[ 幸嘘言 ]






いつもの通り、
銀時が万事屋に向かういつもの道をいつものようにフラフラ歩いていたら、突然。


「そこのもう手の付けようがねェ白髪の天パの旦那。 ちょっと職質イイですかい」


後ろから聞き覚えのある声で職務質問がかかった。


「あァ?」


目線をやるまでもない。 その声だけでこの相手がどこの誰かなんて言うまでもなく。
「どーしたんだよこんなトコロで」
ぱたりと足を止め、くるりと振り向くと沖田はどうやらまだ勤務時間中のようだった。
私服ではなく、銀時としては久々に見る真選組の制服姿で、しっかり帯刀もしているし。
あーーー相変わらずやっぱり半端なくカワイイよなァ見た目だけは、とココロの中だけで確認するよう一度呟いた銀時に対し、
「あーーー相ッ変わらずやっぱ半端ねェ天パですね旦那」
当の沖田総悟は一言一句似た台詞をしっかり! 口に出して言ってきた。
「・・・・・・・・・・可愛くねェ」
思わずそうぼやく銀時に、ど可愛くないけど可愛いその相手は 「ン? 何か言いました?」 とすっとぼけた顔をする。
とは言えそれもこれもいつものじゃれ合いの応酬のようなもので、
「で、どしたの」
気を取り直して銀時は改めて沖田に向かい合った。
すると沖田曰く。
「なんか最近やたらヒマなんで、職質ついでにとりあえず今日は旦那んトコにガサ入れでもしようかと」
踏み込まれたらヤバイもんの一つや二つや十個や二十個、腐るほどムダに出てきちまうに決まってますもんねェ、と大きな瞳でじいっと見てくる。
そんな姿と仕種にももう随分と慣れた。
だから銀時は、大した動揺も見せず年上の幾許かの余裕を持って。
「なんでまたそこで、素直に 『会いに来た』 って言ってくれねーんだよ」
ツンデレにも程があんだろ、と軽くタメイキをついてやると、
「だって俺まだ仕事中ですもん。 あと一時間で終わるけど」
さすがに仕事中に旦那と逢引きとかマズイでしょ、と沖田は嘯く。
普段はサボりまくっているくせ、こういう時だけあえてそう主張する子供に、銀時は嘆息混じりで鼻をほじりたくなりながら。
「あーそんなん適当適当。 惰性でさァ、テキトーに大雑把に生きていこうぜ」
「そっちの方が難しいんじゃねェですか」
「カンタンだって。 今日一時間サボったら、明日一時間多めに仕事すりゃイイだけだろ」
「ムリです。 今日一時間サボったら、明日は二時間サボりたくなる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・あのなァ」
ああ言えばこう言う。
カワイイくせカワイイくせカワイイくせ、口を開けばカワイクないことばかり答えやがる沖田に、
「前々から思ってたんだけどさァ、未来はバラ色、って年のクセにどーしてそんなヒネクレてんだ沖田くん」
二度目のタメイキと同時にそう言ってやると、
「はァ???」
思いっきり嫌そうなカオをされてしまった。 そして。
「バラ色??? 誰が??? どこが??? 何アタマ咲かせてんです、年金のアレだの社会保障制度の欠陥だの、今までのウン十年のツケが積もりに積もって回って来ちまう、これから一番ワリ食う世代ですぜ俺ァ。 んなたわけた世迷い言もらすなんざ、旦那もついに来るときが来たってやつですかィ」
一息に言ってのける白けた口調と、ドSの冷たい視線。
でもまあ、これくらいはすでに日常茶飯事の範疇だ。
タメイキを苦笑いに変え、銀時はそれでも再び告げてやる。
「・・・・・・・・・・・・ホンット、ヒネクレ過ぎだテメー。 そんなんじゃ延々、シアワセはやって来ねぇっつの」
「は? シアワセ?? ナニソレオイシイノ???」
すると沖田も負けじと片仮名口調で返してきて、
一般的にはこういうのを 『押し問答』 『暖簾に腕押し』 『糠にクギ』 というのだろう。
この感じからして、きっとまた何かやらかして土方あたりに怒られたに違いない。
こうやって沖田が前触れもなく押しかけてくるのは、大抵にしてそのウサ晴らしなのだ。 今までの経験からして、そこそこ疎い銀時でも随分と似たような回数を重ねたがゆえ、流石にもうわかる。
あーこりゃ相当溜まってんなコイツ、と看破して、
「ガサ入れ上等。 行くならさっさと行こーぜ」
すたすたさっさと先に歩き出す。
そうして背中越し振り向きざま、
「溜まってんだろ沖田くん。 そーゆー時はガマンしねーでさっさと俺を使えって」
もちろん銀サンもガマンしねーでオマエとヤルから、とドヤ顔。
すると沖田はあからさまに呆れた顔と口調で、
「そーゆー台詞をこーゆー往来で堂々と口にしちまうのもどーかと思うんですが」
そこまで混む時間帯ではないけれど、かと言って人々の往来は決して少なくない夕刻の少し前、
まだ青みを随分と残している空を見上げながら。
けれど銀時は構わない。
「へーきへーき。 他人の言うコトなんざ、世間は誰も聞いちゃいねーし、聞いたところで大して本気にだってしてねェからよ」
「そりゃ旦那の周りだけなんじゃ」
「それを巷じゃ 『世間』 て言うんじゃね?」
「旦那と問答しようとした俺がバカでした」
「遅ェよ。 今頃気付いた?」
「知ってたけど」
「だよなァ」
そうやって会話だけでじゃれ合いながら向かう先は万事屋。
・・・・・・・・・の、煎餅布団。
















