[ たぶんこの一回だけで終わるだろう五部ネタ 前編 ]







とある日曜日の午後。




「ご褒美が、欲しいんです」
「? 報酬ということか?」




ああ、また始まった。
眠気混じり、欠伸を噛み殺しながらミスタは思った。




部屋の片隅、ソファーで五センチほどの厚さの本に目を通していたブチャラティに、湯気の立つ新しいカップを渡しながらねだるジョルノ。
「ぼく、頑張りましたよね? ぼく個人としても、主人公としても、部下としてもかなり頑張りましたよね? だからほめて貰いたいって気持ち、わかってくれます?」
「・・・・・・・・。 理解できなくもないが、よくわからないな。 ほめればいいのか?」
「そうして貰えたら嬉しいです。 それとその他にもいろいろ」
「いろいろ? 今更オレ個人から報酬と言われてもな・・・・。 何が欲しいんだ」
甘い。
訝しげな表情をしつつも、最後にそう聞いてやってしまう彼は、やっぱりとことん甘い。
途端に物凄く嬉しげな表情になるジョルノとは対照的に、
位置的にも部屋の反対側、明るい陽射しのテラス側ではやはり椅子の上でカップ片手、
「そーやって甘やかすから、ジョルノが調子に乗るんだよ」 と苦虫を三千匹くらい噛み潰したようなカオを先ほどからずっと継続させているアバッキオ。
しかして彼も自分もそして興味深げに(彼にしては珍しく黙って) 二人のやり取りに聞き耳を立てている、その隣のナランチャも、ちょうど今用足しで出かけているフーゴも全員が全員、
ジョルノの功績と成功とを我が身を持って知っているから、容認までとはいかないものの、ついつい目零しをしてしまうのだ。
当のブチャラティが迷惑だと感じていない(※ココ重要) のであれば、多少(?) の我儘くらいは聞いてやろうという気になってしまうし、実際そんな立場だし。
まあ結局のところ、この件に関しては二人の問題(・・・・なのか?) ということも多々含め、
ミスタたちにとっては別段口出しすることではなかった。




はずなのに。
なのに今日に限って、今に限ってなんだかジョルノの発言の風向きが怪しくなってきた。




「もう一度二人で一緒に教会に行ってみたいんです」
「それはもしかしてオレが一度目に死んだ島のことか?」
「忌まわしいといえば忌まわしい場所ですけど、景観は最高だし、ぼくたちの新たな船出でもありましたよね。 二重の意味でも」
「確かにヴェネツィアは良いところだとは思うが・・・・」
「あそこで思いきり 『てんとう虫のサンバ』 を歌いたい」
「おまえはいつの時代の人間なんだ?」




噛み合ってんだか噛み合ってねーんだか、なんかスゲー会話してるよなァ、とナランチャ。
「アレって本気なのかな、それともただかまって欲しくてちょっかいかけてるだけなのかな、実際どっちなんだろーな」
「さーな。 どっちにしろ聞いてるコッチは普通におもしれーからイイけど」
返事をしつつミスタは改めて思う。 平和だ。
ギャングが平和を口にするのも平和を痛感するのもそれはそれでどうかと思うのだけれども、
全てが終わった今はとにかく平和で平穏で、喩えるならそう、
『始まったばかりの春休み』 くらいの長閑っぷり平和っぷり、しかも、
『いろいろあったけど全員生き返って・生き帰ってみました・いろいろあったけど(・・・・) それはそれで置いといて、いろいろありすぎたけど(・・・・・・・・) 全部水に流して暗殺チーム含めみんなけっこうわりと仲良くやってます』
という現状、
(組織の中では) 事件も事故も殺人も、小競り合いすら何一つ起きないまま数週間が過ぎていき、
強いて挙げてみるなら何日か前、プロシュートがブチャラティを誘って二人だけで飲みに行き、
それを後になって知ったジョルノが 「プロシュートブッ殺すプロシュートブッ殺すプロシュートブッ殺す」 としばらく念仏のように唱え続けていた、ということくらいだ。
そんなとてつもなく心地いいぬるま湯の中の生活は、とてもとても新鮮で穏やかで穏やかで、
なのに面子が面子であるがゆえ、退屈などもってのほかで。




それにしてもいい天気の午後だ。 押し寄せる睡魔に抗えない。
すぐ横でジョルノはまだああだこうだとブチャラティに迫っている。
迫られるブチャラティの方は、素直に鈍すぎるのか、それとも鈍いフリをして切り抜けようとしているのか(ミスタが見る限り、まず間違いなく前者である) 微妙に絶妙に的外れな受け答えを繰り返し、
こりゃまた平行線を辿って終わるな、と今度は噛み殺さず、大きな欠伸を遠慮なくしようとしたところ。




