モロビトコゾリテ







―――――諸人挙りて、迎えまつれ。
















十二月である。
二十四日である。
クリスマスイブである。
そして時刻は夜も深まる二十三時半である。


全世界(というのは決め付けすぎか) がどこもかしこもが誰も彼もがうかれとんちき(・・・・) になる所謂クリスマスイブのそんな時間に、
何故俺はこんなところでこんなふうに仕事に従事してなきゃならねーんだ、
と入り組んだ狭く汚い路地の中、すたすたと歩きながら土方はしみじみとタメイキをついた。


「・・・・・・寒ィ」
息を吐き出しつつ、
「なんでこんな寒ィんだよ」
今更ぼやいても口に出して文句を言ってみても、それが何一つ意味を為さないことくらいはわかってはいる。
けれどぼやきの一つでもたたいていないと、今夜はそれこそ本格的に凍り付いてしまいそうな底冷えのする夜なのだ。
そういえば狭い路地裏から先程何の気なしに見上げて仰いでみた空は真っ暗で低く、
暗いながらもわかるそんな空模様が、余計に精神的にくる寒さを煽っているのか、
やっぱりあと一枚余計に着込んで来るんだったぜと後悔のタメイキをもう一度ついたところで。
「そりゃあ冬なんだから寒くて当たり前でしょーが」
後ろからとてもとても可愛くない言葉が投げつけられた。
「冬なのに35℃もありやがる真夏日があったりしたらそれこそ一大事ですぜ土方さん」
「・・・・・・・・」
その声に対して一応路地を行く足は止めてやったが、なんとなく返事をしてやる気にはとてもとてもなれなかったけれど、
しかしそれでも 『とてもとても可愛くない言葉』 を投げつけてきた相手は、
常日頃の言動はさておき少なくとも外見だけは見てくれだけは 『とてもとてもかわいくてたまらない』 そんな相手で、だから結局。
「・・・・。 そりゃあお前みたくバカみたいに着込んで着膨れてりゃあ寒くも何ともねェだろうよ」
くるりと身体ごと振り向き、
土方は屯所から自分の後をついてきていた相手の頭の先から爪先までをじろりと眺めやると。


「俺は完全な防寒対策をしたまでですぜ。 俺のことは気にせず土方さんはそんなアホみてェな薄着で頑張ってもらえれば」
毛糸の帽子を目深にかぶり、顔は鼻先まですっぽりと厚手のマフラーに埋め、耳には勿論イヤーウォーマー、
隊士服の上には着られるだけ着込んだセーターにコートに両手にはボア手袋、そしてたぶん靴下までも二枚重ね装備、
まるで雪だるまのように着膨れた沖田総悟に、改めて改めて連続してタメイキをつきたくなった。
「それが見回りをする格好かよ、オイ。 随分と警察も柔軟になったモンだなァ総悟?」
言ってみても詮無いことは充分にして承知の上だ。 が、何よりも言わずにはいられない。
間違って百歩譲ったとしたって深夜の巡回、地域の見回りをしている警察官のする格好ではないと思うのは土方だけか。
しかし当の沖田には全くもって効き目がないらしく、
「あーあ。 本当なら今頃は部屋ん中でケーキ食ってられるハズじゃあありやせんでしたかねェ土方さん?」
嫌味に対して、
「どっかの誰かがハズレくじ引き当てやがったせいで俺まで外に出なきゃならねェこんな目に」
更なる嫌味で返されてしまい、それには反論できずぐッと息を詰める。
「・・・・仕方ねェだろ引いちまったモンは引いちまったんだ」
ぼそりと言い返してやっても、まるで権威もないのが自分でも虚しい。
「第一悪ィのは山崎だろうが、アイツがあんなワケのわからねェルール決めやがるから」
副長の威厳も何もなく、今度は責任転嫁してやろうとしたところで、
「はァ? 【ハズレくじを引き当てたヤツとその次に並んでたヤツが今夜の見回り】 の何処がわからねェっていうんです」
一息で思いきり一掃され、おまけに 「もしかしてもう脳軟化症にでもかかっちまってんじゃ、」 と訝られてしまい、
負け惜しみを言うにも言えなくなってしまった。
「・・・・・・・・仕方ねェだろうが」




