[ たまには女の子ってのも ]






19時5分。
伝言通りの時間ほぼジャストにリコが校門を通り抜ければ、約束通り、
そこに一人、さつきが待っていた。
コートにマフラーにもこもこ手袋装備で、防寒対策はしっかりなされているようだけれど、ほんの少し、その目許と鼻先が寒さのためか、赤い。
だから思わず、一番最初にリコの口から出てきた言葉が、
「・・・・・・・・・いつから居たの?」
だったとしても、無理はなくて。
「一時間くらい前、から・・・・だったとおもいます」
多少なりとも適当に誤魔化せば良いものを、どこまでも素直に答えるさつきに、
「あのねえ。 風邪、ひいたらツライのはあなたでしょうが」
「だって、万が一にも遅刻とかしたらリコさんに会えなくなっちゃいますから。 その方がツライです」
口許をマフラーに半分埋めつつの、相変わらずのあまり読めない笑顔。
それに 「ホントにあなたどこまで本気なの、」 と喉の奥まで出かかった台詞を飲み込んで、
「・・・・帰ろっか」
「ハイ」
促して、並んで足を進めようとしたら。


「会えてよかったですね。 桃井さん」


またもいつからそこに居たのか、それともつい今現れたのか、リコのすぐ後ろから黒子が姿を現して。


「キャー!! テツ君ーーーー!!!!」


途端、いつもの黒子相手のテンションにさつきは変貌する。
だから思わず、
「・・・・・・・・。 結局、黒子君がいいんじゃない」
小声でちょっとだけココロの声が出てしまうと。
「ヤキモチですか」
さつきに抱きつかれながらも、耳ざとい黒子がぽそりと口にした。
「えっウソっ! リコさん、テツ君にヤキモチ!!?」
乗じてさつきが、半信半疑状態ながらも、この上ないほど嬉しそうな表情になったから、
「ちっ・・・違うわよ!!」
リコは、うろたえながら必死で否定する。
違う、と思う。 違う、と思っている。 今の一言はヤキモチなどではなくて、ただ、
ただ、自分に固執しながらも、こうやって黒子にもキャッキャとはしゃぐさつきの内心が本当にさっぱりわからなくて呆れただけだ。
そしてこの子の前では何故か、いつもの普段の自分が出せなくて、どことなく引け腰になってしまうのは単に、単に! 胸のサイズで完敗を喫しているせいだ。 ただそれだけのこと。
するとさつきは、ゆっくりと黒子から離れながら、
「大丈夫ですよ。 テツ君には、きーちゃんがいますから」
悔しいですけど春先に取られちゃいました。 とふんわり笑う。
「何ソレ!!? きーちゃんて、まさか海常の黄瀬君!!?」
驚いて、思わず反射的に黒子を見れば、
「・・・・・・バラしましたね」
彼も否定も何もしない。 それどころか、
「カントクには、実はもうとっくにバレてるんじゃないかとちょっと思ってたんですけど」
いつもの無表情ながら、ポリポリと頭をかいて肯定の図。
「知らないわよ知らなかったわよ今初めて知ったわよ!!!!」
だからさっき、鉄平にあんなコト伝えてたってワケ!!? と一挙に納得しながらも混乱しかけるリコに、追い討ちをかけるかの如く、さつきが続ける。
「ちなみに大ちゃんはー、火神君と仲良しなんですよ」
「〜〜〜〜〜!!!?? ホントなの黒子君!!!!???」
「ハイ。 ・・・・・・まだそれほど進展は無いみたいですけど」
これまたあっさり。 頷かれる。
ええと黄色と黒と青いのとウチのバカと、あと残ってるのは・・・・、なんてぐるぐる回って、
あと残ってるのは、
「緑・・・・あの緑の眼鏡は!!」
どうしてそこでいちいち指折り確認までして、リコの知るキセキ全員を確認してしまったのかは誰にもわからない。 おそらく、勢いの成せるワザか。
するとパステルカラーの髪色をした二人は揃って、
「えっと・・・・ミドリンは確か、高尾君、だっけ? テツ君?」
「ハイ」
ごく当たり前、の会話をするように頷き合う。
「なっ・・・・なんなのよ、キセキって皆、みんな色情狂なの!!?」
自分のところの木吉と日向に関しては自ら焚き付けたくせ(でも別にヤれって言ったわけじゃないもの)、
それを棚に上げてますます混乱に輪がかかるリコに、黒子曰く。
「あ、ウマイ」
「えっ何がっ?」
「・・・・一応、カラー繋がりで。 色情狂と」
「ーーーーーーーーーー大喜利やってんじゃないっての!!!!」








