※前回あらすじ




・ガイルクで結婚しました。

・書き忘れてましたが同時にジェイピオもイチャラブです

・細かいあたりはあんまり深く考えないでください





























 大佐と陛下が遊びに来ました。




とある日の昼間、新築ほやほやの一軒家にて新婚ほやほやガイルク揃ってまったりしていたら。


「突然失礼。 お暇でしたらお邪魔しますよ。 ああ、わざわざ聞かずとも暇そうですね」


「よう」


突然ジェイドとピオニーが訊ねてきた。 遊びに来た。
ジェイドはともかく、皇帝陛下直々の訪問に最初はやはり少々驚いたものの、
「ちょうどこの近くに来たからな。 元気か、とかどんな様子だ、とかいろいろ新婚二人の邪魔をしに来た」
「陛下、正直に言い過ぎです」
楽しそうなピオニー、フォローになっていないジェイド。
説明に軽い嘆息混じりのジェイド曰く、これは 『陛下恒例のお忍び行脚、やめていただきたい悪いクセ』 だそうで当然にしてたった一人の護衛も付けず、
つまりピオニーのストレス発散、気晴らしのお忍び外出であるらしい。




















そんなこんなで家の中、応接間に四人。
最初は近況やらくだらない雑談をして過ごしていたところ―――――――
















「で、その後あの病気の具合はどうです?」


「は?」


程好い酸味テイストで淹れられたコーヒーを口に運びながらのジェイドに突然質問され、
きょとんとしてルークは聞き返した。
今そこにいるジェイドと自分、そしてジェイドの横のこの国の皇帝陛下に加え、
現在キッチンにてコーヒーのお代わりの準備をしているガイとの総勢四人で先程までしていた雑談 『ブウサギの上手なしつけかた』 の話題とは全く関連がない。 何のことだかわからない。 だって主語がない。
ゆえに質問の意味がさっぱりわからずにいると、ジェイドは小さく微笑んで。


「ガイの脳の病気ですよ」


穏やかながらきっぱりあっさりと。


「病気って・・・・」


思わず呟き返したルークだったが、表立って頭から否定出来ないあたりがつらい。
それを見越した上か、ガイ当人がここに居ないのを良いことに、三十路後半ロン毛の眼鏡軍人は更に言葉を続けた。


「ま、ルーク狂病といいますか、持病といいますか、宿病といいますか、そのあたりの程度は如何です?」


「・・・・・・・・・・」


言われたまま、従順とも言えるべき素直さを持ってルークは少し考えてみる。
が、
程度はどうだと改まって聞かれても答えようがなく、


(・・・・・・・・・・)


記憶を辿っていくにつれ、ついつい思わず一ヶ月ほど前のことを思い出してしまった。






まず二年ぶりに帰ってきて些事諸々を片付けたその後、少し落ち着いたと思った直後に突然ガイに呼びつけられ、自分の知らないところでいつの間にか、ちゃっかりナタリアとアッシュを最初から抱き込んでおいての周到な(というより勢いで押し切られた形での) 例のプロポーズ。
それを(半ば諦めの感もあり)受け入れた途端、かっ攫われるようにしてその日のうちに連れて来られたのがこの一軒家でありこの場所であり。
「え? え?」 と戸惑っていると、「ここが新居だ。 もう調度品も生活用品も一式ちゃんと揃ってるぞ」 と先導してすたすた入っていく元使用人。
おまけに、つられるように居間に入ったルークが一番に目にしたものは、一体いつの時点で実家から送られてきていたのか、自分が今まで実家で使っていた生活道具一式、服一式まるごとほとんど全部まとめて。
「これ・・・・」 呆気に取られながらも懸命に気力を奮い起こし梱包部分を見てみれば、
船の積荷として送られてきたらしい荷札、宛名で書かれている文字を見るに、見覚えのある流麗な筆跡はどうやらナタリアのもののようだ。
と、なると梱包したのはおそらくアッシュ、
しかしいくら何でも自分がここに着いた時点ですでに届き済みだなんて、あまりに手際が良すぎる。 
(あ、あいつら・・・・)
イコール従って、ルークが思うよりはるかとっくのとっくにガイ・ナタリア・アッシュの三人は手を組んでいたわけで(十中八九、アッシュはナタリアに引き摺られてなのだろうが)、
思わず最大級の溜め息を漏らしたルークに、ガイのダメ押しの一言。
「そうそう、ついでに婚姻届はさっき、ピオニー陛下宛に投函しておいたからな」
これにはさすがに(ここまで来ても) 吃驚し、
「は?! こ、婚姻届ぇ!? ちょっと待て、俺そんなんまだ全然見てもいねーんだけど!」
見てもいないに加えて、よく知らねーけどハンコとか証人とか必要だろうし、そもそも俺が書かなきゃ・・・・、と怒濤の展開に焦ってガイを問い詰めてみれば彼は 「ああ簡単さ」 とケロリ。
「印鑑は拇印でアッシュに捺してもらったし、証人欄にはジェイドと陛下が揃って署名済みだ。 はは、この上ない最強の証人二人だな」
「・・・・・・・・」






