[『よいツンデレ』 大失敗しました]







『ただのツレ』 の延長上。 というか、
いわゆる 『なし崩し的なモノ』 だと思っていた。
気の迷い、そこそこ長い錯乱状態。 ・・・・・・とまでは行かないものの揃って二人、
少しだけその気になってみたものの実際は他に身の振り方がなかったから、
自然とこうなった。 と理解していた。
だから成り行き任せとはいえまだまだ発展途上状態、
せいぜい 『木吉が隙を見てチュー』 → 『不意打ちくらって呆然後、照れ隠しで怒り狂う眼鏡』
止まりの間柄・関係で停滞していたここ数ヶ月。
別の見方をすれば大した波乱もなく、周囲にそれとバレることも(たぶん) なく、案外平和に平穏に過ごせていた日々。
・・・・・・・・・・・だったのだけれど。






ある日の放課後、部活後。
完全下校時刻の10分前、二人、校門脇に揃って改めてリコに呼び出され、
開口一番、彼女が何を言うかと思ったら。
「二人ともいい加減、ちゃんと名実共にくっついたらどうなの???」
「「!!!??」」
思わず揃って絶句、彼女は一体何をどこまで知っているのか、どこまで何に感付いているのか、
一概にはさっぱりわからなくて、珍しくも揃って二の句が出て来ないでいると、
ふう、と先にリコがタメイキのようなものをついた。
そして続けてもう一度ふうう、と息をついて、
「あのねー? 鉄平も日向君も隠すのヘタすぎるの。 他の部員たちはどうだか知らないけど、私、とっくにわかってたし」
だから今更そんなに驚かれても困るんだけど、特にコッチ。 と、最近少し伸びた髪を揺らし、
先程から絶句状態継続中、の眼鏡を覗き込む。
一方でもう片方、木吉が何を呟くかと思えば、
「お、すごいな、リコ」
リコ相手、誤魔化しても仕方ないと腹をくくったのかそれとも素、でさらりと出た言葉だったのか(※限りなく100%に近く後者である)、鉄心はその名の如く揺るがない。
先程の一瞬の動揺は消え、
「そもそもオレはあんまり隠そうとしてなかったけど」
などと悠長にへらり。
なのでまた戻って一方、立場的(?) 性格的に平穏でいられるはずがないのが日向の方で、
「木吉ーーーー!!!!」
とりあえずお前はもう喋るな、と怒鳴ってみたりもするのだけれど、何しろ相手が相手、タチが悪い。
「え? もう今更遅いだろ。 リコだぞ?」
あっけらかんとする木吉も問題だが、大問題は更にその上、木吉が言うとおり、
よりによって相手が 【VS相田リコ】 である、ということだ。 タチが悪すぎる。
「でも、まだ、しーーーっかりくっついたワケじゃないんでしょ?」
「んー。 まあ」
「やっぱりねー? このところいろいろ忙しかったし。 それは仕方ないわよね」
「時間はないわけじゃなかったんだけどな」
「へえ? そうなの?」
「ああ」
「木吉ーーーーーーーー!!!!!!」
再び日向は怒鳴った。 このまま放っておくと、延々と二人のとんでもない会話が続いてしまいかねない予感というか、危惧の危険性がありすぎる。
しかもリコは特に間違ったことを言っているわけではないし。 推量だとしても憶測としたとしても、当たっているわけだし。
加えて木吉、こちらはタチが悪い、というよりフツウに手に負えなくなりそうな発言をボロボロ零しまくりそうな上、言わずとも良いことまでリコにつられて口にしそうで、
「いいからもう喋るな! オレが話す!」
勢いあまって身の程も弁えず、ずいっとリコと向かい合ってみたのだが。
「で。 時間がないわけじゃなかったんだけど、の続きは? 日向君?」
「うッ・・・・」
ニコニコニコ、と満面の笑みで、しかしとてつもない威圧感を伴って真正面から訊ねてきたリコに、
眼鏡にまで汗を滴らせる勢いで動揺しながらも、日向が詰まると。
「ま、言わずとも大体わかるけどね。 時間はないわけじゃなかったけど、キッカケがなかった、でしょ?」
カントクは、変わらず自信たっぷりに、迷いの欠片も見せず断定してくる。
否定しきるだけの材料がなくて、
「・・・・・・・うッ」
再度詰まる。 すると彼女は一度、すうっと息を軽く吸ってから一息で。
「繰り返す。 二人共いい加減に引っ付け。 横で見ててイライラ・・・・じゃなかった、見てて歯痒くて仕方ないのよアンタたち」
「な・・・・」
「ああ、やっぱりな」
歯に衣着せないリコの言葉に唖然とする眼鏡男子と、さもありなんとばかり頷くその片割れ。
日向としてはナニがやっぱりなんだナニが!! と木吉にツッコミたいものの、下手に突っ込んだらとんでもないヤブヘビになりそうで、突っ込むに突っ込めない。
それを良いことに(?)、カントクはいつも通り腕組みで仁王立つ。
「てことで、幸い明日の練習は午後からだから・・・・今日のうちにハッキリしっかりちゃんと引っ付くこと。 これ、カントク命令よ」
目を爛々と輝かせて君臨(???) する、名実ともに部内最高独裁・・・・・否否、最高権力者の命令。
「!!!!」
「うわー・・・・」
二の句どころか三の句、四の句まで告げられない野郎二人に追い討ちをかけるかのよう、
校舎のほうから、完全下校時刻のチャイムが鳴った。



























『ちゃーんと成立したかどうか、明日私が見れば一目瞭然なんだからね。 テキトーに誤魔化したりしないでよね』
などと言い残し、あの後リコはぱたぱたと走って帰って行った。
取り残された二人も、いつまでも校門付近に佇んで呆然としていられるわけもなく、
のろのろと連れ立って歩き出す。
「・・・・どーすんだよ」
口火を切ったのは日向の方で、それに木吉は 「んー、」 と少しばかり、考えてから。
「リコに言われたら、言うこと聞くしかないだろうな」
「・・・・・・・・・・・・マジかよ」
「逆らう勇気、あるか」
「・・・・・・・・・・・・ねーな」
「だろう」
なんたって、ヒエラルキーの頂点に立つ相手なのだ。 絶対、いろんなイミで勝てやしない。
どーすんだよ、ともう一度日向がぼやいたところで、「お、自販機」 とそこで木吉が足を止めた。
ポケットから小銭を探って取り出して一本、ジュースを買うと。
ピー♪、ともう一本当たった音がして、『おめでとうございますもう一本どうぞ、三十秒以内に選んでください』 という内容の機械声。
「当たった。 日向にやるよ。 スキなの選べって」
三十秒以内だぞ、と念を押す。 すると日向は心もち焦った様子で(ナゼ?)、
「んじゃ遠慮なく。  あー、・・・・コレでイイ」
自販機のボタンのひとつを押した。
何を選んだのかと思えば、取り出し口に落ちたのは、缶コーヒーのシェア率トップメーカーの、
売れ筋ナンバーワンの銘柄で。
それを見て、つい木吉が、
「わりと平凡だなあ。 冒険するかと思ったのに」
ココに 『ミルクプリンキャラメルシェイクナタデココ入りヨーグルト風味ドリンク』 っていうのもあったのに、などと告げると。
平凡結構、それが一番無難だろうがと日向は答えて続ける。
「オレは元々、石橋を叩きまくる派なんだよ」
「叩きまくって、壊す?」
「壊さねーよ!!」
木吉のボケにももうとっくのとっくに慣れた。 それでも一応突っ込みを入れてしまうのは、もう役割としか言いようがなく。
「んー・・・・。 日向の場合、叩きすぎて壊してしばらく考え込んだ挙句、川に飛び込んでじゃぶじゃぶ歩くか泳ぐかして越える派だろう」
「それはお前だろうが」
「・・・・・・・・そうか?」
「そーだよ」
断定して日向は缶コーヒーのプルを開け、一口飲む。
それをきっかけに、またゆっくり歩き出してちょうど十歩目。
はたり、とどちらからともなく足を止めた。
偶然なのか、不思議なことにこの通り、この道を通る車も人影も、今だけはひとつも無く。
もうすぐ何かが、
決定的なデキゴトが、二人の間に起こる予兆。
そろそろ本格的に暮れようとする陽の中、予兆を一瞬のものだけにする決定的なヒトコト。




