S(ショートケーキ)とM(モンブラン)。





「まったく・・・・」
行き慣れた道を歩きながら、桂は小さく溜め息をついた。
片手には、先程立ち寄った店で手土産として買い込んだ紙の箱。
目指す 『万事屋』 までの距離はほんの僅か百数十メートル、このまま進めばあと数分もかからない。
が、何もない場所でふと立ち止まり、まだ夏の名残りを残したままの初秋の空を意味もなく見上げてついつい、二度目のタメイキ。
「・・・・・・」
なかなか足が進まないのは、それ相応の理由がある。
「・・・・・・」
『万事屋』 訪問がイヤだというわけではない。
銀時と顔を合わせるのがイヤだというわけでも、勿論ない。
通常なら普通ならむしろ毎日でも通い詰めたい入り浸りたい、いやいや出来ることなら叶うものならいっそのこと身請けしたい(・・・・)、
と願ってやまない昔馴染みのコイビトが居る場所に向かって躊躇する理由はただ一つ。
「流石にもう機嫌も直っているだろう・・・・な、」
高い空を見上げたまま、桂はつい一週間前を思い返してしまい、溜め息と共に希望的観測を口にした。








−−−−−−喧嘩を、したのだ。
それもとてつもなくくだらない、子供じみた事柄が原因で。








事の発端は先週、まだまだ残暑厳しい夏の終わりの日曜の午後、自宅(と称する借家であり隠れ処でもある) 屋敷内に、
前触れもなく突如ふらりと銀時が、どうやって入ってきたのか庭に面した縁側から一人、押しかけ・・・・否、訪ねて来たのが最初だった。
それが始まりで、当初は珍しい彼の訪問を無論のこと喜んで歓迎して、
すたすたと上がり込むなり銀時特有の気風であり性質でも特質でもある、
「甘いモン出せー寄こせー」 との要求にああ全くお前はいつも通りだな昔から変わらんな、
と苦笑しつつも文机から立ち上がり、台所と冷蔵庫を漁って見つけたその洋菓子。
丁度良いことに数も自分と銀時の分、ぴったり二つあったため、何も問題ないと思えたのだが。
そのとき二つ見つけた洋菓子、所謂世間一般ではケーキと称する内訳が、


『苺のショートケーキ』 と 『モンブラン』 が一つずつ。


今となっては思い返す返すも情けなく、いい歳をした大人、それも大の男二人が喧嘩の切っ掛けにするのはとてもとても呆れ返ってしまうのだけれど、


どちらがどちらのケーキを食するか、で揉めたのだ。


いや更に詳しく説明すれば、どちらがショートケーキを取るか、で喧嘩になったのだ。
正直、桂としてはその時のやり取りの詳細がどうだったかは、ぶっちゃけあまり覚えていない。
その二つを盆に乗せて持って行った途端、覗き込んだ銀的が 「俺は断然苺ショートを食う」 と一番に言い出して、
普段ならよしよしお前が苺の方だな、と自分が譲るシーンであるはずだった。
の、だが。
何故か何故だか、この時ばかりは桂も「何を言っている。 苺は俺だ」 と譲らなかったのが最初の原因だと記憶している。
とは言え、たぶん最初は自分も、それほど真剣に苺ショートを選択したわけでは無かった。
ただ、目の前で「馬鹿野郎ケーキっつったら世間じゃ苺ショートのことなんだよ、っつーか客に好きな方選ばせやがれ」
とごねるワガママ銀時(しかしそれさえもいとおしい) をもう少し見ていたくて、少なくとも自分は半ば戯れ半分でいたのだけれど、
それがどこをどうしたら本気の喧嘩にまで発展してしまったのか。


