそれが礼儀だろうが・・・・」 と繕ってみても、
「レディって・・・・。 楓ちゃんと大して変わりませんよね」 と聞く耳持たずで返され、
「ちょっと待て、何でお前が怒る必要があるんだよ、そもそもブルーローズなんか、今日の水着もヒーロー時も大して露出は変わらねえって!」 と反論してみても、
「別に怒ってなんかいません。 ただ、ティーンエイジャーの女の子に鼻の下を伸ばす中年はどうかと思っているだけです」 と冷たく言われ、
「伸ばしてねえよ! そもそも犯罪だ犯罪! 確かに二人とも楓はそんな変わらねーし、万が一にもんなコトになっちまったら逮捕されちまうだろうが! 有り得ねえっての!!」 とか何とか、ムキになってしまったのが運の尽き。
そこで初めてにこりと微笑まれたと思ったら、
「ですよね。 でも僕ならとっくに成人してますし、何があっても罪にもなりませんし逮捕もされませんから安心してください」
とか何とか言われて直後、違うだろこの場合逮捕されるのはお前の方だろ、と喚きかけて無理矢理遮られて以下云々。
下半身、定石通りに(・・・・) ゴソゴソされながら(・・・・)、
「あ、やっぱり多少なりとも焼けましたね今日。 くっきり肌の色が違いますよ」
とか、いらん報告まで、された。


続いて続いて半ばバーナビーに押し切られるようにして取った有給、一泊旅行。
向かった先が景勝地というよりどちらかと言えば避暑地であったため、
日没後の高度の高い場所での夜はここと違ってシャツ一枚では寒いくらいで、自然とひとつ、くしゃみをした途端、
「少し冷えましたか、そう言えば僕も寒いです」 とあれよあれという間にがじがじとうさたんに齧られて、結果は例の如く。


そうして、つい三日前も 『夏バテ防止』 になるからと、
なんとかかんとか言いくるめられて流されてしまったことを三十路は思い出す。


「・・・・・・・・・・・」


記憶を辿って思い出してみればみるほど、もうそんなコトしか出て来ない。
加えて更に、更に言っておくが(・・・・誰に?) 当然にして当たり前にして、
そんな展開あんな状況こんな状態、に傾れ込んでしまって以下略略(・・・・)、
となったのは勿論もちろん上記に挙げてみたそのときどきだけのことではなくて、
週末一緒に居たりすれば100%、
週半ばでも明日仕事が一緒なら100%、
否否、いたるところつまり時間があれば互いの寝床が目の前にあったなら、
その時点で9割は確実に超えていて、
畢竟、特に季節イベントにこじつけなくても、結局はあれでこれでソンナコト(・・・・)、になるわけで。


そんな件、そんな一幕ばかり思い浮かべてしまう自分の頭をがしがしと掻きながら、
こうなったらいっそのこと先に泥酔して先に爆睡しちまうか、と量が少なくなっていたグラスの中、
テーブル上のボトルからどぼどぼと原酒を大量に注ぐ。
そうして結果、一口、二口飲んだところで 「うおッやっぱキツイぜこりゃ、」 とグラスに氷を投入しようとしたところで。


「虎徹さん?」


しばし口篭っていた虎徹の顔を、様子を伺うよう、バーナビーが覗き込んできたから。


「・・・・そん時そん時、全部が全部、お前に襲われたのはユメじゃないよな」


加えて第一、いちいち先述したその時だけというわけでは決してないし。
そしてまあ、多分・・・・というより遅かれ早かれ、これまた前例に漏れず120%、
今夜だって草食タイガーは肉食うさたんにおいしくいただかれてしまう(・・・・) のだろうし。


