[ シュガースポット ]







何もしないうち何もおこらないうち、
気が付けばクリスマスは先月、終わってしまった。
正月もつい先日、過ぎ去っていった。
そして迎えた仕事初め、新年早々だからといっていつもの普段の日常の、
『真選組・おまわりさん』 としての通常業務、通常勤務以外に取り立てて何か予定がある訳でもなく、
まして大した事件の起きる気配も一切皆無。
きっと今日、いやいや今週、否否もはや今月末まで街は平穏、安泰だ。
そう勝手に仮定立てて決め付けて、仕事がなかったのを良いことに早速今日は午前中、
お仕事半日コースで (勝手に) あがってきた。 (たぶん今頃土方あたりが青筋を立てているはずだ)
まだ陽は高く高く空は青く青く、真っ直ぐ帰るのも何だか勿体無かったから、
ふらりと買い込んだ 『鬼嫁』 、そしてふらふらふらりと立ち寄ったかぶき街、
「旦那、居やがりますかィ?」
気付けば見慣れた寄り慣れた万事屋の扉を開け、返事もまだ聞こえていないまま、
ずかずか上がり込めば。


「ナニ、またサボり?」


いつもの机の上、
でーん、と足を上げて横柄に悠長に彼、銀時は毎度の如くそこに居た。
その手には半分ほどまで剥かれたバナナが一本、
そのバナナをむぐむぐ食べつつ、訪問者である沖田に向かい、
「イイよなァ沖田くんは。 サボってもサボってもしっかり給料貰えんだから」
揶揄6割、茶化し3割、眠さ1割、
といったいつもの気だるい感じ(・・・・) で投げかけられた一言に。
「・・・・俺も旦那が羨ましーです。 新年早々、さっそく自由な時間に溢れてそうで」
同じく揶揄6割、反抗3割、S度1割、の同等パーセンテージで返しておいて、
「ま、サボりっちゃサボりですが」
事実は一応事実であるがゆえ、あっさり認めつつ、どん、と 『鬼嫁』 一升瓶を机の上に置く。
「手土産でさァ」
「おッ!」
置いた途端、いいねいいね最高最高大歓迎、あーやっぱ大好きだよ沖田くん、
と銀時のこの変わり身の早さ。
白々しくも 『モノ優先』 っぷりを隠そうともしない、そんな態度にあえて呆れた口調、
白けた目線視線を作って、
「だからアンタはダメなんです」
こう、言ってやれば。
「いいんだよ。 いざとなったらキラめくしトキメかせるから。 ・・・・って、この台詞スゲー昔にもどっかで言ったコトある気がすんだけど」
飄々と、確かにいつかどこかで聞いたことのある台詞、それをただ辿っただけの返答。
きっと誰に同じことを言われてもこの男はそう答えるのだろう、
そう思って沖田は、だから。