そもそも最初から簡単に説明すれば、事の始まりはこうなのだ。
世間はクリスマスイブ、そして今年のクリスマスイブは週末金曜日、誰もが浮かれる日程である。
しかし誰もが浮かれようがどれだけめでたかろうが、そんな日だろうが何だろうが事件が起きてしまう日は起きてしまうもので、
ジングルベルだろうがウイッシュだろうがメリークリスマスだろうが、夜の見回りは欠かせない。
しかし屯所にひしめく警察官も人の子で、やはりめでたい日はめでたいし浮かれたいし屯所にてクリスマス特番をテレビの前で眺めていたいし、
いたるところつまり、真撰組屯所にひしめく誰も彼もがこんなクソ寒い日の外の見回りなんぞには行きたくなかったのだ。
おまけに屯所にはどこかから差し入れられたのかそれとも誰かが買ってきたのか、クリスマスケーキが山のように置いてあり、
さすがに酒は飲めないものの、誰が考えたって外の見回りなんかに行くより屯所にて、ケーキを齧っていたいと思うのが普通であって。


結局、『こうなったらクジ引きで決めるしかない』 ということに満場一致で落ち着き、
山崎がどこかから探してきた箱の中にハズレを一つ混ぜた人数分のクジを作って、一人ずつ引いていき、
そのハズレを引き当てた当人と、その次に並んでいた運の悪いもう一人がペアで今夜り見回り当番というルールになったのだ。
そして見事ハズレを引き当てたのが土方、
更にたまたま土方の後ろに並んでいた沖田が哀れにも道連れ、という顛末になってしまったわけである。




「・・・・・・・・」
仕方ないとはわかっていつつ、思い返すも何だかアレで、
最後にもう一度、「引いちまったモンは仕方ねェだろーが」 と繰り返し無理矢理自分を納得させた後、
あらためて土方はこの路地裏、周囲を眺めやった。
「何だか今夜は事件も何も起きそうにねェな」
たぶん繁華街の方はそれなりに騒がしい夜なのだろうが、このあたりはとても静かで落ち着いている。
こんな夜だからそうなのか、それともこのあたりは毎晩がこうなのか。
まあどちらにしろ静かな方が手間もかからなくていい、あと一回りしたら引き上げるか、とあっさり考え流すことにして、
「それにしても冷えるな、」
ふと気づいた途端。


「あ」


同時に沖田も気づいたようだ。
「・・・・マジかよ・・・・」
暗い空から落ちてきた白いものを目にした瞬間、
「雪だ」 とか 「ホワイトクリスマスだな」 とか思う前に、「余計冷えるじゃねーか畜生」 と感じてしまったあたり、
自分でも歳を感じるというか、 ・・・・ロマンの欠片もないというか。
結晶がひとつ落ちてきた後、続けざまに立て続けに深々と無数に降りはじめたそれを眺めつつ、
煙草を揉み消し、声をかける。
「おい、ひどくならねーうちにさっさと残り見回って帰るぞ」
お前は構わねェだろうがこんな中ずっといたらこっちは凍死しちまう、と沖田を促して再度歩き出そうとしたのだが。
「・・・・・・」
沖田は先程空を見上げた形のまま、ぼんやりと上を向いたまま動かない。
「総悟?」
怪訝に思って名前を呼んでみる。
が、動く気配はない。
いくら年下、いくらまだ十代、いくら普段がアレ(・・・・) だからといって、
今更雪が降ってきた程度で感激して我を忘れるような性質ではないと思っていたの
だけれど、それは土方の思い込みだったのか。
いやいやコイツに限ってそんな純粋で可愛らしいところがあるわけもなく、(可愛らしいのはカオだけだ)
「総悟、」
しかし流石に訝しくなって歩み寄り、空を見上げ続けたままの沖田を呼んでみると、
「やっぱ似てるや」
「あ?」
やはり別に雪に見とれていたわけではないらしく、二度三度と瞬きを繰り返してからこちらを向いた。
「前々から似てると思ってたが・・・・」
「何がだ?」
沖田は納得したようにひとりごちるが、土方としてみたらさっぱりわからない。
もう一度、何が似てるって? と聞こうとしたところ、土方の疑問に先手を打つかたちで返ってきた言葉が。
「・・・・白いクスリと粉雪の結晶ってすげェ似てませんかィ」
「・・・・・・・・」
「なんつーか色とか形とか、結晶の絡み具合とか」
思わず、なんと返せばいいのか迷ってしまった。
如いて言えば、今降ってきているのが水分の多い 『ぼた雪』 ではなく、沖田の言う通りのこの辺では珍しい 『粉雪』 だと今になって気づいたくらいか。
「土方さんはそう思いやしませんかィ?」
「・・・・あのなあ・・・・」
同意を求められたが、頷くにも頷けない。
「最初の手ざわりもなんか似てますぜほら。 こっちのは一瞬で溶けちまいますけど」
というか、聞き捨てならない。
なんだその 『白いクスリ』 って。
もしや巷で騒ぎになった例の 『転生郷』 か。


