[ 練習作・2 オモテ ]






今日になって、モルガナはやっとわかったことがある。








『なんかコイツ、ちょっとヘンだ』








もちろんその表現に対するのは雨宮蓮、だ。
だがしかし、
行動を共にするようになってからずっと、わりとけっこう長いこと一緒にいたりしていたのだけれど、
一体どこが 『ヘン』 なのか、
つい先ほどまで実のところ自分でもイマイチはっきりよくわからなかった。
蓮自体は、モルガナが見る限り怪盗団のリーダーとして、仲間とはしっかりやっているし信頼関係も見事に築いて団結しているし、総合的にも及第点以上の実績を残しているし。
加えてコープ人物とも順調に輪を広げているようだし色んなところでいろんな知り合いも出来たし、実際、何も問題ないと思っていた。
だけどでも、今となっては薄っすらなんとなく(?) 動物的(??) カンってやつで無意識化、自分でも感付いていたらしい。
モナ自身、ニンゲンのことはまだ全部理解出来ないし、まだまだ全てわかろうともしていないけれど、
そこを差し引いてみたとしてもコイツは、雨宮蓮は他のニンゲンとはちょっと違う。
それはペルソナ使いだからとか、そういうイミじゃない。
仲間内、他の怪盗メンバーも結果的になかなか個性的なヤツばっかりだっただから、その中に埋没したっておかしくないのに違う。
だから時々、ひとり(一匹?) になったときに時々、考えてはいたのだ。
「う〜ん・・・・」
見た目とか能力とか、そういうんじゃない。
そういうところじゃなくて、なんていうんだろう。 モルガナは考える。
「う〜〜〜ん・・・・」
何かが違う。
絶対的に違う。
「う〜〜〜〜〜ん・・・・」
ちょくちょく考えてみてもその都度、やっぱりわからなくてわからないままで、
だから今日も昼寝から目が覚めたあと、蓮が学校から戻ってくるまで、ずっと考えていた。
「う〜〜〜〜〜〜〜ん・・・・・・」
それでも結論は出ない。
違うのは確かで、それだけはちゃんとわかってはいるのだけれどもなんて言うか、昨日まではうまく表現できなかった。




たとえば先々週の夕方。
たまたまその日は一緒に学校に行ってはおらず、そろそろ日没という時刻になりそうだった頃合い、
ニンゲンの暮らしを偵察、という名目で散歩に出かけて七つ目の曲がり角でたまたま帰り道の蓮と出くわした。
ついでだったから、近くのコンビニに一緒に寄って、蓮にせがんで買わせた肉まんを寄り道ついでの公園の端っこでパクついていた時の彼の発言が、以下の通り。
「こういうのは何て言うんだろう」
「?」
「逢瀬、逢引、ランデブー。 どう表現したらいいんだろう」
「? 何、言ってんだ?」
モルガナ的にはまったく意味がわからなかった。 ただ蓮はやたら嬉しそうに、四分の一に割った肉まんの一つを齧る自分を眺めていた。




続けて先週。
珍しくも数日間、学校が終わった途端に自宅まで直行の日々を続けていた蓮に、
「珍しいな、ずっと部屋にこもってばっかりなんて」
そう話しかけたら。
「ああ。 モルガナと一緒にいたいからな」
「・・・・なんだソレ」




今週。 確か三日前。
メメントスから引き上げの真っ只中、
「・・・・・・・・怪我をしたみたいだ」
俯き気味で、口許を抑えながら彼がそう呟いたから、
「どうしたジョーカー? 回復が必要か?」
少しだけ心配になって、そう聞いたのに。
「口の中、舌を少し噛んで切れた。 治してくれモナ。 少し舐めるだけでいい」
「舐め・・・・・・。 はあ???」
「SPを使うほどじゃない。 それにキスには鎮痛効果があるって聞いたことがある。 さあ、ほら」
「・・・・混乱でもしてるのかオマエ」
あの時はジョーカーの冗談かと受け止め、そのまま流して、当の本人も 「やっぱりみんなの前じゃ無理か」 とか何とか言いながらもそれ以上重ねてくることもなかったため、収束したかと思っていたのだが。




