[ 3月、CFY ]


★★★ とりあえず二人とも、怪盗団時の記憶はばっちりある、という前提で読んでいただけると幸いです ☆☆☆














「・・・・・・どうする?」
ベッドの上、仰向けで、片肘をつき上体のみ僅かに起こしている蓮の腹部に明智は跨り、見下ろす。
「どうする、って、」
鸚鵡返しの蓮の、掠れた声の半分は戸惑い、残り半分は情欲のそれ。
互いに何も身に纏ってはおらず、肌が直に触れ合って伝わる体温。
時刻はまだ夕方だったが、きっちり閉じられた遮光カーテンのおかげで室内は薄暗い。
なのに表情がはっきり見えるのが不思議といえば不思議だった。
いわゆる春休み、に突入したと同時にここに蓮が転がり込んできた。
世話になっている佐倉家が父母娘、で水入らずの家族旅行に出掛けるためルブランが一週間ほど臨時閉店だとか何とか、
もちろん 『一緒にどうだ』 とか誘って貰えたのだけれど、さすがに無遠慮にのこのこ着いていけるほど図々しくもなく有難く丁重に辞退したとか云々、
それなら暇潰しに僕のところに来る? と軽く訊いてやったところ、打てば響く二つ返事でその当日夜には蓮は此処にいた、という次第。
そして早くも三日ほど経過したが、外出も全くしていない。
食材の買い置きもあったうえ、訪れたときに蓮が手土産として大量に買い込んできたレトルトやテイクアウト総菜やら諸々で食事は賄えたし、出かける用事も理由も揃って皆無だったから。
以来、まったく爛れた行為にほとほと時間を費やしている。
よく飽きないなあ僕も君も、と苦笑いを浮かべつつ。
「ああ、言い方が違った。 君は僕に、どうされたい?」
言いながら明智は、人差し指でつうっと蓮の下腹部をなぞってみた。 途端ビクッとそこが反応し、妙に楽しくなる。
「ここ、弄って欲しい? 君が言えれば、その通りにしてあげるよ?」
指先で、反応しかけの性器に触れてやる。 ごくりと彼の喉が上下する音が聴こえた。
何と返事をしようか逡巡しているのがありありと見て取れる。
「黙ってたらわからないだろ。 ほら、早く」
急かしてみると、
「違、・・・・う」
蓮は長めの前髪を揺らしながら首を振り、荒くなる息を抑えて唇を噛む表情をみせた。
「違う? それなら、 ・・・・・・こっち?」
意識してくすくす笑いながら指を自らの後ろ、最奥に伸ばす。
どちらも濡れてはいなかったが、行為に慣れきったその箇所は大した時間も必要としないうちに中指を難なく飲み込んだ。 自然と吐息が零れる。
自分でも、内側が熱い。 何度も抜き差しする指の動きから蓮も目が離せないらしい。 聴こえる息遣いが一段と荒くなった。 合わせて、蓮の性器が硬く屹立しているのがわかったが放置。
あえてゆっくりと内側をほぐす。 もう一本が楽に埋められるまで焦らしたところで、
「・・・・挿れたい?」
挑みかけるよう、表情を作って訊いてやる。 何故って、自分のこのカオに蓮が即座に昂ぶることをいつからか、覚えていたから。
「ッ、 ・・・・・・ああ」
案の定、息をのんですぐに素直に彼は頸を縦に振った。 見れば待ちきれず、性器の先端は濡れている。
それを空いている方の手で拭うように軽く触れてやると、とぷりと大量の体液が零れ落ちた。 なるほど美味しそうだ。
明智は自分の中から指を抜く。 あえて見せつけるように大きく脚を開いた。
それから互いの体液に濡れている指を自らの太腿で拭い、そんな仕草を目の当たりにしてますます乱れる息を堪える蓮を見下ろし、見つめながら。
「僕が勝手に動くから、君は何もしなくていい。 ただ、あんまり早くイかれると困るな」
諭すよう宣言して、明智は蓮の性器を自ら宛がい、迷わず腰を沈めた。


