[ ダブル・ダブル ]


これもP4G作文です!






朝、突然鳴った電話。
スマホ画面、表示される数字は未登録の番号で。
パッと見、思い当たる記憶にある番号の並びのものでもなかった足立が、たぶん間違い電話だろうと高をくくり、
「はいはい?」
軽々しく、出たら。
『おはようございます、足立さん』
スマホの向こう、聞き覚えのある声が、した。












「いいですね、稲羽市。 僕のことを知ってる人がほとんどいないっていうの」
八十稲羽市の田舎道、歩道すら無い狭い片側一車線の白線の端を歩いて、
「たまに一人で遊びに来ようかな」、などとひとりごちているのは明智の坊っちゃんである。
一方、夜勤明けで生欠伸を連発する足立は、その斜め後ろを追って歩みを進めつつ。
「知ってる人、も何も、ヒト自体全然歩いてないってのが実情だよ」
渋谷とココ、本当に同じ国内???って思うし、と呟き、盛大な大欠伸をした。
そうして、
「あのさあ」
目の前の明智の背中に、改めて声をかける。
「はい?」
笑顔で振り向かれ、それがまた昇った太陽が後ろにあり逆光になって、眩しさに足立は手で眼の上に庇を作りながら、
「キミ、今日は何しに来たワケ? お付きの雨宮くんは?」
唯一にして最大の質問を投げかけた。
と。
「いや、特に用事はないですけど。 しいて言うなら、足立さんに会いに」
「うわ」
完璧な作り笑顔(・・・・) でニコニコと答える明智に、足立は直球にイヤな顔で返し、直後、
腕時計に目を落とせば、現時刻は朝、9時。 ついでに本日は木曜日。
「え? でも今日って平日じゃない? 学校は?」
怪訝に思ってそう訊くと、
「あ、僕、この3月に卒業してます。 だからそのへんは安心して下さい」
ニコニコニコ。 貼り付けた笑みのままの明智は、更に。
「僕、蓮や鳴上君よりひとつ年上だから」
学校がない分、彼等より自由がきくんです、と大きく伸びをしてみせた。 ついで、「蓄えもそこそこあるし、少しは遊ぼうかなって」 などと言っている。
足立はその遊ぶ先が僕のとこ、ってどういう事、と重ねて問い詰めたくなり、すぐに口にすることを止めた。
この明智の坊っちゃんと問答しても、勝てる気がしないと最初からわかっていたからだ。
鳴上悠も、寡黙なフリをしてその実、自分相手には四の五の(・・・・・・) 言ってはくるのだが、
そこそこの割合で論破可能、やり込めて黙らせることができるのだ。 (まあ、結果的に吉と出るか凶と出るかはその時と場合によるのだけれど) (やり込められて 「あああああ」 となった鳴上悠が暴走→足立的にギャフン、となる確率は五分五分である)
けれど、明智の場合は全て正攻法で返してくるからその実、タチが悪い。
ヒトを懐柔するのに長け過ぎていて、あっぱれな程、上手い。
とは言え彼の本質を知ってしまっている自分としては、そのあざとさが鼻につくかと言えば実際そうではなく、むしろ逆にプラスの方向に働いて、問答ではない、普通の会話自体はとてもしやすかった。 ラクだった。
おそらくそれは当の明智も同じはずで、だから興味を持たれたのだとも足立はなんとなく理解していた。
まあ、それはさておき。
「遊びに来た、って割にはほとんど手ぶら? 日帰り?」
宿泊で遠出をするには、バッグ一つさえ持っていない、初夏とはいえ軽装の明智にふと気付いたので、言ってみた。
すると、
「特には決めてないので。 泊まるなら、着替えもホテル予約も現地で調達すればいいかなって」
さらりとそう口にする明智に、思わず足立は、
「ウソだろ・・・・?」
タメイキと同時、宙を仰いでしまう。 これだから都会育ちは。
「? どう、したんですか」
「はァ・・・・。 あのさ、キミ、田舎なめ過ぎ」
「は?」
てくてくてく。 そんな会話をしながら、近くに田んぼが見える道を何処へともなく、進んで行く。
このままこの道を真っ直ぐ進めば、かなり距離はあるがジュネスに辿り着く。
