BlackOnyx





その晩は、一ヶ月に一度あるかないかの、とても平和で静かな夜だった。
夕刻、自分が夜勤に入ってからは通報の一つもなく届出も皆無で、いつもの定位置にてお馴染みの煙草に火を付けながら、
こりゃあ今夜はラクでいい、半分は休みみてーなモンだ、と屯所の和室で土方は斜め横にいる沖田を振り返った。
振り返ったついでに、「メシでも作るか?」 と妙に所帯染みた(・・・・) 声をかけようとしたら。
ほんの僅かだけ早く、呟きにも似た言葉が返ってきた。




「静かすぎて落ち着かねェ・・・・。 いっそどっかで騒ぎでも持ち上がりゃーいいんですがね」




官憲として、いやいや警察として、いやいやいや仮にも一般市民としてみたって問題アリ、なそれに、
オイオイ穏やかじゃねーな、あんま物騒なコト言うんじゃねーよ、と土方は軽く眉を寄せる。


「何言ってんだ総悟。 七面倒くせー事件が起きて四方八方駆けずり回るよかよっぽどマシだろーが」
「そうですかィ? ここらで一発ドカンと何処かで何か起きた方が」
「オイオイオイ全く持って危険思想な野郎に育っちまってんな」
「信管と雷管と火薬と・・・・」
「? なんだそいつぁ?」
「手製爆弾の原料材料でさぁ。 この前ちょいとあるスジから作り方仕入れたんで」
「オイオイオーイ、ストップしろストップ。 口に出すのはそこまでにしとけ。 このご時世、洒落になんねーぞそれ以上」
「じゃあどうしたらいいんですかィ、折角仕入れたこの溢れる知識は」
「・・・・・・・・」
「土方さん?」
「・・・・・・・・ちょっと待て。 考える」


考えているフリをして、一度総悟を見てからぼんやりと宙を眺める。
いつもと変わらない、まるで言葉遊びをしているような他愛もないやり取り。
そんな自分をじいいいい、と眺めて見遣ってくる大きな瞳に、つい心音が大きくなる。
思春期のガキでも(お互いに) あるまいしと思うものの、しかし未だにそうそう慣れることが出来ないというのは、
まだ自分が若造である証拠なのか、それともただ単に総悟が可愛すぎる(中身は腹黒いが) 所以なのか。


「・・・・・・」


どちらにしろ考えてもわからないものはわからなくて、今のところただ一つだけ判明していることと言えば、
自分はそんなこんな腹黒い相手に何故か何故なのか、メロメロ(・・・・) という一点だけで、
こんなふうに二人だけの夜勤、という現在の境遇にココロの中で感謝してみたりしてしまっていて、


「まあ、その・・・・、そーゆー知識は心の日記帳にでもこっそり書き記しとけ」
「はィ?」
「・・・・・・」


至るところつまり、
土方としては折角の涼しい過ごし易い初秋のこんな静かな夜、爆弾だの何だのなんていう色気も素っ気も皆無な話などではなく、
もう少し甘いフンイキまで話を持っていきたい、そして出来ることなら更に更に×××・・・・、まで持って行きたい心情が本音なのだが。


現実はそうそう上手く行かないのが現状、
爆弾の話からも飽きたのか、当の沖田は詰まらなそうに小さな欠伸を噛み殺す。
そんな仕種でさえ、『カワイイ』 と思えてしまうのは贔屓目か惚れた欲目か。
だけれども一応今は揃って夜勤の真っ最中、仕事中勤務中なのでもあって、さすがに本気でコトに及んでしまうには気が退ける。
だって出来てもせいぜいチューくらい、
その上の行為にまで及ぶにはやはり、揃って休暇を取るかもしくは勤務が終わってからどこかへしけ込んで云々、
こうなったらやはり下手に面倒極まりない事件や騒ぎは起きて欲しくない。
で、あるからして、
やはりやっぱり勤務が明けるまで総悟にもおとなしくしていて欲しくて、(この前みたいな鍋騒動は丁重に遠慮したい)
つい、
「退屈なら、その欠伸みてーに適当に噛み殺してろ」
そう言うと。
欠伸のせいか、沖田はごしごしと目許を擦りつつ、
「・・・・別に退屈ってわけじゃーねーです。 土方さんのカオ面白ぇし。 ただこう、陰気くせェのがイヤなだけでさァ」
真面目な顔して、ふざけたことを言って来やがった。
「オイ・・・・。 面白くねーだろ別に俺のカオは」
ちょっと目付きがよろしくない、という自覚はあるものの、そんじょそこらの野郎共よりはよほど優遇された造形をしているはずである。
なのに沖田曰く、
「爆笑モンですぜ。 知らぬはてめェだけってやつで」
それも相変わらず真面目な表情のまま。
「この野郎・・・・」
可愛いカオして何て言い草だ、と返す言葉もなく、ふと開け放っておいた窓の外に目を向けると。