「「なんとかなるだろ」」




まったく同じ言葉を、まったく同じタイミングで口にして、
揃ってがしがしと頭をかいた。




「・・・・で。 今からでイイのかよ」
別段、ずれてもいないのに眼鏡の位置を直す仕種で若干、照れ隠しにそっぽを向きながら日向が確認すると。
木吉は真っ直ぐ正面を向きながら、も。
「今から。 で。 オレの。 うちの。 部屋なら。 何とか。 空いてる、し。 ばあちゃんたち、一昨日から明日まで旅行。 行ってる。 から。 夜まで、でも」
「カタコトになるな!!」
「・・・・・・・・・・・・緊張。 してるんだ、ガチガチに」
「ヤベえ・・・・果てしなく心配になってきた・・・・」
本心から日向は青褪める。
だって木吉がこれほど緊張することなんて、試合の前でも最中でも今まで一度も、見たことが無い。



























「先に言っとく。 オレは基本、マグロでいるからな。 ヤられ方なんてわかんねーし。 オマエが何とかしろよ」
とりあえず部活後、ともいうことで、汗だけ風呂にて順番にさらりと流してきた直後。
眼鏡を外した日向に宣言され、
「なんでそんなエラそうなんだ・・・・?」
純粋に木吉は呆気に取られ、ああもしかして照れ隠しなのか、と珍しくも聡く気がついて、それでも一応。
「なるべく痛くないようには努力するけどな」
こう、言ったのに。
「嘘つけ」
「え? なんで?」
即座に嘘吐き呼ばわり。 真顔で聞き返してしまった。 だっていくら何でもヒドイ。
「痛くねえワケねーだろ」
なのに眼鏡を外した眼鏡男子も真顔で続けてくる。
「注射だって、痛くねーよとかよく言うけど、全然痛くねえ注射なんて絶対ねーし」
「それとコレとは違うんじゃないか・・・・・。 ン? ・・・・・・似たようなものか???」
「ソコは口に出すところじゃねえだろうが!!」
「先に言ったのは日向だけど」
「うるせえうるせえ黙れ」
「・・・・・・・・・・・・・カワイイなあ」
「!!」
絶句する主将に向けて、木吉はへらりと笑う。
すると日向は、
「カワイイとかカワイクねーとか、わかんねーよ」
視線を落としてぼそっ、と。 そして続けて、
「そもそも、オトコのカラダに興奮すんのか、ってところから始まるとだな・・・・・、」
混乱? を隠したいがための言なのか、それともすでに混乱状態での言なのか、何か四の五の続けてきそうだったから。 ここは木吉、素直に正直に。
「もう、してる」
「!!!!!!!!」
落とした視線ながらも、木吉の言葉に日向は反射的に目線を向けてしまって、すでにそこそこ準備万端(・・・・) 態勢(・・・・) の彼の下肢に、絶句に絶句。
そんな反応をされてしまうと、木吉としても 「うわあ」 と思わざるを得なくて、
「・・・・・・いざって時にたたないよりマシだろう。 と、思うんだが」
苦しすぎる言い訳をしてみたら。
べしっ。
無言で軽く殴られた。 注射と違って、痛くはなかった。






















