[ ブレス ]






それはいつもの寄り道帰り道。
あと少しで日が暮れそうな帰路を普段通り、何一つ特別なこともない一日を終える予定で二人、
普段通り連れ立って辿っていたその途中。


「ハァ」


陽介は溜め息をついた。


「ハァ・・・・」
「? 花村?」


「・・・・ハァ」
「花村? どうした?」


怪訝に思ったらしい鳴上が、その横顔をひょいと覗き込むと、陽介は繰り返し、またまたまたも深い深い溜め息をついて。 意味もなく心持ち控えめ、小声でその訳を話し出す。


「今朝、親にな。 超秘蔵本を捨てられちまったんだよ・・・・。 買ったばっかで、まだ全然ちゃんと眺めてもいねーしほとんど読んでもなかったやつ」
だから、結局一度もお世話にならないまま終わっちまってさあ、
しかもプレミア付、先月のバイト代をほぼ使い果たして、来月の給料日まで極貧決定、
何この最大級の不幸、と陽介がぼやけば、それまで黙って聞いていた鳴上は不思議そうに。
「そんな、捨てられるようなところに置いておいたのか?」
プレミア付き、なグラビア?もしくは漫画? を、それとわかってしまう場所に放置しておけば見つかって捨てられても文句は言えないだろ、と逆に問い掛けられてしまった。
鳴上の言わんことも最もだ。
が、いくらなんでも陽介だって放置しておいた訳じゃない。 する訳がない。
「違うって。 そんなキケンなとことかに置かねーし、放り出したりとかしてねーって」
ゆるゆると首を横に振りながら、しっかり訂正。
「それじゃ、クマにでも発掘されてバラされたとか」
「・・・・今回はそれも違う。 クマは一切ノータッチ」
「?」
疑問符と共に、それじゃわからないな、と首を傾げた鳴上に、またまたまたまた、嘆息しつつ。
「今度こそバレねーように、って。 部屋の隅の、三ヶ月に一回くらいの割合で捨ててる雑誌の束の隙間にそれとなく差し込んどいたんだよ。 古雑誌なんて、テキトーに溜まったときに自分で捨ててたからさ。 親が捨てたところなんて今まで見たコトなかったし。 それがさ・・・・今回に限って・・・・」
たまたま気付いた母親が、わざわざ気を効かせて、まとめて紐で縛って町内の廃品回収に出したのだ。
雑誌自体はまあ、ごくごく普通のものばかりだったからその中にたった一冊紛れていた、
陽介曰くの 『プレミア付きのちょっとアレでアレで×××な本』 の存在は分からなかったらしい。
そのまま、有象無象の数十冊と一緒に捨てられてしまい、
そのことに気付いた陽介が顔色を変えて 「なんで捨てちまうんだよーーーー!!?」 と叫んでも喚いても、
「でもいつも捨ててたものだったでしょう?」 「いらないチラシもいくつも重ねてあったし」 「去年のカレンダーとかもあったわよ?」 「前の学校の教科書とか」 などなど、
一ミリたりとも反論できない事実を真っ当に並べられ、陽介としたらそれ以上何も言えなくなる。
しかも母親に悪気はこれっぽっちもないのだ。
普段ならむしろ感謝するべき件、であるはずなのだが、
まさか母に向かって 「あの中には! 俺の好みの女の子やお姉様が! AからHカップまでいろいろ! いろいろ!!」 などとまくしたてる訳にもいかず、
計り知れない大ダメージをココロと懐に受けながらも何も言えず終わってしまった今朝の一件、
校内にいるときには何とか気が紛れて忘れることが出来ていたこの悲劇を、
帰り道、今になってまた深々と思い出してしまって、
一部始終を鳴上に語り終えたあと、陽介はまたまたまたまたまた、重いタメイキ。
すると。
「タメイキばっかりついてると、幸せが逃げるぞ」
どこかで聞いたような台詞を鳴上が口にしてきたから。
起きた悲劇に僅かなりともやさぐれモードに入っていたこともあり、珍しくも決して素直には受け取らず、
「・・・・幸せが逃げたから、タメイキついてんだっつの」
ぼそっ、とそう呟いて、
けれどすぐ、あっコレ八つ当たりかも、ゴメン鳴上、やっべーコレ完璧に八つ当たりじゃん、と自ら気付いてぶんぶんと頭を横に何度か振り、陽介は気持ちを切り替える。
切り替えて、いつもの口調、いつものテンポに戻って。
「ってなワケで、暗ーく沈みかけそうな俺を助けるためにさ、お前、なんかイイ本持ってない?」
お前、ときどき物凄いモノとか発掘しそうだしさ、と半分本気、半分冗談混じりで訊ねてみた。 すると。
「悪いな、持ってない」
即答。
「少しは・・・考えてほしかったんだけど・・・・」
考える間もなく、所持品の記憶を辿った様子もなく、の鳴上の返答の早さに陽介が唖然とする中、
鳴上はどこまでも真顔で。
「最近、どうも胸にも大して興味がわかない」
お前それ健全な男子高校生としてマズイだろ、と思いかけ言いかけた陽介に、
「花村がいればいい」
「・・・・!!」
あるイミ不意打ちの笑み、出し抜けの一言。
「乳は大きさや形じゃない。 誰についてるかだ」
「な・・・・」
「だから俺は、平坦で薄いお前のがいい」
「・・・・な・・・・」
だからアレでアレでアレな本とか必要じゃないから持ってない、ときっぱり豪語され、
二の句が告げずにいる陽介に、鳴上は更に続けて、
「こうやって花村見てる方が、よっぽど興奮するし」
そんな台詞を、少々の笑みを湛えながらも、普段と大して変わらない表情でしれっと言ってのける。