確かに本当に、静かだ。




いくら中庭に面した窓とはいえ、周囲からは耳を澄ましても何も聞こえず、響くのは妙にかん高い秋特有の虫の音だけで、
(周りには田も畑もないというのに一体どこで鳴いているのかよくよく考えると不思議である)
言われてみれば総悟の言う通り、なんとなく辛気くさい。


・・・・とは言え、一年三百六十五日の大部分を此処、屯所で過ごして働いているのだから、
次から次へと多忙極まりない事件・事故が起こりまくってしまう騒がしい日も山のようにあり、
だがそれとは全く逆方向、まったく反対の日も存在する確率だって似たようにあるわけでもあって、
多分今夜はたまたま自分たちがそんな日の夜勤にぶち当たった、というのが本日の真相で、きっとこれは偶然だろう。
そして土方が考えるに、どうせ世の中なんて結局全てが偶然の産物で、
その中の都合の良いいくつかを引っ張り出して関連付けて 『必然』 だの何だのと理由理屈を付けているのでもあるし、
そんな世の中、大抵の出来事はなあなあで流され毎日毎日過ぎていく。
しかし反面、
それを一言で括って纏めたことを 『平和』 と呼ぶのかもしれなくて、
ここでこう毒にも薬にもならない会話を交わしていられるのも今がきっと穏やかな一時であるがためで、
「・・・・・・・・・・」
そこまで考えて、土方はこれ以上、小難しく思考することを止めた。
そして半ば意識して紫煙を吐き出しつつ。
それにしても本当にやたら静かだな、と改めて窓の外を眺めやりながら、
普段と比べても妙におとなしい沖田をもう一度振り返ると。


「?」


一瞬、総悟の姿が視界から消えた。


「・・・・なんだ、そこか」


・・・・と思ったのは自分が窓の外に目をやっている間に、何のことはなく、ごろりと畳の上に寝転がっていたからで。


ぱさり、と畳の上に投げ出された色素の薄い髪。
こちらに背を向ける格好で寝転んでいるため、どんな表情をしているのかは読み取れなかったけれど。
ふう、と小さく息を吐き出して、何ともなしに自分も畳の上に座り込む。
そして、


「総悟」


気づいたら名前を呼んでいて、


「・・・・淋しい夜だ、ってんなら相手してやるぜ」


気づいたらそんな言葉が口から出ていた。


「・・・・・・・・・・」


ほんの僅かの沈黙。
その後、沖田はもそもそと動いてころりと寝返り。
そして先程と同じく、じいいいい、としばらく土方を眺めやって、


「・・・・何言ってるんですかィ」


全然違いまさァ土方さん、とボソリと呟いた。


「・・・・あ?」
そんな返事に対して、やばい先走りすぎたか、と内心で舌打ちする土方だったのだが、
続いた科白は想像外のもので。


「夜ってモンは、全部が全部淋しいもんなんですよ」


「・・・・・・」


想定外の言葉に虚を突かれ、それ以上何と言おうか僅かに逡巡する。


「だから人間は夜、それを忘れるために眠るんでさァ」


何だそりゃ


オイオイそれじゃあ、夜働いて朝になったら寝る人間とか夜になるとやたら元気になる夜行性人間はどう解釈するんだよ、
そうツッコミを入れようとしたら。


「・・・・ってことで土方さん、」


土方が言葉を発するのをあたかも遮るかのように、ごろごろと畳の上を転がって沖田は近づいてきて、
至近距離、そう土方の眼前、目の前までやってきた途端、手を伸ばし持ち上げて。
「相手してもらいやすぜ」
「総、・・・・!」
驚いて思わず腰を後ろに退いてしまった土方の上、半ば襲い掛かる形で圧し掛かってきた。
「土方さんだってやる気だったでしょーが」
「そりゃそうだが・・・・ってマジかよ!」

