[ とりあえず練習文 ]






「ほい。 コレ。 持ってさっさと帰れよ疫病神」


「私は鬼だと一体何度言えばわかるんですかね。 この耄碌ジジイは」


「ああそうか。 存在自体が鬼畜の如き所業の悪鬼だもんな」


「まあ間違ってはいませんね。 むしろぴったり合致というか」


「真顔で肯定すんな!!」


「だって事実だし」












いつもの応酬。(暖簾に腕押し)
いつもの不仲。(デフォルトである)
いつもの光景。(桃源郷・極楽満月にて)


特に特筆すべきこともなく、ただただ普通に仲の悪さをなぞって、
それで本日も終わるはずだった。
しいて唯一普段と違った点があるといえばただひとつ、
鬼灯が公用の仕事名目で入り用の、薬だの原材料だの漢方だのを、
今日に限ってわざわざ自分から引き取りに、この桃源郷まで一人で訪れたというくらいで。
加えてこれまた普段なら必ずここに居るはずの桃太郎、
白澤的呼び名でいうなら桃タローも然り。
今日に限ってこんな夜に限って、元・お供の犬・猿・雉トリオと連れ立って久々に飲みに行くと数日前から公言していた通り、夕方から出かけてしまって不在、といったあたりで。
どうしてそんなときに限って、
どうしてこんなタイミングに限って、
どうしてお前が一人でずけずけ(?) と薬なんか急に受け取りにやってくるんだこの馬鹿、と、
自ら迎えて手渡す破目になってしまった白澤は心の底から思うのだ。
せめて(なんか悔しいけど) お香ちゃんと一緒に来るとか、
(無理だと思うけど) 閻魔大王同伴で訪れるとか、
(有り得ないけれど) ベルゼブブのついでの観光がてらで立ち寄るとか、
そういったことが出来なかったのかお前、と無理と無駄を承知で、思う。
だってこんなの(こんなの=鬼灯) とマンツーマンなどでいたって、ただただ不毛なだけだ。
罵詈雑言以外の会話が成立するわけでもない。
不穏、を通り越して限界まで澱んだ、澱みきった空気の中、
何をする訳でもなく、互いに 「グヌヌ」 「グヌヌヌ」 と気に食わない相手のカオを眺めざるを得ない、
それこそ地獄の拷問に等しい時間なのだ。
そう。 それ以外のナニモノでもないはず。 無論それは白澤だけではなく、お互いに。
だからこっちはどこまでもさっさと所望のブツをあくまで事務的に渡して、
だからこそ鬼灯も、あくまで仕事上の付き合いに徹して事務的に受け取って、
それで終わり。
それでこの気に食わない黒衣の鬼神は姿を消して、
そのあと自分は近くに住む女の子の誰かに電話もしくはメールして、
今夜を普段の通りに甘ーく過ごす。 


そんな、
はず、
だった、
のに。


その、つもり、でいたのに。




風呂敷一式に包まれた荷物を片手に、
一旦帰りかけ、ふと立ち止まって踵を返した鬼灯が、
「ああ、そうそう」
そうひとりごちて、またすたすたとこちらに歩み寄ってきたから。
「何? 何か忘れ物?」
白澤としてみたらついつい、素でそう聞いてしまったのだ。
だってそうかと思うじゃないか、普通。


まさかそんな、その途端、
そんなまさか、この直後、


「忘れ物といえば、忘れものか」


そんな呟き、のコンマ三秒後。




「!!!!!!!!」




そんなバカな、と思う間もなく黒髪が目の前にあって、
バカなそんな、と察知する余裕もないまま、口を口で塞がれた。





「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」




女の子の唇は、それこそ幾星霜(※比喩じゃない)、味わってきたし知っている。
女性の口唇なら、それこそ今まで調合してきた薬と同じくらいの知識も、経験も、持っている。
だがしかし、
だがしかしだがしかし、
何故に男の、
しかもオニの、鬼神の、
よりによってよりによってコイツの!
コイツと!!
コイツから!!!!
キスを受けなければならないのか、それもこんな、
(牙が! 息継ぎのたび当たるんだよ上も下もオマエの!!)
こんな感想まで出てきてしまうほど、 ・・・・・・長くて深い。