「・・・・・・ちょっと待てコラ」
「?」
きょとんとする沖田に向かい合う。
「手ざわりって何だ手ざわりって。 つーかその 『白いクスリ』 の結晶も何も俺は実物を見たこともねーし知らねェんだが。 ・・・・お前一体ドコで見た?」
土方としては、こちらとしては事が事ゆえに、かなり真剣に問いただしたつもりだったのだけれど。


「なんだそんなことですかィ」
沖田はつまらなそうに小さく欠伸をして、それから、 ・・・・それでも悪戯っぽい目になって、
「この前の踏み込み捜査で一斉に押収された分をちょっと覗き込んでみただけでさァ」
目ん玉が飛び出る末端価格のシロモノを一回見てみたいっていう、ただの好奇心ってヤツですから、
ああいうモンには手ぇ出す気もなけりゃ仕事上以外での興味もありやせんぜ心配なく、とニヤリと笑ってごくごく簡単に。
「そうか、それならいい。 ・・・・ん?」
今度こそ半分ほど頷きかけつつ、何かが引っかかり、ここに来て 「おい、待てよ・・・・?
」 と土方は首を捻った。
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
「・・・・って、あん時あの箱ん中かき回しやがった犯人はお前か総悟ォ!!」
叫びながら、数週間前のその一件を思い出す。
「あ」
「あ、じゃねェ! 一つ一つ積み上げて厳重に箱ん中に保管しといたハズなのに次の日見たら全部崩れ落ちてやがるしよォ・・・・そうかテメーだったのか・・・・」
数週間前、某所に対し行った踏み込み捜査が功を表し、そこから白いクスリが大量に押収されたのだが、
それを諸々の都合でそのまま真撰組屯所にて一晩ほど保管することになったのだ。
当然、ブツは厳重に厳重に保管しなければならなかったため、大きな木箱に積み上げて入れ、保管場所も一番奥の鍵のかかる部屋に置いておいたにも関わらず、
何故か次の日には、まるで台風に遭ったかの如く崩されていたのである。
夜が明けてその様を近藤と一緒に発見してしまった瞬間はそれこそ卒倒するかと思ったほど焦ったのだ。
なんでこんな崩れているんだ、と疑問に思わないでもなかったのだがそれよりも何よりも、万が一にも紛失などしていないか、袋が破れて中身が零れ落ちたりはしていないか、
慎重に慎重を重ね数を数えなおしてまた整理して積み上げて、最終的に紛失も零れ落ちてもいなかったから事無きを得たものの、
何故あんな状態になっていたのかは今の今まで謎に包まれたままだったが、とにかく、とにかく大変な思いをした出来事だったというのに。
「確かテメー、俺たちが大変な思いしてたあん時・・・・一人でスースー寝てやがったよなァァァァ・・・・?」
「さあ? もう昔のことなんで忘れちまいました」
なのに沖田はとぼける気まんまんで、
「まあまあ。 済んじまったコトはどーでもいーでしょーが。 あんまり昔のコトばっかり言ってるとどんどん老けちまいますぜ?」
とぼけ倒して押し通す気でいっぱい、これ以上追求したってまあ間違いなく無駄だ。