だがその前に、すぐ前の交差点を左に行くのが足立の自室への帰り道で、その交差点まではあと100メートルほどだった。
「ホテルも何も、ココには旅館が一件しかないから。 その旅館も、悠くんのお仲間の実家だったかな、ええと確か今、シーズンオフに当てて、丸々一ヵ月の改装休業中」
「えっ」
「着替えも、若い子向けのショップとか皆無。 コンビニくらいはあるけど。 他は唯一ジュネスがあるだけ」
「えっ・・・・」
「そのジュネス、キミが着てるような服は僕は見たことがないね、一度も」
「ええ・・・・っっ・・・」
「ちなみにジュネス、初めて会ったところだから。 売ってる感じ、する?」
「・・・・・・・・・・・・。 いえ」
あと50メートル。
「ま、本気で宿泊先探すなら、沖奈市まで出るしかないね」
「それ、どこまで本当なんです?」
「全部本当。 こんなところでウソ吐いて、僕に何か得、ある?」
「・・・・・・。 ありませんね」
あと20メートル。
「ま、沖奈ならビジネスホテル沢山あるから。 今からでも全然間に合うし」
「・・・・・・・・・・・・」
「ん? どしたの」
突然黙りこくった明智。 と、気付けば左へ曲がる交差点に辿り着いていた。 ちなみに沖奈市へ向かう駅方面は右、なので、
「あ、駅ならココ右。 ・・・・って、キミ、駅から来たんだっけ。 それなら大丈夫か」
僕は帰って寝る、と片手をヒラヒラ振って別れようとしたのだが。
「それじゃ、足立さんのところに泊めて下さい」
「はあ???」
思わず足を止め、足立は思いきり自分の耳を疑い、唐突さ加減と遠慮の無さっぷりに呆れて言葉が告げなくなった。
「ダメ、ですか?」
明智は小首を傾げ、あまりにもあからさまな 『お願いモード』 で見てくる。
そんな様は耳にしていた所謂 『白明智Ver.』 というやつで、ああこうやって世間を渡って来たワケだ、と今更ながら妙に納得したりして、
「、ちょっと待って」
交差点の端、目頭に手を当ててええと、と短く考え込む。
何故に身内でもなく(しかも同シリーズとはいえ別タイトルの) 親密でもない未成年を突然自宅に泊めなければならないのか、とか、
この場合誰か(・・・・雨宮? それとも鳴上?) に一応連絡を入れた方がいいのか、とか、
P4GとP5R、揃って微妙な立ち位置(・・・・) にいる僕達ちょっと大丈夫?、とか。
第一にして明智の提案はいくら何でも降って湧いて突然過ぎることもあり、断固として断るなら今のうち、今しかないのだけれど、
ここで撥ねつけた挙句、こんな田舎では妙に目立ってしまう明智に一人そこらへんをウロウロされ、なにか面倒ごとに巻き込まれたり顔を突っ込まれるのも、それはそれで勘弁だ。
妙な事件に遭遇する確率はおそらく究極に低い、とは思うものの、この坊っちゃんが万が一にもぶち当たってしまったら、せっかくの夜勤明け、非番の一日が丸潰れになることは明白で。
だったら、100パーセント何も起きない自分のところで確保(・・・・?) した方が何事も起きず平穏に終わるんじゃないか、とか。
・・・・・・いやいやちょっと待ったそもそも泊める義理なんて僕に無いし、だったら鳴上に押し付ければいいんじゃないか、ああ駄目だあそこには堂島親子がいて、菜々子に堂島まで巻き込んだら10倍面倒なことになる、等々etc、
ブツブツ考え込んだ結果、重い重ーーーいタメイキと共に、足立の出した結論は。
「・・・・・・・・一泊したら、帰りなよ」
「はい。 お世話になります」
自分とは対照的すぎるほどの笑みで満足げに頷いた明智の前、
「世話なんてしないっての・・・・」
ぐんにゃりとした足立の呟きも全くもって聞いていない明智は、ゆっくり二度、三度と周囲を見渡して。
「すごいですね。 ほとんど車も通らないし、こうやって喋っていても誰の姿も見えない」
いくら平日だとしても驚きだな、と変なところで感心している。
それを、
「ほら。 こっち」
左に曲がった。 すぐに明智は、ついてきた。




