そしてごそごそ何をして来るのかと思えば、制服のシャツを捲り上げ、露わになった土方の胸元に吸い付いてくる。
「待、てって・・・・!」
行為に持ち込む持ち込まれるのは無論勿論やぶさかではないけれど、
窓も開いたままだし鍵もかかってねェぞコラ、今ここでどこかから通報があったり窓の外から覗かれてたりしたらどうするんだオイ、
そんな科白と逡巡は、


――――――、」


胸に顔を埋めてくる沖田の、ふわりさらりとした髪が鼻先を掠めた一瞬できれいさっぱり、どこか遠くへ消え去った。
合わせて胸元に落とされてくる、柔らかな唇。
ここまで誘われてしまったら、もう後には退けない。 退く気もないし、・・・・ってかそんなヤツ世界中のどこ捜したって存在する訳がない。
「・・・・総悟」
ちゅ、と胸の飾りを音を立てて吸い上げられ、吐息混じりの声で名前を呼びながら、頬に手を当ててもういい、と顔を上げさせる。
そして伸ばした腕を沖田の背中に回し、抱き込んで自分は身体を起こしゆっくりと体勢を変えつつ、
「最初に誘ってきたのはお前だからな」
月並みすぎる科白を最後に確認・・・・いや、了承の意味で囁いたら。


ふっ、と小さく笑われて、


「誘ってるんじゃねェ、 ・・・・煽ってるんだィ」


可愛げのない、そんな一言。


そこで黙って小さくコクンと頷いてでもくれれば顔と同じでカワイイことこの上ないというのに、更に。


「煽られて煽られて、土方さんが転げ落ちてくれりゃあ俺に副長の座が回って来やすし」
「・・・・あのなぁ」


腹黒い科白に、土方は呆れ混じりに溜め息をつく。
が、








―――――――― それはそれは、サミシイ夜。








「もう遅ェよ」



・・・・・・・・堕ちるだけなら、とっくの昔に転がり堕ちてる。




そうココロの中で呟いて、けどそれもなかなか悪くねェぞと土方はそのまま煽られるまま、
手に触れた柔らかい髪を指先で梳きながらこの際、
夜勤中ということも自分が警官だということも、いっそどうでも良くなるほどの長く激しいキスをした。
























さすがに明かりは消し、そして窓も一応閉めた和室内、


いつからかおざなりに敷かれていた万年布団の上、


響く衣擦れの音。


くしゃくしゃになったシーツの上、どちらのものともわからない汗と体液が零れて落ちる。








「・・・・ぁ・・・・っ・・・」
どちらかというと小柄な身体をしなやかに仰け反らせ、総悟が堪えきれない声を漏らす。
つい先程から、土方自身を受け入れさせられ、埋め込んでいる内壁はそれまでの愛撫と、互いの滲ませる先走りの蜜で程よく潤って熱く蕩け、
そして前に回した土方の手の中で刺激されている総悟自身も、もう今にも弾けてしまいそうなほど熱を持っていた。
「・・・っは、・・・・あ、ぅ・・・・!」
僅かに土方が動いたはずみで、内壁の敏感なところを擦られたらしく、細い腰がびくりと跳ね上がる。
と同時、連動してきゅっと締まった内壁にきつく自身を絞り上げられ、その悦さに土方もつい、呼吸が荒くなった。
「ッ、・・・・、イイ、か?」
「・・・・く・・・・、っ・・・・」
かわいい可愛い総悟の声が聴きたくて、耳元に唇を寄せて問い掛けてみるけれど、
総悟の方はきつく唇を噛み締め、身の内から沸き上がってくる快楽と喉の奥からせりあがる声に耐えるのが精一杯のようで、
ただ緩く首を横に振り、土方の望む返事が返って来ない。
なんだよ、それって悦くねェってことかよ、と一瞬土方は眉を寄せるが、
こうやって眺めるだに総悟の表情からは快楽以外読み取れなくて、土方はすぐに気を取り直した。
そして、まあそんなところがお前らしいし素直じゃねーのもまたカワイイんだけど、と口許だけで苦笑して、
身体で覚えた総悟の奥の奥、
一番過敏で一番悦いトコロに狙いを定め、ぐっと思いきり強く、乱暴とも言えるほどに突き上げると。
「んぁ・・・・ッ!」
堪え切れなかったらしい、一際甘い声と同時に、ずっと手の中で刺激してやっていた総悟自身が僅かに震え、
その先端から少量だが先走りのそれとは違う、白蜜が噴き出した。
「・・・・っ・・・」
腕の中の身体が一度強張って、それからかくりと力が抜ける。
強い強い抉られ方に、一度軽く達してしまったらしい。
そう重ねた肌と、埋めた自身とで感じ取り、土方は濡れて小さく喘ぐ唇に、まるで吐息まで閉じ込めるかのように自分のそれを重ねた。