シーツの上、縺れながら組み敷く。
と、日向は今更何を気にするのか、「・・・・留守番中にこんなコトしてていいのか」 などと言ってきた。
「留守番。 は、偶然。 だけど。 な」
いいんじゃ。 ないか。 必然。 てコトで。 と木吉は答える。
「また微妙にカタコトになってんだけど・・・・・」
「気にしないでくれ」
「どうしたって気になっちまうだろうが!」
このまま任せて本当に大丈夫なんだろうな、と日向が一旦身を起こそうとするのを、力ずくで肩をシーツに押し付けて遮った。
「じゃあ、させないように励むよ」
言ってふっと木吉が真顔になると、「・・・・・・、」 どう受け取ったのか日向はふいっと視線を背けた。
なんていうかこう、普段眼鏡姿ばかりを見ているからかもしれないのだが、
改めて外した表情を眺めやると、何だか普段より妙に幼く見えて、どうしたって木吉的には目尻が下がってしまう。 
それを悟られる前に、視線を戻される前に、はだけさせたシャツを剥ぎ取って胸元に手のひらを這わせると、僅かに反応した。
「あったかいな」
「何、んな・・・・・っ・・、」
コト言ってんだ、とまた怒られる前に、向かって右の乳首をくいっと摘まむと途端に日向は喉をつまらせた。
余程のことがない限り、そんなところを他人に弄られることなどないから反応してしまうのは当然なのかもしれないけれど、木吉の本能が見るに、彼はとりわけココが敏感らしい。
だったら、とそれにころころと指先で刺激を与え続けながら、もう片側には顔を寄せてぱくりと口に含んでみる。
「ッッ!!」
途端、触れている肌が粟立った。 どれだけ弱いかよく判る。
最初は柔らかかった肉粒が、口の中ですぐに硬くしこり、ころころ転がせるようになると、
木吉は夢中でそれに吸い付いて味わった。
「・・・・・ン・・・!」
頭上から、日向の無理に押し殺した声。
口許に手を当てているらしく、くぐもっている。 それでも構わず舐め続けていると、
「も、離せ・・・・ッ」
ぐい、と頭を小突かれた。 またもちっとも痛くない力加減だったけれど。
「何? もういいのか」
「イイも悪いも、・・・・ッ・・・、っ!!?」
今にも 「やっぱりやめだ! 帰る!!」 とか言い出してしまいそうな日向の剣幕に、
ここまで来てしまったら是が非でも木吉はそんなパターンに陥ってしまうのを阻止したくて、
とりあえずその口を閉じさせようと、口内の肉粒をきゅうっと強く吸った。 と、日向はかろうじて声は上げなかったものの、喉を仰け反らせて小さく震えた。 何とか、成功。
そのまま、胸にあった片手を下方に滑らせて脇腹、続けて腰骨のあたりを撫でていくと、くすぐったいのか軽く身を捩る。
「細いなあ、日向」
ココロに思ったことを、木吉がつい口に出してしまうと。
「・・・・・・別に細くねえよ、お前の手がでかいだけだろうが」
なんて、まあ 『普通』 の会話的返事に、「あ、そうかもな」 とこれまた普通に頷いて、それから。
「日向、」
「あ? ・・・・・、」
今は眼鏡が無いからキスも簡単だ。 ぶつける心配も何もない。 だから深く吸った。
吸って粘膜同士が触れる貪るキスに没頭しながらも、彼の下半身の衣類に無造作に手にかけ、剥ぎ取ってから続けて自分も同じように脱ぐ。
その行為に日向が意識を取られないよう、その間は息継ぎさえもさせないで。
「・・・っ、は・・・・」
長いキスからようやく口唇を解放すると、木吉は一度顔と上半身を上げ、改めて眼下の何も身につけていない状態での日向を見おろす。 そして。
「うわ」
思わず、感嘆が漏れてしまった。 これはいろんなイミで、マズイしヤバイ。
だってカワイイ。 繰り返すがカワイイ。
眼鏡不装備の素顔も、
軽くとはいえ湯上り直後で、ほんのり湿り気を帯びて普段より少しだけ長めに見える前髪も、
どうしても気恥ずかしいのか、逸らしたままでずっとふいっと横に流されてしまう視線の行方も。
ゴク、と唾を飲み込んで自分の喉が大きく鳴ったのをきっかけに、
「ッ!? 、ちょ・・・待て・・・・ッッ!」
日向の制止も聞かず、木吉は力任せに彼の脚を大きく割り開く。
突然のことに、慌てて日向は抵抗するけれど、膝を強く押さえられてしまい、体勢的にどうしたって木吉が有利で。
「ふっ・・・・ざけんな離せ!」
「離したら何にもできなくなるだろう」
「そういう問題じゃねえ! 〜〜〜〜〜んな、まじまじ見んな・・・・!!」
そう言われても、視線を外すことはできなかった。
合宿での風呂もあるし、裸を見るのが何もコレが初めてというわけではなかったけれど、
今は状況が違う。
だから露わになった中心部をじっと見つめていると、
「見んなダァホ!!」
もう一度怒鳴られた。 本気で怒っている、というより本気で羞恥が先に立つのだろう。
その顔は紅潮していて、たぶんそう、出来ることなら、いつもの木吉なら、「ああゴメン」 と謝って、日向の言うとおりにしたのだろうと思う。
でも今は状況が違う。 違いすぎる。 それゆえ。
「嫌だ。 全部見たい」
「なッ・・・・!!」
絶句する日向に本格的に抵抗されてしまう前に、先手を取って木吉は脚の間に上半身を割り込ませる。
体重をかけて日向の身体が逃げられないようにしてから、手のひらですでに緩く熱を持ち始めていた彼自信をやんわりと包み込んだ。
「ん・・・・っ・・・」
軽く握ってやっただけで、腰が身じろぐ。 離さずゆるゆると手を上下させてみると、声にならない荒い息が彼の口から零れた。
「・・・っ、く・・・・・」
快楽を堪えているのか、いざなってみても耐える声しか聞けない。
それでも木吉の手の中の肉棒は摺るたび質量を増し、先端から滲み出てきた透明なものをくるくると塗り込めるように弄ると、彼は小さく喉を詰まらせた。
「ああ、大きくなってきてるな」
「〜〜〜〜!! んな、・・・・ッ・・・・!」
改めて改めて、分かりきったことを今更楽しげに口にする木吉に日向は文句を連発しようと思っていたのだろうが、偶然? にも先手を打つかたちで先端部を揉まれ、慌てて口を抑えたため次の言葉が出てこなくなってしまう。
でも木吉としてはせっかくなんだし、こういう時ぐらいにしか聞けない声だってしっかり聞いてみたい。
だから、肉棒に絡み付かせた指はきっちり動かしつつ、ひょいっと日向の顔を覗き込む。
こんなとき、上背がそこそこ高いというのは格段に便利だ。 苦労せずに苦も無く真上から真正面から、顔のすぐ近くまで近づける。
「我慢しなくてイイし」
「・・・・・・・・、」
まあ当然というかご覧の通りというか、日向から返事はかえって来ない。 それどころか、今度は視線だけじゃなく顔までぐいっと背けられてしまった。 その子供っぽさについつい苦笑。
「怒らないでくれよ」
「あ? ・・・・、待・・・て・・・・ッ・・・・!!」
にっこり笑って日向の制止も聞かず、木吉は今度は手のひら全体を用いて、肉棒そのものをぐいぐいと強く揉み上げるように扱き出す。
一気に激しさを増した愛撫に、日向の手がそれを止めようと重ねられてくるけれど、もう遅い。
木吉はしっかり彼自身を捉え込んでしまっているし、そもそもこんな状態で、その手にも腕にも力が全然入っていない。
「や、め・・・・ッ!!」
それを良いことに、言葉だけの制止を聞こえなかったフリでスルーして、捉えた片手での動きを今度はゆっくりと優しいものに変え、丁寧にさする。
変化する性感に気付けば彼自身はとっくにそそり勃っていて、
先端からはつうっと透明な蜜が溢れて茎を伝って落ちた。
温かなそれが自分の手を濡らすのを見て、木吉は片手は決して止めないまま、もう片方の手で先走りの蜜を零す先端の孔を指先で擽ってみる。 と。
「うァ・・・・!っ・・・あ、あ!」
初めて、はっきりそれと分かる甘さを含んだ、でも悲鳴にも似た声が聞けた。
「お?」
「・・・・っ・・・、やめ・・・、っ・・・ン・・・・!」
そう言われて首を振られても、違うってカオじゃないし、やめられないし。
先端部分を繰り返し指先で擽り続けると、孔がくぷりと大量の蜜を溢れさせた。
彼自身が零す体液で、すでに木吉の手も滴り落ちるほど濡れ、肉棒を擦り上げてやるたびに濡れた音が互いの鼓膜に届く。
「こんな、なるんだな」
「馬ッ・・・・鹿・・・・! 言う、かよフツウ・・・・!!」
木吉の呟きに、たまらず日向が罵声を飛ばす。
確かに正直に感想を漏らしてしまった自分にも非がないとは言えないけれど、
こんな行為の最中のセリフ一つにいちいち過敏に真面目に反応してくる日向もどうなんだろう、と木吉は頭の片隅で思いながらも。
「でも本心だからなあ」
「!!」
こんな状況、こんな状態(・・・・) でなければキシャー!! と音を立ててその短髪を逆立てた日向に思いっきり引っかかれていたかもしれない、というほど阿呆な・・・・否否、朴訥な返答をしつつ、
五の句あたりまでも続かなくなった日向を眺めれば、その身体は全身からうっすら汗をかいていて、
加えて目許も何だかほんの少し赤い。 簡単に訳せば 「カワイイ」。
反対に木吉の手の中で濃く色付いて膨れたそこだけは卑猥で、より手の動きを早めて愛撫刺激を送り続ければ、
「は・・・・っ・・・」
小さく日向の腰が震える。 
本当に苦しいわけではないのだろうが、眉根を寄せて、堪える姿にたまらず唾を飲み込んだ。
そうして手の内の彼自身がぴくぴく戦慄き出し、腰が再び震えた。
「・・・・・・ぅ・・・・ッ」
たぶん誰も見たことのない、絶頂の予兆に怯むカオ。
「イくか?」
「っは、・・・・ぅあ・・・・ッ・・・」
シーツの上、日向の爪先がぐっと丸まる。 大きく震え出す膝頭。 絶頂は目の前だ。
木吉は真っ直ぐ彼を絶頂に誘おうと、後ろの珠を包み込むよう、やんわりと揉み上げる。
「ッ!! あ、う・・・・ッッ!!」
今にも弾けそうな性器は、そこを揉みしだくたびにびくびく戦慄く。
途切れることなく滲みで続けていた蜜は、すでに白いものが混ざり始めていて、
なのに唇を噛み締め、堪えようとするかのような日向に。
「出せって」
「――――――ッッ・・・・!!」
短く告げ、木吉が搾り出すよう一際大きく彼の肉棒を根元から扱き上げれば。
声も出せず軽く仰け反って、日向は白濁を勢いよく吐き出した。




