[ hack ]







【hack】

・・・・を(おの、くわなどで) たたき切る、切り刻む、に切り込みを入れる
(文章などを) (削ったりして) だいなしにする、めちゃくちゃにする
(画案などを) 容赦なく縮小する



























「沖田くんてさァ」


「はい?」




たぶん普段であれば無言で進行するはずだった、情事の最初。
互いに衣服を取り払っていく途中、それはお互いを押し倒すようにしてもつれ込んだ布団の上、
前戯に到るまでの短い、短い間の中で銀時が何を言い出すかと思えば。


「まじまじ見たってキレーなカラダしてるよなァ。 あんだけヤンチャしてて、パッと見目立つ傷の一つも残ってねーってすごくね?」


つるつるのサラサラで、今すぐボディーソープのコマーシャルとか出れんじゃね?
そーゆーオファーとか真選組に来てねーの? 来たコトねーの???
などと銀時は続けてポンポン軽口を叩いてくる。
それに沖田は何故だか少しだけ閉口して、
それからわざとらしくタメイキを吐きつつ。
「さっきから、やたらオヤジ臭くじーーーっと俺のカラダ眺めてたのはだからですかィ」
「そー。 もうね、年上のオニーサンとしたら羨ましくて羨ましくてさあ」
「あーはいはい。 スキなだけ羨んでくださいよ。 つーかコッチから言わせてもらえりゃ、旦那がケガしすぎなんです毎度毎度」
俺が知ってるだけでも毎回どんだけ死にかけてんですアンタ、
俺の知らないところでのことも含めたらそれこそとんでもねェ数あの世の一歩手前まで行ってるんじゃねーですか旦那、と軽く眉を顰めてやると、
あからさまに銀時は誤魔化す素振りでスルーの口調で。
「いーんだよ俺は。 一応主人公だし?」
ふてぶてしく笑って 『それを言っちゃあおしまいですぜ』 な一言で流し、
「あー・・・・。 でもあん時はヤバかったよなァ。 やたら下半身が濡れてるから血尿でも漏らしたかと思ったら全部血でよ」
いや逆に血尿出ちゃった方がマズイよーな気もするよーな気もしないでもないよなァいろんなイミでさァ、
などと、一体いつの、どこでのどんな場面を思い返して苦笑に浸っているのか、
当然にして沖田にはさっぱりわからず見当もつかず、だから。
「俺も一度だけ生理が来たかと思ったことありますぜ」
真顔で告げて、「エ?」 と反射的に目線を合わせてきた銀時にかぶせるように。
「旦那と始めてヤったあとの布団みて、本気で経血かと錯覚しやしたもん。 山崎に赤飯用意しとけって電話しそうになったくらいで」
あん時は痛かったです今だから言いますけど、とねちっこく。 今更。
すると銀時は何の負い目があるのか、
「ま、まァそれはソレ、コレはコレ? けど今はもう痛くはねー(思う、) し、あるイミ貫通祝いってコトで赤飯ってのもあながち間違いじゃあねーっつーか、アナだけにあながちっつーか」
くるくるの天パをぐるぐるにする(・・・・) 勢いでワケのわからない言い訳をし始めた。
だから、
「間違いです頭っから終わりまで全部が全部」
きっぱり一刀両断してやって、
「怪我なんか、俺だってしょっちゅうしてまさァ」
あくまで意図のうえ、脱線しまくった会話を元に戻す。
「ただすぐ治っちまうだけです。 傷を負って痛ェのだってそん時くらいの話で。 旦那だってそーでしょ」
そこそこでけェ怪我したって、次に登場する時には大抵ケロリと無傷状態に回復してますからね、と多大なるオヤクソクの法則を持ってして、の台詞。
すると銀時は、「そりゃそーだけどよ」 と一言呟いたあと、


