[ 本気でタイトルが思い付かない]



※主人公の名前は公式(?) の 【鳴上 悠】 でやらせていただきました 





「あれ? また見つけちゃった?」




「・・・・・・・、」




気がつけばまた、夢の中に居た。




「そろそろ、来るんじゃなかって思ってたけど。 やっぱり来ちゃったね。 キミ」




からかうように笑う彼は、あの頃とそう何も、かわらない。




どこまでも軽い口調で自分を苦笑混じりに見てくるところも、
スーツ姿の細身の身体も、夢の中では何一つ、どこにも変化はなく。
だからこそ、鳴上としては 「ああまた夢か、」 と判明して瞬時に判別できるのだけれども。
彼の、足立のさりげない何気ない言葉が一点、気になった。
「・・・・来た、って」
自ら望んでまた此処に来た訳じゃない、と言外に表してみた途端、
何言ってるんだって、とまた苦笑されたあと、
「・・・・ほんっとに若いなあ、ってか相変わらず子供だなあ。 キミ」
やっぱりあんまり何にもわかってないね、とほんの少し、呆れた顔をされた。




それでも、




それでも、どちらからともなく近付いて縺れて床らしき場所に倒れ込む、深い霧の中。
呼吸困難にもなりかねないほど激しく口唇を貪りあい、
服の上からながら、痛いほど互いの身体をまさぐり合っていると、その最中。
「ん・・・・。 ちょっと、待った」
グイ、と足立に押し退けられた。
それほど意識はしていなかったが、たぶん、そのとき鳴上は相当怪訝そうな表情をしたらしい。
違う違う、別にイヤだって訳じゃないから、とフォローしてから足立が何を言ってくるかと思えば。
「その前髪、伸び過ぎじゃない? 僕、短い方がスキなんだよね」
あんまり前髪長いと、視力にだってよくないしさ? と、
どこから出したのか一丁の鋏を手に、いつかのよう、へらりと笑う。 そしてまたフォロー。
「あ、別にこれで怪我させようとか思ってないから安心しなよ。 そもそもユメなんだしさ、ここ」
「・・・・それなら、ここで切っても」
意味が無いんじゃ、と言いかける鳴上を無言で制し、足立は彼が動かないのを良いことに、
当人の了承も得ないうち、
「いつか言ったろ、これで手先はわりと器用なんだよ」
その鋏で手際よく前髪を少しずつ、切り落としていく。
切られた前髪が目に入らないよう、自然、鳴上は目蓋を閉じなければならなくなって、
閉じた眼前でサクサクと響く鋏の音だけに意識を集中させていたら。


「 『いつか』 って言葉はやたら便利だよね。 いろんなイミで使えるし」


「、?」


「過去形にも未来形にもどっちにも対応きくし、程好く曖昧だしさ。 その場凌ぎ、適当に口にするにはピッタリだと思ってるんだ、僕」


「・・・・・、」


「あはは大丈夫大丈夫。 キミには使わないよ。 またいつか出逢う、いつかの二人にはならないから安心しなよ」


サクリ、サクリ。
足立の軽口に、前髪の落ちる音が重なる。


「・・・・・・・・なれないから、さ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


目蓋を上げたい。
目を開いて、鳴上は彼が、どんな顔でそんな台詞を口にしているのか、とても見たくて知りたくて仕方がなかったけれど。


「よく使われる 『心の海』、とか、『同じ空の下にいる』 とかね。 この表現。 やたら使われるけど、一体何?って話。 どこにある海域だよって話。 だからナニ?って結論。 結局は一つも意味が無い。 だから、」


足立はそこまで言ったかと思ったら、


「ほら、終わった」


「あ、」


大してそんなに切っちゃいないけどね、との声に思わず、目を開ける。
僅かだが確かに短くなった分だけ、しっかり視界が広くなっている。
そうして鳴上のその目に映った、すぐ目の前に居る男は。


「・・・・・・だから、もうキミじゃどうしようもないんだって」


独白じみた台詞を紡ぎながら、
足立は自分からネクタイを解いていく。


「それでもいいって自覚があるんだったら、またしっかり相手したげるけど?」


「俺、は、」


答えを濁して襲った噛み付くようなキスも、
年上のくせにやたらと薄い背中に回した慰めるような腕も。


果たして自分は、彼をいたわりたいのか、


「言っとくけど自覚、ね。 似てるけど 『覚悟』 はいらないよ。 あしからず」


「、」


ここまで来ても彼に傷付けられたいのか、わからなくなってきた。



































ふと目を覚ますと、すぐ横で陽介が自分を眺めていた。
「今、・・・・何時?」
陽介の部屋、見慣れたカーテンの向こう、その暗さからまだ陽が昇っていないのは明白だけれど、
微妙に起こり始めた頭痛の中、
あまり表情を見られたくなくて目頭に手をやり、身を起こしつつあえて尋ねる。
「まだ5時。 大丈夫、か?」
「ああ」
陽介の気遣うような声に、とりあえず頷いておいて、冬の朝、しんと静まりかえった部屋の中は二人の気配以外、何も無い。
あれは夢で、
今が現実で、
昨晩からずっと同じベッド、隣で眠っていた陽介こそが、今も温かく感じられる体温こそが本物で、
「花村」
ほぼ反射的に引き寄せる。
「・・・・・・全ッ然、大丈夫って感じじゃないよな」
「大丈夫だって」
「寝起きでそんな思い詰めた顔してるくせに、どこが大丈夫だってんだよ」
こんなとき、咄嗟に心情を汲みとる陽介の察しの良さは、鳴上にとって逆に手痛いものにしかならなくて。
「平気だから」
言い捨てて、再び毛布の中でどれだけ引っ付いても、
唇を合わせても、何も、通じない。
「お前、まだ」
どれだけ身勝手で、どれだけ自分勝手なキスを求める鳴上に対して、
陽介から抵抗の類は一切、無かったけれど。
「・・・・・・・・・・来ない誰かを、まだどっかで待ってたりするんだろ」
通じない代わり、
抵抗もされない代わり、ことごとく、きっと全部バレている。
テレビの中でシャドウ発現、のかわりにこんなところで醜い自分を見せることになるなんて、
あの頃は微塵も思わなかった。
シャドウとして発現に到るまでの価値すらない、矮小で未練がましくて、どうしようもない今の自分。
それを今更ながらも覆い隠すため、
もっと近くで、陽介の柔らかな猫っ毛に顔を埋めたくて、
「花村、」
このまま学校サボって昼まで寝ていようか、と囁くフリをして嘆願する。
何もかもバレバレの、提案を装った鳴上の懇願、に陽介は小さく、深く溜め息を吐いたあと。


「・・・・ん。 いーぜ。 いいけど。 けど、これだけ言わせてくれ」












―――――――――― おまえみたいに静粛に壊れたヤツ、見たことない。












ただそれだけ言われたかと思いきや、ぎゅうっとしがみ付かれた。




顔を見なくて済むようにしがみ付いてくれたのは、陽介の優しさだと思った。








互いに何も知らないまま出遭った春、
微塵も疑いさえしなかった夏、
揃って気付いていない素振りで越えた秋、
押し流されるよう自ら選び取って全て壊し、壊された冬。








あの頃に戻りたいわけじゃない、と鳴上は心中で呟く。








ただ、懐かしいだけだ。








それだけの、ことだ。









真・エンド前提プラス、主人公×陽介前提。
なんですが、VSアダッチーだと主人公攻めなのか主人公受けなのか、
自分でもちょっとよくわからないです・・・・曖昧だ・・・・全て・・・・