[ やっぱりタイトルが思いつかない ]






「真ちゃん。 スキだぜー?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「スキだぜー、 真ちゃん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「しーん、ちゃん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




今日も今日とて、まあ、いつものパターン。
前から後ろから、器用に相手のカオを覗き込もうとしつつ、
普段と何一つ代わり映えのしない台詞を言い募る高尾がひとり、
そしてそれを全くもって無視、の緑の眼鏡がひとり。




場所もこれまたいつもの定石で、
自ら鍵閉め当番をかって出た高尾の謀略(???) 通り企て通り、
そこは毎度毎度の部室であって、ここに来てすでに言わずともがな、他の部員は皆さっさと帰宅の途についてしまい、
残すところこの二人だけになっているという、鉄則・お決まりのシチュエーション。
とはいえ(マンネリじみてはいるけれど) 決して状況が悪いというわけではなく、
むしろ本日・今日あたりで決められなかったら一体いつ決めるんだ、
というべき日取りであって日にちであったりもするのだが。
なのに、なのに当の緑間様はさっぱり全くいつもと変わらず普段と変わらず、
やたらと素っ気無い。 というかいつものことでもあるけれどもフツウに冷たい。
先程から高尾がしつこいほど呼びかけて語りかけているにも関わらず、黙殺。
椅子に座ったまま、何某かの本を読んでいる。
したがって返事のひとつどころか、一瞥どころか、ちらりと一すじの視線さえも向けてはくれなくて。
そんな彼にも、もはやとっくのとうに慣れてはいるとはいうものの、
ここまでマイウェイを突っ走られて(直訳:ガン無視される) しまうと、さすがの高尾としても、ちょっとばかりいじけたフリ、むくれた素振りをしてしまいたくなるというのが人情だ。
だから 「あーあ、」 とタメイキも、わざとらしさに輪をかけて、大袈裟な身振りで両手を頭の後ろで組みながら。
「知ってっかよ、一度言われて気がつかないってのはな、ヒトより少し飲み込みが遅いって証拠なんだぜ?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「三回言われて気付いてないのは、ヒトの話を最初っからちっとも聞いてないヤツで」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「五回目言われるに至ってもわからねえっていうなら、何かアタマの回線に齟齬があるか、もしくはとっくにわかってんのにわからないフリしてるだけなんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・高尾、」
淡々と切々と、ながらも堂々と持論を展開してやると、
そこでやっと眼鏡の奥から、視線を向けてくれた。 ついでに初めて言葉(???) も発してくれた。
よし、とココロの中で高尾は会心の笑みを浮かべ、そしてそれを内心だけに留まらせず、
表情にも思いっきり反映させながら。
「オレの場合、この春から今日までトータルしたら絶対、千回以上スキって言ってるぜオマエに」
誇張などではない。
千回どころか、下手をすればその倍近く、口にしているような気もしないでもなく。
いや、本人の居ないところでも 「真ちゃんはオレの宣言」 していることを含めれば、まずダブルスコアは間違いないところで。
「てコトはだ。 どう転んだってオマエがんな頭悪いはずないから、真ちゃん的にはもう理解も納得もしてくれてて、たーだ照れくさいから、素直になれないってだけなんだよなー?」
そう言って、自分もパイプ椅子を引き出して隣に居座るかたちで腰を下ろしてひょいっと横からその顔を覗き込むと、やっとここでパタンと本を閉じ、嘆息混じりで緑間はこちらを向いた。
「一つだけ、感心する。 よくそこまで口が回るな」
「そりゃあ、振り向いてもらおうって毎日毎日努力してるからな」
こうやって打てば響く間合いで、間髪入れず返事が出来るのは、だってそれが本心、本当のことだからであったのに、当の本人、緑間には単なる軽口に聞こえてしまったらしい。
心持ちその眉を顰められ、
「その結果はどうだ。 少しでも成果は出たのか」
と否定された挙句、
「成果の出ない努力など、努力では無い。 自己満足というのだよ」
発されたその台詞に高尾は 「うげ、」 と呟いたあと、なんだか緑間様のご機嫌を読み損なったかもしれない自分に(・・・・)、たまらず舌打ちしたくなった。