(・・・・・・・・・・)
と、ここまで考えるにあまり普通ではないことは明白なのだけれど(・・・・)、



「別に、前とそんな変わってねーけど」


ルークとしてみれば、せいぜい無難にそう答えておくしかない。
するとジェイドは 「そうですかねえ」 と僅かに含みを持たせながらもそれ以上追求はして来ず、
と、
今度はそれまでしばらく黙ってあたりをきょろきょろ見回していたピオニーが、その後を継ぐ形で問いかけてきた。


「ところでさっきから気になってたんだが、この家、いくら住人が二人だけだとしても伯爵と子爵のものにしては少々手狭じゃないか?」


「え? そうですか?」


言われてルークは怪訝な面持ちになる。
確かに彼の居るグランコクマ宮殿や、実家のファブレ家と比べたら格段に小さいことは間違いないけれど、
一応新築二階建て6LDKバルコニー完備プラス、立派な門構えにそこそこ広いポーチ付きの庭だって付いている。
そこにたった二人で住んでいるのだから、狭いなんてそんなこと思いもしなかった。
でも考えてみれば陛下の言う通りなのかな、
とも一方で相変わらずの世間知らずっぷりを醸し出しながら考え始めたルークの頭の上、


これくらいでいいんです。 あまり広いと何処にルークが居るのかわからなくなりますからね」


降って沸いたガイの声。
引っ込んでいたキッチンからちょうど戻って来たらしい。
手に持ったトレイの上には新しいコーヒーが人数分、乗っている。
その姿は随分と板に付いていて、そしてこれまたやたらにと手際よく、ソファーに腰を下ろしている各々にカップを手渡し、空のものと交換しながら。


「それに、ルークは自分の家の中でも頻繁に迷子になる体質持ちですから」


「〜〜〜〜それは昔の話だって!」


笑いかける片方と、慌てて訂正する片方。
そんな新婚野郎二人をピオニーはまじまじと眺めて。


「・・・・なんだか妙に幸せボケしてないかガイラルディア。 ルークがどこに居るのかわからなくなる、って、うちのブウサギルークじゃあるまいし、いつからそこまで過保護になったんだ」


「え? 俺は昔からずっとこうでしたが」


しゃあしゃあと(それも真顔で) ガイは返答し、
呆気に取られるピオニーの隣で 「確かにそうでしたね。 旅をしていた頃からウザいこと極まりない程に」 と生真面目に頷くジェイド。
ルークはルークで、「だから余計にタチが悪いんだよな・・・」 と口の中だけでブツブツぼやきつつ、
「でもまあもうとっくに慣れたけど」 とか 「慣れればガイの過保護もうざったさ(・・・・) もそれほど悪いもんじゃないし、」 とか何とか懸命に前向きに思い込む手法に出はじめたところで。
どこまでも面白気な響きを持った、ジェイドの結び(?) の一言。


「ま、ルークには少々申し訳ないですが今後、ガイの相手と面倒は任せましたよ。 これからの長い人生、決して痴話喧嘩の末の家出などしないように。 いいですね?