しかもそれが冗談とか揶揄とか冷やかしの類ではなく、
100%本気、本心からの言葉だともう理解してしまっているから、余計。 タチが悪い。
口にしてくる鳴上も、
理解できてしまっている自分としても。 繰り返す。 タチが悪すぎる。
「お前、なあ・・・・」
次、どうやって返せばいいのか一気にわからなくなって、そこから止まったままの陽介相手、
鳴上はまるでこの展開を用意していたの如く、ごくごく自然に。
「それじゃ、これからこのままウチに行こう。 可哀想な花村をイヤってほど慰めてやるから」
「・・・・お前・・・・、なあ・・・・」
ストレート過ぎるお誘いに、同じフレーズを陽介は繰り返さざるを得ない。 (無論、二回目の方が一層多大に呆れ成分が加算されているが)
「そういうところ、スゲーよな」
いろんな意味で驚く。
でも一応これでも鳴上的にTPOはわきまえているらしく、
少なくとも仲間内や身内、知り合いの前などでそんなことは言い出さないし、
素振りも、見せては・・・・いない。 たぶん。(←これについて・・・・は、正直、自分の方が自信が無い)
しかし(能力的に) りせには筒抜けであるのだろうし、りせがそうならば自然、直斗にも伝わっていることは間違いなく、千枝と雪子には・・・・おそらく、全てバレている。
残る完二とクマについては、二人にはこのまま純粋に健全に育って(?) 欲しい、との思いがあって、
あまり深く考えないようにしているのだけれども。
蛇足までに堂島あたりには・・・・悟られている気がしまくり、だけれども、
あの人の性格から言って、深くは口など出しては来ないし、
菜々子にさえ被害危害が及ばなければ、見て見ぬフリをしてくれそうな予感もするから。
「そういう強引なトコ、女の子になら滅茶苦茶効果的だと思うぜ。 カオだっていいんだし。 勿体ねーの」
そんだけ出来たヤツなのに、なんで俺なんか選んじまうんだろうなお前、と少しだけ茶化せば。
鳴上はほんの少し、思い出すような目をした。
「まあ、先に惚れたのは俺の方だから仕方がないかな」
言って、「転校するなり、股間を強打しまくる花村を見て、劇的に転がり落ちた」 と笑う。
「友達になる前から、ペルソナ使いになる前から、一目ぼれ・・・までとは行かなくても、二目ぼれはしてた」
「・・・・・・へえ、」
今更ながらのそんな告白に、陽介は少しだけ驚く。
そんな感情を先に抱いたのは鳴上の方なのに、
基本、恋愛なんて先に惚れた方が負けだと決まっているようなものなのに、
なのにいつだって主導権を握って、駆け引き(?) に持ち込むその手管というか手練というか手法に、
ここまで来たならもう感心。 すでに感服。
「だからあの頃はけっこう気が気じゃなかった。 先に彼氏がいたらどうしようかと思って」
「・・・・・頼む。 せめて 『彼女がいたらどうしようかと』 に言い直してくれ・・・・」
「ん。 その心配はなかったな。 当時から」
「なーるーかーみー・・・・」
「冗談だって」
「嘘つけ。 そんじゃ、どうしてずっと真顔で笑ってんだよ」
「疑われてるのか。 花村に疑われると少し、落ち込むな」
言って苦笑混じり、ふう、と鳴上が息をつく。
すかさず陽介は言ってやる。
「タメイキつくと、幸せが逃げるぜ」
先程の鳴上の言葉をなぞって、繰り返し。
すると彼は、
「そんなことで逃げる幸せなんていらない」
花村がいればいい、って言ったばっかりだろ? とこれまた繰り返し、
「と言うわけで、」
改まってごほん、と咳払い。
「・・・・は?」
「うち、これから来るよな花村?」
「・・・・・・・・・は? ・・・あ、あー、えーと・・・・」
改まって改まって誘われていざなわれて、少し、躊躇する。 今日はそんなことになる、否、ソンナコトヲスル日になるとはこれっぽっちも思っていなかったし。
「どうすっかな・・・・」
どのみち、結局頷くことになるとはわかっていながらも、とりあえず考えるフリ。
を、していると。


「返事は3択。 『行く』 か、『いいぜ』 か、『YES』 のどれかだ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一応、どれか選べって?」


「ああ」


「んじゃ。 ・・・・・・二番目の 『いいぜ』 で」


「いい返事だ」


「だから! それ、俺のセリフだっつの」


お前それが言いたいだけだろ、と笑ってやって、陽介的に一応、しっかり注釈も忘れずに。
「けど、一回だけだからな。 明日、体育あるし」
その言葉に、鳴上はひとつ、息を吐く。
目敏く見つけて、二人合わせて本日三度目、そろそろ言い飽きそうな言葉、


「タメイキつくと、幸せ逃げるぜ」


これでもかとばかりに言ってやったら。


「タメイキじゃない。 幸せが溢れただけだ」


嬉しそうに、そう返された。
























やっぱり鳴上がしたいなら、一回だけじゃなくて、
二回くらい・・・・・・やってもいい。





清々しい高校生ほも! をやりたかっただけです(笑) ←どこが清々しいのか
とりあえずデフォルト、女の子グループはりせ直と千雪(逆でも可)で出来てる設定でございます

しつこいほど(・・・・)仲良しなのがスキなんです。 ぐっ