「ん、・・・・・ふ・・・」
舌を絡めて限界まで吸い上げて交わる。
深くて甘い、上も下もどちらも繋がるためのキス。
しつこく味わっていくうちに、収まりきれなかった互いの唾液が口の端から顎を伝って落ちていく。
そこまでの激しい口付けに、総悟はいつもなら普段なら、酸素が足りなくなって土方の口と舌から逃れようと、
首を振って嫌がるはずなのだけれど。
今回は何故かどうしてか、そんな気配は微塵もない。
嫌がるどころかその上、息継ぎのために一度舌を離すと、甘く柔らかく濡れた舌が、総悟の方から伸びてきた。
「・・・・・ッ」
そして強請るかのように絡み付いてくる動きに、だんだんとこちらも思考が麻痺してくる。
互いに吸い上げ絡め合う、湿った水音。
鼓膜に響くそれと、敏感な部分を締め付けられる刺激が、麻痺しかけた思考すら消し去ってしまって。


「・・・・総、悟・・・・っ・・・!」
「ぅあ・・・・ッ、・・・・ぁ!、・・・・っ・・・!」


与え合う快楽とぶつけ合う欲望に身を委ね、組み敷いた甘くて瑞々しい身体を限界まで貪り尽くしたくて、
急激に態勢を変えられた総悟が悲鳴にも似た嬌声をあげるのにも構わず、
力に任せ、土方は開かせた片脚を自らの肩の上に担ぎ上げ、激しく抽挿を再開した。


「・・・あ、ぁ・・・・ッ! ふ、・・・ん・ッ・・・・っ・・・!」
どこもかしこも過敏になった身体に、突き上げを繰り返して再度、激しい快楽を与えていく。
無論、掌中のまだ完全には達しきれていない総悟自身をきつく上下に扱き上げながら、
腰の動きは止めることなく、きつく狭く柔らかい内壁をぐいぐい突き上げて。


「っ・・・、・・・・ん、んん・・・・ッ・・・・!!」
容赦のない土方の攻めに、総悟の下腹部から背筋にかけてぞくりぞくりと快楽が伝う。
「ッ!!」
一際大きくぐいっ、とポイントを突かれ、思わず伸ばしてしまった腕が勢い余って土方の首に絡み、
そのまま背中に爪を立てて堪えようとするのだけれど、一度快楽を覚えてしまった身体は、もう言うことを聞いてはくれない。
「ふ・・・、ぁ、は、・・・ぁ・・・・っっ・・・・!」
突かれたまま、がくがくと腰を揺らされて。
「く・・・・ぅ・・・・」
泣き声のような声。 でもどうすることも出来ない。 ただ、気持ちいい。
肌が粟立ち、全身がびくびく震えて腰が痙攣を始める。
思わず立てた爪に、力が入った。
絶頂が近い。
「ひ、じかたさ・・・・!」
迫り来る高みに、もっと欲しい、もっと強く、と半ば無意識に名前を呼んで、そして下肢には力が入り、
自然と土方自身を受け入れ包み込んでいる内壁まできゅうきゅうと蠢き出し、きつく強く締め上げた。


