[ 続・シュガースポット ]







「それ、あん時食ってたバナナですかィ」
「んー、そう。 その一房の最後の一本」








『またなー』








あの日あの時、そう、最後に声が追いかけてきたから、また来た。
アポも電話の一本も入れず、思い立ったが吉日とばかり、
足の赴くままにまた万事屋を訪れたら、やっぱり彼はいた。
そして前回・先日と同じく、ほとんど同じ格好でまたもバナナを食べていた。
偶然にも、今日もまた天気は雨だった。
朝からこの時間、夕刻までずっと降り続いている。
違うことといえば、本日は何も沖田は手土産を携えておらず、
銀時の食しているバナナの皮、それに黒い斑点がやたら増えていた・・・・、ということくらいか。




だからあの時とシチュエーションはほとんど同じ、
ここには留守番(?) の銀時しかいない前提、
そうでなければこんなにカンタンに自分が上がり込んでくるのを傍観していられるはずもなく、
しいて違いを挙げるなら、
あの時はそこそこ効いていた暖房、ストーブが今日は消されているがゆえ、
少し・・・・いやかなり室内が冷え切っている、というあたりで。
そんな中、一人淋しく(・・・・) 黒点の目立つバナナを齧っている成年男性というのは如何なものだろうと思いつつ、沖田は。
「相ッ変わらず閑古鳥ですかい・・・・」
先日も、割合と長居をしたにも関わらず仕事の電話が鳴ることもなかったし、
依頼人が訪れてきた気配も一切無しだったように記憶している。
そして今日も、銀時が仕事に精を出している様子は微塵も感じられないため、
「旦那、生活成り立ってますかィ?」
自然、そんな言葉が口から出てしまう。
と。
「成り立ってるワケねーじゃん成立してたらこんなトコで古いバナナ齧ってねーよ」
さっきも言ったけどコレ最後の一本なんだオイコレなくなったら俺ぁどーすりゃいーんだ助けてェおまわりさん、と銀時は正に死んだ目で一息に告げてくる。
「ついでに灯油も昨日で全部使い切っちまってるし、寒くて寒くて仕方ねーんだよ」
「確かに。 外とほとんど変わらねーです」
「このままじゃ凍死しちまうっての、だから頼むよ沖田くん」
「ホッカイロくらいなら差し入れてもいいですぜ」
今日はパトカーじゃねーし、灯油は重てェからイヤです、と適当に答えたら。
「そうじゃねーって」
コッチコッチ来い来い、と銀時に手招かれる。
「何です」
わからないフリをして、
気付かないフリをして、
ソファーの脇から回り込んで、近寄った。 すると。
「こーやって引っ付いてりゃ、凍死は免れるだろ」
いつもの袂が翻ったかと思いきや、抱き込まれた。 かと思いきや、前回と同じく、またもバナナ味のキスを味わう破目になり。
「・・・・旦那・・・・」
呆れたフリをして、
唖然とするフリもして、
ふう、とわざとらしく吐くタメイキ。
けれど互いにキスなんかじゃ飽き足りないのはもう分かりきっていて、
お互いに必要なのはこんな茶番劇めいたそれなりの形式ぶった遣り取りであって、
だけれどどこまでもそんなものタテマエでしかなく、どちらかといえばただの段取り、戯れの一部で。
「雨の日ぐらい、まったりしてもバチはあたらねーですぜ」
とりあえず一応一度、こう制してみるのも、
「まったり引っ付きゃイイだろ。 平気平気銀さんは日和見派だから」
「・・・・日和見派がナタ振りかぶって追いかけてきますぜ、んなコトほざいてると」
タワゴトばかり口にする銀時相手、制する素振りで可愛く笑って(※自覚アリ)、
実質OKサインで今度はこちらからキスを仕掛けてやるのも、
たぶん、
たぶん、
銀時の、この男の筋書き通り。
それでも、
それでも時には書かれた台本通り、何も考えずこちらからは何も仕組まず、
欲しいホシイ寄越せよ沖田くん、と言ってくる年上の、この単純そうでいて全く読めない男に甘えてやってもいーかなと思う季節で頃合だったりもしたから。
「・・・・そんじゃ、今日も雨が止むまでってことで」
「なら明日の朝まで止まねーって話だぜ。 結野アナの夕方の予報」
「旦那的にはどうなんです」
「明日の夜まで降ってても別に構わねーカンジ」
「そりゃ無理です、俺は明日は昼から仕事で」
自由業で時間もヒマも余りあるどっかの誰かとは違うんでィ。
そうきっぱり言いきって、銀時が顔を顰める前に素早くもう一度、キスをした。






























