[ 緑の眼鏡と ]






頭がイイくせ鈍感で、
見目麗しゅう(・・・・) っぽいのに唐変木で、
自分よりやたら上背もありやがるし。




正直、変人極まりないうえ、
ぶっちゃけ、ヘンな語尾口調。
極めつけ、意味不明なおは朝信者。




そのうえ地味にワガママ、
オヤクソクで眼鏡。
ばちばちの下睫毛。
























「・・・つくづくオレ、オマエのこと大好きだよなー」
皆とっくに帰ってしまって他には誰もいない、がらんとした教室で高尾は改めてそう告げた。
ちなみに今日もジャンケンは負けている。 ついさっき、数分前にグーで負けた。
「こんだけ尽くしてんだからさ、そろそろなびかね? 情にほだされたりしねー?」


「・・・・情に訴えられたところで、どうするつもりも無いのだよ」
全く普段と同じトーンで淡々と、しかし律儀に答えるのは、当の本人。


「えー? 真ちゃんー?」


意識的に茶化した響きを交えて名を呼んで、その相手に一歩近付く。
やたら図体ばかりでかくて、気難しくて。
それだけならまだしも、加えてヘンなところで生意気で。
だから気がつけば孤立しそうで危なっかしくて、とてもとても放っておけなくて。
気づいたら、思いのほか近しい位置に到達することができた。 しかもその位置キープで。
理解したら、その眼鏡越しに、臆することなく瞳を覗き込めるようになっていた。
「もういい加減、腹くくれって。 オレたち付き合おーぜ?」
机ごし、・・・・・こんなふうに。


「断る」
なのに間髪入れずの緑間の、にべもない返答。
「どうしてだよ」
「どうしてもこうしてもあるものか」


――――――― 鈍感。


「じゃあ逆に聞くけど。 なんで断るんだよ」
「どうして了承しなければならない」
「質問に質問で返すなっての! ・・・・そういうところ、お子様だよなあ」
「・・・・・・・・・。 オマエの方が137日間も年下なのだよ」
「は? ・・・・えっと、それはつまり、しっかりバッチリオレの誕生日覚えてて即座に計算できちまうってほど愛してくれてるって解釈?」
「違うのだよ!」
「そうやってわりとすーぐムキになるとこが、お子様だっていうか。 ・・・・ま、オマエだから仕方ねーか」


――――――― 唐変木。


苦笑と共に、もう一度名前を呼ぶ。
「なあ緑間。 真ちゃん」
「・・・・・・・・」
「今日のラッキーアイテム、勿論チェック済みだよな? グッズじゃなくて、『恋人』 だったろ」
高尾は押しに押す。
緑間のような、このテのタイプはこちらが引いてはいけない。
引かずに押して押して押しきって、強気の理詰めで言いくるめる手法で攻落するしかなく。
そのために日々繰り返して努力した、観察と準備とシミュレーション。
だからわざわざ毎朝毎朝自分もおは朝をチェックして、
開運ラッキーアイテムに、『コイビト』 という単語が記される日を今日か明日か明後日かと心待ちにしていた苦労と徒労も、報われなくては意味がない。
「こればっかりは相手がいねーと準備も用意も出来ねーし。 もし試合とか大会の日のラッキーアイテムが 『恋人』 とか 『彼氏』 とかだったらどーすんだって。 な?」
先を促しながら、椅子をどけてまた一歩、歩み寄る。
さりげない動きに、緑間は距離が縮まったことに気づかない。
教室の外からは物音一つ、廊下に気配一つの欠片もなく、邪魔一つ入らないオイシイ展開に高尾が会心の笑みをココロの中で浮かべたところで、
「・・・・高尾」
彼にしては珍しく、当惑めいたような声で低く呼び掛けられた。
「ん?」
「何故にオレだ」
は? 何を今更。
そう言おうとして、高尾が口を開きかけたところで、それより早く緑間は続ける。
「オレは男だ。 オマエも同様だろうが」
「あ、あのな真・・・・」
「冗談や悪戯なら、大迷惑極まりないのだよ」


「あ・・・・あのなぁ・・・・」


あああ、と高尾はかなり本気でタメイキを吐きたくなってしまった。
それでも喉元まで出かかっていたそれを無理矢理抑えて飲み込み、そして言葉を選んで。


「えっと、まあ・・・・。 今の真ちゃんの発言について、オレとしちゃ山のように言いたいコトがありまくるんだけどよ」
「・・・・・・・・。 言えばいい」
てっきり逸らされるかと思った視線は、真逆だった。 眼鏡越し、緑がかった双眸がしっかり自分を見据えてきていたから。
負けじと正面、真正面から捕らえて覗き込んで、すうっと息を吐いて。


「確かにオマエは変人で、」
「・・・・・・・・」
「ヘンな語尾で、」
「・・・・・・・・」
「おは朝信者だ。 しかも過度にありえねーレベルの」
「・・・・・・・・」
「チームメイトとしては、なかなかどうにも扱いづらくて、面倒くさいヤツだと思う」
「・・・・・・・・黙って聞いていれば、ケンカを売っているのかオマエは」
「で、何気にわりかしケンカっ早くて好戦的、と」
「、」
「だけどな」


「?」
一度言葉を切ると、これ以上無いというレベルで疑念に満ち満ちた表情の緑間に、
邪魔な机の横から回り込み、高尾は一歩踏み入った。
「だけど、気がついたら俺はそんな真ちゃんにすげぇゾッコンで」
「馬鹿も休み休み言うのだよ」
「マジだって、ホント」
最上級に気配を消した動きで、けれどまた確実に一歩。
これで、もうほとんど距離はない。
見上げればすぐそこにある顔。 至近距離、から。