「だってあんた初対面でぼくの頬、舐めたじゃないですかッ!!」




響き渡ったジョルノの大声に、眠気が一気にすっ飛んだ。




「な・・・・・ッッッッ!!!?」
いわゆる 『既成事実』 を持ってした爆弾発言に、
たまらずガタン、と椅子を鳴らして立ち上がったアバッキオを、「待て! 待てッて!!」 と慌ててナランチャと二人がかりで制止しつつ、必然的に二人の方向に身体ごと振り向けば、
「ぼくのッ! 頬!! あんなのルール違反もいいとこだッ、ある意味ファーストキスを奪われるよりショックでしたよッ!!?」
「・・・・あれはだな、その、」
否定せず、気まずそうに言いよどむブチャラティと、
「『味』、また試してみてもらっていいですか? 間違いなくあの時とは違った感じになる」
「いや、・・・・遠慮しておく」
「ぼくの手にあんなモノ無理矢理握らせて、口に指とか何本も突っ込んできたのはブチャラティじゃないですか・・・・ッ」
不意打ちの酷い仕打ちにもほどがあります、と言葉とは裏腹に何故だかジョルノがやたらご機嫌な様子に見えるのは自分だけなのだろうか。
一方、
「んだとォ!!!?」
ジョルノてめェ何言ってんだ、と二人がかりの制止を振り払い、今にもブチャラティからジョルノを引きはがさんばかりのアバッキオ。
そこにタイミングが良いのか悪いのか、「ただいま」 と、ちょうど外から戻ってきたフーゴにナランチャが目で合図、
「あ、はいはいわかりました、大丈夫ですアバッキオ、あんなのいつものジョルノの寝言ですから」
「だよなァーーーー? 夢と現実が一緒になってんだっての!!」
いつものパターンだと察し、咄嗟に合わせてくれたフーゴとナランチャ、これまた二人で 「離せチクショォォォ!!!!」 と暴れるアバッキオの襟首を引きずって外へ出ていく。




一方で、それが夢でも寝言でもなかったことを一番よく痛感している本人たち(・・・・) は、本人たちで。
ブチャラティは、小さく溜息をついた。
「それで結局、どうしたい? 報酬として、現実的にはどうしてほしいんだ?」
「・・・・・・・・ブチャラティの家に行きたいです」
つい今さっきとは打って変わって、ジョルノの声はいつものトーンに戻っていた。 いや、普段より更に少し、生真面目さを湛えながら。
「何?」
「小さくて近くにいいレストランもあって海辺も近い、その家に行きたい」
「来てどうする?」
「あの、ブチャラティ」
どうやらジョルノ的に、彼以外誰一人として視界に入っていないらしい。
残ったミスタが凝視し続けているにも関わらず、
ゴクリ、と息と唾とを一緒に飲み込んで、それから。




「好きです」
「・・・・・・・・よし。 聞かなかったことにしよう」




「ぼくは本気です・・・・ッ!」
「・・・・・・・・わかった。 ところでそれは何の遊びだ? 罰ゲームか?」




「うッ・・・・」




全力で告白したものの真顔で流されたジョルノ。
みるみるうちに意気消沈するその様は端から見ていただけでも不憫に思えるくらい、
本編では一度も見せなかった情けない姿で。
「ちょっと・・・・出て、きます」
くるり。 背中を向けヨロヨロと部屋から出て行ってしまった。 どんな攻撃より酷い、とてつもないダメージを受けたらしい。 少なくともこんなジョルノをミスタは見たことが無く。
「おい、イイのか? アイツ、全部とは言わねーが半分くらいは本気も入ってんじゃ」
余計なことだとわかりつつ、思わずブチャラティにそう告げてみると、
「冗談に決まっているだろう。 巷で最近流行っているようたぞ」
即答。
「あ? 流行り?」
なんだよそれ、と聞く。 と。
ブチャラティはパタン、と本を閉じながら、
「先週、プロシュートにも似たようなことを言われてな。 そして今日はジョルノだ。 言葉遊びか何かだろうな」
重大発言、
問題発言をさらり。
「・・・・・・・・おまえ、ソレ絶対ッ! 絶ッ対ッ!! ジョルノに言うなよな? ちなみに何て答えた?」
「Grazie、とだけ」
顔色ひとつ変えず、ミスタの問いに答えた言葉を聞いて、タラリと背中を冷や汗が伝う。
なんなんだアンタ。 ていうかアンタもだがプロシュートもジョルノも真っ向からぶつかって撃沈したのか。
・・・・否、まだ実質的年齢的にはお子ちゃまのジョルノはともかく、
あのプロシュートがそんな愚直な、正面きって当たって砕ける方法を取るとは思えない。
それはあくまでそれこそ言葉遊びのような、前段、いやいや前フリにも満たないジャブで、
おそらく次回以降から、きっと何かしらの食指を伸ばしてくるはずの手合いであって、
でもそれを言ったところで当の本人がこの様子ではミスタの伝えたいニュアンスが伝えたように伝わるわけもなく、
「〜〜〜〜〜〜〜、」
きっかり三秒だけ迷ったあと、
「次からはひとりだけでプロシュートに会うんじゃねーぞ? 誘われても、他に誰かひとり連れてけ」
ボディーガードとして。 とは上司に対して、さすがに言葉にはしなかったけれど。
「なら、ジョルノでも連れて行くか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・見たいか? マジガチの殺し合い」























