[ わわん ]





「ワゥ・・・・」




一昨日あたりから、コロマルはとてもとてもつまらない。
昨日あたりから、とてもとてもつまらなくてサミシイ。
今日になったらつまらない上にサミシクて、その上とてもとてもとてもとても退屈で退屈で。




毎日お日さまと一緒に目を覚まして、
毎日ゴハンをおいしく食べて、
毎日お散歩に出かけられるだけでコロマルはシアワセなのに、
どうして人間はそれだけじゃダメなんだろう。
どうしてみんな、自分の足じゃ歩いても走っても行けない遠くの遠くへ行こうとするんだろう。
どうしてみんな、揃っていなくなったりするんだろう。












どうしてコロマルを置いて、『シューガクリョコウ』 に行ったりするんだろう。












「・・・・ワゥ」
一昨日からコロマルと天田少年とを残して、みんなしてシューガクリョコウに行ってしまった。
(そしてコロマルにはいまいち 『シューガクリョコウ』 がどんなものなのかわからない)
もちろん、天田少年は一昨日も昨日もそして今日もコロマルの朝ゴハンをきちんと用意してくれたし、夕方学校から帰ってきたら一番にお散歩にだって連れて行ってくれる。
そんでもってお散歩のあとは、シューガクリョコウに行けないお留守番コロマルのために、
美鶴が特別に用意していってくれた高級生肉フードの晩ゴハンが待っている。




でも、やっぱりサミシイ。 やっぱりちょっとツマラナイ。
みんながいないからタルタルにも行けない。
行けてないから少し運動不足で、
ベイべべイベとどこからか流れてくる音楽に合わせてケルベロわんこも召喚できていないから、フラストレーションもちょっと溜まっている。
けれどもみんながいないのは仕方ないし、しょうがないから今日は朝ゴハンの後、
天田少年が学校に行ってしまってから、
いつもの定位置のテレビの脇でずっと一人でウトウトしていた。












そうしたら、ちょっとだけお昼寝の間に短いユメをみた。












ユメの中で、荒垣先輩と会った。




「よう、」
ってアタマを撫でてもらった。
ユメだったから、そこの場所がどこだったかわからない。
寮の中だったのかもしれないし、もしかしたらコロマルの居た神社だったのかもしれない。
だけど大スキな荒垣先輩と会えて嬉しかった。
パタパタ、を通り越してブンブン振り過ぎた巻きシッポがどこかにスポンッ!って千切れ飛んでしまうんじゃないかってくらい、嬉しかった。
コロマルの本能で、これはユメだけどユメじゃないって思った。
ユメなんかじゃなかったから、目の前にいる荒垣先輩はホンモノだった。
だって覚えていた。 このニオイ。 アタマを撫でてくれるこの手の感じ。
覚えていたっていうか、知っていた。 だからユメでもホンモノだった。
嬉しくて喜んで、「ワン!」 て、「ワンワン!」 ってたくさん先輩の名前を(コロマルの言葉で)
呼んだら、先輩はちょっと笑った。 ちょっと笑ったあと、
「相変わらず威勢がいいな」
今度は背中もさわってくれた。
「特に何か、変わりはねえか」
そう聞かれて、コロマルは今の唯一の不満事、
『みんなシューガクリョコウでツマラナイ』 ってことをいっぱいいっぱい話した。
アイギスがいないから、コロマル語が通じるかどうかがわからなかったけれど、
フシギなことに先輩にはきちんと伝わったようだ。
「酷ぇな奴らも。 コロちゃんだけ残して行ったか」
「ワン!」
大きく頷くと、
「お前一匹くらい、でけぇバッグか袋か何かに詰めてアキにでも担がせときゃ何とかなりそうなモンだ」
「ワン?(バッグ? 袋???)」
それはちょっと窮屈そうだ思ったら、
「・・・・まぁ、土産の一つや二つでも持って帰って来んだろ。 もし忘れてたら、アギダインの一発でもかましてやれや」
「ワンッ!(了解!)」
元気に返事をして、それから次に、
絶対絶対荒垣先輩に聞いてほしいことがあったことをコロマルは思い出す。
誰でもない、明彦のことで。
「ワワン、ワン」




→最近、やたらとコロマルの食事にプロテインをこっそり仕込んでくること。
(とてもとてもゴハンが不味くなるからやめてほしい)

