[ Night - gaunts ]



※アナザーエンドですが、細かい辻褄合ってないです。 ・・・・・・・・いつものことですが
感覚的に読んでいただければ・・・・と・・・・ ←なにそれ・・・・・






大抵のことなら笑顔で二つ返事で引き受ける。
鳴上は、足立相手には最近、そうすることに決めている。




たとえばつい先刻。
「夕飯、何がいいですか」
いつもの流れでそう訊ねたところ、
「別にー? 何でもいいけど」
まるで興味のなさそうな、それでいて聞いた鳴上的には実のところ一番困る返事がテーブルの向こうからかえってきて、
「何か食べたいもの、ないですか」
再度、言葉を増やしてみると。
「んー。 それじゃ、面倒くさいからスプーン一本で片付く食事にしてよ」
・・・・・・・・・・・・。
なんだそれ、と一瞬どころか数秒、呆気に取られるリクエストをされた。
が、
気を取り直して一番簡単なメニュー提案。
「カレーですか」
すると、
「部屋にカレーの臭いが残るからそれは却下」
全部がカレーに汚染されるんだよねえ、と間延びした声で足立が手をひらひらと横に振る。
「それじゃ、チャーハンなら」
「えー? 物足りなくない?」
だらしなく床に腰を落としたまま、足立は続いてまた却下。
「麻婆豆腐は」
チャーハンからの中華繋がりで次に挙げたメニューも、
「辛いのあんまりスキじゃないし」
「・・・・・・茶碗蒸しとか、」
「それって作るのやたら時間かかるでしょ」
適当に思い付いた茶碗蒸しも、続けてダメ。
それじゃあ洋食で、と、
「シチューも嫌ですか」
「煮込み系も時間かかるんだってば。 これから買い物行ってたら食べるのどれだけ遅くなるか」
「グラタン」
「僕、猫舌」
「・・・・・・・・ドリアとかラザニアは」
「グラタンと一緒だって」
流石に驚きを通り越して辟易した鳴上が、
だったら何が、
足立さんは何なら食べられるんですか、何なら足立さん食べてくれるんですか、と白旗を揚げそうになったら。
足立はふああ、と欠伸混じり、
「僕的には、もうレトルトの何かで済ましてくれていいんだけど」
そんなふうに言ってくるけれど、そこは鳴上が 「俺がこの部屋に上がり込んでいる以上、レトルトの夕食なんて絶対に駄目です」 と言い張って譲らなかった。
仕方なし、
「30分で戻ってきます」
上着に袖を通し、財布の中身を確かめながら、買い物しながら献立は考えよう、とジュネスまで行こうとする鳴上の背中に向けられる、
「ほら。 僕、いろいろ面倒くさいだろ?」
押し殺した笑い混じりの足立の声。
「僕みたいな不良債権背負っちゃうとと、後が大変だよー?」
「自分で言わないで下さい」
あえて鳴上も笑い混じりで冗談として返して、背中越し、玄関のドアをパタンと閉じた。




時々こんな軽口を叩きあって、
決定的な何かが起きることもなく、何かを起こすこともなく、こんなふうに何となく、何事もなくうまくいく日々が続けばいいとずっと思っていた。




なのにそろそろ、本当に時間が差し迫ってきたようで。




「・・・・・・・何にだって、命を持つものにはいずれ終わりが来るから」
霧で視界の良くない帰り道、ジュネスの袋を片手に、鳴上は足を速める。
その袋の中には食材が数点。
食品売り場を手早く巡りつつ、そこで考え付いて決めた。
スプーン一本でほぼ済む今夜の夕食。
天津飯と、もう一品はワカメのスープ。 これなら米も卵も野菜も、ついでに海草まで摂れる。
と、ここまで考えて、
今更バランスの良い食事に何の意味があるんだ、との皮肉さに表情が消えた。
「そのうち、全部終わるのに」
一人、呟く。
そのうち、全員いなくなる。
シャドウになるのか普通に死ぬのか、そこまではよくわからなかったけれど、少なくとも生は終わって消える。
今の世界は終わって、
人は、死ぬ。
自分や足立も含め、
陽介も千枝も雪子も、完二もりせも直斗もおそらくクマも、
堂島も菜々子でさえも。
それもこれも自分の下した決断が引き金で、しかも周りは、仲間は誰もそんなこととは何も知らずに。
「・・・・・・・・いいんだ」
言葉とは裏腹に、鳴上の額に汗が滲む。 足立の部屋まで、あと5分で着くというのに理解に苦しむ感情が全身を押し包んだ。
が、
「・・・・・・・・それでいいんだ」
ヒトもモノも、いつかは死んでいつかは壊れて無くなる運命で。
それが少しくらい早まったところで、行き着く結果が変わる訳じゃない。
そう自分に言い聞かせ、鳴上は突然不安定になった感情を取り返すため、
戻ってすぐに取り掛かる料理のレシピと手順とを、頭の中に思い描き始めた。




気が付かなければ幸せだったのだろうか。
それとも、セイギの味方で有頂天で正義面で真相を声高々と掲げ立て、
馬鹿正直に正のスタンスを保ち続ければ良かったのだろうか。
けれど、
もう鳴上には、何がシアワセなのか、何をもってして幸福と測れるのか、それがわからない。
とは言え、すでに取り返せないもの、そしてこれから失うものは二度と手に入らないことくらいは肝に命じている。




何故なら彼以外に欲しいものなんて無い。
彼以外の世界が消えたって、不都合も何も無い。
誰を犠牲にしたって、
誰と引き換えにしたところでもう何も感じない。




絶対にこの選択は間違えない。




気付けば先ほどの不安定な感情と、額の汗は濃い霧にかき消されたかの如く、きれいに消え去っていた。
と同時、足立の部屋の前に着いた。
早く夕食を作って、一緒に食べて、Sexのあとは泥のように眠ろう。























「・・・・・・あのさ。 もう全部手遅れ、って前提だから聞くんだけど」
「何、ですか」
軋む安いベッドの上、鳴上が組み敷いた下から見上げてくる足立の尋問(?)。
「僕のカラダくらい、いくらでもくれてやるけどさ。 引き換えに、キミは全部ムダにしちゃうけど本当にそれでイイ訳?」




―――――――――― 大抵のことなら笑顔で。




「はい」




―――――――――― 鳴上は、ふたつ返事で頷いてみせる。




とっくのとう、後には引き返せない。 そんなことわかっている。
ぐい、と腰を進めて身体を繋ぐ。
否が応にも漏れる吐息。 零れる声。




「はは。 キミみたいな馬鹿、今までにも見たことないよ」
「足立さんの最初の男になれて、嬉しいです」










そして、最期の男にも。











最大限にラブラブでしょー、て自分的にも思うのですが(笑)、
なんかもうどうしようもないです