[ パーを出してみた (Side 陽介) ]






「・・・・・・・・。 明日、ウチ、来ねー?」


「?」


「明日から親父、社員旅行なんだよ。 んでさ、『ちょうど良かったわー』 とか言いながら母親も友達と泊まりがけでどっか出かけちまうって」






なんかもう色々ぶっちゃけ合って久しいし、
時々そこそこイイ雰囲気、になればなったで子供のような、ただ啄ばむだけのキス程度なら何度かかわしてもいたし、
それにそろそろ次の段階に足を踏み入れなければならない頃合、そんな空気をきっとお互い感じ始めている気配も醸されているようであったし、
コイツ相手に今更ウダウダ戸惑ったり遠慮してみたり、そんなことは最初から不要なことでもあって、
加えてコイツがこの町にいられる時間とリミットも、来年の3月までと決められてしまっていたから。


だからここらで正直に、陽介から切り出してみた。






「ってコトで、一人じゃつまんねーし、お前の都合が合うなら泊まりに来ねーかな、って」






自分でもわかっている自らの性質ゆえ、おそらく表情と言葉の節々に僅かな緊張と、照れとが入り混じったものが浮き出てしまっていたとも思う。
それでも察知した様子や気配など微塵も見せず、彼は、
当の鳴上は 「ああ、行く」 と間髪入れず即断即決。 首を縦に振る。
その返答っぷりに内心少しだけ驚きながらも、
「ん。 そんじゃ部屋、今日のうちに掃除機くらいかけとかねーとな」
陽介がそう締めくくったところで、今日の昼休みが終わった。




























そして翌日。 放課後。 花村宅陽介部屋。
堂島親娘から外泊OKの許可を貰った鳴上と、学校からそのまま直行、
六限が体育でふたり揃って小腹が空いていたため、
自宅の台所を陽介がガサゴソあさって見つけ出した切り餅(・・・・) をオーブンで焼いて食べたあと、
いつもの普段の他愛無い、雑談。
「正月以外に食うモチって、なんでこんな美味く感じるんだろうな」
そう思うの俺だけ? と鳴上に聞き返すと、
「いや。 俺もそう思う」
これまた即座に肯定してくれた。
「だよなー! やっぱり」
クダラナイことだとわかっているけれど、素直に嬉しい。
おそらく少し前までの陽介なら、その程度の小さな好みと思考の符合が合致したところで別段何とも思わなかったに違いない。
だけれど、ほんの僅かでも自分を含めた他人のココロの中の裏と表とを覗き見てしまった今は、
そんな些細な好みの一致が、どれだけの価値を擁しているか多少は理解できるようになっていたから。
首元のヘッドホンを取り払って、机の上に置きつつ、ゆっくり、切り出す。
「お前と俺って、なんか、どっか欠けてるトコロが似てるような気がしてたからさ」
「? 花村?」
鳴上が怪訝そうなカオをして自分を見てきたけれど、構わず続けた。
「余所者、転校生ってのは勿論、飄々としてるフリしてても何やったってあんまり満たされてない、みたいな空気とか」
「・・・・・・・・・」
「あ、当然、鳴上的には無自覚なのもわかってっけど。 俺だって、『満たされてませんよ空気』 全開にしてるワケじゃねーし。 むしろカラ元気でリア充目指して頑張ってるっぽく取り繕ってる割合のほうが断然多いし」
「・・・・・・・・・」
「けど、俺のひとりよがりかもしれねーけど、やっぱ似てるって感じちまうんだよな。 相手の世界に入りきれないトコロとかさ」
「それは、」
独白に近い陽介の言葉に、鳴上が何かを告げようとしてきたのだけれど、
それとほぼ同時、ここまで口にしたのだから最後まで本音を吐き出してしまいたくて、
「俺、周りの奴らほどいろいろ持ってねーし、将来のこととか、まだ全然見えてこねーし」
鳴上の台詞に重ねて発言。
おかげで彼は途中で口をつぐみ、何と言おうとしていたのかわからないままになってしまった。
すると鳴上は三秒ほど考え込んだ様子で、けれどすぐに真っ直ぐ自分を見ながら。
「ここに来て、いろいろ体験してから、俺は持ってないものを嘆くより、持ってるものを大切にしたほうがいいって思うようになった」
ここに来る前はそんなこと考えたこともなかったな、と彼も陽介と似たようなことを呟いて、そして締めくくりに何を言うかと思えば。
「相手の世界に入れないなら、自分の世界に引き込めばいい」
出た。 リーダー特権。 ヒーロー特典。 彼にしか出来ないゴーイングマイウェイ発言。
「・・・・・・・・・・・・。 お前、さあ・・・・・・・」
改めて呆れ返りながらも、たまらず陽介は苦笑する。 わかってる。
初めから最初から、わかっている。 だって気付いてしまえばとても簡単なことだ。
「あーハイハイ、 ・・・・そっか、そうだよな。 まだ何にも持ってないってことは、これから何でも持てるってことだもんな」
ゆっくりと、しかし確実に丁寧に苦笑を穏やかな笑みに変えながら、


「・・・・・・んじゃ。 あのさ、 鳴上が、お前がイヤじゃなきゃでいいんだけど」


告げる台詞は、想像したよりよっぽどシンプルに、楽に発せた。


「そろそろ、オトナの階段昇ってみようぜ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・クマ?」


「そこでボケるか、普通」


呆れた口調で返すと、今度は真顔で、


「どっちがどっちだ?」


今後を左右する(・・・・) 役割的、負担的にもわりと重要、であることを訊ねられてしまった。
突然そんなこと言われても。
聞きかじった知識だけは(きっとお互いに) 多少なりとも持ってはいるが、陽介の中ではまだ確定していない。


「んーーーー、わかんね。 ま、とりあえずキスだけならまだ関係ねえだろうし」


「それもそうだな」


自分で提案しておいて、放り投げてみせた陽介に鳴上は小さく笑って頷いて、顔を寄せてくる。
そのまま逃げず、動かず、むしろ迎え撃つ(?) 感覚で口唇を受け入れ、
いつもより心持ち長く吸い合って、舌の柔らかさを確かめた後に揃って角度を間違えた結果、
口唇を離す際、最後にガツッと前歯同士をぶつけて失敗。
「いて・・・・」
前歯に響く派手な痛みにたまらず陽介が呻くと、
「今のは・・・・・・成長痛ってことに・・・・しておくしかない・・・・な」
どこまで前向きなんだよお前、と陽介的に突っ込みを入れまくりたい戯言を言いながらも、
鳴上も手で口許を押さえている。 やはり彼も相応に痛かったらしい。
しかしながらもそうして少しして二人、ぶつけた痛みが治まったところで、
ほぼ同じタイミングで、ふうっと息をつく。
絡む視線。 


「「よし、」」


口火を切ったのも、同時。


「「一発勝負のジャンケンってことで」」


提案も、キレイに揃って重なった。 ああ。 考えていたことはやっぱりおんなじだった。








「負けないからな」




「俺も、負ける気はない」








宣言する陽介に、不敵に笑う鳴上。
コイツのこの自信はいつもどこから来るんだ一体、と本気で不思議に思いつつ、一発勝負。








陽介は、パーを出した。
















主陽はじめてものがたりーーーー!!
どこまで甘酸っぱく(爆笑)できるか頑張ってみました。


そしたらただハズカシイだけの前半になった
そして本番は後半に続くという詐欺