[ 同棲してみました。 5 ]



さすがに終わらせました。
無理矢理。






PM 23:00


明日も早いしそろそろ寝るか、と足立が部屋の明かりを消してベッドに潜り込んだ数秒後、
「待ってください、寝るにはまだ早いです」
なんていう鳴上の声が真上から降ってきた。
それをまるっきり聞こえない聞いていないフリをして、掛布団を頭の上からかぶり、無視しようとしたのだが。
「5分でいいから、話を聞いてください」
有無を言わさず布団を剥ぎ取られ、「眠いんだけど、僕」 とイラッとしかけた途端、
不意をついて左手首を掴まれた。
「何、・・・・!」
明かりは消されたままで光源はほとんど無く、暗い部屋そしてベッドの上、
手のひら、続けて指のあたりを弄られる。
一瞬、これまた欲情した鳴上が今日も襲い掛かってきたのかと錯覚したのだが、なんだかそれとは微妙に何かが違う。
「何・・・・!?」
暗闇の中、執拗に手指だけをまさぐられる感覚に、訳がわからないまま痺れを切らした足立が手元のリモコンで明かりをつけ、視界を回復させたところで目に入ったのは、
「・・・・・・わからない」
口惜しそうに呟く鳴上悠、のカオ。
「だから何が!!?」
わからないのはこっちの方だよ何だよいきなり、と苛々を隠さず下から見上げてやると、
「指輪のサイズ、教えてください」
「!!? 〜〜〜〜知らないよ!!!!」
何を言い出すかと思えばそんなふざけたことで、いつもながらとはいえ、鳴上のあまりの突拍子の無さにたまらず足立は声を荒げかけ、 ・・・・数瞬だけ間を置いたあと、
「・・・・ハァ」
頭を抱えた。
こんな場面で腹を立てたところで、鳴上には何一つ効果が無いことくらい嫌というほど身をもって経験済みだというのが哀しい。 というか虚しい。
イラッとした勢いで、たとえ面と向かって文句をまくし立ててみたところで、ほぼ一方的な徒労に終わってしまうのだ。
だからといってへらへら笑って迎合してやることも、見逃してやることも出来ずに結局、
「ハァ・・・・」
足立は続けざまに盛大な溜め息を吐く破目に陥った。
「サイズなんて、本気で知らない。 測ったことないし」
「本当ですか、今まで、一度も?」
「本当だよ」
驚いたように聞いてくる鳴上に、のろのろと、しかし心の底から嫌そうに告げてやる。
「第一、自分が指輪してるところを想像なんて絶対できないし、したくもないね。 ただただキモチ悪いだけじゃん」
「俺はそうは思いませんが」
「そう? そこが僕とキミとの絶対的な見解の相違っていうか、相容れないトコロじゃない?」
最後の言葉だけ、少々意地悪さを込めて返答し、
「5分経った。 おしまい。 僕は寝る」
奪われた掛け布団を取り返し、モソリと中に潜り込んだ足立だったのだが。
「じゃあ俺も一緒に」
寝ます、とゴソゴソ。 あろうことか鳴上が侵入してきた。
「ちょっ・・・・! ふざけ・・・・ン・・・・っ・・・!!」
布団の中、逃れようと顔を背ける足立を執拗に追い、強引に口を口で塞いでくる。
いつものよう、しつこいほど長く口付けられて息が上がる。
味わい尽してようやく満足したのか、やっと鳴上が離れていった後、
「・・・・サカるのも、いい加減にしなよ・・・・」
呆れ半分、諦め半分でぼやいてやるが、鳴上にはこれっぽっちも効かず。
「足立さん」
至近距離、
「頼みがあるんです」
改まり、このクソガキ(・・・・) は再び布団を勝手に取り払い、ベッドの上で突然正座をしてきた。
「・・・・・は?」
今更、何を。
呆気に取られかける足立を、鳴上は真っ直ぐ見ながら。
「今夜は、一緒に寝てください」
「・・・・・・・・・・・・はァ???」
何を言い出すかと思えば、あまりに。 あまりにも。
余程自分は意外そうなカオをしてしまったらしい。 続けざま、鳴上は補足してくる。
「Sexは、足立さん明日も早いだろうから今夜は我慢します。 一緒に眠ってくれるだけで構わない」
「ええ? ちょっと信じられないんだけど。 キミが? 襲ってこないって? えええ???」
一体どうした。 一周まわってついにどこかおかしくなったのか。 それともなにか裏があるのか。