→タルタルでのこと。
べイベべイベと戦闘が終わる際、隣のコロマルが耳タコになってしまうくらい、
必ずと言っていいほど明彦は最後、「見てるか・・・シンジ」 で締めくくること。
この間なんて、一晩に連続して二十回以上もそれだけを言い続けたこと。
(※実話)




伝え終えると、荒垣先輩は少し困ったような呆れ果てたような、
それでいてどこか笑ったのような、微妙なカオをした。
コロマルにはできない表情だった。
そしてそんなカオをしたあと、「あのバカが・・・・」 と小さく舌打ちをして。
「ワゥ?」
だけどコロマルは気付く。
舌打ちの直後、すごくすごく小さい動きで、すごいすごい一瞬だったけれど、
「・・・アキ」 って形に動いた先輩の口許に。
それと一緒、コロマルの背中にあった手が一段と優しくなったことに。
わんこの本能、なめたらいけない。
「ワゥワゥ?」
ついでにもう一つ、気付いてしまった。
ほんの一瞬だったけれど、荒垣先輩から何故だか明彦のニオイがしたことに。
コロマルwithケルベロわんこ、なめたらいけない。




「???」
その理由は残念ながらコロマルにはよくわからなかったけれど、
さっき荒垣先輩が言った 「あのバカ」 はきっと 「良いバカ」 で、
翻訳すればきっときっととてもやさしいコトバになるんだろうと思った。




そんな感じでじっと荒垣先輩を見上げたら、
もう一回アタマを撫でてくれながら先輩は、
「アキの野郎を、よろしくな」
最後、そう言った。








「ワン!(まかせとけ!)」








張り切って返事をしたら、張り上げた自分のその声で目が覚めた。
繰り返す。 寝てたけど、ユメじゃない。




















―――――― だって先輩の手があったアタマと背中が、こんなにもあたたかい。
























それからすぐ、揃ってみんなは帰ってきた。
明彦を筆頭に野郎共は何だか疲れたような、やつれたようなカオをしていた。
「美鶴の処刑が・・・・」 とか何とかかんとかブツブツ言ってたけれど、一体何のことだろう。
でもまあ、それほど大したことじゃなさそうだ。 気にしないことにして、
夜、各々が部屋に引き上げたあと、コロマルは明彦の部屋に行ってみた。
部屋のドアは閉まっていたけれど、前足でカリカリ引っかいたらすぐに開き、
「なんだ、お前か・・・・?」
顔を出した明彦の足の隙間からするりと中に入る。
そんなコロマルを明彦は怪訝そうに眺めて、何を言うかと思えば。
「そうか、プロテインをねだりに来たのか、コロマル」
「ウ・・・・!」
違う! 絶対違う! 違いすぎる。
荒垣先輩からよろしくされたから、様子を見に来たのに。
なのに、あんなマズイもの食わされたりなんかしたらたまったものじゃない。
必死で首を横に振り、シッポをだらんと下げて 「いらん!」 と示すとやっと、
「ん? 違うのか」
そうじゃないってわかったようだった。 通じた。 よかった。
コロマルはホッとして、ベッドに腰を下ろして座った明彦にあらためて近寄る。
近寄ってみたものの、どうすればいいんだろう。
「コロマル?」
「・・・・・・・」
とりあえず、フンフン匂いを嗅いでみた。
別にヘンなニオイはしない。 体調も崩してるわけでもなさそうだ。
「あ、おい!」
来たついで、明彦が驚くのも構わずベッドに飛び乗ってみる。
ふかふかだ。 人間ばっかりこんなイイ場所で寝て、ちょっとズルイ。
今夜は自分もここで寝る。




そう決めてゴソゴソ毛布の中に潜り込んで行ったら。
「・・・・ワワワゥ???」
またもまたも気付いてしまった。
コロマル自慢の嗅覚は、気付いてしまった。
ここは明彦の部屋なのに、今は明彦しかいないのに、明彦の布団なのに、








荒垣先輩のニオイがほんのわずか、
ほんのちょっと、残っていた。








荒垣先輩は明彦と、本当に仲良しだったんだなあと思った。
次にユメの中で会ったら、そう言ってあげようとココロに決めた。












そんでもって物凄く今更だけど、最初から知ってたことだけどもひとつ報告。












明彦もコロマルも、そして寮のみんなも全員全員、今は先輩と同じで前だけをみてる。













なんとなしにホモくさくなってしまいました。 なんで!(失笑)
ついでに物凄くハズカシイ内容な気がします。 でもわんこだからいいよねと自己暗示。
コロマルラブ・・・・!