「・・・・ふ、ッ、」
鼻に抜ける、高めの甘い声。
自らのその喘ぎに誘われるように、腰を揺らす。 と、内側を貫いている蓮の肉棒が硬度を増し、たまらず熱い吐息が零れた。
「っは・・・・っ・・・、ッあ、・・・・っ・・・」
初めて試してみた騎上位。 男同士ゆえ、体勢的に少し難しいかと思っていたのだけれど、蓮は枕を背中で支えに、仰向けではいるものの肘をつき心持ち上体を起こし気味の前傾姿勢でいるがため、実際杞憂だった。
『動かなくていい』 と言われた蓮は馬鹿正直にもほどがあるというほど、本当に動かず、ただ下から明智を仰ぎ見てくる。 その表情は恍惚のそれに近い。
一瞬、目線が合うとまた一回り、中で熱を蓄えた。 その拍子に先端が奥の奥に届いて、自分の悦いところがよくわかる。 頃合いをみて角度を変え、その箇所を蓮の括れの部分に擦り付けてみる。 途端、痺れるような快感が腰を駆け上がり、
「あっ・・・・、ああッッ・・・・!」
たまらず明智は蓮の上で身をくねらせた。
軽く眉を寄せ、更に腰を上下させると同時に内壁はきゅうきゅうと締め付け、蓮自身を誘う動きを繰り返していく。
が、どうしたって自らの動きだけでは限界がある。 少しずつ、じれったくなってきた。
けれどその感覚ですら、愉しみたくて。
感覚を逃すよう、ゆるくかぶりを振ってみる。 と、蓮にとってその仕種は 『ど(弩?)』 ストライクだったらしい。
「ッ・・・・そろそろ、俺が・・・・」
噛み締めるように堪える口調に合わせ、手が腰に添えられた。 内側の肉棒も張り詰め、限界が近づいてきているようだ。
それでも明智は気付かないフリをして、僅かに体勢を変える。 今度は蓮の腹部に両の手のひらを付いてやり、半分ほど自分の中から抜いて浅いところを愉しむ姿を見せつけた。
蓮からすれば、そんな肢体と表情は思わず瞬きを忘れてしまうほど執心に足るものだったらしい。
はっ、はっ、と荒い息のもと、ただ見とれていて、さすがに明智も苦笑してしまう。
その笑みに気づいた蓮。 我慢ができなくなったのか、彼の腰も動き始めた。
「ひぁ・・・・っ」
一気に奥まで押し込まれ、声があがる。 そのまま連続して腰を使われ、快楽に染まる視界の中、眺めてみれば蓮の方が余程切羽詰まっていそうだった。
「・・・・蓮、」
「ッ・・・・は・・・・っ・・・っ・・・」
どれだけ堪えているのか、苦しげに悩ましげに、熱い吐息を絡ませている。
目許も蕩けそうで、彼のそんなカオは個人的に、決してキライじゃない。
だから穏やかに訊ねてやる。
「・・・・もう、限界?」
「・・・・っ・・・・悪、い・・・・!」
すると即座に頷かれつつ謝られた。
「仕方ないな」
ふっ、と笑んでやって、明智は本格的に腰を上下させはじめた。 それに合わせ、蓮も下肢を突き上げ始める。
「あっ・・・っあ、ぁ・・・・っ・・・」
揃って確実に追い上げていく動きに、互いに一気に絶頂に向かっていく。
込み上げる絶頂感に奥歯を噛み締めた、瞬間。
「く・・・・っ・・・ッ!!」
蓮の堪えきれない声と同時に、体内に噴き上げられた精を感じながら数秒遅れて明智も飛沫を放ち、
その大部分は、蓮の肌の上に落ちて汚した。






