[ カグツチ塔、突入前のあたり ]


自分のためだけに書いた!






『・・・・・・・・ライドウ。 やっちゃったね、ボク』




遡って一時間ほど前、モコイが 『邪教の館に忘れ物をした』 などと突然言い出したので、ゴウトが引率として一緒に邪教の館まで戻っている間、二人だけになった。(※互いの仲魔はストック内でで休憩中だ)
この別世界で、特に意味があった訳ではなかったけれど。 ふと。
「トウキョウでは、МAGは不要なのか」
会話はライドウの、その何気ない問いから始まった。
「え? 何? マグ???」
何ソレ、初めて聞いたと人修羅は怪訝そうなカオをする。
そんな彼に、ごく簡単にМAGの説明をしてやると、
「へー、何か面倒くさそう。 俺もよくわかんないけど、この世界じゃいらねーんじゃね?」
呼べばフツーに出てくるし仲魔。 МPみたいなモノ? と首を傾げつつ、あっさり答えてくる。
そんな仕種はほぼ人間のまま、の人修羅だったけれど、高い高い、初めてまみえたサンシャインなど比較にならないほど天まで伸びるカグツチ塔を見上げつつ次に口にした言葉。
「たぶんココが最後の場所になるだろうからさ、アンタにぶっちゃける。 聞いてくれる?」
「何だ」
「俺はさ、みんなみたいにコトワリなんて一つも浮かばなかったけど、今になって思う」
ひとりごちる人修羅に、 【創世】 の輪郭をぼんやりとだがライドウは脳裏で反芻する。
かつての友人と、恩師と、知り合った男たち。 そのあたりの話は全てではないにしろ、概要で聞いていた。
「何も考えずに、力でぶっ壊して、静かな世界を創ればいいんじゃないかって。 そうすれば、勇も千晶も氷川も浮かばれるだろ?」
すでに彼等が故人であるような言い方をするのは、無意識なのかそれともあえてそうしたのか、眺める横顔から判別は難しかった。 だからライドウは黙って先を促す。
「って言ったって、その先にあるのが何かなんて、俺には全然見当もつかないんだけど」
どちらかと言えば明るめなイントネーションのくせ、抑揚はあまりついていない。 それはたぶん、人間だった頃から彼はそうだったのだろうと思わせる響きだった。
「どう転んだって、至福の千年王国なんかあるわけないっての。 俺にだって、そんなことぐらいわかってるのにさあ」
おまけに話もあまり前後で繋がっていない。 これもおそらく、彼はただ言いたいことだけを自分に吐露しているからであって、今は喋らせてやることが必要だとライドウは理解して。
引き続き自分は黙ったまま、人修羅がこちらに顔を向けた拍子に少しだけ交差した視線で、僅かに頷いてやると。
「悪魔になってからさ、ダメージ受けても血は流れないし、涙も出ない。 最初は驚いたけどすぐ慣れた。 腹も減らないし、眠くもならない。 あ、けど性欲だけ少し残った。 ちょっとどうしようって思った」
「・・・・そうだな」
「ははっ。 そこで相槌打ってくれるんだ。 やっぱ俺、アンタのこと好きだよ」
滅茶苦茶強いしすげーカッコイイし、他のみんなみたいにウダウダグダグダ言わないし押し付けて来ないし、
なのに俺の力になってくれるしアンタがいるから道中寂しくなかったし、と彼は笑う。
そんなところはヒトと変わらず、ただ目を瞠るほどうっすらと、しかし鮮やかに発光する刺青が施されたその腕がこちらに向かって伸ばされて、
「どーする? 記念に一回くらいヤっとく?」
本物の悪魔の誘い。
「たくさん着込んでるアンタ脱がせるの大変そうだからさ、ヤるならパンイチのいろいろラクな俺がヤらせてもいいよ?」
と人修羅は目許だけを和らげる。
さすがにどう答えようかと一瞬逡巡していると、
「大丈夫だって。 金髪ロン毛のじいちゃんも、あの小っさいガキも覗きにくるほどヤボじゃなさそうだし、そこまでヒマでもないんじゃん?」
そういう問題ではないのだが。 ・・・・否、彼からすればそんな問題、程度なのか。
何故だかライドウは安心する。 
とはいえ(・・・・) 悪魔の(・・・・) 誘いに(・・・・) そうそう乗れるはずもなく、小さく首を横に振って意を示す。 と。 悪魔っ子(・・・・) は、頬を膨らませてむくれてみせた。
「ちぇー。 少しくらい遊んでくれたってバチは当たらないのに」
「もうすぐゴウトたちが戻ってくる」
「ネコ? ・・・・ん、まあ・・・・見つかったらあのネコにはすっげー怒られそうな気はする。 二人そろって」
「だろうな」
ゴウトのお小言は長い。 そんなことになってしまったら、おそらく二人(あえて二人、と表記する) 揃って正座させられ、延々と説教されるのは目に見えている。
「ちぇっ。 ・・・・・・・・じゃあさ、全部終わって、アンタがそっちの世界に帰ったあと、もしも俺のこと召喚できたら、遠慮なく呼んでいいよ」
ライドウは片眉を上げた。 そんなことが可能なのか、現時点では確認のしようもないが。
「それまで俺が生きてるかどうかは分かんないし、俺が俺でいるかどうかも分かんないけど。 さっき言ってたМAG? もいらないし、超リーズナブルじゃん、俺」
そう口にする人修羅は、とても嬉しげで、
だから。
「・・・・・・・・どうせならそっちの世界で死にたいなって思える俺は、まだ大丈夫なのかな」
何かを諦めたような、自嘲混じりの底知れない金色の瞳に一瞬、見蕩れた。
「、」
「? 何?」
「・・・・いや」
何でもない、と書生は再び、首を横に振る。
ライドウが抱いたこの感情は彼が悪魔であるからこそ、沸き上がったものだった。
だからこそ、伝えることも出来なかった。

