「・・・・ン」
駄々を捏ねるかのよう、逃れようと顔を背けるその口唇を強引に追い、噛み付くようなキスをする。
思う存分味わって、それから放してやると、小さく睨まれた。
「盛ってますねェ」
「だってそんなお年頃だし」
「いい歳して何のたまってんだか」
ここまで来てやたらとカワイクない台詞を吐かれるが、しかし銀時はこれっぽっちも怯まず、逆に口許を上げて。
「盛ってんのはオマエだってそーだろーがよ」
「否定はしませんや」
そうして妙なところでやたらと妙に素直な沖田の返答に、「お、」 と胸の中だけで呟き、
そのまま上着を取り払い袖を抜かせ、首のスカーフを解き取る。
続けて強引にシャツと下着まで剥ぎ取って、露わになった脚の間にずいっと身体を割り込ませた。
「ちょ、強引すぎやしませんかィ」
沖田が言う通り、性急といえば性急だが、これが手っ取り早いから仕方がない。
「んー?」
曖昧にスルーして、いろいろ文句を浴びせられる前に直接性器を手のひらで包んだ。
「、」
反射的に動きを止める沖田に、
「悦くしてやるって」
意識して低音で囁いてやると、
「・・・・期待しまさァ」
煽動されるかの如く緩い笑みの後、僅かに膝を開かれる。
Sexに突入してしまうと大抵、いつも済し崩しで行為を進めてしまうため、こうやって前戯に時間を費やすことはあまり無い。
だから妙に新鮮で、今更ながら興味と好奇心の尽きることも無く。
沖田の気が変わっちまう前に、とその性器をぺろ、と舐めてやった。
そこまでまだ熱を湛えていないそれを間を置かず、口内に含んで舌を使って刺激してやる。
と、見て取れるほど確実に質量を増していくそれと相まって、天パの上の方からは押し殺した、声にもならない吐息が聞こえてきた。
口内のものの頃合を計り、それがすっかり勃ち上がったところで合わせて銀時は更に身体の奥へと指を這わせていく。
「・・・・ッ・・・」
前触れもなく最奥に触れられ、沖田が息を詰めるが構わない。
ゆっくり浅く指を挿し入れ、解すよう内側を撫でてやりながら、今度は開かせたままの内腿に銀時は口唇を落とす。
その肌理の細かさと白さに悪戯心で思わず噛み付きたくなったけれど、流石にそれは我慢。
少々強めに吸い上げ、跡が残るか残らないか、という程度に留めておいて、
先程まで口を使っていた性器を、開いている方の手を使って指を絡ませると。
「コッチはもうイケんじゃね?」
銀時の唾液だけではなく、彼自身の分泌した体液で先端は濡れていて、
それを全体に塗り込めるように擦ると、
「・・・・っは・・・・!」
たまらず漏れる甘い声。
何度聞いても愉しいそれを堪能しながら、浅く差し入れていた指を、ぐいっと深いところまでやや強引に埋め込んだ。
「ッ!!」
先端からとめどなく零れる先走りの精液と体液の混ざったものがそこにまで伝い落ち、ほぐす指の動きと同時に濡れた音が大きく響く中、
同時に膨れ上がった中心部も激しく扱いてやれば、内側はみるみるうちに柔らかくなり、いつの間にか銀時の指を二本まとめて受け入れられるようになる。
二本ごと指先ギリギリのところまでズッ、と突き上げてやると、
「うァ・・・・!」
細くて柔らかい髪を乱しながら、沖田はかぶりを振って悶え堪えた。
「・・・・・・も、イイ?」
「ん・・・・」
わかっているくせにあえて訊ね、沖田の顎が縦に動くのを視認して指を引き抜き、銀時も充分に硬くなった性器をそこに宛がおうとする。
と。
するりとそれに沖田の指が絡み付いてきた。
「沖田、くん?」
怪訝に思う銀時に、
「黙ってろィ」
沖田はそれだけ言って自ら、銀時のものを導いていく。
「、・・・・っ・・・・、」
自ら両膝立ちになり、片方の指を使って押し拡げる最奥に銀時の性器を促すのも沖田の指。
普段とは違う挿入に、嫌でも興奮が高まる。
「・・・ァ、・・・・ッあ、・・・・ッ」
沖田は腰を落としつつ、括れの部分までを内側の柔肉の僅かな抵抗に逆らいながら懸命に埋め込む。
あとは重力と体重の重みに任せ、じわじわと根元までを飲み込ませていけば、
「イイねェ」
絶妙な締め付けと、齎されるたまらない快楽に銀時も掠れ気味の声で応えた。
「んじゃ、一緒にヨくなるか」