「・・・・は、・・・・っ・・・」
荒い息の最後に、つい零れてしまった声に気付き、「大丈夫か?」 と木吉が訊ねると。
「・・・・正直、スキかどうかもまだわかんねーからな。オマエのコト」
こんなところで何をいきなり、の日向のあんまりにもあんまりな(・・・・) 台詞で迎え撃たれてしまう。
「それはちょっと・・・・意地悪すぎやしないか・・・・?」
「ホンネだ」
ぼそりと呟かれた言葉に苦笑う。
「んー・・・・。 スキじゃなかったら、こんなコトさせないよなってオレは思ってるけど」
だって日向だし、と木吉的には何一つダメージを受けない鉄のココロで受け止め、
「ちなみにオレは大好きだからな」
自分はあっけらかんと告げておいて、それから。
日向の力の抜けている両膝にまたも手をかけ、再び左右に開き割った。
そうして、つい先刻達したばかりで濡れた肉棒を再度握りこむ。
「ぅあ・・・・!」
がくり、と日向の腰から力が抜ける。
続けざまに木吉がそこにカオを落とそうとすると、
「!!? バカヤロウやめろバカ!!」
バカ&バカ、と二度もワンセンテンスの中で言われてしまった。
「やめない」
身を激しく捩られても、有利性は断然、木吉の方にあって。
退こうとする腰を強引に留め、濡れて力を無くしているそこに顔を落とし、指を使ってぱくりと彼自身を口内に含んだ。
「ン・・・・っ!」
ビクッ、と日向の身体が震える。
一度達したばかりで、かなり過敏になっているらしいが、手は緩めない。
先端部を軽く吸ってみたり、舌先で撫でてやると、次第に腰が揺らぎ出した。
「お、まだかなり元気だな」
「クソバカ・・・・ッ!!」
ぎりっと睨み付けられて、三度目のバカ呼ばわり。 しかも今度は 『クソ』 なんて単語までついた。
けれどでも全然怖くない。
逆に俄然やる気に火が付いて、木吉は音を立てて口腔の粘膜を使い、肉棒を深くまで包んで扱き上げる愛撫に移行する。
と、一旦達して萎えていたはずのそこが、直接的な刺激を受けてまたも熱を孕み始めた。
みるみるうちに括れたところから膨らみを見せ、
「ッあ! う、あ・・・・!」
そこから上を丁寧に舐め上げてやれば、たまらず手が伸びてきて、木吉の頭をそこからどかそうと、
もしくは止めさせようとするのだけれど。
当然、離すなんてこれっぽっちもないから、構わずそこを徹底的に弄り倒す。
なかば木吉も、初めて施す口淫に夢中になりかけていて、
「・・・・っ、ぅ・・・っ、・・・・〜〜〜〜ッッ・・・っ・・・・」
舌で裏筋を数回、擦りながら、手を使って逆側を刺激していく。
時間をかけて、日向の弱いところを少しずつ知って覚えながら、括れの部分や孔を丁寧に愛撫した。
一瞬、ちらりと窺い見たその表情は、限界まで顔を背けられてしまっているためほとんど見えなかったけれど、仰け反った喉が震えている。 他人に施される容赦のない快感に、耐え切れないのか。
「木・・・吉、や、め・・・・ッ・・・」
夢中になった木吉は、返事なんてしないまま、さらに激しく音を立てて唇と舌とで扱き上げていく。
気付けば脚ががくがくと揺れて震えていて、その隙に、
「・・・・ココも、な?」
いずれ拡げなければならない箇所、奥まったところへそうっと指を滑り込ませ、軽く触れてみた。
「ンっ・・・!」
途端、触れられたことのないところへの刺激に、敏感に腰が浮き上がり、咄嗟に木吉は指を戻して、
まだ今は純粋な快感のみを与え続けることに決めた。 だってまだ少し早い。
「ふ、・・・・あ・・・・っ・・・!」
舌でゆっくり、ゆっくり亀頭を舐め回せば、ビクンと日向の背中が反り返る。
味わうように、脈打つそこをどこもかしこも口で愛してやると、往生際が悪いのか、それとも反射的になのか、まだ逃げ打つ腰。
「日向」
「んく・・・・っ・・・」
名前を呼んで、じんわりとゆっくり手のひらも使って全体を包み込みながら、先端部を弄る。
途端にまた膝が小さく跳ねたけれど、構わずくい、と指の腹で孔を押し潰すようにしてみれば、
「やめッ、・・・・や、めろって・・・・っ・・・!!」
弱いところをいじられる、切羽詰まった声。 それでも聞かずに今度は口で咥え、
尖らせた舌先で蜜の零れるそこをくちゅくちゅ掻きまわす。
「ッッ!! ・・・・も、マジ・・・・で、やめ・・・・・ッッ!」
本気で制止されても、ここでやめたらオトコが廃るだろう、などと訳のわからない思いが木吉にはあって、
「離・・・・ッッ・・・・・、また・・・・っ・・・!」
イく、と言外に訴えてきた日向がかたかたと身体全体を震わせたけれど、自ら与えた愛撫刺激で今にも弾けそうだったその吐精を、木吉はすかさず根元をきつく抑えて遮った。
「何・・・・ッ・・・!」
しやがる馬鹿センター、とやたら口の悪い主将に、
「続けてあんまり早くイくのもつまらないだろうと思って」
「つまるもつまらねえもねえよッ!」
「いや、オレの方が」
「〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!」
にっこり本音で答えて、絶句した日向の今にも弾けそうな中心部を戒めたまま、またそこに口を落とした。
弱いと分かった括れを舐め回し、茎の部分はゆっくり撫で上げ、指も使って全体を擦っていく。
上から下までたっぷりと時間をかけて施すたび、そこはびくびく戦慄いて限界を訴えてくる。
「離・・・せッ・・・」
「キツイか?」
「っ・・・・・言わせ、んなッ・・・・!!」
吐精を遮られたまま、濃厚な愛撫を何度も何度も受けて木吉の意外なしつこさ(・・・・) に、日向はまるで子供のようにがなる。
それでも塞き止められたままの中心部は堪えきれずに少しずつ溢れ出てくる蜜液にくるまれ、
充血して色濃く天を向いていて、そのギャップがこれまた新鮮で。
流石に木吉の方も我慢がつらくなってきているのだが、もう少しだけ。
「あと少し」
「う・・・あ・・・・!」
ぴくぴく戦慄く先端部に、唇を落とす。 ちゅ、と悪戯するように軽く軽く触れてつついて、
先走りのものと唇との間で長く短く、ねばつく細い糸が引かれるのを愉しんで日向を焦らした。
「ッ・・・は、早くし、ろ・・・・って・・・!」
「んー・・・・」
眉根を寄せられて急かされ、木吉の息もそこそこ荒くて、危うく誘惑に負けそうになったけれど、あと、ほんの少し。
今のうち完璧に日向の腰を砕いて蕩かしておかないと、そのあと、終わったあとが後々怖い。
物凄く怖い。 下手に中途半端な状態で終えて、情事のあとに普段の通常モードに戻られて、
そのあとメチャクチャ怒られるのは勘弁だ。
だったらと今はとことんラン&ガンで行けるところまで。
「ん・・・・、ン、っっ・・・・」
つ・・・、と指先で茎を撫でると、詰まった声で身体を震わせる。
木吉の手も指ももう体液でしとどに濡れていて、日向自身と同じくらい熱い。
ときどき苦しげに蠢く先端の孔に、そっと指の腹で触れると、
「うあ! あ・・・・ッ、う・・・・!!」
身体の中で燻った性感のやり場がなくて、たまらないのか掠れた喘ぎが聞けた。
「木吉・・・・ッ・・・・!」
「ん?」
言うことを聞いてやらず、構わずにくいくいと二本の指で揉んでみると、日向は背筋を大きく仰け反らせて腰ごと身体ごと退こうとする。
けれどそれを見越したタイミングで、咥えた先端部の括れに軽く歯を立てた。
「ひッ・・・・!!」
鋭い快感と、なのに達することの出来ない優しい苦痛。
喉を震わせた日向の手が、きつくシーツを掴む。
それでも手と唇と舌の動きは止めずに、時折やんわりと歯も使って攻め込むと、もう限界まで膨れたそこが断続的に痙攣をはじめた。
「も、・・・・っ・・・・、もう、ホントに、離・・・・っ・・・・」
声もかすかに震えていて、どれだけ我慢を強いられているのか想像に難くない。
「ん・・・・。 くぱくぱだな」
「何、言ッ・・・・・ひぁっ・・・!? っっ・・・・!!」
切なげに開閉する孔を舌先でぐりぐり抉られ、腰が跳ねる。
その様子に、ようやく木吉も不規則に痙攣する腰を見て、解放させる気になった。
ゆっくりと戒めていた指を放し、その放した指で根元から茎の部分を一気に擦り上げてやると同時、
口中に含んだ先端部をきつく、吸い上げてやった。
「――――ッッ・・・・! 、う・・・・、ッう・・・っ・・・・」
と一瞬、身体をビクンと硬直させてから、即座に日向は口中で達した。
口腔内で吐き出されていく精を、大して顔色も変えず木吉はゴクリと飲み込んで。
「・・・・・っと、日向?」
顔を上げ、た、 途端。


