三原色





「暑ちィ・・・・」
「土方さんも暑っ苦しいです」




九月である。
数日前から、暦の上では一応九月である。




「だりィ・・・・」
「俺もだるくてだるくて仕方ねーです。 だから明日から有給一週間」
「そんなん却下に決まってんだろ馬鹿。 お前のはただのサボりだろーが」




だが残暑はまだまだしつこく厳しくて、特に江戸の街中は大気がこもるのか、
こんなゴチャゴチャした裏通り密集地は人の姿もほとんど見当たらないにも関わらず、ただ居るだけでむせあがるほど暑い。




「暑ちーな、それにしても」
「暑っ苦しいマヨネーズバカが隣にいる俺の方がよっぽど暑いです」
「さっきからなんだその暴言はァァァァ!!」




昼間の巡回の途中
さらりと罵詈雑言を紡ぎ出しつつ横を歩く沖田を、土方はぎろりと睨み付けた。
多少の自覚と、周囲からは定評のあるその目付きの悪さを持って睨んでも当の沖田は何処吹く風、
まるで何一つ聞こえなかったかのように飄々としている。
「あー暑ィ。 病弱で繊細な美少年の俺にはこの残暑はキツくてたまったもんじゃねェ。 ってコトでやっぱ一週間有給」
「だから却下っつってんだろーが」
有給(それも一週間なんて許可出来るわけもはずもない) の要望を一言で一刀両断しておいて、
「それに誰が病弱で繊細だオイ。 この前の健康診断じゃテメーが一番元気だっただろうが。 繊細? 繊細な奴があんなカブトムシの被りモンするワケねーだろ」
半ば義務と化したツッコミまできちんと入れてやったところ、
「へぇ」
どこか面白そうに楽しそうに斜め横、そして身長差ゆえの下方から見上げられた。
こんな形で交差する視線の図、は決して珍しいという訳ではないのだが、
それは大抵二人きりの時だけの勢いであって、現在のように往来で展開されることは滅多にない。
だから多少の意外さを拭いきれず、
「なんだよ」
逆に眺めやると。
沖田はますます面白げな顔をした。
「美少年、ってのは否定も訂正もしないんですかィ?」
「、」
痛いところを突かれ、一瞬口籠もる土方にニヤニヤ沖田は笑う。
ただ忘れただけだコラ、とかもう面倒くさかっただけだコラ。 とかetc. ・・・・どう反論してやろうかと僅かなりとも一応考えたのだが、
「・・・・。 そりゃテメー、仕方ねーだろーが」
結局行き着く先は非常に非常に不本意だが遺憾だが口惜しいが、本当のこと(・・・・) なので仕方がなく、
語尾を濁して頷いてやる。 肯定してやった。
本当に、顔も身体も見た目だけは外見だけは本当に文句無し、なのだ。
喋らず動かず行動せず、黙って立っていれば花丸の一つでも付けてやりたいほど恵まれた容姿をしていやがるくせ、
その実中身はとんでもない性格とイマイチ何を考えているのか掴めない腹の中。
特にその腹はコールタールもかくやというほど真っ黒であるというにも関わらず、
「・・・・・・・・、」
こうやってまじまじ眺めるだに、
「土方さん?」
やっぱりやっぱり外見もそしてほとほと可愛くない中身もひっくるめて全部が全部結局のところ可愛くて可愛くて仕方がないから、
だから始末が悪い。 手に負えない。 惚れた弱みと言うものだ。
そしてそれに沖田にもとっくのとうに感づかれてしまっているあたりが困りもので。
「・・・・。 何でもねーよ」
とは言え同じくとうの昔に沖田とはこんな仲そんな仲あんな関係、互いにそれほど追求するわけでも追求されるわけでもなかった。
なんだかんだ言いつつ主観的に見ても客観的に見ても50/50、相思相愛というやつである。
「ふーん。 まあ俺がカワイイのは昔っからですからねィ」
その証拠に沖田はあっさり頷き、くるりと前方を向いてまた歩き出そうとした直後。


