[ たまには相手を変えてみよう・VS眼鏡 ]






「・・・・・・・・、」
「あっ」
「、」
「あー!!」




偶然、にしてはよくあるパターン。
場所は駅周辺、全国チェーンの某カフェ前にて緑と黄色がバッタリ遭遇。
先に気付いた緑の眼鏡は軽くスルーで流そうとしていたにも関わらず、
なにやら頭を抱えつつも焦っていた黄色のモデルは緑間の姿を見つけるなり、地獄に仏、渡りに舟! の勢いで。
「課題! 課題!! 助けて緑間っち!!」
と長身の眼鏡を有無を言わせずに引きずり込んで入ったカフェ店内。
それでなくともただでさえ普通に目立つ二人、であるがため、あえて奥、端っこの席を選び、
苦虫を噛み潰したかの如くの表情の緑間に、「ちょっとカバン見てて」 と言い置いてカウンタにて注文、
ややしてグランデ二つを両手に戻って着席、「オレの奢りで」 と半ばムリヤリ手渡して、
「頼む緑間っち!! 一生一度の頼み! テキスト攻略、力を貸して欲しいっス・・・・!!」
彼の返事を待つ前に、カバンからノートと課題テキストとを出し、テーブル上に黄瀬が広げ、
大袈裟に頭を下げたところで。


「何故だ」


そこでようやく緑間は、眼鏡を押し上げつつ、口を開いた。


「う・・・・っ・・・」
「全く理由がわからないのだよ。 何故にオレが突然オマエの課題を手伝う必要がある」
「そ・・・それは・・・・」
正面きってあのカオで生真面目に堂々と問われ、思わず黄瀬は口籠もる。
が、口籠もりながらも。
「と・・・・友達じゃないスか・・・・。 ・・・・相変わらずつれねえ・・・・」
などと一応一言ぼやいておいて、「いつ友人になったのだオレとオマエが」 などと更につれない台詞を眼前の眼鏡に吐かれる前に、全面降伏。
「じ、実は中間が最高にヤバくて。 でもって今度の期末もなんかこう・・・・輪をかけてヤバそうな感じで・・・・。 万一赤点取っちまうと、放課後も全部補習になっちまうって悲劇がオレを待ち受けてるって寸法で」
嘘偽り無い、真実を告げる。
「それがどうした」
なのに対面の緑間は、鈍いのかあえて気付かない様子を装っているのかただただ面倒なのか(※おそらく後の二つであることは間違いない)、
広げたノートとテキストにも全く持って視線すら落とさず、黄瀬の頼みごとに興味のひとかけらも示してはくれなかったから。
「緑間っち! このテキスト問題、完璧に解いてオレに提出させてくれ・・・・!」
再び、いや今度はテーブルに額が付くんじゃないかというほど頭を下げて頼み倒し。
「テストで点が見込めない分、提出課題でポイント稼ぐしか残されてねーんス・・・・!」
けどオレの頭じゃどんだけ頑張ってもあんまり見込めねえし、けど緑間っちならこんな問題、全問すぐに解いてくれそうだし、と拝み倒し。
「・・・・待て。 そういう話は、海常の誰かに頼むのが定石だろう」
間に入ったごくごく当然、ごく自然な緑間の疑問とツッコミには、
「〜〜〜〜〜この課題出されたの、クラスでも部でもオレだけで」
「・・・・・・・・・・」
「てコトで、オレがどれだけ窮地に立たされてるかを察して貰えれば、嬉しいスよ・・・・はは・・・」
(情けないことに) 事実を伴った泣き落とし、でたたみ込むことにした。
「黒子っちには、問題見せただけで 『あ、ムリです』 の一言で片付けられちまったし・・・・」


なのに堅物眼鏡は、なかなか落ちない。
「期末で挽回すればいい。 それで済む」
なんて、黄瀬の脳みそ事情(・・・・) を全く度外視した返答で、
であるからして、ついつい黄瀬も、更に情けないことに、