「ななななにしやがるテメェェェェ!!!!」




す、と鬼灯が離れた途端、間髪入れずでそんな怒声が飛び出てしまっても、仕方がなかった。
出来ることならぶん殴りたい勢いで、なのに顔面蒼白になって叫ばざるを得ない白澤の眼前、
当のオニは顔色ひとつ変えず、
「嫌がらせです」
さらりと事も無げな返答。
「せめて意味のある嫌がらせをしろよォォ!!」
そんな白澤の一本ずれた(・・・・)、いつかと同じようなツッコミ(・・・・?) にも、
「たとえ自分が1000のダメージを受けようともオマエに1001のダメージを与えられたなら本望」
いつもの如く寄せた眉はそのまま、それこそ意味があるようで全くもって無い、
返答にもなっていない台詞を返してくるから。
「違うだろ! 基本自分はノーダメージで高みの見物で見下ろすのがSってやつだろ!!」
ついついこちらも、ずれ気味ながらも再び、突っ込んでしまう。
「・・・・・・。 私はサドではないと何度言えばいいんですか」
「ああヤダ。 自覚の無いフリしてるヤツってほんっっっとイヤだ」
ぼそっ、と小声で呟いたその言葉が届いたのか届かなかったのか、
そ知らぬカオで、
「ところで、嫌がらせ的にはコレ成功?」
「〜〜〜〜〜〜!!!!」
仕掛けた当の本人が、これまた仕掛けられた当の本人に対し、
面と向かっていけしゃあしゃあ、けろりと訊ねてきやがるあたり、
真剣に狂ってるんじゃねえのコイツ、と疑ってしまっても無理はない。
でも、それでも、白澤としてもココで、こんなところで退くわけにはいかない。
VS♀、であるならばこの広き三千世界の中でも、そこそこ数えられてもいいくらいのオトコであるという妙な自負も、ある。
そしてこういうことは自分が嫌がるから嫌がらせが成立するわけであって、
白澤が、自分が僕が嫌がりさえしなければ鬼灯の身を張った(・・・・) 嫌がらせは見事失敗、
1001のダメージは白澤にではなくて、1010くらいの数値でこのオニに跳ね返っていく。
そんな理論。 だから。


「オイ!」
「?」


ほとんど勢い。
万物を知る神獣、
なのに次の瞬間、知識も知性も一欠片さえ含まれない、ただただ勢いのみの行動を取っていた。
怪訝そうに自分を見やる鬼灯の不意をついて、
今度は自分から。 得意の角度で口付けてやった。
それでも、やっぱり牙が当たる。
もしかしたら女の子の鬼より妖怪より、少しばかりコイツの牙の方が長くて尖っているのかもしれない。
それともほぼ同じ身長だから悪いのか。
それともそれとも、今、キスを仕掛けているのは自分の方なのに、
時折挑み返されるように舌がこちらの口腔に入り込んでくる、そんなコイツが悪いのか。 
果たしてそれともそれともそれとも。


そんなことを考えているうち、息が続かなくなって離す。 離れる。 すると。


「涙目になってますよ」


「うるさいよ黙れ!!」


自分で気付く前に、指摘された。 腹立つ。
そして更に立腹の二乗、鬼灯が次に何を口にするかと思えば。
「ごちそうさまでした」
「なんだその台詞・・・・」
「喰った方が口にする台詞です。 まあ、今日のところは喰ったうちに入るかどうかも怪しいですが」
怒りを通り越して、ぽかんとする白澤のその向こう、
「じゃ。 また来るので」
目的を達した(・・・・???) 様子で鬼灯は再び踵を返し、扉からすたすたすたすたと何事も無かったかのよう、出て行って。


「な・・・・・なんだったんだ・・・・・」


御年ウン万年の神獣は、塩をまくことさえ忘れて唖然呆然とした。
























15分後。
ああ酷い目に遭った、しかし1010のダメージは返したはずだし、・・・・けどちょっと待った、そんな自分も差し引き1001はダメージを受けてはいるハズで、しかも先に仕掛けてきたのはアイツの方で、
これってつまり痛み分け? でもそれにしちゃアイツはいつもの鉄面皮のまんまだったよなああ、
あああわからん、もういいよもういいやもう考えない、とりあえず歯磨いて風呂入って今日のところはもう寝よう、眠って終わりにしよう、と就寝ルートを選択して実行した白澤が、
さっぱりして自室のベッドに潜り込んだ途端。