「あっ。 かき氷屋」


前方20メートル先の一件、軒先にはたはた力なく垂れ下がっているお馴染みの白と青地に赤い文字で【氷】と描かれた、お決まりの旗を発見、指差した。
釣られて見た土方が、「あぁ確かにまだしばらくは暑ィからな」 と続けようとしたところで、
「氷食いてェです」
まくり上げたシャツの袖をグイと引っ張られる。
「あ?」
まるで子供のような仕種をする沖田に疑問系で返しつつ、
巡回中だぞオイ。 なんて無精な考えはこの際放り捨てる。 何しろ暑い。 何にしても暑い。
氷に惹かれる理由はいくらでもある。 時計を見ればすでに昼の1時を回っている。 これからが一番暑くなる時間帯だ。
「・・・・・・」
すでにココロは決まっていたが、副長という手前、しばし考えるフリをすることにして。
「そーだな、食ってくか」
いくら公僕でも、休憩は必要だ。 調子良くそういうことにした。













「・・・・で、なんで俺がお前の分まで払ってやらなきゃならねーんだ」
「あんま細かいコトばっか言ってるとハゲますぜ。 ってか四百円くらい四の五の言わず奢りやがれこのケチ土方」
「それが奢ってもらうヤツの態度かコラ」


毎度日常、いつもと同じような応酬をしつつ、
店外に設えてある木造の、背もたれも何もないただ腰掛けるだけのチープな長椅子に土方は氷メロン、沖田は氷ブルーハワイを手に隣り合ってどさりと座る。
当初は店内で食すつもりでいたのだが、店に入るなり視界に飛び込んできた 『只今クーラー故障中』 とでかでかと書かれた張り紙が示した通り、
風の通らない店の中はそれこそサウナ風呂、他に客の姿もない。
これなら外で食べた方が断然マシという状態で、氷を受け取るなり即座に外にUターン、
ちょうど目に入った店外の木造椅子に落ち着くことにした、というわけである。
先述の通り、かなりチープな作りの椅子だが所詮は裏通りそれも店外、長く滞在する場所ではない場所の椅子など大抵この程度、
むしろ座ること自体より、同じく気休め程度に設えてあったこれまた年代物の頭上の日除けパラソル(よく海の家などで貸し出ししているアレだ)
の方が多少なりとも日差しが防げる分ありがたかった。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
溶けきらないうちに、としばらく黙ってしゃくしゃくそれぞれの氷を口に運ぶ。
とりあえず半分ほどを氷のうちに片付け、先が見えてきたと同時に氷メロンの味にも飽きてきたところでふと隣の沖田に目をやると、
偶然か、ふいっと沖田も視線を土方に向けてきた。
「氷メロン、美味ですかィ」
「・・・・。 普通だ」
「じゃあ一口」
言うが早いか手を伸ばし、スプーンで杓って氷メロンを一口分、持っていく。
そうして土方の氷メロンをしゃりしゃり味わって、
「食うたび思うけど、一体この味のどこらへんが・・・・メロン味でさァ?」
形の良い眉を怪訝そうに上げた。
が、そんなこと聞かれたって土方にだって答えようがない。
緑だからメロンじゃねーのか、とまさに適当に口に出しておいて、
「んなコト言ったらブルーハワイだって同じじゃねェか。 大体ブルーハワイって何味だ?」
先程と反対、今度は自分が沖田の手から青色をした氷を一口、奪う。
含んだ一口を丁寧に味わってみるが、メロンとは少し味が違う以外は何の味だかイマイチよくわからない。
「はっきりしねー味だな」
ぼそりと呟くと。
「マヨネーズバカの土方さんにはわからねェでしょーや。 この味覚オンチ」
これまたさり気なく暴言を吐かれたが、いちいち目くじらなど立てる暇もなく、
「ブルーハワイはこのハッキリしねェ味がいいんでさァ」
ぺろりと舌を出して楽しげに言う沖田をつい、ついついつい眺めてしまう。 重ねて自覚する。 これも惚れた弱みの一環だ。
「、」
と、今になって気づいた。
と言うか気になった。
「総悟」
「はィ?」
ひたすらブルーハワイをかきこみ続ける沖田を改めて呼び、その手を止める。
「舌出してみろ」
「は?」
「いいから口あけて舌見せやがれ」
「? 土方さん?」
突然の物言いに沖田は首を傾げるが、もう一度促したところ土方の言う通り、おとなしく 『ベー』 と舌を出して見せてきた。

