[ 所 謂 、 約 束 。 ]



「ずっと、・・・日付が変わった直後から翌日の夜明け前までずっと待っていたのだ」


「あ、そう」


歌舞伎町、居酒屋である。
日付はちょうど、6月29日に変わったところである。
広くもなくかと言って狭くもなく、
人の出入りも賑わうまでもないけれどそれほど空いてもいないという状況の店内。
入って左奥のカウンターにて、
塩気の濃すぎるピーナッツをちびちびつまみながら気のない返事を返すのは銀時、
安酒の入ったガラスのコップををこれまたちびちびと傾けながら、
何やらぶちぶちこぼしているのは桂である。


「もしやツンデレ天邪鬼なお前のことだから、
あえて忘れたフリをしているのかも、とも思ったりしてみたりしたのだ」


「あー、そう」


補足をすれば、互いに大して酔ってはいないのだが桂の口調が普段と微妙に違い、
どこか湿っているというか、呂律がイントネーションが不審というか、
端的に言えば銀時に絡む全てが恨みがましい。
・・・・このロン毛、拗ねていた。


「だから26日が過ぎて、27日、28日と合わせて丸三日、待ってみたりもした」


「あーーー、そう」


一方銀時は普段と同じく毎度通常何一つ変わらず、基本姿勢でやる気がない。
呟き返す返事も返答も、ごくごく最低限に留めている。
と言うかもうすでにいちいち返すのも面倒になってきたところで、


「なのに! なのに本気で忘れていたとは、
カケラも思い出しもしなかったとはどういうつもりだ銀時ィィィ!!」


隣は勝手に盛り上がり一人勝手に感極まっている。
端から見ていて、面白く・・・はないがある意味感心できるほどの一人上手、
とでも表現すれば良いのか。
そんな桂にほとほと感心しつつ、
「どうもこーもねーよ。 忘れてたっつーか、最初から覚えてなかった」
「な・・・・!」
程よく乾いた事実をもってぴしゃりと返した途端、桂は絶句した。


「第一、なんで俺がテメーの誕生日なんざ覚えてなきゃいけねーんだ」


「な・・・・」


そうなのだ。
事の発端は、三日ほど前におとずれた桂の二十数回目の誕生日。
それを自分がスルーしたのが原因なのである。
それが起因となってたまたまかち合ってしまった本日居酒屋内、
(変態ヅラのこと、もしかしたら自分を追いかけて来たのかもしれないが)
「折角の年に一度の誕生日くらいお前に祝ってほしかった」 だの、
「一緒にいたかった」 だの、 「甘えさせてほしかった」 だの、
ぶちぶちグタグダ垂れる様はキモチ悪いことこの上ない。
加えて更に詳しく説明すればスルーした、放っておいたというのとは少し違う。
いや、大幅に違っていた。
先刻の通り、そもそも銀時は桂の誕生日など覚えていなかったのだ。
最初から気にも留めていなかった。
付き合いだけはそれなりに長かったけれど、覚えていてせいぜい、
『確か梅雨時だったっけか。(ウザいから)』 という程度の認識で。
だから銀時は続けて言ってやる。
「大体なァ、いい歳したヤローが何が誕生日だ。
ローソク立てたバースデーケーキ食ってお祝いってか。 アホか。
俺ァ誕生日に関わらずケーキならいつでも食いてーぞバカヤロー」
女子供ならともかく、とっくに成人済みの野郎が、
全国指名手配中のテロリストが何言ってやがんだ、と腕を伸ばして小突くと。


「アホでも何でもいい。 何とでも言え。 それでもお前と居たかった」


ぼそり、小声で呟かれた。


「記念日にかこつけて、俺と一緒に居てほしかった。 触れたかった」


「、」


まるで子供のような物言いをする桂に、銀時は少しだけ返答に困る。
一緒に居るも何も、触れるも触れないも、何を今更。
いつだって我慢の緒が切れれば、勘弁ならなくなって切羽詰まれば、
有無を言わさず鼻息も荒く勢いで勝手にがぶり寄って来るくせに。
そして大抵大概、スッキリしてサッパリして帰っていくくせに、
これ以上、このバカは一体何を欲しがるのか。


