[ 同棲してみました。 3]



※ 普通に明るくイチャついてるのがみたい、とリクエストいただいたので、【完全パラレル前提】 での
「押し切られて押し通されて一緒に住んでみたよー」 ネタです。
でも入籍はしてない(爆笑)


そんな前提でお読みください。






とある月曜、とある朝。
いつもの教室いつもの席にて、めずらしくも始業15分前に着いていた陽介がふああ眠いぜ、と欠伸を連発していたら。


「――――――――― おはよう」


「ん。 おは・・・・、って、どーしたんだよお前!!?」


かけられた挨拶に、つい普段通り反射的に返事をしかけたところで、当の声をかけてきた相手を見上げて仰天した。
「なんだよ、マジどうしたんだよ!!?」
何故って、目の前に立つのは 【今にも死にそうな顔で】 登校してきたばかりの鳴上悠。
いつもならそれこそ、それこそ殺したって何をしたって絶対に死にそうにない鳴上が、突然今朝に限って、
パッと見ただけでも、


・目の下に青アザ
・唇の端も切れて少し赤い
・よく見ると頬も心持ち腫れている
・前髪で隠れてはいるが、ふとした隙に額にも傷が見え隠れ
・制服着用のため定かではないけれど、この様子では身体全体が傷だらけ痣だらけかもしれない


そんな状態なのだ。
吃驚したあまり、椅子から立ち上がって 「事故にでも遭ったのか!?」 と慌てふためく陽介に彼は。
「やっぱり、目立つか?」
僅かに眉を寄せ、小声でそう訊いてきた。
「目立つも目立たないもあるかよ。 お前、テレビの中だってそこまでのケガしなかったんじゃ・・・・」
骨とか筋とかイっちまってねーよな?、と逆に訊ねれば、「ああ、さすがにそこまでは」 との返答。
「動くだけなら普通に動ける。 とりあえず今日と明日は体育がなくて良かった」
「三日で全快するのかどうかアヤシイような気もするけどな・・・・」
「治してみせる。 大丈夫だ」
陽介からしてみれば、一体どこに根拠があるのかよくわからない自信を持って鳴上は頷いて言い切る。
そんな彼に小さく息を吐きつつ、改めて。
「で。 原因は」
どうせ足立さんと喧嘩したんだろ、ともう聞かなくても九割九分方分かりきっている予想というか見当を付けながらも一応、確認の意味も含めて聞くと、案の定。
「・・・・・・一昨日の夜、少し揉めて。 久々に、真面目に怒らせたみたいだ」
小さく息を吐き、鳴上は肩を落とす。
「なんで・・・・」
「しつこくプロポーズしすぎたか、と今になって反省している」
「で、キレた足立さんと、戦闘に突入したって?」
「・・・・・・・・・・・・・ああ。 『いい加減にしろよ!!』 って、マガツイザナギを出されて」
俺も反射的にイザナギを出して応戦した後で気付いたら、せっかく用意した婚姻届も一瞬のうちに燃えて消えていた、と小声で呟く鳴上。
事の発端は、どうせそれを突きつけて 「結婚してください」 とか迫りまくったんだろう。 容易に想像できて逆に怖い。
けれど陽介は鳴上の、滅多に見ることの出来ないそのあまりの落胆ぶりに、
お前、そういうとこしつこいもんなー、そりゃ足立さんだって黒モードになるわ、けど、ペルソナの応酬くらいで済んで良かったな、とあえて笑いの方向に持っていってやったのだが。
次の鳴上の台詞で、笑いも引っ込んだ。
「・・・・・・・・・・・・・最終的に、黄泉堕としまで使われた」
「なぬ!!?」
「遠くで、『GAME OVER』 のコールが聴こえたのが土曜の夜で、・・・・・・あそこから、気合で戻ってきたのが昨日の夕方だったんだ。 そうしたら、足立さんの姿がなかった」
「や・・・・、それって、ブチギレのガチギレの果ての足立さんマジギレってやつだろ。 一撃必殺技使われるって、お前・・・・」
よっぽど怒らせちまったんだな、と呆れる一方、
ゲームオーバー、の声まで耳にしたのに今ココにいる、ってスゲーな鳴上、とも感嘆。
そんな陽介に鳴上は、続けて。
「そのまま昨日は足立さん、帰って来なくて。 携帯もずっと着信拒否で」
「そりゃ・・・・まあ、そこまでケンカしたなら、わからなくもないっていうか」
陽介は言葉尻を濁さざるを得ない。
つい先々月から、コイツが足立宅に転がり込むというか押し掛け居候というかいたるところつまり無理矢理同棲にまで持ち込んだことは周知の事実(・・・・・・) で、まあ親友としても仲間としても言いたいことは色々あるけれど(・・・・・・) 当のコイツがシアワセならそれでいいか、と良い方向に割り切って見守る、というか傍観していたのだが。
「心配なんだ。 あの人、一人になるとレトルトとインスタントの食事しかしないから」
ぽつりとそう零す鳴上に、「それよりお前、自分の心配した方がいいんじゃ、」 と喉の奥まで出かけながらも堪え、
「りせに、捜してもらうか?」
苦し紛れ、思い付いてそう提案してみたところ。
「いや、そこまで大袈裟にしたくない」
思いのほかきっぱりと鳴上は首を横に振った。
「だよなあ・・・・」
「ああ」
二人揃って深く溜め息。
だって、こんなの傍から見ればただの 【痴話喧嘩】 だ。
痴話喧嘩なんて、犬、もといクマでも食わない。
「とりあえず、天城と里中にはカンタンに俺から話しとくからさ」
あいつら今はお喋りに夢中で気付いてないけど、お前のその現状見たらビックリして大声あげちまうぜ、と陽介が言ったところで、始業時間になった。