そして思わず、
「そりゃ、真ちゃんみたいな天才からしてみりゃあな」
オレみたいな凡人の努力とか何とかって言われても大した実感もないだろうけどさ、とついついぼそりと漏らす。
すると途端、彼は訝しげな表情になって、じっとこちらを見据えてきた。
とっくに慣れているはずなのに、その超!自分好みのカオで、いざ彼の方からじいいいい、と改めて凝視されると 「うッ、」 と心拍数が跳ね上がる。
一方で緑間様はそんなこと何も気に留めてもいない様子で、何を言ってくるかと思えば。
「色恋沙汰に天才も凡人もあるものか」
古今東西、そんな話は耳にしたことが無い、ときっぱり言い切る。
と、
そんな緑間の発言に泡を喰ったのは高尾の方で、
「ちょっ・・・・、え!!? 今の、バスケの話じゃなかったのかよ!!」
半ば動転、慌てて確認しようとすれば、
「・・・・・・・・。 先程のオマエの台詞のどこにそんな成分があったのだ」
「あっ・・・・」
言われてみればそうその通り、惚れてるんだって腫れちまったんだってスキだぜっつってんだろ、的なことしか捲くし立てていなかった気がする。
いや、確かにバスケのバの字も高尾は口にしていなくて、浮ついて先を急かしすぎた自分に気付き、
「・・・・・・・・悪い・・・・・・・・」
結果、がっくり肩を落として謝る展開。
公私(???) 混同しまくりで、主観ばかり押し付けた挙句、冷静に突っ込まれて我にかえる。 ナサケナイ。
「オレも、まだまだ未熟ってことかよ」
こんなんじゃホント、いつまでたっても下僕から抜け出せないぜマジで、と天を仰ぐと。
「だからと言ってそれが悪いという訳ではないだろう。 未熟だから前を向くのだよ」
「、」
「それを他人がどうこう言う権利は無い」
「・・・・真ちゃん。 それは、そっちは・・・・バスケの方だよな」
色恋沙汰、の方じゃあないよな、と最初からわかりきったことをあえて口にして確認してやるのも、彼氏の役目だ(と高尾は思っている)。
「当然だ」
他に何がある、とばかり揺るぎなくきっぱり返事をする緑間に、ほんの僅かだけ、
この感情は何と表現すればいいのか、きっと自分でもその正体がわからないまま掴めないまま、
それは本当にごくごく僅かなのだけれど、
高尾の中の 『愛してるぜスキだぜマジだぜ尽くすぜ真ちゃん』 の占めるぶっちぎり120%のうち、
何千万分の一、ほどにも満たない微々たる瞬間だけ、少しだけざらりとした思いがいざなわれて、
でもその感情に名前を付けてしまったら、自分の内部でいろいろなものが微妙に傾いていきそうで、
自己防衛のために自然に笑顔が作られて、
「ん。 まあ、な。 もうほら、もう過去、だろ?」
主語は無い。
自分だってそれが何を指しているのか、いつのことを示しているのかも分からない。
一年前のことなのか、それともたった少しだけ前のことなのか。
あえて全て曖昧にさせたまま、緑間に向けながらも、実際はどこまでも自分に向けた台詞を紡ぐ。
「失敗っつーか、つまづいた後に残るものがさ、後悔とか傷跡とかじゃなくて、その次に続く手立てだったらそれでイイんじゃないかとオレは思うわけで」
「・・・・・・・・。 詭弁だな」
短い沈黙のあと、緑間は一蹴。 それでもここで引き下がる気にはならなかったのは、
門外漢であるからこそわかる、ごく普通で、ごくごく真っ当な感覚。
「はは。 この世にさ、万能な言葉なんてないんだぜー?」
どっちの方向むいてたとしても、進めたならそれが正解の道だろ、と高尾は堂々と嘯く。
だってそれが役目だ。 それが自分の責務であり、多大なる役得でもあるから。
「あ、やべ。 そろそろ出ないとだな」
不自然にならないよう、どこまでも自然に壁掛け時計に目をやり、話題を変える。
んじゃいつものジャンケンするか、と言いかけて、
ふと目に留まったのは、部室の片隅の、ガラクタやら雑誌やらがわんさと詰め込まれたコンテナ。
その一番上に、誰が置いたのか、ひょいっと乗せられていたトランプの箱。
腕を伸ばしてそのトランプを手に取って、
「たまにはジャンケンじゃなくて、コレで勝負してみっか」
そう聞けば、
「オレは何でも構わんが」
鷹揚に緑間は頷いてくれる。 とはいえ、そうそう長く時間のかかる勝負は出来ない。 だから。
「ポーカーの一発勝負でいいだろ?」
「構わん」
「オレが配るんでイイ?」
「ああ」
数回、シャッフル。 そして上から一枚ずつ、交互に彼と自分の前に五枚ずつ配った。
「どっちもブタとかで引き分けとかだったりしたら再勝負な?」
「ああ」
「んじゃ、オープン」