「・・・・・・」


立ち止まったまま、額に手を当てて考える。


「・・・・ああ、」


思い出した。
思い出して、桂は微妙な表情になり、再び歩き出す。


「・・・・・・」
そうだ、最初こそは自分だけでなく、銀時の方だって面白半分、悪言雑言だらけだがそれでいていつも通りの応酬だったのだ。
せっかく来てやったのにああだこうだ、ケーキっつったら苺ショートの32センチ丸ごとホールくらい用意しとけだの何だかんだ、
しかもケーキに緑茶添えて持って来んじゃねーよ云々、
端から見れば聞けば大層ワガママ勝手な物言いに聞こえるのだけれど、これも全て昔からのじゃれあいと言うか、
ある意味良い馴れ合いが齎しているもので、口にするのが銀時である限り、届く桂の耳には心地良い文句で科白だったのに。
それが本格的に互いの間と空気を悪化させたのは、
銀時がふと漏らした、
「ったく、これならこの前行ったついでに漁った真撰組の冷蔵庫の中身の方がまだマシだったよーな気がするぜ」 この一言だったように思う。
それはそれでいつも通り聞き逃せばよかったことなのに、出てきた名前がまあ幕府側の組織だったこともあって、
ついつい過度に 「・・・・ちょっと待て、」 なんてピクリと反応してしまって、
更に更に過度を通り越して、
「まさかお前、ここ最近ご無沙汰だと思ったら真撰組の誰かと浮気でもしているのではあるまいな」 などととんでもない想像までしてしまって、
しかし変なところで自制の効いたしょうもないプライドが邪魔をして取り乱して問いただす(・・・・) ことも出来なくて、
思い余って半ば混乱しかけた結果、取ってしまった行動が。


「それならまた真撰組の冷蔵庫でも漁って来れば良いだろうがこの浮気者」


そう口にしてしまった挙句、銀時の一瞬の隙をついて先手必勝とばかり手にしたフォークで苺ショートに乗っていた苺一粒をプスリ、ひょいぱく、と一口。
大人げない。
正にこの上なく、とにかく大人げない。


無論、直後に苺ショートを食する上での一番の醍醐味と言っても過言ではない楽しみを桂によって奪われてしまった銀時が、
「あああああこのヅラァ!!!!」
と烈火の如く、いいやむしろ白夜叉の如く怒り狂ったのは無理もなく。
「てめェ・・・・」
雰囲気から言えば展開から言えば、そのまま乱闘もかくや、とも思われた一瞬だったのだが。


「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」


しばしのだんまりの後、
意外なことに想定外なことに銀時は低く唸り、思いきり桂を睨み付けたあと、おもむろに身を翻し、一言。
「・・・・帰る」
感情のあまり入っていない声に、
「銀時、」
ふと気づいて向かい合おうとしたときには遅かった。
名前を呼んで呼び止めたにも関わらず、入ってきた際と同じ場所から銀時はそのまま振り向くこともなく歩みを止めることもなく、
そのまますたすたと歩き去り、姿を消してしまって。


「・・・・・・」
取り残された桂がふと視線を落とした先には、苺のなくなったショートケーキと、全く持って最初から最後まで立場のないモンブランが所在なげに取り残されている。
「・・・・・・」
同じく一人取り残された部屋の中、
ふうう、と自嘲的に息をついた桂の胃のあたりに、ずっしりと重い何かがのしかかった。












そしてよくよく考え起こしてみれば、これは喧嘩というよりは銀時を一方的に怒らせてしまっただけなのではなかろうか、と気づいたのが三日前のこと、
更によくよくよくよく突き詰めてみるに、
証拠もない理由もない理屈もない、無い無い尽くし無い尽くしであるのに関わらず、
『浮気者』 などという言ってはならない言葉まで口にしてしまったという事実に今更気づいた引け目もあって、
しばらく悶々と考え込んだ挙句。
全国指名手配中の身でありながらも思い余って出て来た、
・・・・というのが桂の現状なのである。