「なあ、たまにはその眼鏡外せ」
「何?」
「いつもレンズ越しだから、俺のココロがよく見えねーんだよ」
素早くそう言い切って、否応なしに高尾は手を伸ばして彼のその眼鏡を奪い取る。
「!! 返せ!」
想像外の行動に、奪い返そうと咄嗟に腕を上げた緑間の懐。
そこにタイミングよく入って身長差を良いことにぐいっと後頭部に手を回して抑え付け、
起きた衣擦れの音が彼の言葉と動きを途中で遮り、


「高尾・・・・!」


制止の意味と響きを持って名前を呼ばれたが、そのまま深く、口で口を塞いだ。




――――――― 大きな身長差は、ペナルティになんてならない。 むしろフライングの良き友。




だからこんな手に、図体ばかりでかい緑間は、容易く引っかかる。
















「オ・・・・オマエ・・・・」
思いきり味わって、口唇を離した途端。
「何をする・・・・!」
まるで普段の冷静っぷりの欠片もなく、抑揚のない声をあげながら、
片手で口許を覆いつつパニックに陥るなどという緑間の姿は、高尾としてもさすがに初めて目にするもので、へえちゃんと微妙に赤くなってんじゃんカワイイなオマエ、とこちらはにんまりする。
「今のでしっかり理解したろ? 冗談でもイタズラでも何でもないってコト」
「だからと言って有り得ん!!」
頭に血を昇らせて彼は憤るけれど。
「とりあえず、眼鏡を返すのだよ!」
「え? まだダメ。 返さねー」
「高尾!!」
「だってさあ、」
あまりに子供じみた緑間の反応に、込み上げてくる笑いを抑えつつ高尾は、
もう一度その腕を取って、今度は違う角度から。


これだけ長く、
思う存分に口付けて、
口伝えで伝えておけば、鈍感極まりないこの緑の眼鏡にも通じるハズだ。 おそらくそこそこは。


「眼鏡してたら、キスしづらいだろ」
そう言って、一応今日のところは満足したからコレ返す、と手の中の眼鏡を差し出すと、
真ちゃんはそれを猛烈な勢いで奪い取ってから、高尾の突拍子も無い行いに今にも頭から湯気を出しかねない勢いで。
心なし乱れた緑髪と、再度かけることも忘れてただ握り締められるだけの眼鏡。


「ん? ケンカするか? してもいいぜ。 無理矢理キスされた報復、で殴りたいなら殴られても、まあ・・・・一発くらいならガマンする」


「そういう問題では無いのだよ!!!!」


「んじゃ、口喧嘩で終わらせとく? 受けて立つぜ。 わりと自信あるから」


「違う!!!!」


「じゃあ何だよ。 ・・・・ま、どっちにしろ先に言っとくわ。 どうやってカタ付けたとしても、仲直りはきっちりしような」


「・・・・・・・・・・・・高尾・・・・・・・・」


あまりに都合のいい、
あまりに高尾的一方的解釈、の台詞に呆れ果て、二の句がつげない緑間に、高尾は重ねるよう続ける。


「残念だけどさ、中学の頃のオマエのことオレは知らないじゃん」
「当然・・・・なのだよ」
「だから、その分もっともっと今から引っ付こうぜ? 高校デビューってことで」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・オレの意思は・・・・」
「後付けってヤツでもイイんじゃねえ? 大抵、大切なコトって後から気付くもんだし」
あっけらかんと、平然とそう言い放つ高尾に、
緑間は一度言葉半ばで沈黙して、そのまま三十秒後。










「・・・・・オマエが、これからもオレの役に立つなら考えてやる」










言葉とは台詞とは裏腹に、照れたような怒ったようなカオ。
「、それって、」
それはつまり。
「それって真ちゃん・・・・!!」
よっしゃ 『恋人』 の位置GET!! の喜びに、今度は高尾が途中で言葉を切る。
かぶせて当の本人は、柄でもない自らの答えに返事に返答にいたたまれなくなりまくり、
堪えきれなくなりまくり、我慢ならなくなりまくり、の様子で様相で。




「〜〜〜〜〜〜〜下僕から始めるのだよ!! 下僕!!」




言われて 「ああわかったわかった下僕な、下僕で恋人な☆」 と頷きながら高尾は期待する。




下僕上等、
しかし今後自分を待っているのは、この調子ならほぼ間違いなく、薔薇色のサクセスストーリー。























アタマのいい鈍感も可愛くね? (所謂ギャップ差ってやつ?)
見目麗しいけど唐変木。 (だからヘンな虫が付かなかったんだろうけど。 そこは感謝)
届かない上背。 (あー。 コレだけはもう追いつかねーなー)



変人。 (実際のとこそこまででもないけどな)
ヘンな語尾。 (慣れるとやたら可愛くね?)
おは朝信者。 (いつかラッキーアイテム 『ローション』 とか 『ゴム』 て日が来ねーかな)



地味にワガママ。 (いや、たぶん俺の方がよっぽど派手にワガママ)
眼鏡。 (指紋付いてたらゴメンなー)
ばちばちに長い下睫毛。 (いやいやよーーーく見ると上睫毛もそこそこかなり長いんだけど)








目指すは下僕で下克上。
それもまたきっと、愉しい。











好きすぎて書けないって本当にあるんだなっておもいました。

ヤってもいないし内容も少ないのに、他のヤってる作文の三倍くらい時間かかってます。 げふっ