「君、ちょっと本当に僕のこと好きすぎじゃない?」
小休止中。
失った水分をペットボトルの水で補給しつつ、そう告げてみた。
「それが、どうした?」
すると蓮はごく当然のよう、面と向かって真顔でそんな返事をしてくる。
そのあたりはもう隠そうともしていないのが、ある意味潔いというか、
・・・・・・いや、この男はそもそも最初から隠そうともしていなかったか。
「・・・・・・・・」
明智は少しだけ考えて。
「とりあえず聞くよ。 つまり僕のどこがよかった訳? 建前はいらない。 正直に言ってみて」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
今度は少しだけ長く、蓮が考えるため黙り込んだ。 そうして。
「全部」
「え?」
「カオも、体も、髪も、目も声も指も、猫かぶりの優等生探偵王子だったあの頃も、本当は酷くてキツイ本性も、結構あさましいところも、歪みきった性格も、言い出したら聞かないところも、結果的にいろいろ情緒不安定なところも。 たぶん、・・・・・・全部だ」
「・・・・・・・・。 物凄くディスられてる気しかしないんだけど」
明智は低く唸った。 あまり答えになっていないし。
すると蓮は、困ったように言ってきた。
「正直にいうと、俺もよくわからない」
お前のことを何も知らないままいつの間にか始まったのに、気が付いたら離れられなくなってた、自分でも自分がよくわからない。 と供述。
「ふうん。 自分の気持ちが自分でわからないっていうのも変な話だね。 それが本当なら一回、心療内科にでも行った方がいいんじゃないか」
「怒ったのか?」
「別に。 呆れただけだよ」
そう。 蓮自体に、いろいろと呆気に取られただけだ。
「僕の生存ルートを確定するために、君は仲間を含めて沢山の物事を誤魔化してある意味犠牲にして、僕はその挙句ここにいて。 君の望みは叶ったんだろうけど、その過程の中に僕の意思は反映されなかったんだし」
「それは・・・・」
何か言いかけようとするのを、先んじて止める。
「あの時、僕が呪いの言葉として君に送った 『大好きだよ』 は、結局、違う方向での殺し文句になったんだろ。 曲解されたうえ、本末転倒にも程があるけど」
「それは・・・・!」
冷たく言い放ち、焦る蓮に溜め息をついて、汗で湿気を孕んだ髪をかきあげる。 もう一口だけ、水を飲んだ。
「君もまだ飲む?」
「・・・・いい。 いらない」
答える蓮はずーん、と心持ち沈み気味の様相を表している。 少しキツかったか。 でも本当のことだ。
とは言え、そもそも興味本位で先にちょっかいをかけてみた(・・・・) のはこちらからで、
あまつさえ手まで出して手解きまで済ませてみたのも自分からで(・・・・・・)、
実質それが当時あの状況で吉と出たか凶と出たかはともかく(・・・・・・・・)、
今のところはたぶん結果オーライ(・・・・・・・・・・)、
自分への感情に支配されて突っ走った挙句の果て、今後も自分たちは好き勝手生きていけるであろう生ぬるく甘ったるいルートを選択したのは誰でもない、眼前でうなだれている本人なのだし。
そう考えると逆に何だか愉快になってきて、明智はベッドの上、蓮に手を伸ばした。
癖のあるそ黒髪に、殊の外やさしく指を滑り込ませてやって、ゆっくり口唇を重ねる。
蓮は特に抵抗もなくそれを受け入れ、穏やかに深く、合わせた。
「ン・・・・っ・・・」
先に舌を侵入させ、上顎を舐めてやる。
それから舌と舌とを絡ませ、ぬめったやわらかく熱い口腔のなか、吐息もどちらのものかよくわからない。
「まだ、」
足りないとばかり、息継ぎのため一度離した口唇を今度は蓮から奪ってきた。
明日も明後日もその次も、時間は山のようにある。 だから深く浅く、吸い合って味わって、
ようやく長いキスが終わると、互いの唾液が糸を引いてつうっと滴った。
それを指先で絡めとり、ぺろりと一舐め。 無論、蓮が目を離せないでいるのを承知のうえだ。
「蓮の唾液の味、好きだよ」
そして(本心ではあるが) 彼が喜びそうな台詞を選び、空になっていたペットボトルを床に放り出して再び先程と同じく、蓮の上に跨り、乗った。
また蓮も先刻と同様に、ごくりと喉を鳴らし、何故か少しだけ悔しそうに、そしてその十倍も嬉しそうに。
「・・・・お前は狡い」
「何が? ・・・・あはは、今更だろ?」
笑いながら明智は、蓮の腹の上に跨ったまま上体を倒し、顔を寄せる。
「まだ足りないだろう?」
寄せた耳元でそう囁くと、顔を見るまでもなく、返事を聞くまでもなく、ドクンと脈打って反応した下肢で蓮はそれを伝えてきた。
「ふふ。 君とのSexはたのしいから、今日はご褒美」
告げた口唇で耳朶を噛んでやり、体勢を立て直してくるりと明智は身体の向きと位置を変え、跨ったまま蓮に背中を向ける格好をとった。
