[ フィール ]





とある冬の三日月の夜。




「痩せたか?」




「はいィ?」




部屋の明かりも付けず、
窓から差し込む薄明かりのみを光源としながら情事の後、
沖田が気だるいながらもすっきりした身体で小さく伸びをしつつ制服のシャツに素肌の腕を通していたところ、先ほどからじっと凝視していたらしい土方がおもむろに問いかけてきた。




「へえ、よくわかりましたねェ。 先月からちょうど一キロ、軽くなりましたぜ」




「やっぱりな」




「・・・・て、どんだけ俺のハダカ、見知ってるんですかィ、アンタは」




実際本当のことだったから、
(理由はと言えば、つい先週飲み屋にてばったり遭遇した銀時と意気投合して呑んだ際、
互いに勢いに乗って呑み過ぎた挙げ句、それからどうにもこうにも二日酔いから来る胃と腹とを直撃した体調不良が数日継続したことが原因だ)
隠す意味も理由もなく普通に肯定したところ、
やたら得意気に頷いた土方がなんだかとてもとても沖田的に気に食わなくて、




「いくらアレでも、そのレベルまで行くとキモチワルイですぜ」




この変態副長、と堂々言い切ってやる。
そもそもにして、いくらつい先刻まで同衾していたとはいえ、
いくら長い付き合いだからとはいえ、
いくら直属の部下だからとはいえ、
たかだか一キロ体重が減った程度の変化をいちいち探り当てられてしまうのではたまらない。
だから少々の嫌味と照れ隠しと牽制と反撃の意を込めて。




「・・・・土方さん、アンタ、別に脱がせてもいねーのに付き合ってるオンナの排卵日生理日安全日がわかっちまうタイプでしょう。 このエロオヤジ」




「わかるかァ!!」




「ふーん」




「・・・・。 テメーの事なら、まあ多少はわかるがな」




エロオヤジ、の言葉に一瞬ムキになったかと思ったのだが、
土方はそそくさと煙草に着火、
くゆらせ始めた紫煙で表情を隠しながらも小さく口許を緩めたようで。
そんな余裕有りげな態度とあながち間違ってもいない台詞と横顔に、
沖田は内心で食えねェオトコだ、と思いつつ。




「ノロケですかィ、本人目の前にして」




またも否定はせず、まあ実際当たっているわけでもあるし肯定する含みを込め、
あえて作った呆れ口調は、すぐそこにある寝乱れた布団の意味と威力を借りてどこまでも甘い響きを持って土方に届いたようだ。
煙草をくわえたまま目線だけをこちらに向け「こっち来い、」と無言の手招きをしてきた。
「・・・・・・」
少し考えたが、これまた沖田が別段逆らう理由も嫌がる訳も存在せず、
膝立ちで五歩ほど移動、珍しくも素直に言う通りにしてやった途端。




素早く煙草を片手に持ち替えた土方に、伸びてきたもう片方の手で後頭部を引き寄せられ、
自然に口付け展開されていく日常茶飯事のキス。




「煙草の味しかしませんぜ。 アンタの肺、どこまで真っ黒なんです」




「テメーの腹ほど黒くはねェだろ」




キスの終わり、互いに唇を離すことも名残惜しかったくせ、
唇が離れた途端にこんな応酬。 けれどそれもどうせ自分と土方との予定調和のうちで。
しかも一旦は服をまた身に着けるところまで離れたはずだったのに、
またここまで近づいてしまった。 こうなると大抵、再びとことん貪り合う破目になる。
まァ上司公認(?) で仕事サボれるし悪くはねーや、と乗り気でもう一度気分をその方向に摺り寄せようと、今度は沖田から再び唇を覆い、
今さっきは煙草の匂いに邪魔された土方の味を確認してやる。
存分味わう、長く深い口付け。
いつから自分はこんな行為と行動を覚えたのだろうと考えてみたら、
教え込んだのは他の誰でもない、この土方だった。
(・・・・・・)
自覚した途端、なんか急にムカツイタ。
そのムカツイタ勢いで、絡めた舌をがぶりと強く噛んでやると、
直後、僅かに眉をしかめた土方に直ぐ噛み付くことも出来ないほど口腔の奥深く深く舌を挿し入れられ、キスの主導権を奪われてしまったが、
自分から土方の口腔をまさぐっていくのにもそこそこ疲れていたため丁度よかった。




「・・・・ッ」




唇が離れてすぐに洩れる吐息は大概が余韻や快楽のためではなくて、
単に息継ぎが足りなく酸素不足に陥った結果、
否応なしに零れるものなのだが、何故か今夜は違った。 なんだか無性に欲しい。




「、もっかい、していきますかィ・・・?」




すでに問いかけではなく、確認。
そして確認を取るまでもなく、すでに土方もその気でそのつもりでその表情で。




「・・・・時間ねーだろ。 あと一時間足らずで窃盗見回りだ」




なのに、妙に常識ぶる。  と言うよりどちらかと言えば副長としての職業病か。
だから障子窓の外、沖田はぽっかり浮かぶ明るい三日月にちらりと目をやって、




「だいじょぶです。 こんな三日月の夜に泥棒に入ろうなんて奴ァいやしません」




「?」




「こんな三日月は、泥棒空き巣テロリストには明るすぎまさァ」




言いながら、布団脇のナイトランプをカチリと付ける。




「けど、俺と土方さんには暗すぎると思いますぜ」




「オイ」




「へえ、電気付けたら何か不都合でも?」




滅多に告げることはないけれど、沖田は土方のカオとカラダがとてもとても気に入っていて、
何だか今夜はこれからは、明るい中、存分目で確かめながら眺めながら快楽を愉しみたくて。
だから心持ち挑みかける表情で、ぺろりと唇を舐めてひょいっと好み極まりないカオを覗き込んでやったら。




「・・・・ねェよ」




自分のそれを大きく上回って挑発的で自信に満ちたカオで小さく笑われ、
つい数分前に腕を通したばかりのシャツが、するりと肩から落とされると同時に再々度、口付けられる。




「ン、」




深いキスは先ほど交わした。
軽く吸ってはすぐ離し、また吸い付く繰り返しの啄ばむこんなキスは、
これから始まる行為への暗黙の了解だ。
いつ煙草を揉み消したのか、ゆっくりと頬に添えられてくる手のひら。
啄ばむ唇が離れたかと思ったら、それからその手で前髪を梳かれた。
何だかどことなくコドモ扱いされているような気もしないでもないが、
逆を辿ればとてもとても可愛がられているようで、そこそこ悪くはない。
たぶん彼にしてみれば無意識からくる動作なのだろうけれど、
カオやカラダ以上に土方のそんなところがスキだ。




そして極め付け、伸びた土方の腕が開いていた障子窓を無造作に閉め切り三日月の薄明かりを遮って、
せっかくこんな見事な三日月なのになんで閉じちまうんです?
と沖田が怪訝な顔をした途端。




「誰にも見せられるかよ」




明るい中テメーを見るのは俺だけだ、とばかりチラリと見せた独占欲に。




「そりゃ俺も同感です」




見せ付けられた独占欲は自分にも機能する。
同等レベルの同じ感情で返しておいて、
いそいそと彼の身体に跨った。








カオよりカラダより何よりそんなトコロがツボだ。








欲しい。








欲しいほしいホシイ。








だからしつこいほど再々々度、思う存分のキスをした。

















・・・・なんだかよくわからない話でスミマセン