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・・・・怖い、というわけではないのだ。(多分)
・・・・苦手、というのとも少し違う。(と思う)
それなら何なのか、と問われると自分でもよくわからない上手く言えないのだけれども。
と、横目でブラウン管をチラリと見ながら土方は思う。


「・・・・・・・・」


そうだそうだアレだアレ、
『性に合わない』
『理解できない』
だから、イヤなのだ好きじゃないのだ寄るな触るな姿を現すな、と心底願ってしまうのだ。


「おい総悟」


『それ』 から視線を外して、できることなら耳栓が欲しいところなのだけれども手元に無いから音も聞こえない聞いていないフリをして、
手持ち無沙汰を沈めるために、また意識を 『それ』 から背けるため煙草に火をつけつつ、あえて作った命令口調で。


「そんな下らねェ番組、消せ」


「えぇ?」


そんな言葉に、言われた方の沖田は当然、不満気な声をあげた。
と同時に、『それ』、・・・・つまりテレビの画面が番組からCMに変わる。
「今一番面白ェとこなんですぜ〜?」
言いながら沖田は首を傾け、くるりと土方の方を向いて訝しげに眉を寄せる。
が、土方の方からしてみればそんなことくらい、流れてくる音声、つまり女性の悲鳴じみた台詞から百も承知でわかっている。
だけれども、 ・・・・否、だからこそ消してしまいたいのだ。
「いいからチャンネル変えろ。 んな下らねぇモンばっか見てねーで、N○K教育の一つでも見てその足りねェ頭をどうにかしとけ」
「えー?」
「そんなんばっか見てっからいつまでたってもアホなんだお前は」
「あー嫌だ嫌だ。 年寄りは全部テレビのせいにしたがりやがる。 そーやって何でもかんでもテレビとゲームのせいにする風潮、どーにかなりやせんかね」
「誰が年寄りだ・・・・!」
「土方さんに決まってんでしょーが」
「てめェ・・・・」
無駄口は叩くが、テレビの前からどうやら動かないところを見ると、沖田は言うことを聞く気がこれっぽっちもないらしい。
ったくコイツは、と口の中でぶつぶつ呟きながら土方は腰を上げ、
畳の上に放られていたリモコンに手を伸ばして、未だCMの流れ続けていた画面をブチッとOFFにした。


刹那。


「うおぁッ!!?」


殺気、を感じたと同時、目の前に突きつけられた冴え渡って光る刃。
「テレビ。 ・・・・リモコン返せ。渡しやがれこの野郎」
要求と一緒に、ぐいぐいと刀の切っ先が押し迫ってくる。
「馬ッ鹿・・・・野郎! 部屋ん中で抜刀しやがるバカがどこにいやがる!!?」
「ここ別に俺の部屋じゃねーし構わねーです」
「そういう理屈かァ!!」
いいから刀、それ納めろ、と仕方なくリモコンと交換で何とか言いくるめて引かせると、何故だか土方は思いきり頭を抱えたくなった。


せっかくの休日であるはずなのに、
せっかく二人揃って同じ場所、一つ屋根の下(・・・・) に居るというのに、
それもいつものように普段のように人目ばかり気にしなければならない真撰組屯所ではなく、せっかく誰の邪魔も入らない土方の自室だというのに、
何が悲しくてこんな真っ昼間から色気もなにもなく、ごろりと転がってテレビなど眺めていなければならないのだろう。
挙句の果て、先程から総悟がかじりついて離れない番組がこれまた、
これまたナニユエに秋も深まるこの時期に放送するのか甚だ理解不能この上ない、
【実録・心霊写真・心霊恐怖話】 というタイトルそのまんま通り、そういった内容のものなのだ。


「・・・・・・・・・」


再度ONにされたテレビからなるべく視線を逸らしつつ音声も何もあえて聞こえないフリをして、
のろのろと手に取った新聞のテレビ番組欄で確かめたところ、どうやら一時間番組であるようだ。
番組の途中から見始めたこともあり、せいぜいあと20分、といったところか。
しかしラスト20分はまさしく怖さもクライマックス、という作りが基本でもあって、
あと20分、いっそ便所にでも篭って過ごすか、と土方が半ば真剣に考え始めたとき。
なんか面白くねーや、との呟きと同時に付けたばかりのブラウン管がまたもやブチっ、とOFFにされ、