「カワイイなァって思うコには、あんま痛い思いさせたくねーじゃん?」


「はァ・・・・???」


なんだか全てに思いきり合わない、
どのツラ下げてどこの誰に向かってんな台詞口にしてんですアンタ、的な言葉を紡いできやがった。


「1センチでもケガすりゃやっぱ痛いんだからよ」


「・・・・・・・・。 その 【カワイイなァって思うコ】 ってのはもしかしなくても、」


「そう。 沖田くん」


万事屋、とてもとても洗練されているとはいえない寝室の寝具の上、その持ち主はどこまでも飄々と、
あっけらかんと。
本気半分なのか冗談半分なのか、どちらかだとしても果たしてその半分さえ、どこまで乗ってもいいものやらさっぱり分からない。 まあ最初の頃からずっとそんな男だったけれど。
だから尚更、たたっ斬ってやりたくなる。
「なんですその自己中極まりないフェミニズムの出来損ないみてーな感情」
「あー。 ぜってー本人にはそう言われると思ってた。 んじゃ聞き流せや」
もしくは聞かなかったコトにしといてくれても、と言いながらガサゴソ動いて銀時の腕が肩に回ってくる。
うまく背中に回しやすいよう、自然に沖田も心持ち上体を浮かせてやりながら、
「まあ俺が頭のてっぺんから爪先までまるっとカワイイのは世界のお約束ですけどねィ。 血の涙流しながら羨んでみやがれ古今東西のブサイク共」
軽口には軽口で返し、自分も彼の背に片手をかけて縮める身体の距離。
よくよく考えてみれば毎回毎回情事の前は、大抵大概、こんな無駄話をしていることに今になって気付いた。
何故だろう。 考えてみてもすぐには理由も理屈も思いつかず、しいて言うなら差し詰めアレか、
Sexに到る準備、というよりモチベーションの支度か。
それも少しどころかかなり違うような気もするが。
「沖田くんてコンプレックスて無いの? 銀サンでいえばこの天パ的な」
「ねーです」
俺のどこにそんなモン抱く要素があるってんですかい、と沖田は自信満々に言い切って。
「そもそもコンプレックスなんざ劣等感と僻みと自意識過剰を足して割ったようなモンでしょ。 自分が思ってるほど他人はヒトのことなんざ気にしちゃいませんや」
と再び一刀両断。 その証拠に銀時の白髪頭のくるくる天パだって何一つ気にならない。
気にしたことなど一度もない。 そんなこと絶対に本人の前で口になんてしてやらないが。
その代わり、つい先日聞きかじったばかりの情報の真偽を確かめるべく。
「そういや旦那、この前また地球を救ったそうで(※四十八巻)」
「? 俺じゃねーよ。 星海坊主のオッサンだよ」
「ホントですかィ? ・・・・・どっちでもいーか。 それにしても侵略やら覇権争いやら滅亡やら、そんな地球ってイイもんですかねェ」
「さーな。 欲しがるヤツには大層なシロモノなんじゃねーの」
「俺ならちっぽけな地球一個だけといわず、全宇宙を手にしたいですがね」
「・・・・・・・・キミ、ホントにおまわりさん???」
「警察官ったって、真選組ったって、ただの犬じゃねーんですか。 お上の」
狭い狭い世界で縄張り争いしてるだけのワンコロにしか思えませんや、その中にいると。
と自嘲気味に零したところで、自分から沖田から距離をゼロにする。 唇を捕まえた。
些か乱暴に、時々口唇に噛み付く勢いで仕掛けたキスに、銀時はどちらかといえばされるがままで、
途中で飽きてきた沖田が角度を変えようと、一瞬だけ離れると。
「俺ァ、ネコになったことはあるけどイヌになったコトはねーよ」
さくり。 何のことは無い、ただの台詞で斬られてしまう。
「そうでしょうねェ。 ・・・・・・そうでしょうよ」


幕府の犬。 ただの一端の警察官。
それでも、犬も歩けば棒にあたる。
けれどあたったのは犬の方からじゃない。
刀のような形状をした棒があちらの方から転がってきただけで、
たまたまそこに居た犬はその刀みたいな棒をくわえて運んだだけだ。 自分の寝床に運び入れただけだ。
そうして、がじがじと噛んで遊んでいるだけだ。 今はその真っ最中。


自分の眼前に転がってきた彼が悪いのか、
無視して通りすぎれば良いものを、気に留めて興味を持ってくわえ込んでしまった自分が愚かなのか。


罪悪感はあるイミ皆無で、
あるとすれば背徳感。 しかしそれも限りなく0%に近く。
だとしたら在るのは何なのだろう。 何という感情と、どんな心情なのか。


「沖田くーん? 銀サンそろそろ、盛ってイイ?」


「あ。 俺がその気になるの待っててくれたんですかィ。 優しいですね旦那」


「そーそー。 優しい銀サンに、優しくしてくれよ総悟くんも」


「『優しい』 ヒトって、直訳すりゃ 『自分に都合の良い』 ヒトってコトでしょうに」


独白。
続けて、
毒吐。


dog.
hack.


「そ。 ピッタリじゃね? 俺達」


「否定はしませんや」


馴れ合い。
舐め合い。


それでも何でもいい。 何でも構わない。 それは銀時も同じはずで。


「沖田くんが今の俺くらいの歳になったら、一緒にどっかトンズラしちまう?」


そんなことを言いながら、今度は銀時の方から唇を塞いできた。
何を言い出しやがるかと思えば。 駆け落ちしたって結果は見えている。
S同士、途中でクダラナイコトで喧嘩してこじれてねちねち言い合った挙句、成田離婚が関の山だ。
そんなこと銀時だって簡単に想像がつきそうなものなのに。
むしろわかりきった上で言っているとしか思えない。 茶化していると思えば、納得がいく。
しかしそれを隠して遮って、


「結構、貞淑なイイ旦那になるかもしんねーぜ俺」


「・・・・・・・・俺も、結構素直でカワイイままいられるかもしれねーです」


揃って寸分たりとも心にも無い台詞の応酬。 しかも真顔で。


「んじゃ、あともー少し経ったらな。 まだ18?」


「ぴちぴちの18でさァ。 こっちも、いろいろあるんでもう何年か待って貰えると助かるんで」


「そんじゃ、ヤクソクしとくか」


「いーですぜ」


二人揃って、1ミクロンの信憑性さえ見受けられない台詞ばかり吐き散らす。
そして後はいつものよう、相手の身体に貪り落ちて、










――――――――― ああ。 










どっちもどっち、とはきっと自分と銀時のためにある言葉だ。 乱されながら、沖田はそう思った。











毎度毎度なにが書きたかったんだか自分でもさっぱりです。
イチャラブすぎると我ながらわかってるんですけど、
この傾向はたぶんもう延々と直らない・・・・ゲフゥ