「へえ。 想像していたより、ずっと片付いてますね」
部屋に入るなり、感想を漏らされて、
「失礼だなあ。 っていうか、キミの想像する僕って一体どんなの?」
「あはは、すみません」
「片付いてるも何も、モノがそんなに無いだけ。 で、勝手に悠くんが掃除もしてる」
「いい彼氏で、羨ましいです」
「勘弁だよ」
10歳も年下の、押し掛け男子高校生(・・・・) のどこをどう見ればそうなるのだ。 反論してやりたい気もなくはなかったが、何を言ってもきっと無駄そうだったから、やめた。
そうして足立はまずネクタイを解きつつ、
「そこらへんに適当にいていいけど。 布団はないから寝るのはそこのソファー。 食べものも、買い置きあんまりないなあ」
「食事なら、後で僕がコンビニでも行って買ってきます。 ・・・・近くにコンビニ、ありますよね?」
「あるけど一番近くて2キロ先」
「・・・・そうですか」
いちいち驚かれることにももう慣れてしまい、寝床として示した二人掛けのソファーに腰を下ろした明智に向かって、足立が次に口にしたことが以下のそれだ。
「わかってるだろうけど、お互いに一切手出しナシ。 それだけ言っとく」
それが泊める条件、と念を押せば、
「大丈夫です。 さすがにそこまで見境のないことはしませんよ」
打てば響く感じで頷かれ、まがりなりにも多少、安心する。
「そう信じたいね」
「足立さんこそ、気を付けてくださいね」
「平気平気。 キミのことは嫌いじゃないけど、そこまで興味ないから」
「またまた辛辣な」
「正直に言ったまで。 いいじゃん、本音で話してやってるんだから。 第一、キミに何かしたら雨宮くんに呪われそうだしさあ」
軽口を叩くと、明智は小さく笑う。
「鳴上君じゃなくてですか?」
そうして、逆に訊いてきた。
「悠くんの場合は、僕を殺して自分も死ぬってさ。 堂々とそんなふうに言ってた」
「うわ。 重・・・・」
「だろ?」
まったく冗談じゃないよ、と足立はやれやれと首を振り、一方で明智はというと、
「蓮の場合は・・・・どうだろう」
考え込みだした。
結果的に僕のいない世界が耐えられなくて現状な訳だし、ああでもそうか、それと存在する僕が彼から去ったりするのとは根本的に違う訳だから云々、ひとりでブツブツ言っている。
そうして出した結論は、
「たぶん蓮は僕を殺せないでしょうけど、浮気がバレたらこの世界ごとぶッ壊しそうな予感はしますね」
「うわあ。 それもどうなの」
呆れつつまた欠伸。 眠い。 寝たい。
「それじゃ、最後に質問していいですか」
足立に押し寄せる睡魔に明智もさすがに気を利かせたようで、「これで最後にします、そうしたら寝て下さい」 と。
眠みに否が応にも下がってくる両目蓋を擦りながら、
「何」
促した足立に。


「欲望のすぐ後に来る、絶望って一体どんな感じなんです?」


にこにこにこ。 貼り付いた笑顔のまま探偵の坊っちゃんは訊いてきて、


「そんなの、キミの方がよっぽどよく知ってるだろ」


・・・・・・自分のする返事としては、珍しくも正鵠を得ている、と我ながら思いつつ。
「ええ? そうですか???」
すると坊っちゃんにとっては、思いのほか意外な返答だったようで。
「前も言ったはずですが、僕的には、わりと結果オーライだと思ってます。 まあ、想定外に想像外に蓮が馬鹿だったっていうのもあるんですけど。 僕ごときを失いたくない一心で、世直しも仲間も何もかも放り出して、世界のあるべき姿を変容させましたし。 その結果、僕はこうして自由に好き勝手できる」
そんな長台詞を、欠伸を連発しながらも聞いてやりつつ。


ふうん。
・・・・・・・・でもさ、今いるキミは、この世界のあるべき姿であった時のキミなの?
変容させられた世界の、雨宮くんの都合の良い意志で存在させられてる、別の個体ってワケじゃないの?