銀時の舌が、首筋から胸元、腹から下腹部を通り過ぎて沖田の下肢まで辿りつく。
「・・・・ッ・・・、」
まだ柔らかさの残る、沖田自身の先端をぺろりと舐め、
それからぱくりと口中に含まれた。
「んッ・・・・!」
強烈な甘い刺激に、沖田は思わず銀時の後頭部に手をやってしまい、
押しとどめようとしてしまうのだが、連続して与えられる快感に、腕の力も抜けてしまう。
構わず銀時によって続けられる、肉棒への愛撫。
猫っ毛の白髪頭に指を絡めて、沖田はその肢体を小さく震わせる。
と。
感じ易い裏側をつうっと舐め上げられて、たまらず腰が戦慄いた。
「ぅあ・・・・ッ・・・・!」
「カワイイよなァ。 あんな野郎ばっかの集団にいて、今まで無傷だったってのが信じられねェ」
「っ!、っう・・・・!」
感嘆と揶揄混じりの銀時の言葉に、思わず首を横に振ると。
「ン?」
どした? とこんな状態で、真顔で訊かれ、しかも顔を覗き込まれる。
「・・・・別、に」
なんでもありゃしやせん、と視線を逸らせて言外に答えてみたけれど、
「あ、悪ィ・・・・」
ヘンなところで聡い銀時に、さっきの自分の戯れ言だと察知され、別に意図して言ったワケじゃねーよ、と困ったような顔をされた。
わかっている。 妙な意味合いで言われた訳ではないことくらい、最初からわかりきってはいたけれど。
「・・・・・・有象無象から守り通してきた、俺のお初をぶち奪ったのはどこのどいつでィ」
恨みがましく、当人を目の前にしてそう、ぼそっと吐き捨ててやったら。
「あーーーー・・・・・・、〜〜〜〜悪ィ。 悪かった!」
全面降伏の意を掲げた銀時に、珍しくも慌てて謝られ、
「ま、それもこれも全部俺が可愛すぎるのが原因ってコトで」
半ば強引に、沖田は溜飲を下げた。
お初、ぼんやり思い出してみるとあの夜、確かにあの時は二人ともしたたかに酔っていた。
揃って泥酔に近い状態、しかも人恋しくなる冬の日。 確か雪も降っていて、すでに大雪が積もってしまった夜のことで、交通機関はとっくに麻痺してしまって外出もままならなかった週末、深夜。
そうでもなければ、
そんなベタ過ぎるシチュエーションにでも遭遇さえしていなかったら、
きっとこんな状況は、ましてや銀時と絡み合うという状態は、永久に訪れなかったのだろうと思う。
普通に考えれば、銀時と自分とは友人でも仲間でも何でもなく、「ただの知り合い」 そんな間柄だ。




「んッ・・・・・、く・・・・」
何度も何度もそこに舌先を這わせられながら、最奥を溶かされる。
と、ふいにそこから指先までもが離れたかと思うと、濡れた沖田自身を戯れにさすられて下半身ががくがく震えた。
「・・・あっ・・、ぅ、あ・・・・っっ・・・」
「挿れて平気?」
聞かれたとほぼ同時、
再び埋められた二本の指を第二関節のところでいささか乱暴にぐちゅっと曲げられ、
「うあッ!!」
「結構、イイ感じになってっけど・・・・」
大きく喘いでしまったことプラス、事実を的確に伝えてくる銀時の声、
それに濡れた水音がそこから響き、それらが重なり相俟って、一層蕩ける身体。
「・・・・旦、那。 ・・・・早く、」
「ン、」
ぐいっと脚を抱え上げられ、
次の瞬間、最奥の入口に熱い切っ先が押し付けられ、僅かに緊張する身体。
「・・・・っ、は、」
「狭・・・・」
苦しくねェ? と気遣われ、素直にかぶりを振る。
狭いは、狭い。 受け入れている自分で、嫌というほどわかる。
けれども内部は随分と蕩けていて、ぐち・・・、と小さな摩擦のみで銀時自身を飲み込んでいくため、
彼が気にするほど、身体は辛くはなかった。 逆に、むしろ貫かれる感覚さえ、快楽の一種に近い。
ぐ、と銀時自身が根元まで埋め込まれると、歓喜に腰が戦慄いた。
「・・・・ん・・・」
沖田の内壁の、狭いが柔らかく絶妙な締め付けに、銀時も吐息を漏らす。
「・・・・気持ちイイ・・・、ですかい・・・?」
旦那も、と小さく笑ってみせれば、
「悦くねェ、なんて言ったら殺されるレベルだろ・・・・」
苦笑混じりでそんなふうに返された途端。
「だから銀サン、もう我慢出来ねーよ」
「あぅ・・・・ッ・・・!!」
突然、グイッと奥深くを強く強く突き上げられ、沖田はびくっと仰け反る。
その身体の反応を愉しむがごとく、銀時はぐいぐいと遠慮無し、腰をぶつけてきて。
「ぅあッ、あっ・・・・、あ、あ・・・・ッッ!」
彼の動きと共に、細い身体が揺さぶられる。
中のとある一点を突かれ、
「ッ!!」
下半身から背筋を通って、脳天まで突き抜ける快感に芯まで灼かれ、
「あッ、ッ、ぅ・・・・あ、あッ!!」
続けてその一箇所を痛いほど擦り上げられてしまい、甘い声を上げることしか出来ない。
びくびく身体を震わせながら、ぎゅッと布団を握り締め、
「も・・・・ッ・・・、出・・・ちま・・・・っ・・・!」
覚束ない呼吸と、喘ぎの合間を無理矢理見つけ出し、何とか絶頂を伝えると。
「・・・・イけって。 そのまま」
「、ッ・・・・、く、―――――ッッ・・・・!!」
強く強く奥の奥を抉られて、音もなく沖田の白蜜が弾ける。
それと同じくして、内壁が激しくうねり、中の銀時をも促した。
「・・・・ッ、ふ・・・・」
「ん・・・・っ・・・」
強引に、ずるりと勢いよく引き抜かれ、沖田が息を詰めた瞬間。
上下に喘ぐ胸元に、銀時の白濁が撒き散らされる熱を、感じた。



