そして普段と変わらず普通に学校での一日が終わり、
放課後になった途端。
「足立さんを捜してくる」
と告げて鳴上は全速力で帰って行き、その姿を見送った昇降口で一人残され、何故だか、どうしてだか自分でもわからないけれど。
(カラー違いのほとんど同じペルソナを持つ二人の野郎同士の) 痴話喧嘩など放っておけばいいのに、
「あーもう!! ったく・・・・仕方ねーなー!!」
自然とそんな言葉が口から出たあと。
足立を捜すため、鳴上とは別の方向、ジュネス方面に陽介は足を向けた。




















「あ!!」
「・・・・・・・・・・ン?」


どうして。
どうして見つけてしまうのだろう。
何故。
何故、遭遇してしまうのだろう発見してしまうのだろう出会ってしまうのだろう。 鳴上じゃなくて、自分が。


まさかそんな見つかりやすいところ、誰もが思い当たって見当のつけやすい、ジュネス付近に居るわけがないよなと思い、ジュネスを通り越して沖奈市駅前まで陽介が辿り着いた途端。
見事に足立と鉢合わせして陽介は、これは自分は運が良かったのかそれとも悪かったのか、一瞬本気で悩みかけた。
「なんだ、キミか」
どしたのこんなところで、と逃げることなく立ち去ることなく(当然といえば当然か)、思いのほか普通に足立は聞いてきて、仕方がないから陽介は主語(?) を使わず逆に聞き返してみる。
「昨日とか、どこに居たんですか」
「普通に沖奈のビジネスホテル。 だからココにいる訳」
ああそうか。 自分たちと違って未成年ではないのだ。 27のオトナなのだから、どこに泊まろうとどこに居ようと何一つ問題にはならない。
そりゃそうだよな、と素直に納得する陽介に、足立は少しだけ面白そうに。
「悠くん、普通に学校来た?」
「アレ、普通っていっていいのかな・・・・。 まあ、来ました。 全身、キズだらけだったけど」
「凄いよねー。 あれだけボコボコにしたのに一日で復活、ってさ。 若さってイイよねえ」
僕だったら絶対ムリ、と軽く笑って足立は、
「けど、僕も少し関節とか軋んで痛いし。 悠くんほどじゃないにしろ」
本気とか、そうそう出すもんじゃないよなあ、と零す。
そんな彼に陽介は、
「アイツ、たぶん足立さんには本気っていうか、全力は出せないと思います。 もう」
どこにそんな根拠があるのかもわからないまま、不思議なことに確信だけは持ってそう告げて、
しかし口に出したあと、「げ。 もしかしたらヘソ曲げられちまうかも」 と後悔しそうになったけれど。
「はは。 僕だって加減してやってるよ」
幸いなことに足立は気にも留めず、しかし先程とは矛盾した台詞を吐いて、ゆっくり宙を仰いだ。
「どうせ今頃、稲羽市中を捜し回ってるんだろうなー。 大体想像つく」
キミもその手伝い?、と問われ、陽介は素直に首を横に振る。
「俺は、勝手にココに来てみただけで。 鳴上からは何も。 あ、勿論アイツは血眼になって足立さん捜しに行きましたけど。 ・・・・・・今頃、堂島さんのとことかに行ってたりして」
刑事の捜索願いをその相棒の刑事に、なんてさすがに有り得ないとは思うのだけれど、如何せん切羽詰まるとどういう行動に走るか予測がつかない鳴上であるがゆえ、「まさかな」 と眉を顰めると。
妙にはっきりと、足立は 「それは無いね」 と否定した。
「堂島さんは昨日から明日まで出張中。 だから知らない。 て言うか、居たところで堂島さんには悠くんもおそらく何も言えないし、言わない」
「そりゃ・・・・そうだ」
堂島からしてみたら、自分の甥が自分の職場の後輩で相棒に恋慕 → 野郎同士 → 無理を通しまくって同棲 → 痴話喧嘩 → 気がついたら足立さんが一晩戻って来ない → 叔父さん助けて!!
・・・・・・・・だなんて、狂気の沙汰でしかない。
納得しまくる陽介に足立は、
「ま、それは僕もだけどさ」
あの人には迷惑かけたくないし、と呟いてそれから。
「悠くん関連については、堂島さんにはぼやくだけ。 泣きつく対象じゃないんだよ」
そもそも泣きついてあの子どうにかしてくれるなら、とっくに泣いてる、と小さく息をつく。
その横顔に浮かんでいるのはどこをどう見ても身内に対する苦笑、の表情で、
「・・・・・・足立さん」
陽介は思わず。
「何」
「俺、完全な部外者だけど・・・・、なるべく早めに帰ってやってください。 アイツ、帰るところ今は一つだけしかないから」
「僕だって、帰るっていったら結局自分の部屋しかないんだけどなあ。 誰がいようと」
「それ、面と向かって言ってあげればアイツ、すっげー喜ぶのに」
「絶対にヤダね」
そろそろ夕方になる。
沖奈駅前、伸びる影に目をやりながら陽介は鳴上に、『足立さん発見』 の報を送ろうかどうか少しだけ悩んでポケットの中のスマホを握り締め、
結局、やめた。



