どげしっ。


「いて・・・・ッ」
「ざっ・・・・ざけんなクソ馬鹿ッッ!!!!」
ぜーはー、ぜー、とまだ全然呼吸も整っていない中、真っ赤なカオをした日向に蹴られた。
今度は少し、痛かった。
・・・・・・・・・・自業自得か。








態勢をうつ伏せにさせ、そして腰を自分の方に向けさせる。
「ガマンできなかったら、ちゃんと言ってくれ」
「・・・・・・・・どっちかっつったら今すぐ言いてえ」
ぼそりと本音? らしき呟きで返されてしまって、
「それは・・・・少し困る」
真顔で答えながらも、木吉は指先を奥まった部分に持っていく。
その箇所に軽く触れてみると、瞬間的に日向はその背中をビクッと震えさせた。
指自体は、先程の行為のときから充分に潤っている。 それでも木吉は一応確かめてから、
なるべくあまり痛みを与えないように留意しつつ中指を一本、ゆっくりと埋め込もうとしてみた。
「・・・く・・・・・」
「痛いか」
「あ、たり前だろうがよ・・・・!」
言われて侵入をそこでストップさせる。
確かに狭い。 爪のあたりまでで止まってしまい、第一関節までもが全然入らない。
何とか埋め込んだ指先に感じる温かさと圧迫の度合いが半端じゃない。
カオは見えないけれど、日向が呻くのも無理は無いと納得する狭さで、
だからこそ、内部の締め付けはどれほどのものかも想像に難くなく。
「緩めるのは・・・・」
「出来るか・・・・っ・・・」
いきなりんな器用なコトやらせんなボケ、と日向はまたまたまたまたしても罵倒する。
そもそも全てが初めての状態なのだ。
当然にして他人の手で達かされたことだってさっきが初めてで、だからこんな状態で、そんなところの力の抜き方だってわかるはずがない。 自分の身体ながらも、普段そうそうお目にかかる箇所でもないのに。
しかし木吉の指は引き抜かれず、痺れに似た痛みを伴いつつもほんの少し、進んでくる。
「・・・・ッ・・」
最初から無傷で受け入れられるはずもないことを互いにわかっていながらも、
なるべくなら、痛みは最小限に抑えたくて。
けれど二度ほど達している日向はともかく、あるイミずっと辛抱状態(・・・・) でいる木吉の息も、ここまでくるとかなり荒い。
「く・・・・」
やっと第一関節まで埋まった。 内側の、やわらかい粘膜を擦られる異物感に日向が苦しげな息を漏らす。 どうしたって快楽なんか見出せていない。
それでも、ゆっくり、ゆっくりと内壁を労わるように丁寧にほぐし、さすって。
そうしていくうち、僅かにやわらかくなっていく箇所を木吉は見逃さない。
そこを中心として、何とか中指を根元まで埋め込むことに成功した。
とりあえず今のところ出血はさせていないことを感触で確認して、あくまでも最初に比べて僅かだが、きつさの弱まってきていた入口に、今度は人差し指を添えてみる。
「な・・・・、待、て・・・・ッ・・・」
と、焦ったように制止が入った。
「ん・・・・? 苦しい?」
「・・・・・・そこ、までじゃ、ねえ・・・・けど・・・・」
追加されるにはまだ早い、と言外に伝えようとする日向の声が掠れ、震えている。
普段は絶対に聞いたことのない、何があっても聞けない彼の怯んだ様子と口調に、木吉の心臓は否が応にもドクンと跳ねてしまう。
だけれどあともうちょっと、辛抱しないと。(※お互いに)
「なら、も少し・・・・」
埋まった中指の横からねじ込むよう、人差し指を加える。 と。
「ッ、くぅ・・・・!」
今度こそ苦しげに上がる声。
シーツについた膝が小さく痙攣している。 力を抜くにも抜けないのだろう。
ぎゅう、と爪が白くなるほど日向は枕を掴んで、
「木、吉・・・・一旦、抜・・け・・・・ッ・・・」
痛みと苦しさにそう、言ったのに。
ずっと堪えていた木吉が突如名前を呼ばれて、しかもこんな濡れた声で。 あの日向に。 この日向に。 お願いされるような声で(もしかしたらそれは幻聴に近い木吉の願望が齎した成分だったのかもしれないけれど)。
堪えきれるはずもなかった。 突き動かされた欲動のまま。
確かに言われたとおりにずるりと指を引き抜いて、力技で日向の体勢を変えて今度はこちらを向かせる。
間髪いれず、気付けばずっと猛っていた自身を真正面から押し当て、
「――― ッッ!!?」
あまりの突然の木吉の動きに日向が混乱しかけるのも構わず、勢いのまま一挙に自らを埋め込んだ。
「うァッ、あーーッッ・・・・!!」
「・・・・っ、く」
乱暴に突き入れられ、衝撃と痛みに日向の身体が突っ張る。
同時に木吉も痛いほど中で締め付けられ、吐息が漏れた。
「・・・は、・・っ・・・っ・・・」
「・・・・つ・・・ぅッ・・・」
浅く短い呼吸の中、挿入の余韻に日向の口から呻きが上がる。
そうしてじわり、と結合部分に広がる温かく濡れた感触。 手で触れるとぬるり、とした。 あえて見なくともわかる。 随分と出血させてしまったらしい。
「・・・・悪い、大丈夫・・・か?」
今になって、いくら何でも性急すぎたことに気付いたけれど、全てが遅い。
「ん・・・・なワケねえだろッ!! いきなり、すぎんだよ・・・・ッ!!」
怒られた。(こんな状態で)
怒鳴られた。 本気で。(こんな体勢で)
「オマ、エ、冗談・・・・じゃ、ねえって・・・の・・・・!」
鈍く感じる奥の鈍痛と、びりびりと鋭い入口の痛みを日向は何とかどこかへやり逃そうと、首を横に振る。
そんな様子に、心配になって木吉が、
「・・・・抜く?」
こう訊ねると、
「そしたらまたやり直しになるだろうが!! 〜〜〜〜〜オレのこの努力をムダにすんな!!」
今度は怒鳴る・・・・どころか、ワンブレスで声を振り絞られた。(さすが日向)
憤っても、やめるとは口にしない日向に木吉はほっと息をついて、
「・・・・じゃあ、このまま」
少し、待って多少なりとも馴染むまで動きを止める。