伸ばした手は、一気に血液を集め出している蓮の肉棒へ添えられ、蓮も、ご褒美の意味を理解する。
一度手のひらで包み込んだだけで、ほぼ勃ち上がった蓮自身に指を絡ませると、
「ッ・・・っ・・・」
それだけで直接的な性感に、若い身体は反応した。
つい今さっき精を放っているのにも関わらず、すぐに芯を持ち力を取り戻し、またも蜜を滴らせはじめた。
「っは・・・・ッ・・・・」
「我慢しなくていいよ。 いつも僕にしてることだろ?」
お互いさまだ、と口では言ってやりつつ、手指の動きは決して止めずに蓮を煽る。
「・・・・うぁ・・・・っ・・・っ」
体液でくるむようにぬるぬると扱けば、そこはぱんぱんに膨れて蓮の下肢が揺れた。
一挙に乱れる低く掠れた吐息に誘われるように、ゆっくりと丁寧に手淫を施してやる。
両手の中で、蓮の猛った肉棒がビクビクと跳ね、気付けば合わせて明智自らのそこも力を取り戻していた。
と、ほとんど無意識に明智は下肢の位置をずらし、自らのそれを蓮の肉棒に擦り付ける。
「ン・・・・っっ・・・・!」
たまらず鼻息が零れた。 熱い。 腰を揺らして何度も中心部を擦り合うその快楽に、胸元が仰け反る。
蓮は蓮で、切羽詰まりながらもきれいなカーブを描く明智の背中から目が離せず、
それでいてこのままでは先に絶頂を迎えてしまいそうで、半ば慌ててほとんど振り切るよう、無理矢理上半身を起こし、身体を折って背後から腕を回した。
「うわ・・・・っ! ・・・・? どうした?」
突然の行動に、明智の動きが止まる。 こんな体勢では、施しを続けられない。 というか、蓮の上に乗ったまま、背中から抱き締められて、はっ、はっ、と喘ぐ蓮の呼吸がすぐ耳元でしたと思えば、
「ッ・・・・っ、・・・・もう、いい、・・・・から・・・・!」
濡れた声で告げられ、自然と口許が緩む。 何だか頭を撫でてやりたくなったけれど、さすがにそこまで甘やかしてやるのはやめた。 代わりに。
「蓮」
背中を向けたまま、彼の腕をほどいて膝立ちになる。
そうして先程と同様、腰を開いて自分で自分の最奥を二本の指を使って露わにし、ずくっと内部に潜り込ませた。
一度内側に蓮のものを放たれて濡れた内壁は、なんなく根元まで飲み込み、ぐちゅっと音を立てる。
「っ・・・・ふ・・・っ・・・・」
奥まで押し込まれた指を、くいっと軽く曲げながら引き抜く。 中から先程放たれた蓮の精液が滴り落ちる。 たまらない行為と感覚に、嫌でも声があがった。
それを二度、三度と繰り返し、自分の腰の後方で今にも弾けそうに赤く猛った蓮自身を、限界まで逸らせてから。
明智は背後の彼に、ちらりと頸だけで振り向いてその横顔で。
「・・・・・・上手に挿れられる? 上手くできるなら、おいで」
今にも口唇が触れ合いそうなほど、近くで 『待て』 から 『良し』 を与えてやれば。
「―――― ッッ!!」
飢えきっていた蓮の、激しい衝動と共に猛ったものが乱暴に奥まで突き込まれてきた。
「ぁうッ・・・・っ・・・」
指よりも太くて脈打ったものに貫かれ、腰が快感でくだけそうだ。 否が応でも内壁はきゅうきゅうと蓮自身を締め付け、熱烈に歓迎する。
「凄、い・・・・な・・・・」
とろりと呂律もあまり回っていない口調で、蓮がつぶやいた。 顔を見なくてもどんな表情か大体想像がつく。 本当に、どれだけ自分(と、そのカラダ) に心酔しているのかと笑いたくなったが、激しく腰を突き上げはじめられ、すべて性感と悦楽に持って行かれる。
「あっ、ぁ、あ・・・・っ・・・ッッ・・・・!!」
抜き差しされるたび、淫らな音がそこから響く。 濡れた粘膜がぶつかって擦り合うその音に耳まで犯し合いながら、揃って熱欲が高まっていく。
「っ・・・・ッッ、はッ・・・・!」
蓮は息をつく間もあまり無いまま腰を打ち付け、その欲を受け止めた身体がやわらかな内側を甘く激しく肉棒に絡ませ搾り取ろうとし、その淫らな収縮にこらえきれず、蓮のものが限界寸前までどくんと膨れ上がった。
この上なく熱くなった質量のもので、内側を蹂躙されて明智のものも真っ直ぐ絶頂に向かい、
「・・・・ア、ぁ・・・・・・あっ・・・・・・!!」
身体中で渦巻く快楽を解放したくて、たまらず明智が自ら中心部に手を伸ばして添え、
打ち付けられる蓮自身の動きにあわせて肉棒をきつく扱き上げると一緒、
「イ、く・・・・!!」
蓮の掠れた声にかぶさるよう、身体の奥深くにまたも大量の精液が迸り、注がれる感覚。
と同時、蓮の吐息を肩口に感じて明智自身も絶頂に到達し、白蜜を弾けさせ、
揃って達したふたり、吐精の余韻に浸る間もなく、荒い呼吸を繰り返していたのだが。
明智はくるりと身体の向きを変え、今度は真正面から蓮の首に両腕を回し絡めて。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう一回」