「けど、」
「あ?」
落ちてくる粉雪を目で追いながら句読点で言葉を沖田は切り、それから、
「・・・・・・あんなモンがそんなにイイトコロに連れてってくれるんですかねェ」
少し何かを思い出すかのような、そんな響きで。
「・・・・・・さァな」
使ってみたコトなんかねェからさっぱりわからねーな、
人生がたまらないほど詰まらなくなっちまって、あんなモンに手を出しやがったヤツしかわからねーんだろうがよ、
理解する気もねェしわかろうとする気もこれっぽっちもねェ、だからたぶん一生わからねェまま終わるだろうよ、と土方は首を横に振ってみせると、
何故だか沖田はやたら面白そうに笑って土方を見た。
「何だよ」
「いえ、別にィ?」
「何だって聞いてんだよ」
「いや・・・・。 だったら俺はそれこそ死ぬまでわからねェと思っただけです」
顔の大半を鼻先までマフラーに埋めているクセに、ここにきてそんな図がなんだか妙に可愛らしいと思ってしまうのはアレか、 ・・・・欲目か。
「まあ、お前の場合は人生楽しそうだからな」
「・・・・。 楽しいっつーか面白ェっつーか」
「そいつはめでてェ。 年中脳内はクリスマスか」
そんなふうに軽く言ってやった途端。
「ま、俺の人生の中で今んとこ一番面白ェのは土方さんのカオってことで」
面白すぎて年がら年中見てても飽きませんや、
「この・・・・」
だから俺の場合はクスリ要らずで。 と沖田に重ねて笑いかけられ、
気を悪くしたフリをしつつも、こんなところだが往来だが見回りの途中だが勤務中だが、少々グラリと来てしまったけれど、
そこは鬼の副長と言われた手前もあり最後の良心もあり、何とか堪える。 我慢する。


「お前確か、」
気を紛らわせるため、新たな煙草を取り出したくなったが火をつけたくなったが、こんな雪の中で吸っても仕方ない。
「何です?」
だがよくよく考えたら今はクリスマスイブで周囲は静かでおまけに雪まで降ってきて美味しすぎるシチュエーション、
我慢するも堪えるも、一体どこまで理性が持つか保てるか。


「・・・・前もそんなコト言ってなかったか、俺のカオがどうとか何とか」
「そりゃあ真実だからですぜ。 人間、ホントのことはつい何度でも言っちまうモンだ」
擬音で顕すなら 『キヒヒ』 と笑われ、憎たらしいがやはりカワイイ。
挙句、
そういや、と小さく口の中だけで呟いて沖田はおもむろに土方の方に更に一歩寄ってきて近づいてきて、
ひょい、と下からこちらのカオを覗き上げてきた。
「・・・・・・・」
目深に毛糸の帽子をかぶっていても、その目の大きさは隠れず健在、
「・・・・何だ、よ」
じいいいい、と凝視されてしまう。
「土方さん、」
だが凝視してくる視線は変わらず、それどころか沖田は片方のボア手袋を器用に外し、
温かな手を土方の額、それからこめかみの位置に伸ばしてきて。
「・・・・ッ、」
そんな仕種と触れてきた指と近づいた距離に、柄にも無く思わず息を飲んでしまった。
「総悟・・・・?」
逸るココロながらも、なんだなんだ今日はやけに素直で積極的だなオイ、なんて頭の片隅で考えながら、
まあたまにはこんなふうに外で甘えられるのも悪くはねェか、と思っていたら。


「キズ・・・・」
触れてきた指が前髪をかき上げて、
凝視してくる瞳は何かを探しているようで。
「? キズって何だ?」
別に怪我などしていないし、不思議で問い返したところ。


「いつだったか、なんかコンクリだか何だかの欠片がすっ飛んできて直撃したじゃねぇですかィ」 (注:五十一訓参照)


持ち出されたのは、本人も忘れていた一件。
「あァ、・・・・んなコトもあったか」
答えつつ、ダラダラ出血ボタボタ流血だったあの惨状を土方も思い出す。
それがどうかしたか、と無言で訊ねると、またも 『キヒヒ』 笑い。
「や、面白ェ顔に面白ぇキズ痕とかがあったらそりゃあそりゃあさぞかし面白ェと思って」
「ねェよ! 残ってたまるかよそんなキズが」
第一 『面白ぇキズ痕』 って一体どんな痕を期待していたのかコイツは。
「へー。 あれだけ流血して残ってねえってのもすげェですぜ? その虫みてーな生命力と回復力は見上げたもんだ土方さん」
「テメェはそんなに俺に傷跡が残るのを期待していたのかァァァァ!!」
「いや期待も何も。  ・・・・滅茶苦茶期待しましたぜィ
「何だ今のは! 小声で何か言いやがっただろう!!」
「・・・・別にー」
「総悟ォォォォ!」
低く唸る土方に、沖田は無いなら無いで別に構いませんがね、と嘯く。
と同時、触れていた手がすっと離れていき、