相変わらず自らの熱は抑えがたく、すぐにでも思うままに貪りたかったけれど、
いくら何でもこれ以上日向の傷を拡げたくないし、出血だって増やしたくない。
それくらいの分別は、まだ付く。 どうしたって負担がかかっているのは彼の方なのだから。
「・・・・熱い」
思わず声が漏れた。 じっと動かなくとも、日向の中は想像通り熱くて狭くて、時折ひくひく蠕動していて。
それはそこまで大きな快楽でなくとも、ただ内側にいるだけで少しずつ確実に木吉を煽った。
「う・・・・」
受け入れる木吉自身が明らかに質量を増したのを感じ、つらそうに日向が息を吐く。
ふとその拍子に、意せず木吉が僅かに身動いてしまうと、
「い、・・・つっ・・・・」
明らかな苦痛の声が上がった。
それでも、懸命に力を抜こうとしているのだろう。 はー、はー、と忙しない呼吸に、たまらなくなって木吉は、これ以上痛みを与えないよう、細心の注意を払いながら、日向の顔を覗き込む。
「まだ、しんどい・・・か・・・?」
その問いかけに、眉根を寄せながらも日向は。
「お前、だって我慢の限界、超えてんだろ・・・が・・・・」
埋め込まれた身体の中で、木吉が脈打って膨れているのがわかる。
それはこの状態、こんなになっていて、夢中になって動かないでいられる方が信じられないくらいで。
だから、
「・・・・も、ココまで来たら一緒だろうが。 ・・・・動け」
言葉だけ聞けばどこかふて腐れたかのよう、
だけど実際耳にした木吉的には全然違って、
「・・・・日向?」
「スキにしろって言ってんだよ」
投げやりとも思える台詞だが、その声は掠れ気味ではあるけれど、トゲはなくて。
ふにゃり、と木吉の頬が緩む。
「やっぱり優しいな。 日向は」
「・・・・・・・・・・・・・・・うるせえ」
「すまん」
うるさいと言われてしまい、短く一言謝ってから木吉は意識を切り替えた。
痛みで勢いをなくしている日向自身に手を添え、宥めるようにやんわりと揉み込む。
「・・・・っ・・・ふ・・・・」
純粋な快感に、即座に反応する身体に連動して、内壁が蠢いて中の木吉に絡み付いた。
「ッ、く・・・・」
いきり立つ自身を淫らに締め付けられ、木吉の息があがる。
このまま、乱暴に腰を使いたくて仕方がないのを懸命に抑えて、そのまま軽く先端で日向の奥を突いた。
「ン・・・・っ・・・!」
と、腰が小さく跳ね、手の内の彼自身もヒクンと脈打つ。
もしかしたらココか、と思い当たる箇所があって、確認するようにまた同じところを今度は小刻みに突付いてみると、
「・・・・っ・・・!!」
噛み殺した声と、内壁が切なくきゅうっと締まった。
それで前立腺の位置と、今、日向が感じている感覚が痛み一辺倒ではなく、快楽も混ざっていると理解して、木吉は自らを一度際まで引き抜き、その過程で粘膜を擦り上げる。
「う・・・・っ・・・」
感覚に、疼く腰を片手で固定して、ギリギリまで引き抜いた自らを今度はぐぐ、と奥まで再び埋めた。
繰り返しても、なんとかそれほどの苦痛はないようで、
その証拠に次第に蕩け始めるその内部は、徐々にではあるけれど木吉自身を奥まで誘う動きをはじめ、それに逆らわず木吉は先程の箇所、日向の前立腺をぐりぐりと先端を使って擦り上げた。
「ッひ、!!」
萎えていた手元の肉棒が、途端に芯を持つ。
内壁もますます柔らかさを増し、弾力を持って木吉を包み込み、刺激を加えてくる。
ここまで来るともう自制も効かない。 木吉も自分の快楽を追うため、腰を使い出した。
「・・・・ッ、はっ、は・・・・、ぅ、あッ・・・」
リズミカルに内壁を擦られるたび、日向が背中を仰け反らせる。
随分とほぐれたそこは、今のところはもう苦痛を訴えては来ない様子で。
突き上げられるたびに小さく声を漏らすその様も、木吉を煽っていく。
「っ・・・、」
自然、荒くなる息遣いを耳元で感じ取り、日向が首を竦めたのに目敏く気付いて、
奥を突き上げながら、上体を更に折り畳んで互いの腹部を寄せ合い、木吉は勃ち上がりかけの日向自身を擦ってやる。
続けて、狙った前立腺を自らで突くと、
「ン・・・・っ! く・・・・っっ・・・」
同時にぎゅうっと日向の内部が締まり、そろそろ絶頂近い木吉自身を強く絞り込んだ。
「凄い、な」
たまらない性感に、木吉も息を止めて唇を噛み締める。
でも自分だって限界はわかっていて、一旦は堪えたものの、一度息を吐いて、吸い込むと、
「・・・・・一回、ちょっと」
「うあッ! あッ・・・、あ、ああ!!」
日向の返事を待たず、ぐいぐいと激しく下半身を使って内部を蹂躙する。
日向は突然激しくなったその律動に揺らされて翻弄されて、半ば反射的に腕を回して、木吉の肩口に爪を立てた。
がり、と爪が皮膚喰い込むのに自分でも一瞬気付いたけれど、耳元では木吉の獣じみた荒い息遣いが絶えず聞こえてくるし、こうやって腕に少しでも力を入れていないと、どうにかなってしまいそうで。
「・・・ッ、は・・・、日、向・・・・っ・・・」
情欲を湛えた響きで、至近距離で名前を呼ばれ、身体が追い上げられる。
夢中で日向の内部を貪る木吉に対し、穿てば絶妙の弾力で蠢き、突き抜こうとすれば更に奥へと誘うような動きをみせる粘膜に、みるみるうちに自らが限界まで膨れ上がるのを感じる。
ずっと耐えていた我慢も限界で、身体の欲するまま、ズクン!と勢いよく猛った先端を日向の最奥に強く強く、突き立てた。
「い・・・・ッッ・・・・!!」
「――――― ッ・・・・!」
激しさに、痛みを覚えたのか、それとも悦かったのか。 はたまたその両方か。
瞬間、硬直した日向の内部がこの上ない収縮を繰り返し、
逆らうことなく木吉も顔を吐精の快楽に歪ませて、内側に精を放つ。
「う・・・・あ、ぁ・・・・ッ・・・ッ・・・」
身体の中に熱いものが吐き出されていく感覚に、日向はたまらず腰を震わせた。