ねだるよう脅迫するよう、挑んでやる。
蓮が早々に、音を上げなければいいけれど。
そう思いながら口唇を重ねようとした瞬間、戦慄か期待か興奮か、小さな喘ぎが彼の口許から零れて消えて抱き寄せられた。
























キッチンでは、こちらに背を向けて蓮が火にかけた鍋で野菜を煮込んでいる。
彼が 「まだ下ごしらえだ」 と言っていた通り、出来上がるものがお得意のカレーなのかスープなのかシチューなのかポトフなのかはこの段階ではわからなかったけれど、そこそこ良い匂いがした。
ダイニングテーブル(とは言っても二人掛けの小さなものだ) に頬杖を付いて、鍋の中をぐるぐるかき回している蓮の背中をぼんやりと眺めていると、小さな欠伸が出た。 眠い。
そういえばこのキッチンで、蓮はどうやって料理をしているんだろうと、眠気をこらえてふと思う。
自分は包丁など持っていなかったはずだ。 鍋は確か一つだけあって、ほんの一、二回だけそれを使った記憶があったがそもそも料理なんてほとんどしない。 食事はずっと外食かテイクアウトばかりだった。
なのに彼の手元からはまた何かを切る音が聞こえてきて、
「それ、何で切ってる? うちに刃物なんてあったっけ」
尋ねてみると。
「果物ナイフ」
そんな返事だった。 納得。 ナイフならどこかにあったような気がする。
しかし俎板は絶対になかったはずだ。 そこも確認しておこうと思った途端、
「俎板はシートタイプのものを持ってきた。 調味料と、道具も少し」
ご丁寧な補足が入り、
「ああ、そうなんだ」
再び納得すると同時、二度目の欠伸が出た。 やはり眠い。 なんだか無性に熱く濃いコーヒーが飲みたくなった。 だから。
「次はコーヒーとドリップ器具一式も用意しときなよ。 ルブランのものほど本格的なものじゃなくてもいいからさ」
そう言うと、パッと蓮が振り向いた。 その顔は微妙に嬉しげで、同時に何か告げたそうだった。
「何?」
「置いてもいいのか?」
促すとそんなふうに訊いてきた。 何を今更。
「別にいいよ。 それともこれから、一緒に買いに行く? 暇だし」
「行こう」
眠気覚ましに出かけたい明智の提案に、蓮は即断即決。 てきぱきとシンクの上を片付けはじめる。
時計をみると、まだ昼前だった。 いや、もう昼前というべきか。 昨日ベッドルームになだれ込んだのは確かまだ夕方ぐらいだったはずだから。 どれだけ長く爛れていた時間を過ごしていたのかと、自分でも軽く驚ける。 まあそれはさておき。
「いっそのこと他にも足りないもの、まとめて買いに行こうか。 どうせ君、一週間どころじゃなくここに居座るんだろう?」
「・・・・・・、居ていいのか?」
「かまわないよ。 いつか言ったとおり僕もしばらく休んでゆっくりしようと思ってるし」
頬杖をとき、イスの上で軽く伸びをしながら言うと、黙って彼はまじまじと自分を見つめてきた。
「・・・・・・・・・・・・」
「?」
何、と無言で促す。 と。
「お前が妙に優しいと、少し不安になる」
「どうして? ・・・・って、ああ、まあ、・・・・わからないでもないか」
苦笑。 というか失笑。 わりと本音だったのだが。 今までの自分の所業と行動と言動とを考えたら、蓮がそう思うのも無理はない。
だから明智はあえて、ここで大きな甘やかし。
「蓮と居るのは好きだよ、楽しいし。 楽しくないなら、明日なんていらないしね」
一緒にいる明日が欲しかったのは、たぶん同じ。




「まあ、幸せに蝕まれるのも一興かな」




そう言ってきれいに笑ってやったら、
いつの間にか傍にきていた蓮から、つむじのあたりに軽いキスが降ってきた。




















【 これで終わりです。 長らくお付き合い、ありがとうございました! 】 






タイトルの 【CFY】 はクレイジーフォーユーの略です(笑)。 以上!