[ Imagination is more important than knowledge. ]





最後にとりとめなく話した内容のうち、
もうほとんど大部分は本当に本当に他愛も無い雑多なることだったけれど。




でもそのうちの一割にも一分にも一厘にも到底満たないくらいのやり取り、
量にして 『400字詰めの原稿用紙一枚分あるかないか』 程度は、
たぶんそこそこ身も実もある会話だったんじゃないかなあと勝手に弥子は思うのだ。





















「・・・・腹八分目、って言葉があるじゃない」
「それがどうした?」
「確かに的を得てるとは思うけど、でもずっとそうだと残り二割のシアワセは、絶対手に入らないままのような気がする」
「ふむ」




彼は天井を仰いだまま、視線はそのままでただ意識と声のみ弥子に向け、
続きを促す。




「改めて問う。 貴様の幸せとは何だ」




「・・・・・・」




弥子はほんの少しだけ、考えて。




「幸せっていうのはね、おなかが空いてないこと」




アンタと一緒に居て、よく解かったし。 と、真っ直ぐ頷く。




「もちろん、ほしい幸せは他にだっていろいろあるけど、 ・・・・でもね」




一緒にいる間、いろいろなものを貰った。 否、押し付けられた。
教え込まれた。 否、叩き込まれた。
身に付けさせられた。 ・・・・否否、調教された。
だからわかる。




「いろいろ欲深に欲張ったって、どうせ欲しがるのはひとつなんだから」




実際、一緒にいた期間はそれほど長い時間じゃなかったけれど、
それでも弥子の時間軸を歪ませて、




そうして思い返せばコイツとの出逢いはもう、
「偶然」 とかいうラッキーなものなんかじゃなくて、
だからといって 「運命」 とかそういう生易しいものじゃなくて、
とは言っても 「宿命」 だなんてそこまで仰々しくなるわけでもなくて、
ただの呪いと同義語の一種のアクシデント。




だけど解けない呪いは醒めない誘惑にも似ていて、




仕掛けられていたのは甘い罠ではなく、痛い縄。




「私は、プラトニックでも別に構わなかったんだけど」




(今更遅いけど)
生臭さが無くってそれもいい感じだったかもしれない、と呟くと、
いつも通り、鼻先でせせら笑われた。




「フン。 プラトニックとは単なる不能と不感症との関係だろうが」




「・・・・・・え」




それを言っちゃおしまいなんじゃ、と軽く口許が引き攣る。
が、もう流石にそれにもこれにも慣れきっていて。
いつもながらミもフタも無い(あるのは絶対的な自信だけ)、彼の断言。




「そんなものを大仰に飾り立て、
肉欲を超越したと吹聴し、精神の自慰的行為に耽るほど貴様は愚かではあるまいに。
・・・・・・・・、いや、間の抜けきったその顔はやはりバカか」




「腹立つ・・・・」




こんな。
こんな最後の別れ際も極まれり、みたいな時にもいつもの暴言、いつもの科白。




でもね、
でもね。
アンタのこと、




「腹立つ!!」 って思ったことは何度もあったけど、
「嫌い」 だなんて思ったことは一度だってなかった。




この感情を糧にして、私は待っててあげるから。




「ヤコ」




長い指が招いて、化け物らしくない目蓋への優しいキスが眠りを誘う。
弥子は甘い睡魔に身を委ねた。








「未来永劫、貴様は我が輩の、 『・・・・・・・・』 だ」








意識が途切れる寸前、鼓膜を通して届いた囁き。
だから最後はよく聞こえなかった。
「貴様は我が輩の、」 で 一旦途切れ、そこから後は。
(どうせ「奴隷」とか「下僕」とかそんな単語に決まってるけど)












未来永劫。












ミライエイゴウ。
















―――――――― 未来へ、Go。





ものっそハズカシイものを書いた気がします(←「気が」、ってちっとも気のせいじゃないよ・・・・笑)