「???」


言われることの意味をルークががいまいちよくわからずにいると、コホンと咳払いをされ、そして。


「万が一にも実家にでも帰ってみなさい、ガイは貴方を取り戻すため連れ帰るため、鬼の形相でファブレ家に焼き討ちをかけますよ」


「げッ!!」


これまたその可能性について頭からの否定も出来ず、
いやでもまさかいくら何でもいくらコイツでも流石にそこまでは・・・・、と思わず反射的にルークはすぐ横のガイを見上げてしまう。 すると彼は 「おいおい、」 と小さく笑ってみせた。


「はは、いくら何でもそんなことまではしないさ」


「だ、だよなー? ・・・ったく、色々やたらと勘繰り過ぎで冗談キツイって、ジェイドは」


ガイのごくごく真っ当な返事にほっと胸を撫で下ろし、このまま終わればとりあえず冗談で済む話のはず、
だったのだが。
続けてガイは先刻から変わらない笑顔のまま、


「焼き討ちじゃなく、せいぜい夜討ちってところにしておくよ」


さらりと本心、
爽やかにアレ、なところを(多分本人は無意識のうちに) 露呈してみせる。


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


発言を受けてルーク、ジェイド、ピオニーは三者三様の面持ち、
三者三様のフクザツな心情でたまらず黙り込み(当然にして今のが冗談である可能性も無きにしも非ず、なのだが)、
ルークを抜いた残りの年長組二人は、改めて赤気のヒヨコ頭に同情せざるを得なく。


そうして、やはり場を仕切り直すのはピオニーの役割というか何というか。
「ま、それはさておき、」
ゴホンと一つ咳払いをした後、
少々強引とも言えないこともない、話題の転換、閑話休題。


「それにしてもガイラルディアの淹れたコーヒー、美味だな。 毎日の食事もやっぱりガイラルディアが作ってるのか?」


見たところ料理人やメイドも雇ってないみたいだしな、との質問に、


「大体、っつーか、作るのはほとんど全部ガイです」


コイツが作った方が断然早いし断然上手いし、そのかわり後片付けとか食器洗うのとかは俺がやってますけど、とはルークの弁。
するとジェイドは 「ああやっぱりそうでしたか」 と頷きそれから、
改まって正面の新婚二人に忠告・勧告・警告。


「太らないように。 ちびっこのルークはともかく、ガイは危険ですよ、今のうちから注意しておかないと」


身長184cm、体重79kgという体格から見ても決して細体型というわけではありませんしね、
まあパッと見は身長はともかく体重はそこまであるようには見えませんけれども、と一旦結び、
それから今度はルークに向けて。


「ルークもガイを太目の脂ぎった中年にしたくなければ、少しは料理もするように」


「は?」


「ルークの料理なら、美味しさゆえに食べ過ぎるということもないでしょうから」


「〜〜〜〜余計なお世話だっつーの!」










――――――― でもあながち間違っていないあたり、情けない。























それから小一時間ほどまた他愛無い雑談で時間をつぶした後、二人は帰って行った。
時計を見れば時刻は夕方16時半、
微妙な時間なのだがルークはガイの作ったケーキをもふもふと食べている。


「心配しないでくれよ、10年20年後、もしも万が一、ルークが今の倍の体重になったり髪が薄くなったりしても、俺はルーク一筋だからな」


「あーーーハイハイ」


俺はジェイドの言う通りお前の方がよっぽど危険だと思うんだけど、と頭の中で思いつつ、
もふもふもふもふ。 ルークはクリームとスポンジを頬張る。
一方でガイはふと思い立ったように指折り数え始め、