「いくら何でも寝るの早すぎだろこの年寄りが」


「ヒィ・・・・!!」


声に、本気で、本当に驚いた。 文字通り、仰天した。
いつの間に戻ってきたのか、そしていつの間にこの私室のドアを開けたのか、半歩入ってきていたのか、
鬼灯の再訪に、布団を握りしめ、白澤が思わず。
「ななななんで来るんだ!!? なんで居るんだ!!!??」
オマエ帰ったはずだろ、と化け物でも見たかのような(※実際そうであるのだが) 反応を示してしまうと、
「また来るって言ったじゃないですか。 全くヒトの話を何一つ聞いていない」
もう耄碌したのかこのジジイ、と逆に吐き捨てられた。
「15分後に来るかフツウ!!?」
当然の白澤の文句にも、
「誰も 『また後日』 なんて言ってないし、とりあえず貴方の驚愕と絶望にまみれたカオを見たかったもので。 ついでに自ら自室に入ってもらえれば引き摺っていく手間も省けますし。 喰うならやっぱり今日のうちにきちんと喰っておこうと思って」
鬼灯は顔色ひとつ変えず、正にオニの台詞、オニの所業としか思えない。
しかも、あえて丁寧口調で貫き通しやがるあたりがこれまた憎憎しい。
あっ勝手に僕のベッドに乗って来ながら紳士ぶるなよこの野郎、
野郎二人で乗ったことなんて一度も無いんだからなこのバカ、
185センチの男二人で乗ったら、
・・・・やっぱり妙に軋むじゃないかこのアホ、などと妙な実感を伴いつつ、
混乱プラス動転しまくりで錯乱の一歩手前だった白澤相手、鬼灯曰く。


「あ、なんなら元の姿に戻っても構いませんから。 むしろ戻ってくれた方が私的に萌えるし燃えるかも」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・獣姦・・・・・・・・・?」


「まあ。 どっちでも」
「ギャアアア桃タロー君今すぐ戻ってきてぇぇぇ!! 助けてェェェ!!!!」
ここは縋る。 弟子に縋ってでも助けを求める。 格好悪いとかそういう問題じゃない。
なのに、時間的にはそろそろ戻ってきてもいい頃合なのに、帰ってくる気配もない。
「彼なら戻ってきませんよ。 シロさんたちに足止めしてもらってますから」
でもまあ、念には念を入れて、と、枕元にあった白澤の携帯に手を伸ばし、鬼灯はバキッ、とそれを握り潰す。
「桃太郎君は当分戻ってきません。 これで女性にも連絡は不可能。 という訳でとりあえずは私でイイですね」
「じっ・・・・地獄に堕ちろ!」
僕の携帯になんてことしてくれやがる、あの中にしか入ってなかったアドレスも番号もたくさんあったのに、なんて怒って嘆く余裕さえ、もうない。
「フン。 元々地獄在住です。 堕ちるならオマエが地獄に来い」
「イヤだあんなところに僕が住めるか!!」
「それなら私がここの住人になっても?」




一瞬の、間。




「・・・・・・なんだよそれ。 告白? プロポーズ?」




「はっきり言うのも癪に障るから言ってやらん」




「腹立つ!! いちいち腹立つなお前!!」

































骨張った長い指ごと、手のひらが身体を這う。
鬼のくせにどうして中途半端に体温があるんだこの手、と不可思議に感じながら、そのたびにぞくぞくと背筋を駆け上がる、快感の波。
たまらず、流されそうになる。
「なんですかこの傷」
冷静に訊いてくる声に、なんでそんなところまでしっかり見てんだよこの助平オニ、
と罵倒してやりたくなるが、それほどの余裕もなくて。
あの時オマエにどつかれて転んでできた傷だよ、と掠れた声で返答するしかなかった。
「・・・・・・それはそれは」
脚を大きく持ち上げられて、腰を抱えられて。
乱暴に宛がわれた熱に、我慢できない声が漏れた。











勢いだけでプロトタイプ(笑) として書いてみた! 自分のためだけの自己満足作文でございました。
練習(・・・・) みたいなものなんで、大目にみてやってください

とりあえず 『まだデキてなかったバージョン』 でした。
けどこの二人、ウン千年前からとっくのとうにデキてるとおもう