[ 頑張ってイチャイチャ文 ]






「こう、さあ? 薬に限らず、どんな品物を見ても、どんなスパイスを見ても、その原材料とか調合法とかパッと考えちゃうのはもう、職業病としか言えないよねえ」


特に理由があったわけでもない。
鬼灯が持ってきた、閻魔大王からの手土産(※と本人は頑なに言い張っているものの、十中八九鬼灯個人からの土産である) である緑茶セットと茶饅頭の包装を白澤ががさごそと開けながら、
「まあ、お茶と饅頭に調合も何もないけどね」
あっ茎茶も入ってる、尖ったところのない丸い味で僕わりと茎茶も好きだからありがたいな、とこれまた柔らかく目の前で喜んでみせると、
こうやって自らちょくちょく極楽満月に足を運んでくるくせ、
そしておまけに手土産まで程好く吟味して手渡してくるくせ、
本日のよう、桃タローを使いに出した隙を見計らってこんなふうに訪れたなら、ほぼ10割の確率で長居をして居座って、ついでに寝室まで縺れ込んでいくパターン必須、そのくせ、
それであるくせにどこまでも当の本人、鬼灯はいつも通り、


「それはまた不幸な」


などと普通に可愛くない台詞を放つ。
それが多少なりとも的を得ているならまだしも、
白澤自身、そんなこと全く持って頭にもなかったうえ、一度たりともそんなふうに思ってみたことなどこのウン万年間、本当に皆無だったから。
「はあ・・・・?」
細い眉を上げて、少しだけ不機嫌さを醸し出してみた。
「何言ってんだオマエ、職業病ってのはプロの証じゃないか」
「・・・・・・・・・・・・。 良く言えばそうなりますけどね」
ああ言えばこう言う。 とりあえず、最初の 「・・・・・・・・・・・・。」、
この 『溜め』 の無言部分が気に障り、
「あのなあ。 ヒトを幸せにできる病ってのは、職業病だけなんだぞ」
まっ、オマエの仕事は違うかもしれないけどな、
僕の仕事はどこまでもポジティブに前向きにとらえられる内容だし、とこちらも厭味風味を忘れず付け加えてやると、
「『ポジティブ』 なんてのは後先考えない馬鹿がよく好んで使う言葉ですよ」
更に可愛くない、
むしろ思いっきりケンカを売られている以外のナニモノでもない返事で戻されて、
「なんだとこの3Kオニ!!」
「勘違いしてるみたいですが生憎、私の仕事はきつくも汚くも危険でもないので。 悪しからず」
「フン。 違うね。 勘違いしてるのはオマエの方だっての。 僕が言いたいのは、『狡猾』 『険悪』 『小ざかしい』 の3Kだよ」
どこかの誰かにピッタリじゃん、と嘯きながら、
それにしても3Kなんて言葉、いまどき実際みんなまだ使ったりしてるのかな、
などと頭の隅で思いつつも白澤は続けてやる。
「でもって 『キライ』 『気に入らない』 『気に食わない』 ってのも、別の3Kで足しとくから」
張本人を眼前にして、堂々と言い放つ。
だって言い放ったところで、今更何も問題は無い。
天国でも桃源郷でも地獄でも自分たちの仲が悪いことは声高に知れ渡っているし、
まあ実際、 ・・・・悪いながらもなんで引っ付いてるのさ、
仲良くないながらもなんで僕とオマエこんな関係でいたりするのさ、
と多大な苦笑とほんの少しの諦めをもって、最終的、総括。
「それもこれも、僕はちっとも悪くないね。 悪いのは最初からずっとお前だし」
責任全部を押し付けて、やんわり薄ーーーく笑ってやると。
鬼灯はいつも通り無表情・・・・・、を通り越した、微妙な不機嫌な顔つきで。
そういうことを言われると、
とぼそりと前置いたあと。
「『金輪際』 『けしからんコトが出来ないよう』 『懲らしめたく』 なりますね」
さりげなく(・・・・?)、3Kで返してきた。
その声音と内容に、白澤は何某かの危険を僅かに感知しながらも。
「・・・・・・・・。 残念だな。 僕、亡者じゃないから無理」
オマエの責め苦の対象にはならないし、とまだここは平穏を装って、察知した何かを表情には出さずにひらひらと手を横に振る。
なのに鬼灯は全く聞いていないのか、
「『緊縛する』 『クスリを使う』 『開拓、もしくは開発する』。 ・・・・ダメだ。 出来が悪い」
「怖いって! なに物騒な単語ばっかり呟いてるんだよ・・・・!」
S鬼は、3K繋がりでしつこくブツブツ言っている。
と、その視線が壁の時計で止まった。
「もう、23時過ぎですか」
「は? 時計は合ってるはずだけど。 どうした?」
「いや・・・・。 別に何がどうとかではなく。 ただ、気がつかないうちにそこそこ遅い時間になっていたなと。 ・・・・年寄りはもう寝る時間じゃ?」
「だってオマエ来たのもそこそこ遅かったじゃん。 ていうか何だよ、それって僕に早く寝ろってコト?」
白澤はあえて、茶化した口調を作る。
だって白澤は知っている。
こうやって桃タローが居ないとき、それもそこそこ遅い時間、仕事が終わった後に鬼灯がふらりと訪ねてくるとき、こんな時は大抵大概、彼が疲れているときなのだ。
そんなこと、本人は絶対誰にも(対外的にぼやくことはあっても) 言わないし愚痴らないし、認めないだろうけれど。