青かった。

「・・・・。 真っ青だ総悟。 ってコトは俺も同じ・・・・か?」
鏡はない。
けれど青いブルーハワイの沖田の舌がここまで青く色付いてしまっているのなら、
緑色をした氷メロンを食した自分だって色は違えど程度はほぼ同じ、緑になってしまっていることは想像にかたくない。
このまま帰ったら、喋った途端に口をあけた途端に途中どこかでサボってかき氷を食していたことが一目瞭然、一発でバレてしまう。
それなら無言で通せば、という手立てもないわけではないのだが、
副長の自分がこれから半日以上、一言も喋らないわけにはいかない上、
沖田が何も喋らず口を開かずにいられるわけがない。 考えずとも結果は出る。
「・・・・・・・・」
さてどうするか、そこまで考えてなかったなと眉間に手を当てて考えようとしたところ、
「色、消せばいいんですかィ?」
ひょいと顔を覗き込まれた。
「・・・・。 まぁ、な」
「それなら、いい考えが・・・・いい手がありますぜ」




どこか悪戯めいた顔、茶色い瞳。
沖田がこんな表情をするときは、毎回必ず決まって何かある。
艶めく胸騒ぎを覚えながらも一応隠し、
どんな手だ、と先を促すと。




「光の三原色って知ってますかィ土方さん」




「そりゃ常識だろ」




知っている。
赤と青と緑の光を一点に集めると重ねると、無色透明になるというやつだ。




「それがどうした」




僅かな動悸を抑えて聞く。
すると沖田は鈍ィにも程があるんじゃないですか土方さんと言い捨て、ぐいッと胸倉を掴んできた。




「俺の舌が青くて、土方さんのが緑なんだからするこたァ決まりきってやがるでしょーが」




青いブルーハワイと、緑のメロン。
ここに残りの赤(さしずめ氷イチゴか?) があれば、三原色は完成する。
色が、・・・・赤が足りねーよ」
「舌が赤いから足りなくても構わねェです」

そうすりゃ透明にできるかもしれねーですぜ、と誘うように笑って挑んでくる沖田の言いたいことは嫌でもわかった。
口づけて透明に。
・・・・なるわけがない。
青と緑と赤。 重なって透明になるのはあくまで光。 光の三原色。
対して色で重ねたこの三原色は、土方の記憶が正しければ沖田の腹の中と同じ(・・・・)、色の三原色として確か真っ黒になるはずなのだが。 
「ねェ? 土方さん?」
ここまで誘われて、乗らない無粋はない。




「・・・・じゃあ試してみるか」




言って腕を伸ばし、まず頭上の日除けパラソルの端を掴んで力任せに前方、心持ち左側に傾ける。
後ろは木の壁、右横はちょうど植込みで、傾けた左側前方さえ覆ってしまえば周囲から目撃される心配はなく、
その前に元々最初からこの通り、人の気配は皆無で。




「・・・・、ン」




口付けて、
緑と青を重ねるよう、丁寧に舌を絡めた。
表面上だけ冷えた舌。 けれど内側は熱を内包して熱い。
もう一度ブルーハワイの味を確かめようとしたが、柔らかな舌からは沖田の味しかしなかった。 ただ甘い味がする。
互いの舌についた色を消し去ろうと思いきり貪り合う、長いキス。