言って、ぐ・・・・、と下半身を押し上げながら沖田の腰に手を回して軽く揺すってみると、く、と唇を噛んで沖田は快楽に眉を寄せる。
それを眺めながら律動を繰り返していけば、きつく緩く内壁が銀時自身に絡み付き、きゅうきゅうと締め付けてきて、その快感を直接返してやろうと、
互いの身体の間で勃ち上がっている沖田の性器に銀時は再び指を絡め、手のひらで包んできつく擦り上げてやった。
「あ、・・・・あ・・・・ッ!」
甘い嬌声と一緒に、沖田は咄嗟に銀時の首に腕を回してしがみ付く。
「!! ・・・・っく、ぅ・・・・っ・・・!!」
前立腺を先端でぐいぐい押され、抉られて、細腰が小さく震え出す。
互いに与え合う性感に、銀時も甘く耐えながら、尚も沖田の悦ぶポイントを集中して攻め立てていく。
「―――― ッ!!」
強過ぎる快感に、一瞬沖田の息が詰まった。
激しい銀時の動きに、内壁が大きく収縮を繰り返す。
「・・・・く、」
容赦なく締め付けてくる内側に、銀時も限界を感じてきた。
自然と腰の動きも早まり、絶頂の兆しにもう真っ赤に膨れ上がっている沖田自身を些か乱暴なほど、激しく揉みしだく。
その愛撫に沖田の腰が浮き、下半身が不規則に戦慄き始めた。
「も・・・ッ・・・・イく・・・・ッ!!」
「・・・・どーぞ?」
年上、の余裕を見せたくて、銀時は何とか平静(・・・・?) を装って返事をしてみせたが、
自分だってもうかなり限界だ。
「銀サン、も・・・・な・・・・?」
露骨に律動が荒くなる。 腰をグイグイと引き寄せ、繋がった部位が壊れるんじゃないかというほど激しく穿って、奥の奥、一番弱いところを思いきり突き上げた途端、
「、――――― うあ・・・・ッッ!!」
喉元を晒し、仰け反って沖田は白蜜を放つ。
同時に内部が最高に締まり、絞り上げられて銀時も絶頂を余儀なく促された。
「・・・・ッ、 く・・・・!」
「ん・・・・、ッ・・・・、・・・・っ・・・」
体内に全て吐き出し、その熱に沖田が小さく口唇を喘がせるのを繋がったまま、
吐精の余韻に浸りつつただぼんやり銀時が眺めていると。
「・・・・・・・・・何ですかィ」
ついっ、と沖田が見上げてきた。
「あーーーー、 ・・・・・・カワイイカワイイ沖田くんに見蕩れてた」
実は何も考えていなかったから、咄嗟に誤魔化し半分、事実半分といったあたりで返答してみたところ。
「何を今更。 そんなのいつだって当たり前じゃねーですか」
太陽が西から昇ったとしたって、俺がカワイイってことと旦那のアタマはもう手の施しようがねェ、ってことに間違いはねーです、と断言された。
「あ? 言うコトはカワイクねーな相変わらず」
「繰り返しますぜ。 ナニヲイマサラ」
情事の後の、こんな睦言めいた会話。
こういうのは一言で、『シアワセ』 と言ってしまって差し支えないのではなかろうか。 少なくとも今の、この短い時間のあいだだけなら。
しかし銀時は知っている。 だからおそらく沖田もわかっている。
シアワセは不幸の休止点で、悲しみや悲劇の合間、ほんの一時だけ訪れるだけのもの。
そしてまた、すぐに次の不幸が襲いくる。
けれど、それでも。
ずるりと自らを沖田の中から引き抜きながら、銀時は告げてやる。
「ヤなコトとか、酒でも呑んで忘れちまえ。 自棄酒程度ならいくらでも付き合うぜ?」
「酒とか呑んで忘れたいコトってやつは、呑んだところで一生残っちまう類のモノなんですよ」
「んー。 確かにそうかもな」
そう。 でも一瞬だけ味わえるシアワセはたぶんオイシイ。 少なくともこれから、一緒に呑むのであろう酒と同程度には。
「んじゃ、一生呑み続けるしかねーよなァ」
言いながら、汗で額に貼り付いたストレートの前髪を指で梳いてやる。 そのさらさら加減に、やたら羨ましさを感じながらも。
「銀サンでよければご相伴してやってもイイけど?」
一見妙に遠回し、
否、
自分たちにしてはやたら直球、この上ないほどストレートなその台詞に、捻くれた沖田がどう返事をするかと思ったら。
「全部旦那の支払いなら、考えてみてもいーです」
即座に沖田はそんな返答をして、はからずとも目線を合わせて三秒。 ・・・・・、五秒。




