[ ツミビトコゾリテ ]



(『七〇八〇』 → 『本気でタイトルが思いつかない』 の後に読んでいただけると幸いです)







「えーと、キミとここで会うの、これで三回目?」




「・・・・・・・・たぶん」




三度目の正直。




夢の中で遭遇するのも、きっとこれで終わりだとなんとなく最初から気付いていた。




八十稲羽市を後にしてしまえば、
この地から一度去ってしまえば、再び二度と夢の中でさえ会うことは無いと何故だかわかっていた。
それはたぶん相手も、
もう此処でしかまみえることのない、足立も同じように知っていたはずで。 
だから彼は自分の、鳴上の顔を見るなり苦笑したのだろう。
だから単前触れも前置きもなく眼前に現れて、単刀直入に、


「キミ、僕のこと好きだよね」


唐突にそんなことを問い掛けてきたのだろう。
肯定するにしても否定するにしても、全てが今更、
問う方も答える方、双方にとっていくらなんでも遅すぎる命題を今、わかっているからこそ、
ここになって口にしたのだろうと思う。


「・・・・好きじゃないです」


全てが終わっている今だから、終わってしまっている今でしかないから、
鳴上だってそう答えることしか出来ずにいると、足立に軽く笑われた。


「嘘吐きだなあ。 じゃあ、好きじゃないっていう証明、見せてよ」


「・・・・え?」


一体何を言い出すのかと思って、その顔を見つめ返してしまうと、
彼はへらりとしたいつものカオで言葉を紡ぐ。


「好きじゃないっていう証拠が出せないなら、僕のこと好きってことに決定するけど。 イイ?」


こういうのをね、『悪魔の証明』 っていうんだけど知ってた? と重ねて告げてくるから、
戸惑いながらも鳴上はごく素直に反論する。


「それなら、俺があなたのことを好きだっていう証拠はあるんですか」


こうやってすらりと反論できるのも、
ここが現実ではない夢の中だからで、


「そんなのないけどね」


彼がこうやって浅く笑って返してくるのも、
あくまでリアルでは無いこの場所であるからで、


「だったら、違うかもしれないじゃないですか」


二人、こんなふうに、


「違うって? それはちょっと淋しいなー」


「・・・・・・・・」


きっと本心。
おそらく正気。
だとすれば狂っている。
彼も自分もこの夢も。
全てが狂っているから、何が何処がおかしいのか全然気付かない。
それともこれが、悪魔の証明。 判別不可能な証明、の裏返しなのか。


「・・・・足立さん、」


特に理由もなく名前を口にしてしまうと、彼は、


「悪魔は神なんかよりずっと誠実だよ。 信じてなんかなくても、勝手に心の中にいるからね」


祈りなんて一切不要、
崇拝も何も必要ない。
唯一神という訳でもなし、ただ願うだけで簡単に現れては消えて、
しかも大抵何かと引き換えに助けてくれる。
こんな誠実な存在、なかなか他にはいないよなあ。
と、どこか懐かしむような眼をするから。


「あなたは何を捨てたんですか」


「人聞きの悪いこと言うなあ。 引き換えたんだよ」


無遠慮にも、真正面から尋ねてしまった鳴上の問いに、
足立はひらひらと手を横に振って否定しつつ、言い換える。


「何を、」


重ねて問い掛ける鳴上は、自分でも無遠慮にも程があるということくらい承知の上だ。
けれど今きちんと聞いておかなければ、
今ここで彼の口から告げてもらわなければ、二度とこの機会は訪れないであろうから。
けれど、やはり。
やはりと言うか、案の定。
足立はどこまでも足立らしく、
最後の最後まで明確で正確な表現は使ってくれず答えてはくれず。


「それはキミが一番よく知ってるんじゃないかな」


何一つはっきり告げないことをきっぱりとした口調で放って、


「悠くん、僕はね」


「、」


「全部失って初めて、全部いらないものだって気付いたから」


これまた足立は本人以外、一概にはよく理解できない台詞で締めて、


「キミはキミの正義の尺度でいろいろ測りながら、これからも静かな絶望の日々を送ればいいさ」


静かな口調ながらも突き放す響きを持って、その腕を伸ばしてきた。


「それを見届けるのは僕の役目じゃないからさ」


言葉とは裏腹に、差し出された手と、器用だった指先。
不用意に触れてしまいそうになりながら、寸でのところで鳴上はこらえ、抑えながら。


「・・・・俺は、そんなふうに言って欲しくはなかったです」


ほとんど告白したも同然だったのに。


「あれは、足立さんが望んだ終わりじゃないのかもしれないけど、」


「当然だろー? 僕だってあんな形で終わらせたくなかったよ」


僕のゲームをぶち壊してくれたキミが何言い出すんだよ、と失笑して、足立はひとりごちる。


「人生にもゲームオーバーがあればいい、って何度も思った。 追加エピソードはいらないけどね」


終わった後まで期待持たせていろいろ続くのは勘弁だしさあ、と皮肉を交えることも忘れず。


「それじゃ、さ」


最後の最後まで触れることを躊躇っていた鳴上の肩を背中を腰を、両腕で捕らえて距離をゼロにして、








「来なよ。 それで終わりにしよう」








そんな顔で誘われたら、








その声で呼ばれたら、








終わらせるための、
追加エピソードならぬ、突然のエピローグ。








互いに望まなかった結末ながら、
















―――――――――――――――― もう鳴上はその身体に縋ることしか出来ない。




















時系列的にいろいろ矛盾しまくりですけどあんまり気にしないでいただければ幸いです。
自己満足のためだけに書きました。 あっ うちの作文はみんなそうか(笑)。