「そんなにオバケが怖いんですかィ?」


消えたテレビの前、振り返った沖田に、半分呆れ返ったような口調でまじまじとそう言われてしまった。
「こ、怖いワケじゃねェって」
ただスキじゃねェだけだ、と慌てて補足して付け加えるけれど、
「この前の化け物騒動のときといい、ちょっと情けねェですぜ。 ってか声、震えてます」
正面から痛いトコロをズバリ突かれ、うッ、と思わず土方は息を詰める。
それを言われてしまうと、何も言えなくなってしまうあたり、自分でも少しナサケナイ。
「・・・・仕方ねェだろそういう性分なんだから」
ぼりぼりと人差し指で照れ隠し情けなさ隠しのために頭を掻きつつ、テーブルの上に置いておきっぱなしの冷めた緑茶をごくごく喉に流し込んでいたら。
「ってコトは、やっぱ怖いってことで。 さもありなん・・・・。 あーあ情けねェ情けねェ」
「そうじゃねェ!」
言われてたまらず声を荒げるけれど、
「いやいや誤魔化されませんぜ、この前のあの時の姿といい・・・・」
そんな肝っ玉小せェお人に副長なんか任せておけませんぜやっぱここは俺にその座を譲って土方さんはもう隠居して下さいよ、
といつものパターン、結局話はそこへ辿り着く。
「勝手に言ってろ」
座布団を枕にして仰向けに、ごろりと寝っ転がって天井を仰いで、大人げないと自覚しつつ、この話題を土方はそこで完全に放棄。
・・・・・・しようとしたの、だが。


「何やってんだ?」


自分が寝っ転がった途端、沖田はテレビの前からごそごそと移動してきてわざわざ自分の頭の位置、枕元に立って、
ゆらり、と両手を胸の前に垂らしてみせた。
「・・・・幽霊のマネ」
「あのなあ・・・・」
意味の欠片もない、阿呆な行動に最大級のタメイキが込み上げてくる。
「頭がカラなのにも程があるだろーが」
はああああ、と煙草の煙と共にそんなタメイキを吐き出して、つい今しがた寝っ転がったばかりだというのにも関わらず、
器用にも片手で煙草を揉み消しながら、上半身を起こす。
併せてぺたりとその位置、枕元に座り込んだ沖田に対し、「何だったんだ今のアレは」 と一応、本当に一応の義務感のみに支えられて聞いてみたところ。
ただの真似ですぜ真似、と総悟は嘯いてしらばっくれたあと、
それでも最後に小さな声で、
「・・・・予行演習」
そう呟いた。
「・・・・あ?」
無論のこと、突然そう言われても土方には何がなにやらその意味がわからない。
モノマネ(それも最高にクダラナイ) に予行演習も何もあるか、と首を傾げたところで。
「ユーレイになっちまった時の予行演習でさぁ」
「あぁ?」
余計わからない。
またも煙草が欲しくなり、袂を手探りで箱とライターをがさごそ探りつつ、しかし見つからなくて諦めて、
何言ってんだ総悟、と改めて目の前のかわいいカオを改めて眺めやったら、当たり前だけれども思いの他、二人の距離は近く。
「・・・・・・、」
今更だ、と思いながらもおもむろに気づいた距離の近さに息をのむ。
そんな土方とは対照的に沖田は表情のひとつも変えず、俺がユーレイになっちまったら、なんて続けたあと。


「こーやって毎日毎日毎晩毎晩枕元に立って、肝っ玉の小せェ土方さん脅かしてやるための練習でさぁ」


「・・・・・・・・な、」


何言ってやがる、ユーレイになってまでも性悪のまま化けて出て来やがるつもりか、
・・・・いやそうではなくて、
何言いやがる、俺は肝っ玉小さくなんかねーぞ、
・・・・いやいやそうじゃなくて、
何言い出しやがる、お前が化けて出たってちっとも怖くなんかねーよ阿呆、
・・・・いやいやいやそうじゃない、言いたいのはそんなことじゃなくて、


何寝惚けたことぬかしてやがる、ユーレイになって化けて俺の枕元に出てくるってことはアレだ、つまり先にお前の方が逝・・・・、


そこまで考えついたところで、まるで胸中を見越したかのように、沖田は瞳だけで笑って。


「美人薄命、って言うでしょーが」


「・・・・お」
少しでも一瞬でも、縁起でもねーこと言うんじゃねーよ、なんて思った自分の方が甘かった。 馬鹿だった。
まあ土方さんには一生縁のねー言葉でしょーがね、とにんまり笑いやがるあたり、絶対、絶対こいつは自分をからかって遊んでいる。
「総悟てめェ・・・・」
気づいて低く唸ってみせるけれど、
「なんですかィ?」
変わらず沖田は余裕綽々、かわいい顔して憎たらしい。
「・・・・なんでもねェよ」
でも憎たらしいけれどやはりやはりかわいくて、本気で怒る気になれないというか、
こう至近距離にいると惑わされる、というか、
正直、
まだ昼間だが真っ昼間だがそのあの、
「あ」
「?」
「・・・・やっぱなんでもなくねェ」
欲情の虫がムクムクムク。
「はィ?」
小さく口の中だけで呟く土方に、沖田が全然聞き取れませんぜ何言ってるんですかィ土方さん、と聞き返してきたところで。