陽介が帰っていった後、足立ひとりで沖奈駅前で軽い食事をとってそれから戻ると、鳴上は玄関のドアの前に立ちつくしていた。


「お帰りなさい」


「ただいま」


すでにとっくに周囲は暗く、『夜』 と言って差し支えない時間帯になっていて、そんな中で鳴上の表情からは一体どれくらいの間、彼が此処で待っていたのかなんてさっぱり計れず、
互いにあまり抑揚のない声でそれだけ交わし、
鍵は持っているはずなのに、入らずに待っていた鳴上を伴い、足立は先にドアを開けて部屋に入る。
暗い室内は当たり前だけれど一昨日から何も変わってはおらず、それは明かりをつけても同様で、
いつものよう、コートをテーブルの上に放り投げると。
「すみませんでした」
普段と比べ、やはりほとんど抑揚のない声でそう、謝られたかと思いきや。
「でも、」 と鳴上は続けて。
「貴方のことが好きすぎて、おかしくなる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・悠くん、最初からおかしかったよ?」
今更何を言うのか、足立の返答は、100%本心だ。
それをわかっているのかいないのか、まるで今になって意を決したかの如く、鳴上は顔を上げ、
「こうなったら俺は、もう思うままに生きようと思ってるんです」
「わざわざ宣言しなくても、最初っからずっとそうだったろ、キミ」
呆れる足立を前に、まるで宣誓するかのように真剣、なのにそれを覆い隠すほどの必死さと付随する狂気っぷりを持って、


「添い遂げられないなら、いっそ足立さんを殺して俺も死にます」


真顔で、それこそ使い古されまくりベタすぎて逆に斬新! とも言えなくもない、腐りきり一片の価値も無い科白を堂々と言い放った。
けれどよくよく考えてみれば、一片の価値も無い自分たちにはせいぜいその程度の科白で十分、同等なのかもしれなくて、
足立は陳腐すぎる、しかし心の底からの鳴上の自分に対する固執を笑い飛ばすことも忘れたまま。


『やってみな?』


と言いかけ、


それが言葉になる前に、早々と自ら諦めの苦笑い。
と言うより、 ・・・・・・・・それは覚悟に近い。
ふう、と長いタメイキを吐き、腕を伸ばす。
そうして、微動だにしない鳴上の頭を手のひらで二回ほどぽんぽん、と叩いてやって、


「んー、そしたら堂島さんに迷惑かかるから、やめとこうか」


でもって明日はキミのジオダインで使いものにならなくなったテレビと、どっちが引き裂いたのかわからないカーテン、買いに行かなきゃなあ、と告げ、
へらり、と笑ってやったら間髪入れず直後、
背骨と肋骨がまとめて折れるんじゃないかというほど強い力でぎゅうっっっっ、と抱きしめられた。












つまりは結局、【元鞘】 というやつだ。
















ゲロ甘ー!!
うちの鳴上氏は狂ってると思います(なに今更)。