本日。 つい今しがた。 というか一分前。 屋根裏部屋、いつものベッドの上、やっぱり今日も早く帰ってきた蓮。
制服のまま、妙に真顔で近付いてきて何を言ってくるかと思ったら。
「好きだ、モルガナ」
「!!」
「もう我慢できない。 好きだ。 好きなんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!」
パレス内でもメメントスの中でもあまり見せたことのない真剣な表情で言われ、耳のてっぺんからしっぽの先まで五秒ほど固まった。 のだが。
ハッと我を取り戻し、
「え・・・・ええと・・・・とりあえず、どうした? 何かの練習か? それとも、」
言いかけたモルガナを途中で遮る蓮。
「だから俺のものになってほしい」
「ニ゛ャッ!!?」
「本気で受け取ってくれ、モナ」
「ニ゛ャニ゛ャッッ!!?」
ここに来て最大のあまりのワケのわからなさに混乱しかける頭。
それを見てさすがに蓮も、察したらしい。
「、」
何か言いかけて、
「いや、」
すぐ口をつぐんだ。


「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」


そんな状態で二人(ひとりと一匹?)、少しの間、うまく言い表せない沈黙の空気が流れて澱んで。


「な、なあ蓮、」
もちろん耐え切れず、先に沈黙から足掻き出そうとしたのはモルガナだ。
「ん?」
ベッドの上のモルガナに対し、いつの間にか蓮は床に膝をついて目線を同じ位置にもってきていて、
しかも例の如く(!!!!)、眼鏡ははずし済み、
口火を切った自分とふっと視線を合わせてくる。
どうしてかわからないけれど、一瞬だけ心拍音が大きくなった。
「ニャ・・・・」
何か言おうとしていたのは確かだったのだが、自分の心拍音に消されて言葉を忘れてしまった。
だから出てきたのは鳴き声だけで、そんなモナを見て、蓮は。
「・・・・、」
再び何かを言いかけ、先ほどと同様、結局また何も言わず。
このままだとこれまた再度、似たような沈黙が下りてきてしまいそうな気配に、
「〜〜〜〜〜〜」
懸命にモルガナは言葉を探した。
なのにちょうどいい言葉も、見合った台詞もなんにも出てこなくて、
仕方がないから。


「ワガハイ、スキとか、よくわかんねーよ」


たぶん、自分が 「アン殿ーーー!」 とか言っているのとは少し違うベクトルなのだ。
それくらいは理解できる。
だから余計、こう自分に接する蓮のことが不可解で難解で。
一方で蓮は、小さな溜息をひとつ。 そして。
「・・・・そうだな。 悪かった。 ごめん」
「ニンゲンになったら、わかるのか?」
「わかってくれたら、嬉しい」
先程までの押しの強さはどこかへ消え、それでもモルガナに手を伸ばし、
「ひとつだけ、今、教えてほしい」
猫の頭と背中をゆっくり撫でながら。




「お前は俺の全てだけど、俺はお前の何、かな」




そんなこと、
そんなこと、
わからない。
わかるわけが、ない。




「・・・・・・・・・・・・ニンゲンになって、いろんなことがわかったらちゃんと返事する」




そう答えるのがモルガナの精一杯だった。
と、直後、
終わりの時間を告げるかの如く、階下で惣治郎が蓮を呼ぶ声が聞こえ、「行ってくる」 と蓮は下りていった。
途端にくたり、くんにゃりと全身から力が抜けた。 しっぽがシーツの上に落ちた。
その感覚で、どれだけ緊張していたかが身に沁みた。
どうしよう。
どうしたらいいんだろう。
こんなことアン殿をはじめとして、仲間の誰にも聞けない。 言えない。
どうすればいいんだろう。




わかったことがあるつもりだったけど、
わかったつもりでいたけれど、




わからないことだらけだった。 蓮のこと。
そして何より、自分のことまで一番わからなくなった。
















[ →→→ P5R、モナ人間ver.がアレでアレでアレなら(笑)、『練習作2・ウラ』 に続く ]






鳴上悠とはまた違った気持ち悪さの(・・・・・・) 雨宮蓮をやりたかったのですが、大して変わらなかった気がしますゲフンゴフン。