その直接的で甘く、淫らな刺激と感覚、
同時に自分を呼んでくる声に、
「・・・・ッ、・・・!」
土方も自分の高みを感じて唇を噛む。
ぐいぐいと締め付け、絡み付いてくる内壁。
荒く熱い呼吸を繰り返しながら、快楽を追うために夢中で腰を動かしていく。
と、土方の手の内で、熱く熟れきった総悟自身がトクン、と大きく脈打った。
もう限界も限界なのだろう、
先端からとろとろと溢れて零れ落ちる先走りの蜜で包み込む手はぐっしょりと濡れて、擦り上げる際の淫猥さに拍車をかけるほど。
ふ・・・ぁ、 ぁ・・・・っ、 ―――ッ・・・・・!」
仕上げ、とばかりに最奥を荒々しく付き上げる。
そして捕らえている総悟自身の敏感極まりない先端を、這わせた指先でくるくると吐蜜を促す動きで擦り上げた、
その瞬間。




「あ・・・・あ、あぁ・・・・ッ・・・・っっ・・・・!!」
背中に立てられた爪が痛みを伴うほどに喰い込み、切なく濡れた声と同時に、大きく腰を震わせて総悟が絶頂を極めた。




「・・・・っ、く・・・・」
連動して、この上ないほどきつく絡み付いてくる内壁に促され、一瞬の間を置いて土方も総悟の内側に熱を吐き出す。
「・・・・ん」
二度、三度と連続して挿し抜きを繰り返し、吐蜜の快楽を最後まで味わったあと、
土方は間を置かず、総悟から最後の一滴まで欲を出させようと、
一度は達して力を失った彼自身を、添えたままでいた手のひらで扱いて搾り取った。
「・・・・ぁッ、ぅ・・・・!」
その度に僅かに背中を震わせながら、何が嫌なのか、達した直後で過敏になった身体は感じすぎてしまうのがつらいのか、
総悟は腕を伸ばしてそれを止めようとしてくる。
その手を簡単にもう片方の空いていた手で封じ込め、
「・・・・いいから、出しとけ」
「っ・・・・」
優しい声音でそう告げながら吐蜜を誘って吐き出させ、何度目かにようやく白蜜が止まったことを確認して、
それからやっと、土方は総悟の中から自らを引き抜き、
もはや両腕からも力が抜けてしまい、支えを失くしてくたりと倒れ掛かってきた総悟を無言で引き寄せ、抱き寄せた。




そしてふと、周囲に意識を向け、耳を澄ましてみる。
「・・・・・・、」
今夜は本当に本当に静かだ。 最初と同じく、外からは何も聞こえない。 何の音もしない。
思うにこのまま夜明けまで眠ってしまっても、たぶん仕事に弊害は出ないはずで、心地良い疲労感の中、
全身に軽い気だるさを感じながらも、
「このまま寝ちまうか、オイ」
腕の中に向かって、そう問い掛けたのだが。


「zzz・・・・」


「・・・・オイオイオイ」
帰ってきたのは気持ち良さげな穏やかな寝息。
コイツいつの間に、と思わず覗き込んだ寝顔は普段より更に幼く見え、改めて起こす気にもならなかったので。
「仕方ねェ、・・・・俺も寝るか」
生欠伸、一つ。


不良警察官ふたり、揃って眠ることにした。
























ぴちょん、と頬に冷たい何かが当たった。
どこからかスズメがチュンチュン鳴く声も聞こえてくる。
「・・・・ン」
もう朝か、そういや窓の外も眩しいな、と目を閉じた状態でも土方が感知察知したところで、またもや頬にぴちょん。 冷たい。
「?・・・・」
何だ何だ雨漏りでもしてんのか、だったら直さねェと山崎あたりに修理させねェと、
と眠さのあまり、離れたくないとせがむ両の目蓋を無理に開けたところで。
「な・・・・」
目の前にはいつから起きていたのか、もうすっかり身支度を整え、すっきりさっぱりした沖田総悟のカワイイ顔。
仰向けに寝ていた土方の顔を覗き込んでくる姿勢で、枕元に鎮座している。
それだけなら何も問題なし、
夜勤明けの今日は一日休みでもあって、気分良く起きられるはずだったのだが。
寝起き早々、固まってしまったのには無論勿論、訳がある。