「なあ総悟、」
至近距離、手を伸ばす。
「・・・・わかんねェぞ、隕石が降ってきて、俺の方が明日コロッと死んじまうかもしれねーし」
伸ばして衣服越しにさわった背中は何故だか少し冷たくて、オイオイ本当に牡丹燈籠じゃねーだろうな、なんて少しだけ思ってしまって、
体温を、
・・・・直に確かめたくなって思わず引き寄せ、その鼻先に唇で触れると沖田は少しだけくすぐったそうにして、それでも。
「何言ってるんですかィ、ゴキブリみてェな生命力してるくせに。 あと八十年はピンピンして生き続けますぜ。夜な夜なかけてた丑の刻参りの呪いもちっとも効きゃあしなかったし
「・・・・あのなあ」
変わらず全く口がへらなくて、でもそんなところもやっぱりカワイイ。 ・・・・なんて感じてしまうあたり、末期だと自分でも思う。
先ほどから触れている鼻先だけでは感じ取れる体温は充分ではなくて、柔らかな前髪の上に唇を落とした。
「お前だって同じくらいしぶてェだろうが。 ・・・・ま、どっちが先に極楽に行くとしてもだな、」
そこで一度言葉を切って、続きを口にしようとしたのだが。


「・・・・・・。 土方さん、」
おもむろに総悟から名前を呼んできたかと思ったら。
身長差ゆえ体勢ゆえ、下方からの吸い付いてくるようなキスに襲われて、続けようとしていた言葉は中断された。


「・・・・ん、」


柔らかな唇と、
伝わる体温と、
分け合う互いの唾液と、
貪りあう熱と。


「俺らは、」
「・・・・総悟?」
長いキス、しかし戯れの触れ合いに息継ぎの合間、吐息の触れる距離で総悟が口を開いた。
「人斬りは、・・・・極楽になんざ行けやしませんぜ」
善くも悪くも今までにどれだけ斬ったと思ってるんですかい、それだけならともかく、と小さく笑って。
「挙句、こんなヒトの道から外れたコトしちまってんですから」
そして再度繰り返される口付けの中、
・・・・確かにな、と土方も同じく思う。


けれど、
だけど、
「・・・・レンアイ沙汰は罪じゃねェだろ」
わかりきっていながらもあえて、そう囁いたら。




―――――――― そうくると思ってましたぜ、じゃあ遠慮なく。




どこか悪戯っぽい、そんな声と同時に求めてくる唇が、熱と激しさを増した。




だから昼間だろうがヒトの道に外れていようが、そのままこちらも応えてやることにした。
















どうせいつかは揃って地獄行き、
それなら、今のうちに思いきりスキなことをしておいた方がイイ。


『憎まれっ子、世に憚る』


少し違う意味合いのような気もしないでもない(・・・・)が、構わずこの言葉通りまあ長く長く見積もって二人共あと余生ざっと80年、
四捨五入すれば100年の大台、所謂1Century。


いつか来るそんなとき、揃ってユーレイになって三途の川を一緒に渡るその日まで、








―――――――― 100年の恋、をしよう。
















「えー、俺、あと八十年も土方さんと一緒に過ごさなきゃならねェんですかィ〜?」
「なんだそのイヤそうな顔は」
「・・・・別に」
「ってオイ! 思いっきり不満そうなカオしてんじゃねェかよ!!?」
「・・・・・・・・別に」
「オイ総悟!」
「・・・・・・・・・・・・別に」
「総悟ォォォォ!!」




100年の恋・・・・・・・・、をしているハズである。


たぶん。












また誘い受けですか・・・・(撃沈)。 そろそろ自分でもこのパターンには飽きて来たんですがどうしたら(蒼白)。
それにしてもどうしてこうイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャ・・・・!!
次からはもうちょっと何とかできるようにしたいと思いますガクリ。
はじめてものがたり(←笑) もやりたいなー。 土沖でちゃんとした裏・・・・。 が、がんばる。