とりあえず、一時間経っても戻って来なかったため、
『ジョルノを探してきてくれ』、と頼まれてミスタは外に出た。
なんのことはなく、近場をウロウロしていたら、10分足らずで近くの公園に居るところを見つけた。
さぞかし落ち込んでいるかと思えば、公園内、ベンチに腰掛け何か思案しているジョルノ。
・・・・・・いや、ミスタが見るにあのカオは何かしらの悪だくみをしているカオに近い。
が、
そこはあえて何も気が付いていない呈で。
「どーして戻ってこねーんだよ」
飄々と近付きながら、声をかける。 と。
「いくつか策を練っていたので」
更に飄々とした返答でかえされた。
「・・・・あのよジョルノ、オメー、今度は 『ブチャラティと一緒にいるのが夢なんです』 とか言い出さねーよな?」
「??? なんですミスタ??? そんなこと言いませんよ」
半ばやけくそ、それでいながら最終確認のつもりで訊ねたミスタに、ジョルノは即答。
その内容に半瞬だけ胸を撫でおろしかけた途端。




「ただぼくには将来に予定があるってだけです。 ブチャラティと死ぬまで離れないっていう予定が」
「えっと・・・・、」




がしがしと頭をかきながら、ミスタは本日のジョルノの言葉をいろいろ反芻する。
そして。




・・・・マジ?
・・・・コイツ、マジで本気なの?
・・・・本当に本当に、本気なのか?
・・・・だとしたら。




断然、面白くなってきた。

















「帰ったぜー」
少し頭を冷やしてから戻ります、とのジョルノを置いてミスタが戻ると、引き続き彼は本に目を落としていた。
そこから顔を上げ、ブチャラティは 「ジョルノはどうした」 と訊いてくる。
「あと少しすりゃ戻ってくるってよ。 ・・・・ところでよォ」
「?」
「また、『覚悟』 しといた方がいいぜーーーー???」
「?」
「前とは全然違うイミだけどな。 アンタも悟ったらさっさと腹くくっとけよ?」
「?」
クエスチョンマークばかりのブチャラティに、ミスタは苦笑いしか出ない。
ま、そのうち理解するだろーよ、とここでその話は終わりにするつもりでいたら。
「なんだかよくわからないが、留意しておく。 それとミスタ、」
「あ?」
「今月末なら、都合がつきそうだ」
「何のことだよ?」
「ジョルノの希望通り、今月末ならオレの家に連れて行けそうだ」
唖然とする。




こっちもこっちで、・・・・マジか。
まさかあのワガママを本気で受け取ったのか。 そして検討ののち、予定を照らし合わせて都合を付けてしまったのか。 一体どこまで部下思いで寛厚なのか。




「おい、聞いているのか? 明日でいいから皆に伝えてくれ。 来たいヤツは来いと」
「・・・・・・ああ、伝える。 勿論、オレは行くぜ」
「プロシュートも来ると言っていた」
「!!? なんでだよ」
「おまえが戻ってくる寸前に電話があった。 そこで聞いたんだ」
「電話って、なんの用件だったんだ?」
「さあ? そういえば、大したことは言ってなかったな」




・・・・・・・・マジか。
あんた本当は天然どころか、とんでもねえバカなのか?
と口元まで出かかった言葉を寸でで飲み込む。




プロシュート → ブチャラティ ← ジョルノ




一つ屋根の下、そこで起きるのは悲劇か喜劇か。




俄然断然突然当然、面白くなってきた。
















【 →→→→→ 後編へ続く 】






アニメ五部が素敵すぎて書き殴ってみたものです。
たしか2月くらい? に書いたんじゃなかったっけか。 後半も出せたら良いなーと思うだけは思っとります。
たぶん後半もノリは同じ。