「つまり翻訳すると、オマエ鬼のくせに一人じゃ寝ることも出来ないって?」
白澤の、茶化した口調は続けられる。
これはタワゴトに近い、ザレゴト。


すると、
「ええまあ、」
と真顔で頷かれた。
「いつも一人寝なもので」
間違いない。
オーバーワークなのかそれとも単に疲れが溜まっているだけなのか定かではないが、
毎日あれだけの仕事量をこなしているのだから、当然といえば当然か。
たまの休日も無いわけではないのだろうけれど、
何やかやで結局、誰かに誘われれば付き合いも決して悪くなくカオを出してしまうコイツのこと、
きっと休息はあまり取れていないに違いない。 だから。


「それじゃあ一緒に眠ってやるよ。 僕なら、誰かと寝るのにも慣れてるし」
それもこれも、ウワゴトのようなソラゴト。
でもそれでいいのだ。 それでなければ駄目なのだ。
讒言に隠し持った(遥か) 年上の余裕。
でもきっと、若造のわりに頭の回るコイツはわかっているのだと思う。
少なくともこんな時の、
白澤からのありがたい(???) 申し出を鬼灯は足蹴にしたりなんてしない。
「まったく、見境がない・・・・」
とりあえず表向きだけは、こうやって小さな溜め息を吐いてみせるけれども。
「なくない。 ちゃんと境目はつけてるよ。 僕的に無理か無理じゃないかの」
「初耳だけど」
「お前の方こそ見境ないじゃないか。 いくら何でも僕とかに普通、手は出さないよ?」
こんな白澤の台詞にきちんと反応して、ふう、と軽く息をつく。
「女性は面倒くさ・・・・・・いや、いろいろ手間と時間とが必要なので。 ワガママをきくのも大変だし」
「・・・・オマエも充分、普段からワガママ三昧だと思うんだけど」
「どこが」
「真顔で聞くなよ・・・・。 ・・・・まあ、でも、今夜はきいてやるよ。 これでも一応、神様の部類に入るからね、僕」
太っ腹な神獣に、地獄の鬼は何を願ってみる? と唆す。 と。


「それなら、眠るときは手を繋いだり」


冗談を真顔で言われた。


「やめろ気持ち悪い! オマエそういうキャラじゃないだろ!!? 想像して本気で気持ち悪くなったじゃないか、それなら襲われた方がまだマシだよ!!」


慌ててこう答えながらも、
繰り返す。 だってわかっている。 白澤は知っている。
これはコイツの、ほんの僅かの照れ隠しと、無表情すぎて下手くそすぎる悪ふざけということも。
無論、お互いに。