「・・・ふ、・・」








夢中になって繰り返す中、何度目か数度目かの息継ぎ、
そしてどちらからともなく僅かに唇を離そうとした瞬間、




突如。












「・・・・何してんの、キミタチ・・・・?」












――――――― ばさりと日除けパラソルを真っ直ぐにされるのと、
――――――― 声が頭上から降ってくるのと、
――――――― そしてその人物の顔が判明するのと、








全て同時だった。








「〜〜〜〜うぉッ!!?」
「あ、万事屋の旦那」




慌てて離れて飛び退くがすでに遅すぎで、
「・・・・ヤなモン見ちまった・・・・」
目の前には思いきり嫌そうなカオをした坂田銀時。 手にはミルク金時を持っている。




「な、な、」
なんでテメーがココに、と言ってやりたいのだが、とにかくまったく間が悪い。 そして見られた相手も悪い。
どう取り繕うか、どうすれば誤魔化せるか、土方が必死で考え始めた途端、
「あ。 旦那も混ざります?」
隣の沖田が発した、
妙に明るくあっけらかんとした一言。
「おいィィィィ!!!!」
面食らって沖田に詰め寄るが、なんでィ土方さん、旦那だけ仲間外れにしたら可哀相でしょーが。 などと相手にされず。
半ば頭を掻き毟りたい気持ちでもうどうにでもなりやがれ、と腹をくくると。
「・・・・遠慮しとく。 なに、パトロールの最中? いーね堂々とサボれて」
呆れ返ったような、それでいてどこか悟りに通じているかの如くの銀時の返事。 普段と変わらずだるそうに間延びしている。
「サボりじゃなくて休憩中ってやつでさァ旦那。 羨ましいなら羨ましいってハッキリ言っちまった方がいいですぜ」
「お・・・おい総悟、」
「何です土方さん? 俺と旦那は仲良しなんだから邪魔しねーでもらえますかィ。 ねー旦那?」
「なー? これだから多串くんは」
「ねェ?」
「なァ?」
沖田は沖田でやはりいつもと変わらないペースで応酬し、それに銀時も合わせてきて、
「・・・・・・・・テメーら・・・・」
こんなときだけ妙に息の合う二人に、低く歯噛みする。
「・・・・・・・・」
なんだか一人慌てている自分がバカに思えてきた。
「旦那はこれから例の変態と待ち合わせか何かですかィ」
「んー、一応。 だからキミタチに居られるとすげー困る。 このままじゃ奴も出て来ねーし、出てきたら出てきたでスゲー面倒」
「ああ確かに」
「だよなァ? っても実際俺の知ったこっちゃねーけど」
「俺もこの暑い中、追いかけっこはちょっとしたくねーです。 バズーカも今日は持ってねーし」

そんな自分を尻目に、沖田と銀時は引き続き土方のよくわからない次元の話をしている。 一体 『奴』 とはどこの誰のことなのか。
仕方がないからがさごそ取り出して煙草をふかす。
浅いところですぱすぱやりつつ、
舌の色は消えてる・・・・ワケねーな、と薄ぼんやり思っていると、やっと話が終わったのか、
「それじゃ俺たちはここで御暇しますぜ旦那」
そんな沖田の言葉と同時に本日二度目、袖口を引っ張られた。
「そろそろ行きますかィ土方さん?」
「・・・・おう」
何がなんだかよくわからないまま返事をして腰をあげる途中、
たぶん偶然だろうが、自分と入れ違いに腰をおろした白髪頭と目が合った。
瞬間、目と口許だけでにんまり笑われ・・・・、た、 ・・・・ような気がしたのは気のせいか。
「、なんだよ」
「いーや、なんでも?」
思わず反応してしまうと、首を振りながらニヤニヤニヤリ。
意味ありげに薄ら笑いで返され、
「往来で警察官が、それも副長が、ねェ〜?」
「な・・・・」
過剰反応しそうになったところで。
「いいからいいからさっさと行きますぜ、旦那それじゃ」


ぐい! と今度は袖口でなく掴まれた襟元、首根っこ。


「うぉ・・・・! 何しやがる総悟・・・・ッ!」
「いいからいいから」


そのままズルズル向いた方向とは逆方向に引き摺って行かれ、


「く、首が絞ま・・・・・!」
「いいからいいから」


あえなく退散、


「総・・・・!」
「いいからいいからいいからいいから」




―――――――――――――― ズルズルズルズルズルズルズルズル。




















「てめ・・・ッ、喉が潰れかけたじゃねーか・・・・」
「そーやって四の五の言ってられるんだから大丈夫です」

「・・・・野郎・・・」
次の曲がり角を曲がったところでパッと手は離れたが、延々と締め付けられ続けた喉元がいがらっぽい。(決して煙草のせいではない)
ゴホゴホ咳き込んで、恨めしげに沖田を睨みつけてやるが当の本人はケロリンパ、「あー重かった」 などと呟いている。
重ねてもう一度この野郎、と言ってやろうと目を上げたのだが。


「あーあ」


目を上げた、いや、上目づかいで沖田がこちらを見上げてくる方が早かった。


「せっかくイイトコだったのに、邪魔が入っちまいましたねェ?」


「な」


今更だ。 本当に本当に心底、心の底から今更だ。 
けれど、 ・・・・だから始末が悪い。 手に負えない。 惚れた弱み。 こんなときこんなふうにさらりと言って来やがるから、余計。
「ねェ?」
「〜〜〜〜〜〜」
どう答えていいかしばし判断に迷い、
「・・・・・・・・・・、」
結局。
「・・・・ったく・・・・」
出てきたのは溜め息と、苦笑い。
プラス、僅かの職務放棄気質。




