[ たなぼた ]


(※出来上がる前の、お初的ナイト話だと思っていただけると幸いです・笑)






確かに二人ともしたたかに酔っていた。
揃って泥酔に近い状態、しかも真冬の日。 夕方から音もなく振り出した雪は、二人が積雪に気付いた時にはすでに三十センチ近くも積もってしまった後のことで。
降り出す前から一升瓶片手に万事屋に上がり込んで職務放棄の一途を決め込んでいた沖田と、
歓迎歓迎大歓迎大吟醸一升瓶with沖田くん、と諸手万歳で上がり込ませた銀時。
とっくのとう、全ての交通機関はこの大雪により麻痺してしまい、外に出るにも出れない、
夜も更けたが沖田が帰るにも帰れない、そんな状況下。
そんな状態で、
グダグダにアルコールの回った脳みそで、グデングデンの荒酔っぷりで、
そんな静かで寒い夜にマトモな思考でいろという方が無理ってモンだろと銀時は思うのだ。


だからたぶん、玄関口から外を眺めてどか雪の積もりっぷりにタメイキを吐いて、
「あ〜あこりゃ帰れねーや。 旦那、今夜泊まっていってもイイですかい」 
と振り返りながら尋ねてきた沖田に、「ン? 別に構わねーよ」 と返答しつつ。


「なあ沖田くん、チューしてイイ?」


だなんて台詞が次に出てきてしまったのだ。
そうでもなければ、まあ普通に考えても到底、ありえない。


「・・・・・・はァ?」


当の沖田は思いきり呆れた口調と表情を作った。 当然だ。


それでも深酔い天パは諦めない。 もう一度、


「だってよォ、こんなキッカケ滅多にねェじゃん? せっかくカワイイ沖田くんと一つ屋根の下にいるのによ」


「酔っ払うにも程ってモンがありますぜ旦那」


「あー・・・。 まァ、酔ってるよなァ。 自覚あるわ。 なきゃいくら銀サンでもこんなコト言わねェし」


言いながら自ら泥酔を自認。 納得も兼ねて一人頷いたところで。


「でしょうねェ。 けど俺も旦那と同程度酔ってます。 だから」


同じく沈酔状態、を隠そうともしない沖田が、ふらりゆらりと動いて、そして。


「チューぐらい、いくらでも」


いつもの机の上、だらしなく座る銀時に沖田は身体ごと乗り上げてきて、重なる前髪。 それと口唇。
同じ酒を呑んでいたのに、違う味がする気がするところが興味深く、そして心地好かったから。


「・・・・・・んじゃ、その先は? 実はよ、もうストーブの灯油もねーんだよ。 暖取れるモノっつったらあとは煎餅布団」


「この雪ん中、そりゃあ風邪ひけって言ってるよーなモンじゃねーですか」


至近距離にも程がある至近距離、まだお互いの前髪が触れ合うほど近くで、
沖田はその形の良い眉を表向きだけは軽くしかめ、「風邪だけですみゃイイですけどねェ」 とぼやく。


「そ。 だから銀サンから提案ってコトで。 引っ付いて暖を取るか、暖を取るために引っ付くか。 どーよ沖田くん、究極の選択ってヤツ?」


誘うように唆すような発案に、沖田は 「それ、結局どっちも同じじゃねーですか」 などと野暮な言葉は言わず吐かず、


「究極の選択ってあるけど、選択肢に正解があるって保証はどこにあるんですかィ」


了承でも拒絶でもない、少しばかりひねくれた返事で逆に訊いてきた。
それに銀時は隠そうともせず、苦笑して。


「ねーよ。 けど究極だから。 さっきのチューも今の質問も、なかったコトにして無理して忘れちまうか、無茶ァ重ねて、このまま続けてみるか。 そこが究極」


告げていざないながら、さりげなく片手は沖田の背中に持っていく周到さ。
しかしそれもこれも、どこまでも駆け引きのリアクションに過ぎないことも、きっと看破されている。
その証拠、


「当の旦那はどっちがイイんです? 俺ァどっちでも」


逆に問い返された。 おまけに続くのは、


「選択するのは旦那がいーでしょ。 そしたら俺に責任ねェですもん。 どっちに転んでも」


フフン、と笑われる始末。 さすがに銀時も、これには多少なりとも呆れつつ感心しつつ。


「・・・・キミさあホントに未成年? 十八?」


なんでそんなに(カワイイけどよ) 可愛くねェの、
なんでそこまで(いやいや滅茶苦茶カワイイけどよ) へらず口叩けるの沖田くん、と嘆息混じり、
表向きは降参したフリをして、眼前の赤茶色の瞳を覗き込めば。