「・・・・だよなあ?」
「そうですね」
「なのに、なんもなかったとか言うなっつの」
「なかったです。 だって進展していませんから」
「・・・・・あのなあ・・・・」
「ですよね?」
その強情っぷりに呆れ半分、ある意味納得半分で一瞬詰まった虎徹に、どうやらバーナビーは開き直ったようだ。
「そうやって虎徹さんは言いますけど、あなただって結局いつだって最後には大抵乗り気になってくれるじゃないですか」
「うッ・・・・」
「三日前だってそうですよ、老化に伴う夏バテ防止には全身運動とタンパク質とビタミン摂取が一番よく効くことは知ってますよね」
しれっと彼は言い放つ。 が。 聞き捨てならなかったので、つい。
「〜〜〜〜〜〜〜〜出した方がどう考えても多かっただろ!」
後先考えず、突っ込んでしまった。
ビタミンはともかく(・・・・)、タンパク質が主成分である体液(・・・・) を本当にもう、限界まで吐き出させられ、その後どれだけ腰がしんどかったことか。
しかして 「でも僕のも同じくらい虎徹さんの中に注ぎ込みましたからプラスマイナスゼロのはずです」 とかあまりにアレな返答が戻ってきてしまい、
「・・・・・・・吸収しねえよ・・・・」
最大限に仕方がないから、至極まっとうな呟きで(・・・・まっとう???) この会話を終わりにして、


「ったく・・・・」


長い長いタメイキを隠そうともしないまま、
一人涼しいカオをしているバーナビーに虎徹は視線を向ける。
まったく、改めていろいろと世話のやける相方だ。 本当に。
最初の頃とは大違いも大違い、懐かれて愛されてしまった途端、
まさかこんな盲目&突っ走り&一途、なうさたんだったとはそれこそユメにも思わなかった。
それでも、虎徹としても彼を甘やかしまくってしまっているのが現状ゆえ、
「・・・・仕方ねえよなあ」 と肉食バニーちゃんの好きにさせてしまっている日々、
そして実際、それでも全く構わない、むしろ悪くないというのが本心でもあって。
だがしかし一応タテマエ上として、
「しかも、言い出したら絶対きかねえしなぁ・・・・」
しみじみぼやこうとする虎徹にバーナビーは思わず苦笑、
「それは虎徹さんだって同じでしょう。 そこは能力以外の僕たちの共通点です」
「そっか?」
そうですよ、と頷きながら自分のグラスの最後の一口を飲み干した後。


「それなら、今夜はいつもと趣向を変えてみましょうか」
「あ?」


「好きなように僕に言い付けてください。 何でも言うこと聞きますから」
「・・・・あ?」


「虎徹さんの好きなように、どうぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ???」


穏やかなヒーロースマイル。
いつも横で見ている営業用のそれとは少し違う。 だから一瞬オジサンは固まって、しばし固まりつくしたその後、「お前・・・・、」 と思わず流されそうになる。
千載一遇どころか、万載一遇レベルのこのチャンス。
けれど下手なコトを口走るわけにもいかない。
間違ってとんでもない解釈で受け取られてしまったら、もはや勝てる(?) 見込みは一切消滅、
冗談抜きで未来永劫、尻に敷かれ続けることになってしまう。
だから。


「そんじゃ・・・・、」


「はい?」


「・・・・・・そんじゃ、」


だから考えつつ、慎重に、慎重に言葉を選んで、そして言ってみた。








「―――――― 今夜は、せめて三回までに留めておいてくれねぇ・・・か・・・・」








あと出来ればもう少し俺の体力も考えてくれでもってムリな体勢はもうホントキツイ、
とブツブツ口の中で続ける虎徹に、








「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんなことでいいんですか???」









きょとん、とした後、たまらずバーナビーは笑い出す。




「本当に僕を甘やかしますね、あなたって人は」
「甘やかしまくりだよなあ・・・・俺」
「甘えまくりですよね、僕も」
「甘えまくるよなあ・・・・バニーは」




揃って苦笑めきつつ互いの言葉の反芻を繰り返したあと、




急にふと真剣な眼差しをつくった彼の、




「でも僕は必死ですから」




その一言に虎徹もやはり。




「俺だって、必死だからな」




一分たりとも違いのない、間違いない本心なのに、
先に言われてしまったから仕方なく虎でもなく兎でもなく、ただ鸚鵡返しに答えた結果、
「ずるいですよ僕の台詞ばかりなぞるのは」
と寄せて来られた唇の誘いに自ら、乗った。























今年の冬あたり、目に見える進展の一つや二つ、起こしてみたっていいかもしれない。










虎兎の方の [Lovely Bunnnnny!5] と実はリンクしてます。
同じネタで逆パターンをやってみた!
「どっちもいけるよ!」 てな方は比べてみると暇つぶしになるんじゃないかと・・・・はは・・・・
何故に9月の話かというと、9月に書いてしばらく放置してたからです。(※今は12月)