「無いなら無いでいいです」
「・・・・・・、」


もう一度繰り返した言葉と、その微妙だが意味深、しかし曖昧な視線。


「・・・・・・・・あ」
ここにきてやっとピンときた。
もしや。
「・・・・総悟お前」
「はいィ?」
自分、のことを多少なりとも、 ・・・・心配していたのか。


「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」


「いや、なんでもねェ」


沖田の性質性格からいって、まあ追及しても言及しても素直に答えるわけなどないことは、もうわかりすぎているほどわかりきっていたから。


「なんでもねェよ」
同じように土方も繰り返し告げ、
せっかく近づいていた距離、沖田の指の感触が残っている額と額を摺り合わせるようにして、
「・・・・なんでもねェって顔じゃねーですぜ」
「・・・・そうか」
僅かに背伸びをして、小さく笑って上を向いてきた唇にキスをした。












「・・・・ン、」
最初は触れるだけだったはずが、重ねていくうちに激しいものになっていく。
互いに吸い合う唇と、誘うように動く舌。
こちらの身体は冷え切っているというのに、触れている部分だけが熱い。
口腔内に滑り込ませた舌で思いきり貪り尽くす。




「・・・・、ふ・・・ッ・・・」
柔らかく濡れた感覚と絡む吐息とその味に、ああ確かに俺も一生クスリ要らずだと妙に納得、自己完結。
何故って答えは簡単だ。




――――― ただそこに居るだけで、上等で上質なクスリを思わせるような存在が此処にいる。




そんなことを考えていたら、落ちてくる雪が一層激しくなってきた。
着込みまくっている沖田はともかく、薄着のまま出てきてしまった土方としてはこのまま外にいたら凍死しかねない。
それだけは流石に遠慮被りたくて、名残惜しかったが唇を離すと吐息混じりに土方さん、と呼ばれて。
「・・・・煙草のニオイがしやがりますぜ」
「そりゃあ毎日吸ってるからな」
これで全く匂わないとしたらそれこそ嘘だ。
かと言って煙草は手放せねェしな、と思ったところで。
「ヤニくせェキスは減点マイナス1だ」
追い討ちをかけられ、「うッ」 と息を詰める。
が。
沖田はそんな土方に、またもやまたもや 『キヒヒ』 と笑ってほくそえんで、
「まぁ煙草のニオイのしねェ土方さんなんざ土方さんじゃねェから構いやしませんけどね」
でも俺の唇はヤニの代わりにイチゴの味がするはずですぜ、
だって出てくる前に (山崎の)イチゴケーキのてっぺんのイチゴだけ、ひょいぱくひょいぱく、と食って来ちまいましたから。
言って、きちんと確認してみてくださいよとばかり、
「・・・・ん」




有無を言わせない強引なキスで煙草の味をもう一度、ねだった。








時計の針は二十四時を僅かに通り過ぎ、煙草の味とイチゴ味のキスは思いのほか長く長く、イブを越してクリスマス当日へ。








諸人挙りて、迎えまつれ。








年に一度の今日が終われば終わってしまえばきっと主は来ず救いの御子も現れず、向かう先はただの平日ただの年末、

しかし。




Making happy christmas.




確か土方の記憶が正しければ、本日午後からは自分も沖田も非番で休み、
少なくとも半日間は人並みに聖夜を過ごせる予定で計画でそのつもりで部屋の用意も準備も実のところは抜かりない。
こんな世の中、最後は結局浮かれた者勝ちだ。








モロビトコゾリテ、ウカレマクレ。








往来にて土方が浮かれとんちき(・・・・) になっていたそれと同時刻、真撰組屯所内では、
忽然と(沖田によって) 消えたイチゴに 「俺のイチゴがああああ!!!!」 と半狂乱になって一人喚く山崎の図。


当然そんな事実を知るよしもない土方は、後になって近藤より聞かされることになるのだが、
当の沖田はもちろんのこと、おまけに土方まで黙り通したため真実は闇の中、 ・・・・沖田の胃袋の中である。












ベタ、すぎるほどベタなのがやりたかったんです。 だってXmasだもん。 でも時間がなくてえろには出来なかった・・・・。
次回こそ! と決意しつつすいませんほんとベタで(汗)。
あと五十一訓ネタ・・・・コミックス派の方には何が何やらですよね、わかりづらくてごめんなさい。
でもあのコマ、自分的にすごい好き(←えッ) だったんで・・・・。 つい。
まあ何はともあれ、Happy Merry Xmas!                      そうだよ世の中浮かれた者勝ちだよ。