犬もあるけば





注: 例の百三十二訓〜の土沖祭(笑)後の話、という算段をふまえてお読みいただけたら幸いです。
→ だからギクシャクしてるのだと思い思われ。























こんな寒い、夜回りのため外に出て10分ですっかり身体の芯まで冷え切ってしまう12月上旬、
ほとんど人の気配も無い寂れた裏道にていつもの巡回途中、ココロまで風邪をひきそうな沈黙がしばらく続いた後。


「なんで俺、アンタと一緒に居るんでしょーね」


ぼそりと沖田に突然、訊かれた。


「腐れ縁てやつじゃねーのか」


突如そんなことを言い出した沖田の意図などわかるはずもなく、当たり障りなく土方は返事をする。


「・・・・ふうん」


そんな土方の返事に対する沖田の頷きは、察知するまでもなく含みのありまくる、韻で。


「腐れた縁なら、もうとっくに腐れ落ちて消えてなくなっちまってもイイ頃ですね」


「、」


―――――― 何を、


「腐っちまったモンなんざ、もう食えねーし使えねーし」


「な・・・・」


突然何を言い出しやがるんだコイツは。
意図どころか、言いたいことさえ何一つ理解出来ずわからず二の句を告げずにいたら先刻と同じく、沖田はぼそりと。


「そもそもなんで土方さんは俺と一緒に居るんですかィ」


「・・・・・・・・。 理由なんかねェよ」


多分。 と答えた。
理由なんざない。 四六時中一緒に居ることに、年がら年中つるんでいることに、毎晩毎晩引っ付いていることに理屈と理由なんて始めから無い。
惚れた腫れただの云々は、言葉にした途端にそれこそ腐れた陳腐な表現にしかならないし。
すると沖田は、「じゃあ、」と呟いて。


「一緒に居る理由がねーなら、別に離れたって理由はいらねェ訳だ」


「総、」


思わず名を呼びかけたが、言いかけてそこから後が続かない。
別れ話でも切り出すつもりなのか。
否、切り出されても困る。
何故困る、と聞かれても更に困ってしまい、
それでも根掘り葉掘り聞かれてしまえば結局、例のホレタハレタの域に収束するしかないのだが。


―――――― 否否、しかし最初から初めから自分と沖田との間に俗に言う 『オツキアイ』 をしようそうしよう、という取り決めがあった訳でも(当たり前だが) ないし。


しかしそれだけのものにしては、それだけのものと割り切るには自分とこいつは相当深いトコロ、
洒落にならないところまで転がり落ちてしまっているような気がしないでもなし、
大体にしてそうでなければカラダの関係など持たないと思う。
だから。


「・・・・理由なんかねェが、テメーの後始末が出来るのは俺しかいねーだろうが」
サド王子の性悪すぎる悪戯の数々の後始末、隠蔽、事後処理。
「それにテメーの根性悪に付き合えるのも俺くらいしかいねェ」
そう告げると。


「・・・・俺ァ、土方さんがいようがいなかろうが別に何も変わりませんぜ」


アンタ一人で俺の生活の何が変わる訳でもなし、と沖田は前置いて、


「俺の生活から日常からアンタを全部全部差っ引いてみたって、別に何にも変わりゃしません」


「総、」


「朝起きて昼飯食って夜は寝て、毎日フツーに暮らしていくだけでさァ」


何を言い出す。
バカかこいつは。 そんな科白はそんなカオしながら言う台詞じゃない。


「・・・ッ!」


一瞬我を忘れそうになったが、場所が一応は往来であるだけに堪え、
すぐ近くにあった路地裏、やっと人一人が通れる程度の狭い隙間へ足を向け、沖田を無理矢理引っ張り込む。
窮屈なところに無理矢理二人で縺れた勢いで、制服の背中が汚い塀に擦れた気がしたが、どうでもいい。
それは沖田も同様だったのか、嫌でも密着せざるを得ない中、


「俺を、抱っこしてく覚悟はできたんですかィ」


驚くほど真正面から土方を見てきた。


「・・・・馬鹿野郎、そんなんとっくだ」


とうの昔に、覚悟はできている。 できていた。
ただ、自覚していなかっただけだ。


「嘘くせェ」


嘘じゃない。 ぼそっ、と吐き捨てられた一言は聞こえないフリをしてやった。


そうしながら、「―――――― ガキ、」 と思う。
子供だ。 口先だけは達者だが、まだまだコイツはどうしようもないガキだ。
いちいち告げなきゃわからない、とことんコドモだ。
けれど当のガキ沖田より何より本当にガキなのは、いちいち言われなければ聞かれなければ、
面と向かって顔をつき合わせてこうやって確認されなければ何も伝えてやれない自分の方で、


――――― とっくだ」


だからもう一度、同じ言葉を繰り返し告げた。
















それから、どれくらい向き合っていたのかはよく覚えていない。
せいぜい三十秒ほどかと思う反面、数分はその場に互いに立ち尽くしていたように思えてきたところで。




「・・・・。 なら、いーです」




そんじゃこれからも俺ァやりたい放題やらせてもらいますんでヨロシク、とさらりと続けて沖田はすっかりいつもの普段の飄々としたカオに戻っていて、
ひょいっと一足飛び、狭い路地から通りへ出る。
従って衝動に駆られ、勢いで片腕を伸ばしかけていた土方の手はあえなく宙を彷徨う破目に陥り、
それを見た沖田に小さく笑われた。
「じゃ、久し振りにどっかしけ込みますかィ」
土方さんとこでも俺んとこでもどっちでも、と成るほど話が早い。 そういえば最近全く御無沙汰だった。
「見回りは、」
哀しいかな、上司として副長として一応、どこまでも一応問題提起せざるを得ないでいると。
「俺が急に腹痛でも起こしたことにしときましょうや。 緊急で病院連れてくから早退する、とかテキトーに連絡入れときゃイイんじゃ?」
なんだその言い訳。
「・・・・そんなん近藤さんくらいしか信じねーだろ」
局長を省く屯所の誰もが信じるワケがない。
どうせ急にその気になってどこかにしけ込んだと推量され、話のネタにされる(しかもドンピシャで当たっている) のがオチだ。
「近藤さんでいいじゃねーですか」
局長にオッケー貰っときゃ怖いモンなしですぜ、と嘯く沖田だったがそれも却下する。
「・・・・あの人の場合、信じきって看病だの見舞いだの来ちまうだろーが」
万が一にも真っ最中に踏み込まれたら、それこそ困る。
「俺はあのヒトだけには真っ当に生きて欲しーんだよ。 ・・・テメーと俺はともかくな」
最後の最後、釘を刺しつつ。
「そりゃ奇遇だ。 俺も同じでさァ」




意見も一致したところで、向かう先は畳の上、暖かな寝床があるところイコール存分に引っ付ける場所。




一蓮托生、乗りかかった船、毒を喰らわば皿まで、犬も歩けば棒に当たる(???)。




今更手離せるか馬鹿野郎、と土方は誰にでもなく胸中、一人で毒づいた。














いつもと違う感じでちょいと真面目なやつをやってみたくて、 結果・・・・・・・・撃沈。
あああ真面目なやつはいつもいつもチャレンジしてみてはその度に撃沈しまくっております・・・・。
でも時々、ときどーき無性に暗いのとかやってみたくなるんですよね・・・はは・・・・(そして暗くもなりきれてない)。
これならいつものイチャの方がマシでした、グスン