そうして今、桂は銀時の根城であり仕事場でもある、『万事屋』 の目の前に立っている。
「・・・・・・」
いつか(第十二訓) とほとんど同じく、入口前でインターホンに指をかけながら、自分を落ち着かせるため、ごほごほと咳払い。
以前は確か、何やら大きな白い犬(?) が顔を出したなと思いつつ、
鬼が出るか蛇が出るか、はたまた白夜叉が出るか、指に力を込めて一押しすると。
「へ〜いどちらさん〜・・・・?」
ややした後、そんな声が中から聞こえ、からりと引き戸が20cmほど開けられた。
「か、桂ですけど・・・・」
思わずやはり前と同じく間抜けにも名乗ってしまい、そして顔を覗かせた銀時と、めでたくも一週間ぶりの再会、と相成ったのだが。
「・・・・・」
「ぎ、銀と」
「あーもー、ウチは新聞とかいらねーから」
一瞬の視線の交錯後、思いきり嫌な顔を作られ、冷たく言い放たられてしまった。
「ちょ・・・・!」
更に危うくピシャリと扉を閉められそうになって、慌てて身を乗り出して扉に手をかけ、寸でのところで止める。
「は、話くらい・・・・」
「んでもってウチにはテロリストの知り合いはおりません」
一方、銀時は銀時でますます冷たさを増す科白の後、力ずくでも扉を閉めようとしてくるから余計にタチが悪い。
「ちなみに宗教に入る気もありません。 訪問販売もお断わりですだから帰れ帰りやがれこの指名手配犯が」
「銀時・・・・!」
怒っている。
これは本気で怒っている。
桂としては、とりあえず玄関先でもいい、話を聞いてくれと告げたいのだが、両手でもって力任せに閉めようとしてくる銀時に対し、
手土産として買い込んだシロモノの紙箱を片手に持っているため、なかなかうまく力が入らない。
だが、縋る男(・・・・・) というのは多分世界中で例の黒光りする害虫、生きた化石とも呼ばれる例のヤツとと肩を並べるほどしぶとく粘り強く、
「帰れ去れいなくなれヅラ・・・・! こんなとこでてめーと一緒にいて万一テロリストの共犯で逮捕されたらどうしてくれるんだコラ・・・・!」
「だったら大人しく入れてくれてもいいだろう・・・・!」
などと互いにふぬぬぬ、と引き戸を隔てて引っ張りあう。
「ざけんな立ち去れ・・・・!」
「嫌だ絶対に帰らんぞ・・・・!」
そんな馬鹿馬鹿しい攻防戦が五分程も続いた頃だろうか。
「ぎ・・・・銀時・・・・!!」
ヅラの一念岩をも通すというか、
いいやむしろこのまま続けたら間違いなく引き戸が壊れて修理代、もしくは買い替え代を出費する破目に陥る、
と判断した銀時の方が渋々ながらも譲ったらしい。
「や・・・・やっと、入れてくれたな・・・・・」
からりと開いた玄関内、
「・・・・それで今更何の用だっつんだ、変態ヅラ・・・・」
「だから・・・・俺は・・・、ヅラじゃないと何度も・・・」
無駄な労力を使い果たして ぜーぜーはーはーと肩で息をつく二人の図は、端から見ればかなり滑稽なものだっただろう。
ただ幸いなことに今回はあの大きな白い犬も居ず、同居人の二人も揃って留守にしていた・・・・、とそれはもっと後になってから聞いたのだが。
やっと呼吸が落ち着いてきたところで、桂は一歩、銀時に近づく。 踏み出す。
言いたいこと、告げたいこと、そして謝りたい一言があって、


「銀時」


名前を呼んだら。


「おいヅラ、」
それとほぼ視線を上げた銀時の方が、桂が続きを口にするより僅かに早かった。


「・・・・誰が浮気モノだって?」


桂は一瞬、虚を突かれた形になって−−−−−−−。


「ああ、・・・・すまなかった。 詫びにこれを持ってきた」


少しの逡巡の後、言いながらずっと手にしていた、
ここら界隈ではそれなりに有名な店で人目を憚らずも買い込んだ、特大サイズの苺ショートケーキが丸々1ホール入った箱を差し出した。
銀時はちらりとそれを見遣る。
そうして、


「謝って済むならケーサツいらねーっての。 ・・・・そいつは貰っとく。 貰ってやる」


この前はどっかのヤツのせいで食い損ねたしな、と不貞腐れたようにそう言って、くるりと背を向けた。
無言で上がれ、と言っている。
その背中を追いながら、桂は小さく笑った。
一週間ぶりにやっと胃のあたりが軽くなったような気が、した。
















「で・・・・、何の用だよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


30分後、たんまり満腹になるまでショートケーキを詰め込んだ銀時は一転、御機嫌である。
しかし一方、桂は面と向かって用件を問われても、この訪問自体が銀時の機嫌を直しに来たのと同じため、
目的を果たせた今となっては聞かれたって答えられるわけもない。
何と言おうか、素直に正直に謝りに来たと告げればいいのか、
それとも下手に墓穴を掘るようなことはせず、適当に散歩の途中に立ち寄ったなどと誤魔化せばいいのか。
「ヅラ?」
重ねて銀時が聞いてくる。
「な・・・・っ・・・・」
ひょっこり顔を覗き込まれて、焦った挙句出てきた言葉が。
「と・・・・糖分摂取は充分か?」
「はぁ・・・・?」
案の定、思いきり不可解な表情をされてしまった。
「いや、その、あの、な・・・・」
そして余計、言葉に詰まる。








