[ 続々・たなぼた ]






そこそこ広い公園の隅の隅。
誰かに見つかる可能性のある道路からでは絶対に見えないところに、
忘れ去られたようにぽつんと設置されたベンチでいつもの通り、欠伸混じりに睡魔と戦いつつ、
沖田がサボっていたら。




「ン?」




「あ、」




どうしてこんなところで遭遇するのだろう。
何度目かの欠伸に顔をあげた向こう、五メートル先にどこかの天パが居た。
そしてお互いに気が付くのもほぼ同時で、
「まーたサボってんの? そろそろ通報したくなってきたよ銀サンは」
「したきゃ勝手にどーぞ。 けど叩かれてホコリが出るのはそっちでしょーに」
挨拶なんて気の利いたものなどあるはずもなく、
口から出るのはそれこそ埃にまみれた、揃って毎度毎度毎回毎回NPCのように繰り返される、どこかで聞いたものばかりで。
それでも銀時は遠慮なし、沖田の了承(そんなもの最初から必要でもなんでも無いが) も得ないまま、
ずいっと隣に腰を下ろしてきた。
そうしてつられたのか、欠伸をひとつ。
「いい天気だよなァ」
「そーですねェ」
「眠くなっちまうよなァ」
「そーですねェ」
「ずっとこんな春ならイイのになァ」
「そーですねェ」
「あー、えーと、沖田くん」
「そーですねェ」
「あの、沖田くん?」
「そーですねェ」
「・・・・・・・・・沖田くん???」
「そーですねェ」
「沖田ァァァァァ!!!!」




「ン?  ああ、やっと終わりましたかィ毒にもクスリにもならねー話」




ほぼ100パーセント聞き流し、適当に相槌を打ってあしらっていたら案の定、キレられた。
「って言ったって、俺と旦那の会話はいつだって全部が全部、毒にもクスリにもなりませんけどね」
今回に限ったことじゃありゃしやせん、いちいち気にしねーで下さい。 と纏めて終わらせようとすると、
「・・・・ハァ」
盛大なるタメイキを銀時は吐いて、出し抜けに。
「沖田くんさァ、今、楽しい?」
唐突に真顔で真正面から訊ねられ、
「はあ?」
不躾にも沖田は思いっきり顔を歪めて訊き返してしまった。
これは、この感じは十中八九。




・・・・・自分の知らないところで、
おそらく命を賭ける何某かの揉め事・面倒・巻き込まれ・巻き込み・とばっちり・身内の尻拭い・身から出た錆・乗り掛かった舟・過去のしがらみに起因するいざこざ他、類似したetc.
的な出来事のひとつやふたつが、また何かしら起きて、一騒動あったのだ。
前触れもなく銀時が柄にもないコトを切り出したりするのは、(本人もそろそろ自覚した方がいい)、
決まってそういった時だった。
だから沖田は嘯く。
「そりゃ楽しいです」
そんな自分の言葉など台詞など、初めから最初からすべて見抜かれていることさえ承知のうえで。
「今だって大スキな旦那とこうやって喋れて、滅茶苦茶楽しいですぜ?」
これは当て付け。 どこまでも皮肉っぽく。
「旦那が何ゴニョゴニョ考えちまってるのかは知らねーけど、俺は今が楽しきゃそれでオーケーなんで」
「フーン」
当の銀時には(きちんと聞いているくせに)、傍目からは気の無い返事をされてしまったが、構わず。
「今が楽しくねーと、イミないですからねェ」
「フーン?」
今度は疑問符で返された。 それだって構わない。 沖田は続ける。
「よく、『未来のシアワセのため』 とか言いやがりますけどね、シアワセってそんな未来まで行かねェと見つからねェのかって」
「・・・・・・・・・・・・・・フーン」
最後のフーン、は形だけは表面上だけは納得? したのかどうかは不明だが、少なくとも否定の成分は含まれてはおらず、
「旦那、」
これを好機に、前々からずっと言ってやりたかった一言。
「誰だって弱っちくなっちまう瞬間くらいあるのに、それを受け入れねェ其処がアンタの弱点ですぜ」
沖田のその台詞に、そのコトバ全部そのまま返してやるよ、と流石に銀時は言わず、




「大丈夫大丈夫。 銀サン、んな弱くねーから」




「そりゃ、弱虫が口にする台詞です」




軽く流されそうになった瞬間、きっぱり断言。 たたっ斬ってやった。
すると銀時はあからさまに苦笑いをして、
「あー・・・・。 んじゃ、弱いのは沖田くん相手の時だけってコトにしとけや」
ごろりと突然、寝転がってきた。 ベンチの上、なんだこの体勢。 いわゆる膝枕というやつだ。
「嘘吐きもいい加減にしろィこの天パ」
だから速攻、落としてやる。 ゴトン。
「いてッ!!」
「何にも入ってねェ頭だから、イイ音しやしたねェ」
「おーきーたーくーん?」
見事にベンチに頭をぶつけ、大きな怒りマークをいくつも浮かべながら恨みがましげに見てくる銀時に、
「アンタ色々足りないですからね。 一体どこに落としてきちまったんです?」
「さァなァ? いいんじゃねーの? 落しモノってのは、得てして振り向いた拍子に見つかるモンだ」
「見つかった時には、もう手も届きやしないんですよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・言うねェ」
低く唸られた。 沖田的には、怖くもなんともないが。
「ああ、ちょっと違ってました」
しかしすぐさま前言撤回。 少しばかり読み間違っていたようだ。
「旦那に足りねェモノなんて無かったです。 その代わり、余計なモノばっか山ほど抱え込んじまってるだけでした」
「、」
「コロッと逝っちまったら、そんときゃもう何にも持って行けねェってのに」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・言いやがるねェ」
「そんな旦那と一蓮托生になるのは、ちょっとゴメンでさァ」
と、思いっきり嘯いてみせたら。




「3DS」




やぶからぼうに、いつかどこかで自分が口にした単語をなぞられた。
「ハイ? 買ってもらうなら俺としちゃ、プレステ4の一番新しいやつがイイんですが」
「ちげーよ、いつかの沖田くんのマネをさせてもらえばよ、俺的にもさァ、沖田くんはホントはタブーな訳」
「はあ・・・・?」
したり顔で何をこの男は、と呆れて凝視してやると。




「だってフツウじゃねーし。 だから基本却下なワケ。 だけどよ、そんな沖田くんにさわってんのは銀サン決してイヤじゃねーよってことで」




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・旦那、」




「ン?」




「15点」




容赦の無い赤点の採点結果を叩き付け、
仕方が無いからこの出来の悪すぎるオトナに自分から、キスを仕掛けてやった。












本当はふたり、どこかとても似ていることに気づいている。














引き続きイチャがやりたかったのです