だから旦那は (俺的には) (本当なら) (本当は) ダメなんです、


心の中だけでもう一度繰り返し、肝に銘じておきながら。
「んなコト言ってると、そんな日は永遠に来ないうちに、気付きゃあと60年くらいすぐに経っちまいますぜ。 先月のクリスマスとか今回の年末年始みてーに」
でもって気付いた時にはもう揃ってジジィ、
棺桶に片足どころか両足突っ込む歳になっちまいまさぁ、と嘯けば。
「フフン」
よく意味のわからない笑い方で軽く流されてしまい、
ああやっぱダメだこのヒト、と沖田は隠しもせずあてつけがましく、大きな大きなタメイキを一つ。
「旦那はやること為すことお気楽そうですねィ」
あまり考えず、ただぽろりと口にしたこの一言。
それに銀時は突然、何だかやたら楽しげに目を細めて。
「そう見えるかよ?」
「・・・・はい?」
「だったら色々、成功ってコトだな」
細められたあと、遠くを見る目。
そんな仕種と態度はあからさま、
お前さんはなんにもわかっちゃいねーよ、そう無言ながら言われたような気がして、
あくまで自己完結、自己帰結で終わらせようとする失礼極まりない(・・・・今更?)
この白髪の天パ野郎に。
「・・・・・・口に出しちまう時点で成功じゃねーんじゃ」
低く、抑揚なく反論。
もちろん、沖田は即座に臍を曲げている。
俺がわからないんじゃなく、アンタが隠して隠しきれてねェだけでしょうに、
んな虚勢虚栄にコロッとだまされてやるほど、真っ直ぐには育って来てねーんで、
と更に臍曲がりっぷりをあくまで内心、しかしながら前面に押し出してみたところで。
パラパラと雨粒の落ちてくる音。
つい先ほどまでは晴天模様だったのに、外では急に天気が崩れたようだ。
玄関の引き戸をガラリと開けて様子を伺ってみれば、みるみるうちにパラパラからザアアア、
あっという間に降りざまは変わっていく。
夏の夕立でもあるまいし、この季節には至極珍しい。
けどまあ、最近やたら乾燥してたしたまの雨天なら丁度いいか、と大して気にも留めず、
再び銀時と向かい合えば。
それまで楽しげだった表情はどこへやら、
いつの間にか苦々しいものへとこちらも変化している。
「旦那?」
どうかしやした? と訊ねてみれば、
「雨・・・・。 雨だと湿気でアタマが更にクルクルになるからイヤなんだよ」
まるで子供のような、そんな理由。
しかしコンプレックスはどこまで行ってもいつまで経ってもコンプレックスのようで、
だから沖田は、あえて。
「俺はいつでもどこでもどんな時でもサラッサラです。 羨ましいでしょ」
茶髪の細ストレート、それを殊更見せ付けるように軽く振って、一歩近付く。
「羨ましいを通り越して憎憎しいわ、もう」
なんだろう、この互いに無意味な会話。
毒にも薬にもなりゃしない、
だからといって決して嫌な訳でもなく、面倒だということでもなく。
「てコトで沖田くんさァ」
「?」


「雨が止むまで遊んでかない?」


何を言うかと思えばああやっぱり、いつもの決まり文句、いつものお誘い。
けれど 『雨が止むまで、』 って一体いつ止むのか定かじゃないし、
耳に届く雨音は降り始めからどんどん酷くなっているような。


「俺は構わねーですけど」


雨が止むまで戯れて、


そうして止んだらまた離れて帰る。 これは暇つぶしなどではなく、本当に遊びだ。


けれどまあ、遊びなら遊びでも結構、


「それならそれはそれなりに楽しみましょうぜ、」


ダブルミーニング、どちらにも取れる含みを持たせて笑ってやったら。


「お前さんは賢いっつーか、目端がきくっつーか」
やりづらいんだけどオイ、と隠しもせず、真顔で言われた。
だから振り切るよう、
「バカよりマシでさァ」
即答。
して沖田は銀時だけでなく、たぶん誰もが羨む生粋のサラサラストレートの前髪を揺らし、


「俺の周りはバカばっかりですけどねィ」


その中でもバカ筆頭(?)、その口許に噛み付くキスで仕掛けてやった。








今日のキスは、彼がついさっきまで食べていたバナナの味がした。
















雨はきっかり、三時間後に止んだ。

























帰りがけ、出すもの出して(・・・・) 幾分スッキリした(腰は少しふらつくが) 沖田がガラララ、
と引き戸を開けて一歩外を出ようとすればその背中に。
「今年も俺ぁ大抵ココにいるからさァ。 またなー」
追いかけてきた銀時のその声だけが、当たって落ちた。
「・・・・・・・・」
返事はあえて、しなかった。








『またなー』








アンタは短く軽い軽いその言葉ひとつで、俺を縛りつける。













なにが書きたかったんだか自分でもさっぱりです。
とりあえず [続・シュガースポット] に続きます。
そっちではそこそこヤれたらいいなーーー