[ 15分くらいで書いた5分で読める話 ]







ある日の早朝、白澤がふと目を覚ますと隣で鬼灯が寝ていた。
幻(・・・・) でも見えてるのかと思って何度かまばたきをするけれど消えない。
夢(・・・・) でもまだ見てるんじゃないかとも思って目を擦ってみたりもしたけれど、消えない。
ということはコイツは本物で実物でコレは現実だということで。




「オイ・・・・」




呆れて声をかけてみる。 が、わりと熟睡しているようで、反応はなかった。
どうやって勝手に入って来たんだよ、それより桃タロー君は、
と疑問に思った途端に白澤は、自分で桃太郎を昨日からお使いに出していたことを思い出す。
加えて勝手に入るも何もここは桃源郷、
鍵をかける意味も理由もないから入り口に施錠も何もしたことなどいまだかつて一度もなく、
入ろうと思えば誰でもいつでも入って来られるということに今更ながら気が付いて、
「・・・・・・・・・・」
年寄りは少しだけ思案する。
そうして、ヒトリゴトでぼそり、
「・・・・・・・・・・勝手に入ってくるのは構わないし、添い寝だってしてやらないこともないけどさ」
うーんでも甘やかしすぎかな僕、と胸中舌打ちしたくなりながら、
何はともあれ、鬼灯の気配に気付かなかった自分に頭を抱えたくなって、盛大にタメイキをひとつ。
すると、それが地獄耳(・・・・?) に届いたのか、もそもそ鬼灯が身動いて、
「・・・・・・・・・・・・」
無言のまま、もそりと半身を起こしてこちらをぼんやりと眺めてきた。
「・・・・・・おはよう」
なんだか他にももっと言うべき言葉と台詞があるような気も物凄くするけれど、
とりあえず目が合ったので白澤はそう言ってみる。
当然にして鬼灯からはそのまんま鸚鵡返し、
「おはようございます」
これは予想内だったから、
「どうしていきなり僕の横にいるんだよ?」
本題。 本質題を投げかけてみると、
彼はあっさり。
「ああ、私の部屋の前の廊下が改装中で、うるさくて眠れなかったので」
「だからってこんな夜更けに忍び込んで僕のベッドに入ってくるか普通!?」
もしも女の子がいたらどうするつもりだったんだ、と続けて聞けば、
「そうしたら黙ってそのまま帰ろうかと」
いつもと変わらない表情のまま、そう言われてフクザツな気分になった。
「・・・・・・。 なんだよソレ」
そういうのをただの無駄足っていうんだ、と呟いてみせたら、
「あ。 そんな顔もするんですね」
突然、意外そうにそんなふうに言われた。
「?」
自分が一体どんなカオをしていたのか即座に白澤は掴めず、仕方がないから頭の上にクエスチョンマークを浮かべていると、
「いつも曖昧なうすら笑いばっかりだと思ってましたよ」
なんだコイツ。 喧嘩売ってんのか。 としか思えない発言の連投。
けれどまあこれがいつも通り通常通りの鬼灯だから、改めて今更気にすることもない。
「曖昧、ねえ。 ハッキリ言うよなああ」
「だって事実でしょうに」
「あのなあ。 いくら僕だって、そう四六時中笑ってるワケじゃないからな」
「へえ。 爺さんの頭の中はいつでもお花畑かと思ってましたが」
「ホントに二十四時間ずーっとへらへら笑ってたら、それはココロかアタマに何か問題があるだけなんじゃないか・・・・」
ああくだらない。
夜明け前、いや、ほとんど夜明けと同時に交わす会話なのに、本当にくだらないやり取りしかしていない。
「無いんですか、白澤さんは」
「無い! それよか僕はオマエみたいに四六時中、仏頂面してる方がよっぽど問題アリだと思うね」
「別に仏頂面をしている訳じゃありませんが」
「あーヤダ。 自覚がないってのが一番の問題だし」
あまりのくだらなさに辟易して、嫌味っぽく締めくくってみたのだが、普段なら一言二言、何かしら返ってくるはずの鬼灯からの返答が今日に限って、ない。
というか、先ほどから実は地味に気付いていたのだが、
鬼灯が本日は珍しくも、おとなしい。
なんだまたちょっと疲れてるのか(僕に比べたら) 若いくせに、と推察しつつ、
「まあいいや。 今日一日いるつもりなら、滋養強壮の薬膳でも作ってやろうか。 トッピングで毒盛っちゃうかもしれないけど」
「効くなら本望ですよ」
「・・・・・・・・。 効かなそうだもんなあ。 リアルに」
またくだらない会話。 御年ウン億歳の爺さんと、ここら一帯を取り仕切る輩のする内容だとはとても思えない。
そして白澤はぼんやり思う。




こうやってコイツがほんの少し弱っているときに、ここぞとばかりその細い眼を見据えて、
『どうして僕に執着するんだ?』
なんて言ってやった挙句、
『僕はさ、別にオマエじゃなくても全然イイんだよ。 僕を慕ってくれるのは他にも沢山いるし』
その中の単なる一人って自覚ぐらいあるよなもちろん、と追撃も忘れず、
そうして最後に、
『どれだけオマエと寝たところで、結局最終的に僕が行き着くのは女の子だから』
とダメ押し。
そうしたら、終わるんだろうか。
そうすれば、終わりになるのだろうか。
だけどこんなところで終わらせてしまったら、
これからも続く長い長い長すぎる余生(???)、どう退屈せず面白く過ごしていけばいいのかちょっと思い付かなかったので、やめた。




「毒云々はともかく、どーする? 食べてく? 薬膳」
わざわざ繰り返し訊ねずとも、それと同時に鬼灯がもう一度、「よいしょ」 と布団を被り直したところで返事はわかっていた。
「私はまだ眠いので寝ます。 出来たら起こしてくれれば」
「・・・・・・・・・・・・ワガママ、っていうか自分勝手過ぎるぞ」
「年寄りは朝が早くて羨ましいです」
「誰のせいで目が覚めたと思ってるんだよ」
「知りません。 おやすみ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」




このクソガキ、と思ってこれから作る薬膳に惚れ薬でもぶっ込んでやろうかと一瞬だけ考えたが、
そんなモノ使わなくても最初っからオマエ、僕にベタ惚れだもんなあ、と気付いてやめた。




お子様の面倒をみるのは、大変だ。














久々すぎてリハビリがてら書いてみた鬼白(※コレでも)。
なんだコレ。 て自分でも思います