[ Azathoth ]


※『七〇八〇』 → 『本気でタイトルが思いつかない』 →『ツミビトコゾリテ』 の順番の後に読んでいただけると幸いです。
これで本当に終わりだと思う。 たぶん






鳴上がその細い身体に縋ることしか出来なくなって、
夢中で貪り貪られ尽くしたあと。
気のせいか仄かに水気を孕んだ髪をかきまぜながら、
この際(どうせこれが最後だ) 足立は訊いてみた。




「結局さあ、キミは僕のどこが好きだったの?」




本当に何を今更、だと思う。
思い返してみればこの子供の態度と素振りは(※足立が気付いた時点で)、
どうやら本人はそこそこ隠していたつもりではいたらしいけれど最初から初めから見え見えだった。
だからこそ意外でもあり滑稽でもあり、結局全てが曖昧なまま中途半端なまま時間は経って日付はただだらだらと流れ、気が付けば物語は終わってしまっていて、取り残された(主に鳴上の) 心残りだけが蠢いた末、互いに望まないこんな状況を生み出してしまった結果なのだけれど。




「僕、途中まではわりと巧くつくって、誤魔化してたと思うんだけどさ」




そうたぶん。 少なくとも本格的な寒さが訪れるまでは。




「ありのままの自分でぶっちゃけたのは、本当に最後だけだったからねー」




だからやっぱり、そこそこ穏やかでテキトーで無能だった晩秋くらいまでの僕が好きだったって解釈でいいのかな、
とひとりごちると、やっとそこで鳴上は、だるそうに上体を起こし二度、三度指で目蓋を擦り、少しだけ考えたようだった。




「わからないです。 ・・・・でも、両方だと」




その返答に、足立は思わず失笑しかけて危ういところでそれを憫笑に変えてやる。
しかしその微妙すぎる差異は鳴上には判別が付かなかったらしい。
結局、ただ嗤われたのだと受け取ってあからさまに視線を落とした。
こんなふうに堂々と傷付いた顔をしてみせるこの若造に、何て言葉をあびせてやろうか僅かに逡巡したあと、




「あのねー、悠くん」




結局のところ生ぬるい呼びかけプラス、




「両方、ね。 つくりものの僕も、ありのままの僕も両方好きだって?」




柔らかな秋の終わりまでの口調に最後、




「だったら僕じゃなくったって良かったんだよ」




本音めいた響きを添え、足立は締めくくった。




すると当然の如く、「、そんなこと、ないです」 なんて独創性のひとつも無い呟きと共に更に傷付いた表情で子供は俯いてみせる。 どこまでも予想通りで逆につまらない。
「んー、まあね。 そこまで深く考えてないことくらい、わかっちゃいるけどね」
そう、ただ単に幼いだけなのだ。 図体ばかりでかくて、惚れた腫れたの経験も浅く、
しかも同性相手に対するスキルだなんてほぼ皆無だったこのクソガキは、何もわからないまま青臭い正義感と使命感にただ操られて突っ走って、挙句このザマで。
それにしたってどうしてキミの方がぐんにゃりしてるのさ、
現実じゃ僕の方がよっぽど大変な立場にいるんだけどそこんとこわかってる?
と足立は小さく息をつく。
それでも、顔を落としたまま上げない鳴上の頭、後頭部をぽんぽんと叩いてやりながら。




「いつか、キミも理解できるようになるって前提で、これは僕のひとりごと」




理解できるようになったら、僕の言い分も多少は理解できるようになると思うよ、と前置いて。




「自分のことが大嫌いなのに、輪をかけて自分が可愛くて仕方ないんだ」




一件、矛盾理論だけれど実際、決してそうでもなく。




「ずっとそんなまま生きてきた僕は所謂、『瑕疵物件』 だよねえ」




だけど同じく心に 『精神的瑕疵アリ』、なキミに。 鳴上悠に。
独白、の形をとって足立は続ける。




「僕は自分があんまり好きじゃなかったけどさ、でも今でも自分が一番大切」




「足立さん、」




顔を伏せたまま何か言いかけた彼の呼びかけをここぞとばかり無視をして、
あえて足立は笑ってみせた。 普通に。




「はい。 ひとりごと終了。 まあね、結局どこかで妥協しないと他人を好きになんてなれないでしょ。
キミは性別を妥協したの? それでシアワセになれるとでも思ってた?」




笑いながら、棘のある問いかけ。 しかも当の相手が犯人だったしねえ、と厭味も忘れずに。
今度は答えようともしない鳴上に、告げる台詞を重ねていく。




「シアワセ、っていうのはさ、『死と隣り合わせ』 の略語って説もあるし」




良かったね生き残って、でも僕はもうゲームオーバーな訳だけど、と自虐も交えて棘を深く、深く刺したあと。




「もう諦めなよ。 現実にはいない僕より、目を覚まして振り返れば見える友達の方が必要だろ?」




ついさっき、ぽんぽんと軽く叩いて撫でてやっていた後頭部の髪をぎりっと掴んで引いて、




「ッ・・・・」




痛みと引かれた反動で上向かざるを得なかった鳴上と、
至近距離、無理矢理視線を合わせ、そうして。








もうすぐ失うキミのために。








失った自分のために。










「でも、真実なんて放り投げればよかったのに」










吐き棄てて、突き放した。










今までのが鳴上バージョンだった(そうなの?) のでアダッチー版で書いてみました。
でも前の自分で全然読み返してないのでちっとも繋がってないと思いつつ、やさぐれたアダッチーもたまには(?) いいかなーって

でも不発に終わってしまった感まんまん     ぐはッ