「・・・・それじゃあ仕方ない」


これで我慢しますよ、とちらりと見えた牙のある口で、口を塞がれた。
あれ、今日はヤらなくていいのかな、とぼんやり思いながらそのキスを白澤はおとなしく受ける。
そしてキス自体もそう長い時間はかからず終わり、
口唇が離れて、今度はこちらから仕掛ける問いかけ。
「性欲と愛情の境目って何だと思う?」
「さあ?」
「うん僕もよくわからない。 でもこれは、間違いなく性欲だよなあ」
だって僕、女の子の方が好きだもんと悪びれず、へらりと笑うと。
「知ってますよ」
短く返されて、また口付けられた。
二度目のキスは、そこそこ長かった。
あれ、今の一言にちょっと嫉妬でもしたのかな鬼灯、と一瞬思ったけれど、まさかね、コイツに限ってそんな、と思い直して、これ以上考えることをやめた。
流されて惑わされるのもまた一興。 その逆もまた、然り。


「・・・・・な、ヤってもいいや。 ヤろうか」
二度のキスだけじゃ足りない。 絶対足りない。
それは誘いかけた白澤に限ったことではなく、とっくに鬼灯もわかっていることだったから。
そのまま寝室にぐいぐい引っ張って雪崩れ込み、
ベッドメイクの完璧に施されたシーツの上、縺れ込む。
普段なら邪魔になるから外すはずの長いピアスも、外す気にならない。
気を付ければ引っかからないし、外す手間と時間さえ割く気にもならず。
「ついでに三角巾もこのまま付けとく? たまには外さずにっていうのも。 お前、そういうのもキライじゃなかったよな?」
「・・・・どちらかといえば靴下履いたまま、の方が好みですけど」
「えっ何ソレ、王道すぎる」
ドSにしちゃ普通すぎるけどいいのかなそれで、と意外に思いながら、
「それじゃ、お前も着物だけ羽織ったままでいろって。 で、僕は三角巾とピアスと、・・・・・・靴下? 装備でってコトで」
「ただの着衣エロじゃないですか」 
「ん。 たまにはイイんじゃん?」
普通のこんなありきたりすぎるシチュエーションもさ、と手と腕とを伸ばして黒髪に触れる。
と、ぼそりと鬼灯が口を開いた。
「どうせなら、求ム、獣姦」
「・・・・は?」
「元の姿に全部戻るのがアレなら、半妖バージョンでもいいので。 求ム、モフモフ」
「イヤだ! なんか物凄いコトになりそうだからそれはイヤだ! 断固却下」
コイツが思いのほか動物好き、というか動物にはやたら甘いことも知っていたけれど、白澤的にもそれはちょっと。 どうなるかわからないし。 どんなコトをされるかだってわかったもんじゃない。
当然にして即答で首を横に振ると、軽く 「チッ」 と舌打ちをされたがそこは譲らない。
それでも、一応フォローだけは入れておく。
「・・・・・まあ。 そのうちな。 僕の気が向いたら」
それが何百年後か何千年後になるのかは、自分だってわからないけれど。























永く永く長ーーーーく生きてきて、なんとなく悟ったこと。


初めての出会いは忘れた。 不仲(と言われるようになった) の切っ掛けならまだよく覚えている。
更に仲の悪さを広める破目になった経緯(・・・・) は、まあ。 だって頭に来たんだし。 そもそもあの程度で怒って根に持つコイツだって悪いと思う。
今更とやかく過去は変えられない。 けれど解釈はし直せる。
宿敵と天敵とを兼ねられる存在なんて、滅多にめぐり合えるものでもないうえ、
あれほど最悪の関係から始まって、ここまで腐れ縁にも似た付き合いが長引いてしまったら、
そしていつの間にかこうやって馴れ合ってしまったのなら、それはそれで構わないし仕方ないし。
幸か不幸か、自分にもコイツにも時間だけはほぼ永遠と同程度、約束されている。




結果オーライ。
今、この現在がそれほど悪くなければいい。 実際、それほど悪くはないから、イイ。
まだまだ夜は長いから、汗と体液とでほんの少しだけ水気を持った前髪を払い、
「・・・・・・もう一回くらい、イケるだろ?」
自分より少しだけ体格のいい、その身体に自ら腰を落とす。
「無理しない方がいいですよ。 ジジイなんだから」
「そんなコト、若造は心配しなくてイイんだよ」




こんなことをしている間にも、いつしか時は進んで同じような朝が来て、
またすぐ数百年、数千年経っていくのだろうけれど。




歳をとるのはもうとっくにやめた。 たぶんお互いに。












デキてる前提。 で頑張ってみましたが、ウチのなので所詮こんなもんです。
次あたりはヤりたいなー、て思ったりしてますが にんともかんとも ニンニン