[ 7分くらいで書いた3分で読める話 ]
「あれ? 桃太郎?」
「お、シロ」
『ちょっと出てきます』 と出かけたままなかなか戻って来ない鬼灯の匂いを辿って、
一匹はるばる桃源郷の入口まで辿り付いたシロの目に映ったのは、
切り株に腰掛けて本を広げながらも、やたらと退屈げに生欠伸の真っ最中だった桃太郎。
「ヒマなの? こんなところで何してるの? 鬼灯様見なかった?」
「ヒマと言えば今はヒマだな。 何してる、って、時間潰しっていうか何ていうか。 鬼灯さんなら極楽満月」
シロの矢継ぎ早の質問攻めに、元飼い主はあくまで淡々と返事をする。
「それって桃太郎のボスのところってこと? でももう行ってから半日以上も経つよ? どうしてなかなか帰って来ないんだろう」
仲悪いはずなのに、そういうとこ不思議だよねえ? と小首を傾げるお供の犬に、桃太郎は 「あー・・・・、まあな」 と苦笑い(?) にも似た微妙なカオをして、
「いろいろあるんだよ。 いろいろ」
そう誤魔化そうとしたのだが。
「? で、どうして桃太郎はこんなところにいるの?」
素朴だが現実的な質問をまたも口にしたシロに。
それはまあ、邪魔になっちゃいけないっていうか邪魔したら報復がオソロシイっていうかゴニョゴニョ、とシロには聞こえないよう口の中だけで呟いたあと、
「巻き込まれたくないしなあ。 やっぱり」
あの二人と違って俺、いろいろ普通だから。 と無難で、ごくごくまっとうな回答。
するとシロは 「そうだねえ。 そうだよねえ」 と素直に頷いた。
それに桃太郎はほっと安堵する。
とりあえず、一応は誤魔化せたらしい。
「で、ケンカは? もう終わりそう?」
「(ケンカじゃないけど ※桃太郎ココロの声) さあな。 俺は、日が暮れたら戻ってきていいって鬼灯さんから言われてるけど」
そうだなもうそろそろ日も暮れるし、と切り株から腰を上げ、
けど念のため、あと30分くらいは時間潰しといたほうが無難か、と考える桃太郎を差し置いて、
「じゃあ行こうよ。 俺も一緒に行くからさ」
さすが犬、咄嗟に桃太郎には追いつけない早さでシロはパッと駆け出していってしまう。
「あっ!! ちょっと待て!!」
慌てて追いかけるのだが、一緒にと言ったくせ、あっという間に先に行ってしまったシロの姿はもう見えなくなっていて、
「まだ真っ最中だったらどうすんだよ・・・・」
万が一にも 『シロ乱入』 なんてことになっても俺のせいじゃないよな、などと青褪めながらも、
ぜーはーぜーはー言いながら桃太郎が律儀に懸命にシロのあとを追って、5分後。
「あ」
「あっ・・・・鬼灯さん」
「あっ桃太郎!!」
曲がり道の向こう、ちょうど見えたのはシロと一緒にこちらにすたすた普段通り歩いてくる黒衣の鬼の姿。 お互いに気付くのもほとんど同時だった。
「すいません、コイツ走って行っちゃって・・・・」
なんで俺、謝ってるんだろうと今更な疑問を抱かないわけではなかったが、この鬼の前で無駄に恐縮してしまうクセというか条件反射はもう治りそうにもない。
と、鬼灯すらも、「どうして貴方が謝るんですか。 貴方もシロさんも何も悪くはないでしょうに」
などと事も無く言ってくる。
「まあ・・・・それはそうですけど」
頷きつつ、自分達を見上げながらぱたぱたと尻尾を振っているシロに。
「良かったなシロ。 鬼灯さんと帰れて」
「うん! ごめんね先に行っちゃって。 あ、桃太郎も早く帰った方がいいよ。 桃太郎のボス、死にそうな顔してたよ」
「は? ・・・・・あ、ああ・・・・そりゃあな」
「あれ? でも、ケガとかはしてなかったよねえ? けどすっごいグッタリしてたよ?」
ねえねえ鬼灯様なんで? どうして? どんなケンカしてたの??? と鬼神を仰ぎ見るシロに、
当の彼は顔色一つ表情ひとつ、眉のひとつも動かさず、
「喧嘩なんてしませんよ。 ただ、あまりにも普段の素行に問題があったので思い知らせてやっただけです。 ・・・・・・往生際が悪かったので鳩尾に数発入れましたけど」
そもそも見える場所に傷なんて付けませんしそんな初歩的な失敗もするわけがありません、
と鬼灯が呟く一方で、聞いているのか聞いていないのかシロはふうん、と頷くだけ頷いて。
黒い鼻先をフンフンうごめかし、クンクンと着流しの裾のあたりの匂いを数回、
嗅いで何を言うかと思えば。
「うーん、でもなんか鬼灯様からあのヒトの匂いがいっぱいするよ?」
「・・・・それは、」
思わず言葉に詰まる鬼灯。 こんな彼、そうそう滅多に見られるものでもない。
が、
あわわわシロお前何言ってんだ何言ってくれちまうんだ、とその上をいって狼狽する桃太郎は、それに気付かない。
しかし。
「ま、いっか。 俺おなかすいちゃったよー。 鬼灯様、早く帰ろ? 帰って一緒に食べよ?」
そこはそれ、アホの子の代名詞(?)、シロの脳みそのちょっぴり具合で事なきを得た。
「そうですね。 ・・・・それじゃ、桃太郎さん。 また」
「あっハイ!」
「じゃあねー。 またねー桃太郎」
「ああ。 またな」
歩き去っていく鬼灯とシロとの背中と尻を見送って、
(シロがアホで良かった。 マジで)
これがルリオとか柿助だったら絶対バレてたよなあ、
けどあの二人・・・・じゃなかった、二匹だったらとっくに察して突っ込まないよなそもそも迎えに来ないよな、あっそうかとっくに察してるからシロと一緒に来なかったのかそうかそうだよな、
と無理矢理そう締めくくり、
(そんじゃ、帰るか・・・・)
鬼灯様があれだけ普通だったんだから、今ならもう白澤様も大丈夫だよなと気を取り直して桃太郎は今の職場兼住居に向かって歩き出した。
日はとっくに、落ちていた。
―――――― その頃、白澤はと言えば桃太郎の予想を大幅に超え気息奄々、
虫の息状態だったとか。
「本当は喧嘩は面倒だから嫌いなんですよ。 ・・・・・・暴力はまあ、時と場合に応じて」 by鬼灯
「最低だよオマエ!!」 by白澤
日常の一コマである。
小話がやりたかっただけであります。
これでも鬼白だと言っていいですか(・・・・)。