「・・・・さっきの話だけどよ」
「ハイ?」


中出し、ではなかったため、情事の後始末はすぐ済んだ。
それでも互いの体液の跡が色濃く残る布団の中、モソモソと寝返りを打ちつつ銀時が。


「真選組は? そっちセレクトって考えはなかったのかよ?」
「何が、ですかィ?」


主語が欠けていたため、始めは本当に質問のイミがわからなかった。


「所謂コイビトっての? それとも仲の良すぎるオトモダチ? 沖田くんがこーやって引っ付く相手。 ゴリ局長はともかく、土方くんあたりならカンタンに落とせたんじゃね?」
「・・・・・旦那・・・・」


言うに事欠いて、全く一体ナニ言い出すんですアンタは、と軽く嘆息。
自分も寝返りを打ちながら、


「アレは家族みてーなモンです。 普通、家族とはエッチしねェでしょーに」


そう、言ったら。


「・・・・そーだな、」


素直に頷かれ、そうして銀時は再び寝返り。 背中と背中が僅かにぶつかった。








「・・・・・・・・・・・・家族に捨てられたらヤダもんな」








一際、雨音が叩き付けるよう、激しくなったのは気のせいか。








「違いまさァ。 俺は、手に入れたモノに興味はないだけです」








だから旦那と引っ付いてるんです、
だから俺ァ旦那がイイんです、と作り笑いでひょいっと流して、
「雨、止まねーですねえ」
こりゃホントに明日の朝までザーザー降るのかな、と呟くと。
「勘弁してくれよ・・・・。 湿気でずっとクルクルなんだよ俺の頭。 もとい髪」
「いつだってクルクルでしょーに。 雨だろうと晴れだろうと全く一緒でさァ」
ぼやく銀時を一刀両断。 確か前回も似たような会話を交わしたはずだ。
「俺は、雨はスキですぜ。 布団の中で聞く、雨粒が屋根を叩く音は子守唄みたいなモンです」
言って、小さく欠伸をひとつ。
背中合わせのまま、そのまま目蓋を閉じて眠る算段に入ろうとしたら。
「・・・・悪かったな」
そんな声が後ろから聞こえてきた。
「さっきのは俺の寝言だから」
重ねて、どこまでも都合のいい銀時の言い草っぷりに、
「・・・・・・旦那、」
どう返答しようか、ほんの一瞬迷いあぐねる。
その隙を縫って、天パの。




「俺が沖田くんを逃がさねーだけだよ」




ただそれだけだから。 気にすんな。




との言い分に。




「それも、寝言ってコトで受け止めときまさァ」




「つれねーよ・・・・マジ悪かった、ホント銀サンが悪かったって言ってんだろ」
「もう寝るんで。 おやすみ旦那」
「お、怒らせた? 沖田くん地味に怒ってる???」
「・・・・・・・・・・・・いーえ? 大スキな旦那に、俺が怒るワケねーでしょーに?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・大スキ、ねェ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何か?」
「いや・・・・・なんつーか、」
「・・・・・何です」




「アイシテルって言ってよ沖田くん」




「・・・・・は?」




「今のうち、生きてるうちに聞きてーよ」




そんなふうに、言うから。




「どっちが、・・・・・・です?」




捻くれて、そう問い返してやったら。




「んー・・・・、6:4で俺、か」




「――――――――――― 10:0 の間違いでしょーに」




憶測の推量だがほぼ真実であろう事柄を、
今は、今だけは軽口で返しておいて、あくまで背中合わせのまま、
決してカオは見ないまま見せないまま、迷わず沖田は目蓋を閉じた。










今は、雨音だけが、無闇なほどやたら優しい。










明るい話にするつもりが、蓋を開けたらアレ?って感じになってしまいました。
いずれ銀沖お初話も書きたいなーーー、と伏線っぽいとこだけ入れてみた。
でもラブラブですよね、ね?