同時に小さく吹き出した。




「旦那、ウソ吐くの相ッ変わらずヘタクソですねェ」




「沖田くんこそ。 もういっそトドメ刺されても、俺は構わねーんだけどよ」




「その台詞、そっくりそのまま叩き付けて返してやるんで」




言いつつ小さく笑いながら、ごそりと身を起こした裸の沖田に身体の上を跨がり乗られた。
そのまま近づいてきた顔を正面から見据え、仕返しのような激しいキスを仕掛けられて銀時が満悦に浸っていると。
最後に舌と下唇、連続してきつく噛み付かれて鈍い痛みの直後、はっきり感じる濃い血の味。
「痛ェって」
口唇を離して、銀時は眉を顰めてみせる。 拭ってみると、そこそこの量が手の甲に付いた。
「出血多量で死んじまったら、どーしてくれんだ責任取れコラ」
「そりゃご愁傷様です」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「旦那?」
「いやちょっと待て、なんか本気で舌痛ェんだけど。 つーかコレ思いっきりザックリいってんだけどォォォ!!」
「ホントだ。 ダラダラ滴ってきてる」
「どーすんのどーすんだコレ!!」
「喋るとどんどん血ィ、垂れてきますぜ」
「沖田ァァァァ!!!!」
「アンタ血の気が多いから、それっくらいでちょうどイイんじゃねーかと」
「沖田ァァァァァァァァ!!!!!!!!」








―――――――――― トドメを刺されるには程遠い。














この二人はいつも最大限にイチャってると思う!
けどいつもと大して何も変わらないマンネリっぷりだとも思います
グスン