「・・・・っ・・は、・・・・・っ・・・、  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・んあ?」


深い吐息のあと、色気も何もない声が、最後に出た。
一旦、解放したはずの木吉がまだ、自分の中にいて、
しかもそれがまたピクン、と脈打ったことに気付く。
そして更に、一旦達した木吉自身は、大して衰えておらず、再び硬度を増していく。
「なッ・・・・・!」
「ん。 足りない」
日向だってまだイってないし、とどこか熱に浮かされたような声で木吉は告げてきて、
またもや緩く腰を使い始めた。
すでに痛覚が麻痺状態になってしまっているのか、結合部から苦痛はほとんど感じないけれど、
その代わり、覚えさせられたばかりの内部に快感を感じてしまい、
「や、め・・・・ッ、おい、待て・・・・っ・・・」
日向は焦って制止をかける。
けれどやめるつもりもない木吉が腰を軽く使うたび、一度蕩けた内壁はぐちゅっと濡れた音を立てて動き、木吉自身をそそり立たせた。
「ぁ、う・・・・っ・・・」
ぐ、っとポイントを刺激され、喉が仰け反る。 思考はともかく、身体はもう歯止めが効かなくなりそうだ。
最奥の入口は自分の意志とは逆にひひく戦慄いて木吉を促し、
どこまでも快感を紡ごうと腰が揺らめいてしまうのを止められない。
「く・・・・」
次第に木吉の動きが激しくなってくる。
中途半端に放っておかれていた日向自身も熱を集めて勃ち上がりを見せ、先端からとぷりと雫を垂らした。
「足りないって・・・・全然・・・・」
木吉はより快楽を味わおうと、激しく腰を上下させる。
その間にも、互いの間で弾む日向自身に手を回し、根元から残さず揉み扱いた。
「やッ、やめ・・・・っ!!」
強引に絶頂へ向かわされる。
内部も弱いところを的確に突き、肉棒を捕らえた指先は次に下部の双珠を絡めて。
「・・・・っ、う、う・・・ぁ・・・・っ」
やわやわと双珠を交互に揉まれ、鈍く重い射精感が日向の腰に押し寄せる。
腰から背筋にゾクリとしたものが走り抜けた直後、
今度は括れの部分に指が這い上がってきた。
「っ!! ―――――― さ、わんな・・・・ッッ!!」
「触らなかったら、イけないだろう」
筋が通っているのか通っていないのか、そんなことを呟いて木吉は括れたところをたっぷりと揉み込んでいく。
「うあ・・・・あッッ!!」
性感の塊のようなところに受けるその快楽に、日向はビクビクと全身を戦慄かせた。
先端から溢れ出る蜜が、とめどなく多くなってくる。
木吉が日向自身を弄るたび、連なって内部も蠢いて収縮し、中の木吉自身にも同じように快感を与えてきた。
括れから更に指を伸ばし、亀頭を二本の指で挟んでくいくいと刺激してやると、
真っ赤に色付いたそこが苦しげにまた、とぷりと体液を漏らす。
「、ッッ・・・・!!」
小さく腰が跳ね、零すものに一筋だけ白いものが混ざった。
それでも全然解放には足りなくて程遠くて、硬さを増すばかりの日向自身は痛いほどに張り詰め、
過ぎる快楽にうち震えている。
「――――― ンんっ!!」
突如、角度を変えた中の木吉の切っ先で乱暴に前立腺を抉られて、全身で反応してしまった。
容赦なく最も悦いところをピンポイントで攻め立てられ、
「〜〜〜〜ッ! あ、あ・・・・あ・・・・っっ・・・!!」
甘い苦しみに、かぶりを振ってそれから逃げようとするけれど、そんな日向の姿に追い上げられた木吉にグイグイとその部分ばかりを突き上げられ、
たまらず腰が、本能的に後ろにずり下がった。
「・・・・こっち」
気付いて木吉は、すでにすっかり砕けてしまい、力の入らなくなっている腰を片手だけでしっかりと自らの方に引き寄せ、より一層愛撫を濃いものにしていく。
もう、今にも弾けそうなほどに漲った日向自身をたっぷりと蜜を搾り出すように扱き上げながら、
内部では奥の感触の違う部分に、自らをぐりぐりと押し付ける。
「ひ・・・・あッ! うぁ・・・・、ァ・・・・っ・・!」
「ッ、」
最上の締め付けに、木吉も懸命に声を殺す。
限界まで搾り取ろうとするかのよう蠢く内側に、自分も我慢できなくなって、思いのままに腰を激しく打ち付けた。
「あッ、あっ・・・・、ま、た・・・・っっ・・・・!!」
せり上がってくる感覚に、二人の身体から汗が伝い落ちていく。
「ぅ、うっ・・・・、う・・・・っ・・・」
「また、・・・・イくか?」
わかっていながらも問い掛ける木吉に、日向は答える余裕すらなくて。
代わりに身体はどこまでも正直で、内部の大きな蠕動がそれをあらわし、木吉はともすれば漏れそうになる声を飲み込みながら、もう吐精寸前の日向自身をさすり、
下半身全体を打ち付けるよう、大きく突き上げた。
「ッ、―――――っ、あ・・・・!!」
途端、日向の肉棒が小刻みに震え、音もなく弾ける。
続いて木吉も二度目の絶頂を迎え、
「・・・・ン・・・っ・・・!」
熱くて狭い内部に再び欲を注ぎ込んだ。




「・・・・っは・・・っ・・・、は・・・、ぁ・・・・、ぁ・・・・」
ぬめる内部に、また大量の熱を吐き出され、その熱さと絶頂の余韻に日向が翻弄されていると。
たった今、放ったばかりの自身にまた手が伸ばされた。
「ッ!!?」
一瞬、何が起こったのかもわからないまま、咄嗟に慌てて退けようとするものの、
全くもって力の入らない身体ではどうすることも出来ないまま、
「ま・・・・さか、だよ、な・・・・?」
有り得ない想像、というか予測、というか予感、にぶち当たって日向は絶句する。
中の木吉自身はまだまだそこそこ硬い。
「んー・・・・。 まさか、よりは、またか、って」
へらへらへら、と微笑みながら覆いかぶさってくるでかい図体を押しのけたくて、
ぐぐぐ、と懸命に四苦八苦するものの。
濡れたままの自身を手のひらでやんわり押し包まれ、きゅーっと握られて、
「ん・・・・ッ!」
当然にして失敗に終わる。 それでも、まさかの展開(!) から、なんとか逃れようと木吉の下で身じろいでいるものの、
いまだに自分の中に木吉自身は埋め込まれたままであるし、
体勢的にも体力的にも圧倒的に不利なのは日向の方で、どれだけ足掻いてみても何の抵抗にもならない結果で終わってしまった。
「ま・・・、まだ、ヤる気か・・・・!!?」
「これで終わりにしようと思ってはいるんだが」
「バカだろオマエっ・・・・んぁッ、ふ、ざけ・・・・っ・・・ダアホ・・・・ッ!!」
ニコニコニコ、と穏やかな笑みを満面に浮かべながらも、木吉は日向の言うことを聞こうともしない。
暴れられる前に、と、今度は日向の片脚をぐいっと肩の上に担ぎ上げ、
体位と角度を変えて、ぐっと奥を突き上げた。
「んく・・・・っ・・・、う・・・っ・・・」
三度目ともなると、一気に絶頂を目指すようなことはしない。
緩やかに、丁寧にく内部を味わって捏ね回し、穏やかな律動を繰り返した。
日向の方も、イヤでも感じさせられてしまう快楽の波に、次第に陥落せざるを得ない。
「・・・・っは・・・、う・・・、ぁ、ぁ・・・・っ・・」
激しく穿たれるときとは違い、やわらかな性感に翻弄されて、
もうその後は、文句どころかろくに言葉も紡げないまま、
せいぜい木吉の背中に爪を立てて引っ掻くことくらいしか出来なかった。




