「ったく・・・・」


何だか、やたら面倒くさくなってきた。
四の五の考えるのも面倒くさい。
拗ねヅラ、ごねるヅラの相手をし続けるのも面倒くさい。
かと言って三日遅れで祝ってやる気にもならない。
そんな甘い言葉はかけてやりたくない。
当たり前だが何にも買ってやるつもりもないし、始めからそんな金もない。
無い無いづくし、銀時は塩の味しかしない安物ピーナッツをぼりぼり噛み砕きながら。


「じゃー、来年万が一にも覚えてたら、オメデトーの一言でもかけてやらぁ」


とりあえず銀時的、最大の譲歩。


「ほ、本当か」


かけてやった言葉は告げてやった一言はたったそれだけだったけれど、
桂は 「それだけか」 だなんて口が裂けても言わない。 最初から思いもしない。
まるで好物を貰った犬のよう、誉められたペットのよう、目を輝かせて銀時をじっと見る。


「あー、オメデトーの一言で済むなら、ジジイになるまで毎年毎年いくらでも言ってやらぁ」


言うだけなら何回言ってもタダだしな、とひとりごちたら。


「約束だぞ、銀時」


桂は妙に力強く頷いて、「約束したからな、銀時」 とこれまた妙に嬉しそうに、
重ねてもう一度繰り返した。


「・・・・・・・・」


何故そんなに嬉しそうなのかイマイチ銀時には理解出来ず、
あげつらう返事をしてやろうにも、いつものように罵倒してやろうにも、
残念ながら合う言葉が見つからなかった。 だから黙っていることにした。


「銀時?」


ふいに黙りこくった銀時に、桂が怪訝な顔をする。


「・・・・・・・・」






わざわざそんな約束などしなくて良いはずなのに。
約束も誕生日も何もかも覚える意味も必要もないほど、近い場所に位置にいたくせに。
そして互いに何かあるとしたら大抵一緒にいるくせに。 いたくせに。
きっと今後もだ。 腐れ縁とはオソロシイ。 侮れない。






――――― だなんて、あえて言わないことにした。 言ったら図に乗る。






だから絶対言ってやらない。 たぶん一生。






「・・・・なんでもねーよ」


この鈍感ヅラ、と口の中だけで呟く銀時の横、
いそいそと機嫌を直した桂は手酌でコップに残りの酒を注いで。


「なあ銀時、互いに白髪のジジイになるまで、死ぬまでこうやって次の誕生日について語っていたいものだな」


「あ?」


「あ。 間違えた。 お前の場合、ジジイになるまでもなく白髪アタマだった」


「なッ」


訂正する桂。 気付いて貰えて何よりだ。 が、無性に憎たらしい。
あえて訂正してくるあたり、それだけでも何故だかやたらとカチンと来るのに。


「加えてそんな白髪アタマの天パくるくるドカン! の時点で、
もうとっくに頭皮も毛根も髪自体もご臨終だな。 ついでに目も死んでいるのは・・・元々か」


カチン。
と言うより、プチン。 キレた。


「黙れヅラァァァ!! その発言で全国の天パを敵に回したぞテメェェェ!!
謝れ! 全国の天パのヒトに謝れェェェェ・・・・!!」
















一生どころか、あの世に逝っても邪険にしてやる。


ヅラ誕生日お祝い文です。 ヅラに優しい銀さんにするはずが、
銀さんまでなんか気持ち悪くなった・・・・。
出来ることならえろにしたかったんだけど時間がなくて短文に。 ゲフン。
しかし会話の流れとかいつにも増してマンネリですなあ・・・・精進します(滝汗)。