「それが一番見込みがねえって話なんスよ!!」


切羽詰まって逆ギレ。


「第一、テストでオレの何がわかるんスか!? テストの結果でわかることなんて、そいつの学力だけっスよ!!」


ばんばん、とテーブルを叩きつつ逆ギレ、の挙句。


「それを知るためのテストなのだよ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そ、そうか」


ヒートアップする自分とは真逆、対照的にも程がある、というほど冷静に突っ込まれ、
一瞬にして勢いを失う。
すると、思考はもう下降の一途で。
「ここで緑間っちにフられちまったら、もう期末で奇跡が起きることを願うしかないんスよ・・・・」
頭を抱えて、悲愴感に満ち満ちた表情のまま、それまでテーブル上に放置していたアイスコーヒーをずずずと啜る。
それから気付いて、同様に手付かずだった緑間のアイスコーヒーをずいっと押しやって、
「あ、遠慮しなくてイイって。 ココに勝手に連れ込んだのオレだし」
今更いらねえって言われても、オレ二つも飲めないから飲んで、と押し付けたところで。
「黄瀬」
改めて名前を呼ばれた。
「?」
「奇跡など信じるな。 そんなものは一度しか起こらない」
「???」
「二度目以降があるとすればそれは偶然か、必然か、当然か、ただの日常だ」
「・・・・・・緑間っち」
淡々と口にする彼に、黄瀬はつい。 ふと。


じゃああの頃オレたちが一緒だったのも?
偶然だったのか、
必然だったのか、
当然だったのか、


結局、今はみんな別々に分かれたのも?
偶然なのか、
必然なのか、
当然なのか、


そのどれなんスかね、と聞き返しそうになって、やめた。
答えなんてまだ出ない、
誰にもわからない問いだということだけは、わかっていたから。


だから、


「そういえば、高尾っちとケンカ中。 って小耳に挟んだっスけど」


だからあえてもう色々諦めて、話題を変えた。
すると途端にピクリ、と緑間の眉が僅かに動いたことに少しだけ気を良くして、


「まーだ付き合い始めたばっかりっスよね? 仲直りは?」


「オレの判断力の欠如で押し切られた挙句、付き合う破目に陥ったのだよ」
(訳:無理矢理言いくるめられて付き合うことになっただけだ)


「は?」


「先週、互いの耐乏力の欠如で確かに言い争いにはなった。 だが」
(訳:ここでキスさせてくれよ真ちゃんVSふざけるな馬鹿者が で揉めたのだよ)


「は???」


「そのうち、忍耐力の欠如で高尾の方から謝ってくるのだよ」
(訳:それが日常だ)


「・・・・・・・あ。 そうスか」


なんだただのノロケじゃん、と素直に黄瀬は思ってしまったのだが、
まあ実質(本人にそんな気は一切皆無なのだろうけれど)、その通りなのだろう。
よかったっスね少なく見積もってもやたら尽くされまくりの愛されまくりで、と感心、感嘆混じりの苦笑いを浮かべたら。


「黄瀬」


「ん?」


「筆記用具を出せ。 30分で必勝のノートを作ってやる」


これで貸しひとつだ覚えておけ、と緑間はアイスコーヒーに手を伸ばす。


「〜〜〜〜〜!! マジで! マジっスか! 愛してるぜ緑真っち・・・・!!」


途端、思ってもみなかった緑間の言葉に、嬉しさのあまり抱きしめそう抱きつきそうになり、


「やめるのだよ!!」


半ば本気で嫌がられながら、黄瀬も慌てて言い直す。


「あっ今のオレの台詞、黒子っちにも高尾っちにも絶対ナイショで! 浮気なんかじゃねえから! 緑間っちだって、ヘンに疑われるの勘弁っスもんね?」


「誰も疑わん。 オマエは黙っておとなしく座っていろ」


「・・・・・・ハイ」


せっかくその気になってくれた緑間様に、黄瀬はもうとことんおとなしく頷いて、一緒に筆記用具を差し出す。
そうして彼がテキスト横目に、目を瞠る早さで次々とノートにシャープペンシルを滑らせていくのをただただ眺めること20分。
その迷いの無さと書き間違えすらしない(消しゴムを使わない) 動きと、
自らの課題ながら、どれだけ見つめてもさっぱり解き方のわからない問題とを見比べつつ、ついつい。
「数学って・・・・オトナになってから、何かの役に立つんスかね。 一般生活でも使うコトなさそうだし、社会の役には立たねえっスよね」
そう、ぼやいたら。


「・・・・・・。 こんな問題も解けないオマエが将来、どうやって社会の役に立つというのだ」


「うッ・・・・!」


あっさり。 カウンターをくらってガックリと黄瀬は崩れ落ちた。


ああ。 正論だ。






















緑間に対しての黄瀬の結論。


・基本、顕在的なサディスト。
・でも、潜在的にはマゾヒスト。


結論:概していわゆる、『ツンデレ』。


高尾っち、わりとオイシイところ持っていってるんじゃないスかね? と思った。













仲良くしてるのが好きなんです(笑)。
ただそれをやりたかった。 プッ