事後。


ぐったり。 をとっくに通り越し、疲労困憊さえ通過した腰も足も何も立たない状態で、
枕を抱えてうつ伏せの体勢のまま、
「・・・・いきなり言われて、やっぱり、錯乱してたとしか思えねーんだよ・・・・」
日向は頭の先から爪先まで思う。 ココロの底から思いまくる。
それどころか思いあまって、
「見てみろこの惨状!!!!」
ちゃっかり自分だけ衣服を身に付けて、つい3分ほど前から 「ええとばあちゃんの薬箱・・・・」 などと茶箪笥を開けたり閉めたりしている木吉の背中に向かって叫んでみた。
「コレ、どうやって誤魔化すつもりだ!!!??」
その通り、シーツはぐちゃぐちゃの濡れ濡れで、ところどころ血の痕でかなり赤く染まっていて、
情事が終わってみれば全身は痛いし腰は重いし最奥などは痛いとか痛くないの比ではなくて、
たぶん、今、動いたりしたらぶっ倒れる。 もしくは下半身死亡に向けて確定フラグが立つ。
それでも、
・・・・・・・・わりと頭はすっきりしているし、実際、言うほど腹も立っていない。
ただ、こうやって喚いていないと今更だが気恥ずかしくて仕方がない上、
こうなるとわかっていたとはいえ、やっぱり下肢の鈍痛と疼痛も尋常ではなかったから、
「錯乱したにしても、限度ってものがあるだろオレもお前も・・・・」
ブツブツ、零し続けようとしていると。
「お、あったあった」
目当ての何かを薬箱から見つけたらしい木吉がやっとくるりと身体の向きを変えて、
薬のチューブを手に、布団上の日向の横に腰を下ろしながら何を口にするかと思えば。
「その言葉を借りると、オレは一年以上前から錯乱してたってことになるな」
「あ?」
「それで、今もずっと錯乱してるってコトになる」
改めて顔を覗き込まれ、ふいっと日向は首ごと背けて枕に顔を埋めながらも。
「・・・・・・・・・・・・・・・・知ってたけどよ」
ちょっとだけ頷いてやったら、
「うん。 オレも」
やたら嬉しそうに、木吉が頷いた。
見てないけれど、見なくても、わかった。


錯乱、継続中。





























翌日。 午後。


「だっ・・・・誰も、動けなくなるほどヤれなんて言ってないわよーーーー!!!!」
(※あくまで周囲には聞こえないよう、小声だが) 体育館の片隅で、リコが叫ぶ。
その前に立ち、『本日の練習、日向は体調不良で休み』 の理由を正直に伝えてきた木吉に、
「ていうか私はくっ付けって言っただけで、そんな・・・・、そんな、何もいきなりそこまで進めだなんて一言も言ってないし!」
カントクは赤くなったり、
「え? そうだったのか」
「どうしてそんな極端から極端に走るのよ!!? アンタたち!!」
青くなったり。
「みんなには、風邪が悪化したって言っておいてくれるか」
「そう言う以外にないじゃない・・・・。 で、それとは別に聞きたいんだけど、」
「?」
「その、ホッペのアザはなに?」
なんとなく予想がつかないでもないけど、とリコが指し示した木吉の左頬には、うっすらと内出血の跡が見て取れる。
昨日は確かそんなのなかったわよね、と恐る恐るの彼女に、木吉は 「ああ、」 とあっさりと。
「オロナイン、塗ってやろうとしたら日向に蹴られた」
「・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「裂傷とか、血止めによく効くから塗ろうとしたら、二発ほどな・・・・」
容赦なく足蹴にされたんだ、とこれまたすらりと答える木吉に、
「もう・・・・もういいから!」
どこに塗ろうとしたのかなんて聞いたりしないから!、と慌ててリコは両手を振って、止める。
と。
「それはそうと、」
突然、何かを思い出したように木吉が。
「そういうリコはどうなんだ?」
「え?」
何よ、と怪訝そうな顔をする彼女に。
「この前、桐皇のあのマネージャーに迫られてただろ」
「あっ・・・・・アレは、あの子が勝手に・・・・!!」
珍しくも、瞬時に狼狽の色を浮かべてぶんぶんと首を横に振るリコを見て、
「自分のコトになると、カワイイなリコ」
木吉は笑ってただ正直に口にしただけ、だったのだけれど。
かああ、と(何故か) 赤くなったカントク、ぶちギレ。
「うーーるーーさーーいーーーー!!!!」
手に持っていたスコアブックをぶん投げる。 けれど間一髪、すれすれのところでそれは木吉には当たらず、彼の横、5センチのところを飛んで行って転がって、


「・・・・・・・・あの、」


二人の脇を抜けてすたすたと歩いて行って、それを拾い上げて戻って差し出してきたのは、
一体いつから居たのか、黒子で。
ピシリと固まっているリコにスコアブックを返しながら、木吉に話しかける。
「そんな時は、できるだけ温めるのがイイです」
「・・・・え、あ、そうなのか」
「ハイ。 それだけで回復っていうか、復活が一日くらいは違いますから」
コクンと頷く黒子に、
「ね・・・・ねえ、いつからそこに居たの黒子君・・・・?」
やっとのことで固まりから脱出したリコが、当然にして当然(?) の質問をすると、
「最初から、ボクずっと居ましたけど」
黒子は事実を告げつつ、
「ええええ!!!!?」
「ああ、そういえば確かに居たな」
驚嘆するリコと、朴訥と頷く木吉とを見比べて、対照的ですよね二人、と黒子は改めて思いながら。
「ええと、カントクに、伝言を言付かってきたんですけど」
くるりとリコに向き直る。
「私?」
「桃井さんからです」
「えッ!!? ど・・・・どうして黒子君から・・・・!!」
彼女の名前が出た途端、うろたえリコ、再び発動。
「桃井さん、カントクの携帯もメールアドレスも知らないそうですから、ボクが伝言役で」
「そっ・・・・そりゃ知らないでしょうよ、教えてって言われてないし」
「・・・・・・・可哀想だなあ」
ぼそっ、と木吉が呟く。
それをキッ、と睨んで黙らせて、
「それで、伝言て何・・・・?」
黒子に先を促すと。
「『今日、部活後に校門の横で待ってます』 だそうです。 何かの用事で、それくらいの時間に近くに来るみたいで」
「デートの誘いかな」
またまたぼそぼそっ、と呟いた木吉を、今度はスコアブックでバチンと叩いて黙らせ、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
リコは無言、でほんの少しだけ考えて、
それから。
「黒子君。 今すぐ返信、お願いできる?」
「ハイ。 内容はなんて」
「『19時過ぎになるわよ』 って。『でも19時10分までには校門出るから』 って」
「わかりました。 ・・・・・・桃井さん、喜ぶと思います」
それじゃメールしてきます、と黒子が音もなく立ち去る。
それを見送りながら、ふうう、とリコは息をつく。
「私だって、いろいろ考えてはいるし」
主語は無い。 しかし木吉には大体のところは伝わった様子で、
「頑張れよ。 リコに言われて、オレは頑張ったからな」
ぽん、と励ますよう、肩を軽ーーーく叩かれた。
「あ。 ・・・・・うん、・・・・・・ん?」
勢いで一旦頷いて、一秒後、即座に気付いて。


「〜〜〜〜〜〜〜〜違うわよ!! 頑張ったのは日向君の方でしょ!!!?」


小声どころか、その声は体育館中に響き渡り、
カントクの突如の大声に、一斉に部員たちの視線が集まる。


「あっ・・・ゴメン! ゴメン!! なんでもないから!!」


慌てて取り繕うけれど、わたわたとリコは落ち着かない。
一方で木吉は
「あーーー・・・・。 そうだな、オレより日向だなあ」
などとのんびり(・・・・・・・・) 何かを思い返したりしているマイペース。
「頑張らない・・・・・私は、頑張らないわよ・・・・」
その隣で何故かうっすら赤くなったりしているリコ。
どうやら錯乱状態は、彼女に伝播した模様である。























→→→→→ 桃井ちゃんとリコさん作文へと続く








すいまっせんっした
実際のとこは一年生の頃にとっくに引っ付いてたしヤってたとおもいます

1年以上前に某様に押し付けたものであります。 発掘されたので出してみた