などと率直に疑問に思ってもみたのだけれど、
まあ当の本人にその区別も判別もつくはずもない。
口に出してやってもよかったが、あんまり子供をいじめてもイミが無い上、眠くてたまらなくてつまりは面倒で、別にいいやとスルーする。
だから足立は会話を締めくくろうと、
「やっぱり狂ってるよねえ、どっちの主人公も。 ま、そんなにの負けた僕達もどうなの、ってなるけど」
あからさまに会話を方向転換させてみる。 すると。
「だからイイんじゃないですか。 言う通り、狂ってるのは間違いなく彼等の方だって判明して。 だって僕達、殺人犯ですよ?」
鳴上君だって、あなたのために世界を霧で包んだじゃないですかと明智は言って。
「お互いの世界が狂ってるんだから、僕たちが狂ってない方がおかしいんですよ」
何故かとても嬉しげにクスクス笑い、
「明日の世界が、僕たちに有利で甘いものだといいですね」
「そだね。 うつつを抜かす余裕があるくらいがちょうどいいね」
答えた足立に、小さく頷いてみせた。
そこで初めて足立は、へえこのコ結構カワイイじゃん、と意識して理解して、どこか納得する。
だがもう限界だ。
「・・・・ねむ。 悪いけど僕、寝るから。 適当に過ごしていいよ。 テレビ見るなら見てもいいし。 ・・・・ローカルしかないけど」
伝えながらベッドに向かうその背中に、
「そうだ、一応、蓮と鳴上君に連絡は入れておきますね」
そんな声が、聞こえた。
任せる、とジェスチャーで伝えた五秒後、寝床の中、足立はすぐに眠りに落ちる。


もしかしたら眠っている間にキスのひとつくらいは奪われていたかもしれなかったけれど、少なくとも足立の既知するところでは本当に何もなく、翌朝、素直に明智は帰っていった。
























数日後。
ジュネスのいつものところでサボって、否、休憩していたところ、訪れた鳴上に。
「先に言っとく。 何もしてないし、されてない」
先制しておく。 すると。
「わかってます。 そんな面倒くさいこと、足立さんはしないでしょう」
穏やかに、鷹揚に鳴上は追随してみせた。 それに少なからず驚く。
「へえー。 今日は聞き分けがよくてビックリなんだけど。 キミほんと悠くん?」
「足立さんは俺を何だと思ってるんですか」
「き/ち/が/い」
普段からの自分の彼に対する評をキッパリ答えてやると、「ぐっ、」 と鳴上は息を詰め、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 とりあえずそこは置いておきます。 雨宮から前もっていろいろ聞いてもいたし、本人から連絡もありましたから」
そう言う声の端々に、おそらく自分しかわからない、微かな揺れを響きとって足立は少し面白くなり、
「あのコ、わりとイイよね。 キミと違って話もそこそこ通じるし。(二面性ありすぎるけど)」
煽ってみる。 さすがにジュネスのここでなら、鳴上も暴走したりしないとの計算があってのことだ。
だから思いきり、油断した。 気を抜いていた。
「うわッ!!?」
前触れもなく鳴上の両腕が伸ばされ、気が付けば所謂、壁ドン。 完全に囲われた状態で。
幸か不幸か、周囲には誰の姿もなく、しかしてこんな場所、いつ誰が来るかたまったものじゃない。
「ちょっ・・・・!」
本気で眉を顰める足立に、鳴上は。
「わかってます」
その行動とは裏腹に、とても静かに、けれど悔しげに。
「二人に、俺たちとは違う共通点があることはわかってます。 だから、」
「へえ。 ・・・・だから?」
「、」
促したが、何故だか鳴上は続けない。 黙ったまま、少しだけ時間が過ぎる。
音をあげたのは、やはり。
「あのさ悠くん、」
「・・・・・・・・はい」
「平気平気。 僕もちゃーんと、わかってるから」
何がとは言わない。 主語もつけてやらない。 固有名詞さえ出さない。 そのあたりの意地の悪さは自覚している。 しかし鳴上にはこれくらいでいい。 そうでないと、ますます図に乗る。
「だからこの体勢はやめな。 場所、考えてよ」
いつもより少しだけ低めの声で、凄む。 効果はあったようだ。
「・・・・・・・・はい」
珍しくも素直に離れるP4G主人公に、
わかってるからって、罪が軽くなるわけじゃないけどね、と足立は薄く笑った。




















その頃、明智は明智で雨宮にじっとりと(・・・・) 薄暗く(・・・・) 拗ねられ、
ああもうジョーカーのときは無駄に溌剌としてるのに何なんだお前その眼鏡ぶッ壊してマジぶっ殺すぞ蓮、とマジギレの果て、思いきり二面性を発揮していた、ということも追記しておく。














まじ書いてて楽しかったです(笑)。 楽しいけどやたら難しかったので、続きはたぶん無いかなあ。