「それなら邪魔の入らねートコにでも行くか」
「え? 巡回はどうするつもりですかィ」
聞かれて少し考える。 考えた。
「・・・・。 まあ今日に限って何もねーだろ。 どうも最近働きすぎだしな」
「シタゴコロの鬼・・・・」
「うるせェ。 行くぞ」
呟く沖田を促して早足で歩き出す。
「それにしても暑ちーな、この制服が上も下も黒いってのも問題アリなんじゃねーか・・・・こりゃ」
「頭と肺の中まで真っ黒だぜィ土方さんの場合。 特に肺は肺ガン並みの黒さでもう余命僅かでさァ」
「テメーは腹の中が真っ黒じゃねーか・・・・!!」
「まあまあ。 そうカッカカッカすると余計暑くなりますぜ?」
「・・・・・・・・」
どの道、口での屁理屈勝負では沖田に軍配が上がることくらい初めからわかっている。
言いかけた口を閉ざすと、途端に耳に鼓膜に、晩夏の風物詩である蝉の鳴き声が一挙に飛び込んできた。
先程までは大して感知していなかったのに、ほとんど気にも留めていなかったのに不思議なもので、ふと何の気なし。


「セミの声がうるせーな」
思わずぼそりと零したところ、「ああそりゃあ、」 なんて沖田の一言。


「セミのあの鳴き声は、死に際の断末魔なんです」
「あ?」
「外に出ちまったらもう一週間しか生きられないセミの、『死にたくねェ死にたくねェ、』 ってな必死の叫びなんでさァ」
「オイ・・・・」
「そんな断末魔の叫びが聞こえなくなって、やっと快適な秋が来るって仕組みで」
「・・・・あのなあ総悟」
「何です? 間違ったことは何一つ言っちゃいませんぜィ」


・・・・・・これだ。
カワイイ顔をして、涼しいカオをしてどうしてこいつはこういうことをさらりと言いやがるんだ一体。


「・・・・・・・・」
「土方さん?」
「・・・・・・・・こう、なんつーか、もっと涼しいコト言えねーのか」
「涼しいコト? ・・・・」
「あぁ」
言うと沖田は少し考える仕種を見せて、それから何か思いついたのか、即座に 『ポン!』 と手を打った。
「じゃあ、涼しい上にちょっと可愛いやつの話がありますぜ」
「言ってみろ」
煙草に火をつけつつ、あまり期待せず先を促せば。
「北極だか南極だかにいるペンギンの話なんですがね」
得意気に話し出してきた。
「よくテレビとか写真とかで、奴らが氷山の上にギュウギュウたくさん集まってるとことか見るじゃないですか」
「ああ」
ペンギン、というあたり話題は確かに可愛い。 北極だか南極だか氷山だかも無論のこと、涼しい。
「こう、まだフワフワの丸い子ペンギンとかも集まってギュウギュウの、所謂おしくらまんじゅう状態」
あるある。 確かあれはあの状態は、寒さや外敵から身を守るための集団自衛策というやつではなかったか。
「それがどうした」
コロコロフワフワしたペンギン子ペンギンが無数に集まって作るコロニーを、土方が頭の中に思い描いた途端。


「あの実情って、かなりえげつねェってコト知ってました?」


予測外、黒沖田の黒い笑み。


「何?」


あれのどこにえげつねェ要素があるんだオイ、と聞き返す。


「あれって、氷山の下の海の中に天敵のアザラシとかトドがいねェかどうかを確かめるために、他の誰かを突き落とそうとしてるんでさァ」


「・・・・・・・・・・・・・あ?」


「内側にいる奴等はどんどんどんどん外側を押し出して落とそうとする中、外側の奴は落とされねェように必死で踏ん張ってるんです」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「だから命がけのおしくらまんじゅう。 『実録・恐怖のおしくら』ドキュメント」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・あれ? どうしたんです土方さん?」








――――――― 頼むからもっと真っ白な心でまっさらな話をしろォォォォ・・・・!!」








虚しく叫びながら見上げた空は高く青く、まだまだ気温は高いがしかし8月のそれとは確かに違って。




もうすぐ、秋だ。












何はともあれ、とりあえず 【土沖&桂銀前提】 で見ていただかないとよくわからない話になってしまいました・・・・。
ていうか自分で書いておきながらアレなんですが、キモチワルイんですけどこの二人。 冗談抜きで自分でもこんな警察官はイヤだ・・・・絶対イヤだ!(笑)
ペンギンの話は、昔どこかでこんな話をちらりと聞いたことがあったんですがたぶんウソだと思います。
ウソだと思うから沖田に言わせてみました。 いくらなんでもそんなわけないと思いたい・・・・。