[ 七○八○ ]
※主人公の名前は公式(?) の 【鳴上 悠】 でやらせていただきました
真・エンド前提プラス、デフォで主人公×陽介前提で見ていただけると幸いです。
これからずっと一緒に過ごすことが出来るのは他の誰でもない、
花村陽介だと自分でもわかっていたし理解していたし、
【花村以外自分的絶対不可・絶対不可侵】 だとイヤというほど自認して、公言もしていた。
それは何も変わってはいないし今後も変わり得ない事象であって、
だから。
だから、浮気じゃない。
心が動いていたとか、ただの気紛れだったとか、少しだけ移り気めいていたからとか、
そんな思いは当時あの時、その時にはたぶん一切、無かった。
そして今でも、
季節が二月から三月に移行したばかりの現在でも、何ら変わることも代わることもない、
と気にも留めていなかったはずなのに。
何かが残った。
何か小さな、棘のようなものが、ずっと。
十二月のあの日から、残っていた。
イゴール然りマリー然り、夢の中に突如現れる、という手法はどちらかといえば不躾で、
鳴上の立場からしてみれば、(無論そんなこと口になんてしなかったけれど)
正直に言ってしまえば卑怯だと思うのだ。
眠りの世界は一度突入してしまえば回避不可、
しかも大体大概にして何かの拍子に特別イベントが同時進行、
下手をすれば取り返しのつかないフラグまで連鎖で付いてくる可能性も無きにしも非ず、
そんな非日常・非常(・・・・情?) 空間この上なく。
加えて、その夜、実際眠りにつくその前からなんとなく不穏な予感はしていた。
頭の中がざわつくような、
思考回路がざらつくような。
それでも訪れる睡魔には勝てなくて、
深く、
深く、
できることなら夢も見ないくらい深い睡眠に陥ろうとしていた、その途中。
鳴上 悠、
夢に、捕まった。
『やあ、久しぶり』
鳴上を捕まえたのは元来本来、それを職務にしていた男で。
此処にいるはずがない、
もう外にいるはずもない、
道化を演じきろうとして最後に失敗した、皮肉な本物の道化師の末路を辿った彼だった。
二度、三度と周囲を見回して、すでに鳴上は、その中に居ながらここは夢の中だと、
理由は不明ながらも何故だかはっきり分かっている。
霧の中のマヨナカテレビの中と似た雰囲気を持ちながら、
危険性は感じられない無味・無臭のただの空間。
明るくも暗くも暑くも寒くもなく、それでもここに立っているということは、
地面? 床? はあるらしい、
例えるなら朝靄の中、とするのが妥当な中、
彼は、
足立は、
足立透は、不自然さの欠片もなく、あの頃のスーツ姿のまま、鳴上の眼前に立ち、
何事もなかったかのような、あのままのフレーズで。
『元気? って聞いたところでムダか。 いつもムダに元気そうだもんね、キミ』
「・・・・・・・・・・あなたは、」
どうですか、と聞く隙もなく、
『やだなあ、僕が元気なワケないだろ。 檻の中にいるんだよ?』
相変わらずそういうとこデリカシーが無いよねえキミ、と、しかし気を悪くした様子もなく彼は苦笑して。
『ま、せっかくユメの中で会えたんだから、一つ聞いてみようかな』
どうせ目が覚めればすぐに忘れるだろうからねと独りごちた後、
『今更もうありえないけどさ、もし、僕とキミが同級生だったとしたら、友達とかそれ以上の関係になれたと思うかい?』
世間話のような口調で語りかけてきた。
当然にして、鳴上は詰まる。 そんなの、あの頃ならいざ知らず(・・・・)、
結末を知ってしまっている自分がひょいひょいと返答できるものじゃない。
だから、ただ無言のままでいたら。
『あーやっぱり黙秘かあ・・・・。 最初っからそんなことだろうと思ってたけどさ。 じゃ、僕から言ってあげようか?』
「・・・・・・・・・」
『なるワケないだろ。 なれるハズがないじゃん。 御免だね、こっちから』
「・・・・・・・・・」
『あっ、今ちょっと傷付いた表情になった? やめてくれよそういうの。 キミ達なんて僕を全否定したってのにさ』