うっかり邪教の館に忘れてきてしまったブーメランはきちんと館のオヤジが保管しておいてくれた。
それを受け取って、ゴウトと一緒に戻ってきたモコイさんは、大切なブーメランを両手で大事に抱えながら、二人からちょっと離れた場所でこっそり立ち聞きをしている。
『ダメダメだね、チミたち』
・・・・つい、小声でダメ出し。
ホシイモノは欲しくなったときにその場で手に入れておかなければ、二度と手に入らなくなってしまうことが多いのだ。
悪魔歴もそこそこ長いモコイさんは、それを知っている。
若い彼等の邪魔をしないよう、あえてゆっくり帰ってきたのに。 あの様子では、到底先に進みそうもない。
融通のききそうな人修羅クンはともかく、堅物ライドウに向けて。
『そういうとこ、ホントダメダメだね』
きっぱり。 二度目のダメ出し。
ちなみに隣にいたゴウトにゃん(※モコイさん命名) は、ハラハラドキドキしていたみたいで。
「信じていたぞ、ライドウ」 などと安堵の深い深いタメイキをついていたけど。
なんだったらモコイさん的には、ゴウトにゃんの首根っこを無理矢理つかまえ、
『あっもひとつ忘れモノしちゃったボク』 とか適当ぶっこいて、館までもう一往復くらいしてもいいかナ、なんて思ったりもしてみたのだが、
このへんの悪魔はなかなか強くて、これ以上はライドウ無しじゃちょっと心の配、だったので、そのまま素直に彼等のところへ戻った。
さっきの人修羅クン召喚云々の話、ボクがボルテクス界デビューできたんだから、彼も帝都デビューできるんじゃない? て、普通に思った。
だからカグツチ塔の途中、そうライドウに言ったら、いつもよりちょっと長く、頭を撫でてくれた。
覗き見プラス、立ち聞きをしていたことについては不問だった。




もうすぐ、カグツチ塔のてっぺんに到達する。
モコイさんはちょっとだけ、ドキドキワクワクゾクゾクしてきた。














ただただモコイさんを書きたかっただけの話でありました。
ライ鳴のライ様とは完全別モノになった(笑)。