「背伸びしてんです。 これでも」


背伸びしなけりゃ背も伸びやしやせん旦那、とこれまた繰り言を叩いて来たその口唇を、
今度は自ら喰い付く勢いで、塞いだ。






約束された棚からぼたもち。 ちょっと糖分過多すぎる。


















































「腹が減ったんですが。 メシ。 ついでに腰も痛ェです」
もそり、と布団の中で寝返りを打ちながら、沖田が 「なんとかしろィ、」 と言ってくる。
が、そう言われても銀時としても困るのだ。
「ねーよ。 あったらとっくに俺だって食ってる」
背中越し、そう返答すれば、
「ホントにパン一つ、米一合もねーんですかい」
改めて驚き三割、呆れ七割のバランス具合で確認されてしまったから。
「ねーよ」
男に二言はねーんだよ、とかなり随分間違った使い方で言い回しで頷く。 と。
「腹が減りました旦那。 メシ。 ついでに腰も死ぬほどツライです」
「ねーーーっつってんのォォォ!!」
本当だ。 本当にないのだ。 家賃と神楽と新八への給料を(一ヶ月遅れで) 払ったら、全て消えてしまった。 来月まで正真正銘、極貧だ。
「・・・・・・。 甲斐性ナシも程々にしとかねーと。 ねェならねェで、どっかのアンパンみたく 『俺のカオをお食べよ』 くれー言えねーんですかい」
「あ?」
怪訝な顔をした銀時に、
「訳すると、『俺が血でも内臓でも売り捌いて酒と肴くらい一っ走り買ってきてやる』 くらい言えねーんですかってことでさァ」
沖田は仮にも警察官たる者の発言として、あまりに問題アリ、な台詞であくまでも軽く。 だから。
「・・・・・あー。 アレだ。 ア×パンマ×はダメだ」
「はあ?」
「教育上ダメだから。 だってアイツ、最終的にア×パ×チって暴力で全部解決するだろ」
いっっっつもパンチでふっ飛ばされる黒紫の菌のキモチになって考えてみろよ、
そもそも毎回毎回、そこまで悪いコトしてねーよバ×キンマ×は、とこちらもとぼけて流すと。
「・・・・・・・・・・。 懐もすっからかんて訳せばいいんですかい。 今のは」
「聡いねー。 さすが総てを悟るって名前のことだけあるわ」
半分揶揄混じりで、そう言うと。
諦めたのか、「寒ィ」、ともそもそ布団を肩口まで引き上げながら沖田は。
「フン。 ホントに賢かったら、旦那なんかに手は出しませんや」
自嘲的、自虐的に、しかしどこか余裕ぶった響きで鼻先で(たぶん自らのことを) 嗤ったから。
「へー。 悪いコトしてるって自覚はあったんだ沖田くん」
負けずにこちらも、白々しく驚いたフリで返してやったら、
くるりと寝返りを打って、正面から覗き込んできた。
「悪いコトはしてねェけど、イケナイことはしてると思いますぜ」
まさか旦那とマジでヤっちまうとは思いませんでした、と何を今更。
「よく聞くじゃねーですか、『人生の三つの坂は、上り坂、下り坂、まさか』 、ってやつだって。 けど、『まさか』 って大抵大概下り坂、それもほぼ直角に近ェ傾斜の坂ってのが定石でしょ」
転がり落ちてもイイもんなんだか、悪ィもんなんだかまだちょっとわかりませんや俺は、と嘯く沖田に、
「・・・・。 沖田くん」
呼びかけてからわずか三秒だけ銀時は含みを持たせて、貯めて。




「四つの坂にしといてくれよ。 最後に、坂田銀時も入れとけや」




「・・・・・・・考えときます」




わりと本音混じりの戯言に、それと同程度には素直な返事が返ってきて、
転がり落ちるダウンヒルも悪くねーぜきっと、と銀時はけしかけながら、
心地好い疲れの齎す睡魔に、目を閉じた。








次回は 『予定された鴨葱』 を待ってみてもイイと思う。












ほんとは途中でヤるつもりでしたが面倒くさくなって書くのやめました。
銀沖は糖尿レベルで甘くていいと勝手に思っとります。
だから今後もたぶんこんな感じです。