「・・・・・・・・・・」
『だーかーらー! その都度そういう顔するのやめてくれって。 僕の言うことに今更いちいち傷付くような神経の持ち主じゃないことくらい、もうとっくにわかってるし』
「・・・・・・・・・・」
『でもさ、万が一にもキミがコッチに触れてたら、もしかしたらそこそこのワルイコトはできたかもね』
「・・・・・・・・・・」
『嘘ウソ。 キミにはあのワンコロみたいな同級生がお似合いだよ』
「花村?」
殊更、黙秘を貫いていた訳じゃない。
ただ、これまで何も言葉が出てこなかった鳴上は、今此処にいない陽介の名前をやっと呟く。
『えーと、そういう名前だっけ。 あの、コーギーみたいな、マメシバみたいなさあ』
「・・・・花村」
『彼とはもうとっくにそういう関係なんだろ? イイんじゃない? 一緒に生きてけば』
「・・・・・・・・」
『でもさ、生きてくことって、わりとルーチンワークだから。 山あり谷ありってよく言うけど総じて言えばほとんどが同じ日々の繰り返しだしね。 それも踏まえて大人になりなよ、キミたちは』
「、・・・・・そこまで退屈なものでもないと思う」
矢継ぎ早に語りかけてくる足立に、何か言いたくて、
何か少しでも返したくて、苦し紛れのように口から零れた言葉とは対極の、
自分でも呆れ返るほど退屈で凡庸でツマラナイ、その台詞。
するとやはり、
案の定やっぱり、
笑われた。
『頭悪いなあ〜。 まあ、どっちにしろあと十年経てばわかるか。 ・・・・ん? でも、実際はキミだってそこそこ気付いてるんだろ? 世界の未来は終末に向かってるってことくらい』
「・・・・・・分からない」
『うーん、取調べ的に言わせて貰うと、そうだなあ、そんなとこか。 まあまあ及第点的な答えってとこかな。 もしも未来はバラ色ですって胸張って返事なんかされたら、笑い転げるところだったけど。
僕なんか、生きてくだけで七転八倒してたっていうのにさ』
「それでも、生きていかなきゃならないなら仕方がないから」
だから知り合って、
だから多少なりとも話をして、
だから分かったような気になって、
だから追いかけて、
だから辿りついて、
「だから、 ・・・・・・俺は、」
だから。
だから貴方を。
追い詰めて手を下したのは自分なのに。
彼の言い分の全てを否んで、剣先を向けたのは他の誰でもない、自分であるのに。
だから、もうこれ以上何も言えない。
気付けば固く握り締めた手のひらに食い込んだ爪が痛い。
『あはは、キミのそういうところ、嫌いじゃないよ。 賛同はできないけどね』
穏やかに誉められても、視線を合わせることはできなかった。
すると、一歩だけ足立の踏み出す気配。 距離がその分、近付く。
『それじゃ、キミは七転び八起きで人生を愉しめばいいさ』
「、」
互いの距離も声も、気付けば全てが近い。
踏み出していたのは足立だけではなく、自分も同様だった。 どうして。
『来いって。 世界を救ったキミへのご褒美に、脚と腰くらい開いてやるよ』
「何、を・・・・」
『花村、だっけ? 彼には黙っといてやるからさ。 それともキミが開くかい? 僕はどっちでもイイけど』
動悸がする。
これは夢だ。
『これを逃したら、もう10も年上のお兄さんに手を出すチャンスなんて無いんじゃない?』
眩暈もする。
『ほら、早く』
ただの夢。
悪夢。
凶夢。
淫夢。
息が、あがる。
『早くしないと、朝が来ちゃうだろ?』
何と呼べばいいのだろう。
しいて言うなら逆夢か。
けれどもうなんでもいい。
ピエロにも為り得なかった男が残した、小さく透明な抜けない棘。
その傷跡から立ち込める、シナプスの焦げていく匂い。
先に腕を伸ばして相手を貪ったのは、どちらだったのだろう?
P4ゴールデンでアダッチーに転げ落ちた次第でございます・・・・!
中二病アダッチーが愛おしくて愛おしくて仕方がなくて(笑)、完全自己満足のためだけに書きました。
主人公×花村前提の、主×足。 ・・・・たぶん
ちなみにタイトルは考え付かなくてぶん投げた挙句こうなりました