自ら配ったカードを開ければ、まあ。 大方予想していた通り、すべてバラバラの数字で絵柄で。
「・・・・・。 オレは五枚全部交換する。 オマエは?」
「一枚交換だ」
「ほい。 んで、オレは五枚全部、っと」
カードの束の一番上から一枚、先に緑間に渡してから、自分はその下から五枚。
せめてワンペアでも、と願いながらまとめて開いてみた結果、
そりゃあまあ。 やはりそう上手くは行かないのがセオリーで、やはり五枚全部、ブタ。 役の欠片さえ見つけられないバラバラっぷりである。
「あー。 やっぱダメか。 こっちはブタ。 で、そっちは・・・・」
パサ、とブタの五枚をテーブル上に広げて放り出して、
それから身を乗り出して緑間の手元を覗き込んで、
「え、ちょ、 マジかよーーーー!!!!???」
高尾は思わず目を瞠る。
何故って、大して興味もなさそうにカードを広げる緑間様のその内訳は、
キングのカードが四枚と、クイーンが一枚。
端的に言えば 『キングのフォーカード』 である。
「嘘・・・・だろ・・・・」
唖然とする高尾に、
「配ったのはオマエなのだよ」
真っ向からの正論。 事実を淡々と述べる眼鏡に、
「確かにそうだけどよ・・・・」
高尾は呆然としつつ、
「それでも、Kのフォーカードって、いくらなんでも最強すぎるって」
手品グッズでもなんでもない、仕込みも何もない全く普通のトランプで、
しかも緑間自体は配り終えられるまで、一度もカードには触れていないのだ。
現に最初から最後まで、交換の際も自分しかさわっていない。
「さすが・・・・さすが真ちゃんだぜ・・・・」
やっぱ勝てねーわ、すげえなと素直に嘆息。
「ったく、どうすりゃ勝てんだよ」
続けてそう、何の気なく零したら。
「エースのフォーカードを引き当てればいい。 それだけのことだ」
さらり。
涼しいカオで緑間様はそんなことを当然の如く、仰る。
「・・・・・・・・。 ああハイハイ。 そーゆーコト出来んのは真ちゃんだけだよ」
大体、エースはオマエだろ、とぼやいておいて、これまた的確なツッコミが来てしまう前に。
「よし! んじゃ、勝負も決まったところでココ出るか」
あっさり、もう再勝負を挑んだり、勝ちを取りに行くことは早々に諦めた。
そもそも普段において、ジャンケンですら勝てないのにポーカーで勝てる道理がない。
立ち上がって鞄と部室の鍵とを手に、さりげなく。
「クリスマスだってのに、なーんか。 パッとしないよなー」
相変わらずどっかの誰かさんもいつもと変わらずさっぱりつれねーし、とあくまでどこまでも軽く軽く、皮肉にならないように当て付けてみるけれど、
「本来、宗教行事だ。 当然だろう」
「いや・・・・間違っちゃいないけどさ」
「救いの御子など現れないのだよ」
「オレにとっちゃ、オマエがそれなんだけどなー」
毒にも薬にもならない会話とたぶんお互いにわかっていながら、部室を出る。
鍵穴に差し込んで施錠。 カチリと音がするのを確認しつつ、
「仕方ねーから、今夜はそんな真ちゃんのユメでも見ながら寝るとするか」
続・百毒でも百薬でもない、ただの言の葉。
それでも今だけは、緑間様もいつもよりは大目に見てくれたようで、
「せいぜい、悪夢として見るがいい」
見るな、なんて野暮なことは口にしない。 言われたって高尾としては勝手に見るし。 見てしまうし。
ここまで惚れてしまっているのだから、嫌でもユメに出てきてしまうし。 本人には激怒されるからとてもとても言えないアレでアレでアレな淫夢だって、今まで何度も何度も見たし。
「なんだよそれ、命令?」
まんざらでもなくて、口許が緩みかけるのを懸命に制して訊ねると、
「下僕だ当然だ」
とやっぱりいつもの口調を作られた。
クリスマスに悪夢。 それがいとしの緑間様のご命令。
けれどまあいい。




「何なりと、ってな」




万能な言葉なんてない。 それはつい今さっき自分が口にした通り。
でも全能の台詞なら。 あくまで自分、にとってのものだけれど。
誰にでも手を差し伸べて救ってくれる(らしい) イエス様の降誕祭より、
この眼鏡のエース様の命令なら。




他に誰もいない寒い廊下に出て、揃えた歩調で外に向かう。
昇降口から一歩、踏み出してさらに冷たい外気に包まれたところで、








「真ちゃんは永遠にオレの支配者だぜ」








そう言って高尾は笑って、それからキスだけ、貰った。













WCてクリスマス前なんでしょうか後なんでしょうか・・・・。
とりあえず、今回はクリスマス前、て前提で読んでいただけたら幸いです。

どんどんうちの緑間様が丸くなっていってるような気がする今日この頃。 ガクリ