「何してんだお前・・・・」
「や、土方さん寝汗かいてたもんで・・・・いっちょ拭いてやろうかと・・・・」


そう言う沖田の手にあるのは、水をたっぷり含ませた 『濡れティッシュ』。
先程感じた冷たさは、その雫が落ちて来たのが原因らしい。


「嘘つけェ!! そりゃどう見たって間引き用じゃねェか!!!! 現に俺の顔面覆う寸前だったじゃねぇか、あァ!!?」
「あーもー、朝から四の五の小煩ェ人だ。 せっかく助かっちまったんだから黙ってさっさと起きて、カオでも洗ったらどうなんですかィ」
「・・・・そうだなそーするか・・・・って、ちったぁ否定しろコラ!! 本気か!? 本気で殺るつもりだったのか!!?」
「そりゃそうですぜ俺ァ生まれてこの方、冗談と髷は結ったことがねェのが自慢でさァ」
エヘン、と胸を張る沖田に、
「そんなん自慢にならねーだろ、普通・・・・」
思わず呻いて頭を抱えてしまいたくなるのは、昨夜の可愛いかわいい様子とのギャップがあまりにも凄まじいからであって。
まさかアレは全部夢の産物だったとかいうオチじゃねーだろーな、
と危うく余計な危惧まで抱え込んでしまいそうになってしまったのだが、
少し動いた際に、僅かだがヒリヒリ痛んだ背中。
そのヒリヒリはどうやら昨夜、総悟に引っかかれた傷から来るものらしく、随時その僅かな痛みが昨夜の情事を物語り、
そうだ、
そう言えば昨夜と言えば。
はたりと気づき、土方は沖田を見る。


「・・・・総悟」
「何ですかィ」


「その、・・・・なんなら毎晩一緒に寝てやってもいいぜ」
何故だろう、口にしている方がハズカシイ。 照れてきた。
夜が淋しいってんなら、その、アレだ。 一緒にいた方がいいだろ」
これではまるで、遠まわしにプロポーズしてしまっているみたいだと今更感づいても時遅し、ええいままよ、と続けて言い切ったら。


数回、驚いたように瞬きを繰り返された後、やがて小さくプ、と笑われて、肝心の返事はと言えば、


「そいつぁー、土方さんが俺に副長譲ってくれたら考えてみないこともないです」
「・・・・・・・・あ゛?」


物の見事にはぐらかされ、そしてすたすたと沖田は和室から出て行ってしまって結局この話はそこでおしまい、所謂 『ハイそれまでよ』。


「・・・・・・・・」


朝、目覚めの一服も忘れ、一人取り残された部屋、出てくるのは込み上げてくるのは大きな大きなタメイキばかり。
「いて・・・・」
そんな中、背中と肩口のヒリヒリ感、総悟の残した爪跡だけが痛みを伴いつつ、妙に甘く疼いた。








土方が思うに、ハッピーエンドなら、たぶん自分と総悟はとっくの昔に迎えているはずだ。
ただ、それからハッピー・ゴールインまでの道のりは、相当相応に長そうなのである。












えろ、もっとちゃんと書けば良かったですかね・・・・?(・・・・)
この作文の前に出した桂銀がエライ長くなっちゃったんで、あえて短くしてみたんですけど・・・・実は自分でも消化不良。
やるならちゃんとヤれ! ってことで、土沖のちゃんとしたえろは次回でリベンジさせていただきますです、やっぱね、やっとかないとね!(何ソレ・・・・)
けど実際、あんなわらわら頭数がいる中、二人きりの夜勤なんて絶対ないですよね・・・・はは・・・・。
ところで、このご時世に間引きネタってまずかったかなぁ・・・・。 へ、平気だよね?(気弱) ちなみにタイトルに意味は全く無く・・・・。(え)
全然思いつかなかったんで、書いてるときに自分がしていたピアスについてた石の名前をそのまま付けました。ギャフン。