「ああ、でも俺たちの15年後が今のジェイドと陛下と大体同じくらいか少し年下なくらいだな。 そう考えると、大した心配はいらない・・・・か?」


半分ひとりごとのように呟いたガイに、ルークは口の中のケーキをごくんと飲み込んで。


「あの二人はバケモンだっての。 戻って来たとき、ジェイド見てマジびびったもん、俺。 2年経っても老けるどころか何にも変化してねーし、陛下なんか初めて会ったときより絶対若返ってるぜ、あれ」


「そう言われりゃそうかもな・・・」


「だろ!? 絶っっっ対、若返ってるよな!」


力説ルークにガイは思わず笑ったのだが、彼は気付かなかった様子でもふもふもふもふもふもふ。
ああ、可愛い。
ケーキを口に押し込む姿も、
「あ、ヤベ」 と指についたクリームをぺろりと舐める仕種も、
ケーキの上のイチゴ一粒を大切残して、一番最後に食べようとしているところも、
何もかもルークはやっぱり可愛い。
もし将来、食べ過ぎでいつかプクプクの丸々とした体型になってしまったとしてもそれはそれできっとルークは可愛い。




ルークなら、どんなルークでもいい。
































こちらは帰殿途中の年長者二人、
夕暮れの人通りの少ない細い道を焦らず急がず、丁度良い速度で並んで歩いていく。


「なんだかんだ言って、ルークも幸せそうだったじゃないか」


初めて会った時とは大違いだ、あんな安心しきった顔は初めて見た。
と嬉しげなピオニーに、ジェイドは相槌を打つ。


「それはそうでしょうね。 ルークにとって一番落ち着く相手と、一番安心出来る存在と、一番好んでいる相手がガイなのですから」


「でもまさか結婚までしちまうとはな。 あーーーー、若い奴等が羨ましいぜ」


「おや、不服ですか?」


主語はない。 が、ジェイドの目線と口調は意味深だ。


「違う違うそうじゃない、羨ましいのはあのバカップルっぷりってやつだ。 ルークは頑張って隠してたけどな。 あれは若い奴等の特権か?」


「『若さは馬鹿さ』 とも言いますから」


「身も蓋もないな・・・・」


言い切った一言にピオニーは苦笑。
その苦笑を受け、ジェイドは横顔で微笑んで。


「ま、若い二人のことは二人に任せて、私たちは私たちで楽しみましょうか」


「何をだよ」


興味津々で訊ねた彼に、
彼は声には出さず、口の動きだけで彼の名を囁きかける。








――――――、』








重ねて流れる長い髪、僅かに揺れる金髪。








「・・・・お前、なあ・・・・」


数秒後、口許を手で覆いながら周囲をピオニーは見回す。
幸い、視認できる範囲内には誰も居ない。
さすがにジェイド、心配するまでもなくそのあたりの抜かりは無かったか。


ゆめゆめどんな時でも油断は禁物ですよ


「・・・・こんなところでキスして来るなんてお前も充分なバカの同類じゃないか」


「ええ。 私もまだまだ若いつもりですから」


ケロリ。
ガイとルークにはまだまだ負けていられませんからね、と後に続けるジェイドは何を張り合おうとしているのか。
ああそう言えば、こいつは幼い頃からとてもとても負けず嫌いだったようなそんなような。


「・・・・・・・・・・」


若さは馬鹿さ。 それなら、きっと自分もジェイドも馬鹿は死んでも治らない。 馬鹿につける薬はない。
どうやっても、治らないなら。


「まあ、それならそれでいいさ」


むしろ大歓迎だ、とピオニーは小さく零し、


「と、いうわけで逆襲。 逆襲のピオくん」


万が一、どこかで誰かに目撃されていたとしてもこいつがきっと上手く揉み消すだろう。
それにいざとなればどうにでもなる。 どうとでもなる。

だから、



今度は自分から、仕掛けて十数秒を越える長いキスをした。




























――――――――― 二人、伊達に歳はとっていない。























【 →→→ [新婚なのでしました。] に続く】