いぶかしむ足立に対し、
「だって、情事の後も眠るときはいつも別々じゃないですか」
「そりゃそうだろ。 キミ、邪魔だもん」
真顔で訴えてくるけれど、同じく真顔で一蹴。
決して広くはない普通のシングルサイズのベッドに、野郎二人での熟睡はなかなか難しい。
なのに鳴上はとことん食い下がってくる。
「一緒に眠ってくれたら、しばらくワガママも言わないし、無茶振りもしません。 だから、」
今夜だけお願いします、と正座のまま、真剣にお願いされてしまって、
「ったく・・・・」、
仕方なし、足立は宙を仰いだ。
「・・・・途中で欲情して気が変わって、やっぱりヤるとか無い?」
「たぶん。 ・・・・こらえます」
「うわ。 アテになるのかなそれ」
「頑張ります」
「なら、好きにすれば」
僕は本当にすぐ寝るから、とごろり。 ベッドを半分あけてやる。 そしてマクラも忘れず自分の方に引き寄せた。
すると今度は鳴上の方が心底吃驚したような表情で、唖然。
「どうしたんですか」
「?」
「足立さんがこんなに俺に優しいなんて、信じられない」
「あのさあ・・・・」
ああまた始まった。 一体いつになったら眠れるんだろうと足立は内心、タメイキをつく。
せっかく半分あけてやったにも関わらず、鳴上は依然正座の形をしたままで、
ハイハイいちいち言ってやらなきゃわかんないんだろうなあ悠くんは、とがしがし頭をかきながら、のろのろ起き上がり、対面でふたり、向かい合った。
「悠くんさあ、P4からP5までの足掛け8年間、ホントお疲れさま」
「・・・・え?」
弾かれたように目線を上げる鳴上に、足立はそのままたたみかける。
「いろんな看板背負ってキミが繋いだP5は大ヒットしたし、もう何の心配も、心残りもないだろ? そろそろお役御免してもいいんじゃない?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「僕的には、それに報いる形で甘やかしたつもり」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「? 何か不満?」
黙り込む鳴上は、上げた目線をどこにやって良いのかわからなくなったようで、一瞬視線を彷徨わせ、
それから。
「駄目です。 貴方の犯したことを暴いたことが罪になる世界なんて、いらない」
呟きは、あっという間に堰を切る。
「思い出の中でしか会えない人にはなってほしくない。 過去を振り返るたび、最低の現実を思い知らされるのも、たくさんだ」
だから俺は、と唇を噛みながら、しかし後を続けられない眼前の子供に足立は何か言葉を与えてやろうとして、ほんの少しだけ考え、
「なーに言ってるんだか。 そんなの許されるとでも? わかるだろ? それくらい」
薄く笑って、全否定。
「僕の罪状は殺人。 悠くんの大罪はそれを隠蔽したこと。 しかも現在進行形」
それでも、
最後くらいは甘い、喉まで灼け融けるような飴をくれてやるくらいの余裕はまだ有って。
「でもってキミは、実際のところ僕あたりで満足するレベル。 僕もね、キミ程度で手が届いちゃうくらいの安っぽさ。 そろそろ絶望したらいいんじゃない? お互いに」
「・・・・・ッ、」
息を呑みながらも、すぐには足立の言葉の意味を理解しかねている鳴上に、
どうしようもないほど甘ったるい、手懐けの飴を。
「指のサイズはおそらくキミと同じ。 ペルソナが同じで色違いなだけなんだから、たぶん間違っちゃいないはず」
8年間、よく頑張ったよ偉いえらい、と誉めてやったと同時、やっと鳴上は解して察知したらしい。
今にも笑い出すのか、それとも泣きそうなのかさっぱりわからないほど歪んだカオになり、
続けて根負けしたかのよう、一瞬だけ下を向いたあと、それから。
「すみません。 もっとずっと、甘やかしてください」
「うわ・・・・!! ちょ、悠・・・・・ッッ・・・・!!」
いつもの、鳴上悠に戻った。








結局、朝まで互いに眠れ/眠らせ/なかった。










無理矢理終わらせてみました。
でないとこのシリーズ、永遠に続きそうだったので(・・・・)。 ははっ