帰り道が逆方向だった黒子とは校門前で分かれ、さつきと二人で歩き出す。
「はーーー・・・・。 なんか・・・・頭・・・痛くなってきた・・・・」
驚愕? の事実をなし崩しに知らされ聞かされ、
「まさか火神君まで・・・・」
なんなのアンタらの世代、と本心からぼやきたくなるリコに、
「リコさん、そういうの疎そうですもんね」
さつきはわりと容赦がない。
「・・・・・・・・でも鉄平と日向君のはちゃんと見通したわよ」
悔しくなって反論してみても、
「??? それ、私からも一目瞭然ですけど」
「うッ・・・・」
言い返すに言い返せず、苦し紛れにたまたま横に設置されていた自動販売機、それに駆け寄りながら財布を取り出す。
ちょうど、喉も渇いていたし温かいものでいろいろ潤そうとしたかったのに。
「・・・・あれ」
財布の中を探ってみても、小銭は十円玉が三枚と五円玉しかない。
残るお札も五千円札が二枚、入っているだけだ。
「あーもー女性差別! どうして自販機って五千円札が入らないのよー!!」
所持金的には一万円以上入ってるのに、ジュースの一本も買えないなんて、と自販機に八つ当たるリコに、さつきは手袋を取って、素手になって自分のコートのポケットを探って。
「諭吉も入らないですよ。 はい、リコさん」
「?」
ころん、と五百円玉を一枚、手渡す。
「私の奢りで」
「い、いいわよ!」
「かまわないです。 ちょっと何か飲んで、落ち着いたほうがいいですから」
「そ・・・・そう? それじゃ、ありがと、借りておくけどあとでちゃんと返すからね」
「いいですってば」
手袋を再度はめながら、ひらひらと手を振るさつきから視線を逸らし、煌々と照らし出される自販機と向かい合う。
そうして 『ミルクプリンキャラメルシェイクナタデココ入りヨーグルト風味ドリンク』 などという訳のわからないものの隣、
ホットココアを選んで押して取り出して、きちんとまた 「ありがとう」 とお釣りを手渡して、
「あのね、リコさん」
改まってさつきが何を言うかと思えば。
「私、リコさんに会って初めて自分が男の子だったらよかったのにな、って思ったんですよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それだけ恵まれたカオとカラダで」
何言ってるのこの子、とつい本音が漏れた。
なのにさつきはさっぱり気にも留めない様子で、先を続けてくる。
「でも男の子だったら、逆に絶対、歯牙にもかけてもらえないなって」
だって私が絶対的に勝ってるのって胸だけですから、と悪びれもせず。
「よく誤解されますけど、私、本当にリコさんに夢中なんです。 今」
「・・・・・桃井さん、ええと、」
手の中のココアの缶の温かさを感じながら、どう答えればいいのかリコは迷う。
一方構わず、さつきは。


「放っておけないのは大ちゃん。 スキなのはテツ君。 でも私が一番ほしいのはリコさん」


謳うよう、そんなふうに言ってくるから。
「・・・・・・・・・・・・・・・・で、大切で大事にしたくて、まだ吹っ切れないのは昔の思い出?」
少しだけ、意地の悪い返答をしてしまったら。


「キツイですね。 やっぱり」


暗くてよく見えなかったけれど、まるで泣き笑いのような表情をされたような気がした。
直後、ちょっと言い過ぎたかも、と即気がついて、


「あっ・・・・、ゴメン・・・・!」


慌てて謝っても、遅い。


「そこで謝ったらダメなんですよう。 ・・・・・・・・・でも、ひどい・・・・」


ぐすぐす、と今度こそさつきがはっきり泣き顔になっていくのを前に、リコは焦る。
「そ、そんな強いイミで言ったワケじゃないから・・・・! 泣かないで、ねえ・・・・?」
慌てふためいて、近寄ったら。


「引っかかりましたねーーー?」


薄桃色の長い髪がふわりさらりと眼前で揺れて、
頬に、あたたかくやわらかな彼女の口唇の感触。


「だっ・・・・・騙したな・・・・!!!!」


たかだかホッペにチュー、の一つ程度で、またも一挙にリコは錯乱する。
それを眺めて、さつきは嬉しそうに楽しそうに。
「女の武器は使わないと♪ 武器なんて、使わないとただのゴミですから♪」
「〜〜〜〜〜〜〜!!」


「男の子たちには出来ないコト、いっぱい、しましょう?」


絶句するリコに、さつきは一概にはイミ不明の台詞を告げて、


「私とリコさんならきっと無敵ですよ」


ふんわり笑った彼女をホントに、それは本当にに一瞬だったけれど。
ココロの底から、「・・・・・・この子、カワイイかも」 と感じてしまった。







・・・・・・・・・・・・・・・・・相田リコ、本格的に、・・・・・・・・・・・・・・・負けた。








かも、しれない。















後日、例のアレックスとのチュー、の一件をを何処からか耳に入れたらしいさつきが今度こそ大泣きで飛び込んできた挙句、
ズルイです酷いですリコさんがそんなヒトだなんて思いませんでしたグスンひっくグスンうわあああん、
と押し切られた結果、その流れと勢いで 【リコ 最大の貞操の危機】 的状況に追いやられてしまう展開が待ち受けていることを彼女はまだ、知らない。







マジでやたら楽しかったです
桃井ちゃんの方が背が高いってのはツボだとおもう