そんな桂の様子に、何言ってんだお前、と思わず眉を寄せた銀時だったのだが。
この男が、・・・・桂が玄人筋にも素人にもそれなりにウケの良いその端整な顔立ちとは反対に、
どこかおかしい(・・・・) ことは長年の付き合いで嫌でも知っていたし知らされる破目になっていたし、
あまつさえ 『浮気』 だの何だの四の五のそんな言葉が飛び交っても悲しいかな、
違和感をそれほど感じないこんな関係にいつからかなってしまった距離である今、
用件がどうのこうのなんて、好物の甘物を満腹まで食せた今となっては正直、どうだっていいことなのだけれど。


それに第一、
手土産にショートケーキ1ホールを持って桂がココを訪れた理由など、その時点で一目瞭然だ。
そもそも桂は何度も言うが指名手配犯の身の上でもあり、
普通、いや別段普通でなくとも往来の店でケーキを買う、などといったことは滅多にない。 むしろ有り得ない。
そのあたりのことを考えるに至って、
ショートケーキでの糖分摂取と同時に銀時の機嫌もそうそう良くなっていこうというものだ。
まあ、一週間前のあの時に突如押しかけた上、他の家・・・・(正確には真撰組屯所だが) の冷蔵庫話をいきなり持ち出して、
自分に対してやたら心配性なこの男に誤解させたのは多少なりとも悪かったような気もするが、
それはそれ、くだらない痴話喧嘩の顛末など先に相手に謝らせた方の勝ちだと昔から相場は決まっているのであるからにして。


「・・・・・・」


視線を上げて時計に目をやったあと、目の前で大人しく茶を啜っている桂を見る。
時刻はまだ昼間の2時前、どうせ夕方まで神楽も新八もそして定春もしばらくは帰って来ない。


「おいヅラ、」


その声に、桂がぶつぶつと俺はヅラじゃない桂だ何度言ったらわかるんだ、と呟くが最初から無視をして、
向かい合わせに座ったテーブル越し、伸ばした手で漆黒の長い髪をむんずと掴み、


――――――わざわざここまで来たんだ、


「・・・・してくか?」


低く短くただ一言。


と、桂は驚いたように二度ほどまばたきを繰り返し、
「あ、ああ、・・・・しかし銀時、」
いいのか、と聞いてきた。
対して銀時は、なんだよいつだって普段はてめーの方から切羽詰って迫って襲ってくるくせに、
いざ誘われるとなんにも出来ねーのか、なんて不敵に笑って告げたあと、


掴んだ髪をぐいっと引っ張り、それこそ吐息が触れ合うほど顔を近づけて、
呆気に取られている桂の唇をぺろりと舌先で一舐め。




「・・・・っ・・・、!」




有無を言わせない誘惑に、桂は一瞬息をのんで―――――。
直後、
年に一度あるかないか、の有難いありがたーい申し出に乗らせてもらうことにした。





















敷かれたままの布団の上に銀時を移動させ、もつれ込むように倒れ込むようにその上に乗り上げ、
半ば覆い被さる形でキスをする。
最初の一度は軽く啄ばみ、触れる感覚だけを味わって、それからゆっくりと唇の感触を確かめるために口づけて。
「・・・ん、・・・・」
されるがままのキスが嫌なのか、銀時が僅かに舌を伸ばしてくる。
こんなところは昔からいつもいつも変わりがなくて、何も変わらないお前のままだな、と安心した桂はすぐにそれを捕らえて吸う。
甘いものが好物なせいなのか、もしくは先程の苺ショートの甘みなのか、それとも元々そうなのか、
銀時の舌は何故だかとてもとても甘く感じられて、気づけばまるで子供のように夢中になって口唇を貪っていた。
夏の終わり、閉められた部屋の中に充満して響くキスの音。
煽られて着物の裾から手を滑り込ませ、上衣を捲り上げて素肌を辿り、口づけたまま直に胸元を手のひらで撫であげると、
絡めた舌を伝わり、銀時が僅かだが息を飲むのが感じ取れた。
名残惜しいと思いつつ、互いの息継ぎのためにも一度唇を離す。
と、それまで伏せ気味だった目がちらりと上げられ、
「・・・・丁寧にやれよ」
濡れた唇が動いて命令口調。
言われて気づけば、確かにこうやって深く交わるのは随分と久し振りで、今更だが桂は現状での互いの距離を思い知る。
けれど一度こうやって触れてしまえば、もうきっとそんなことはどうでも良くて、
ああ、と頷いたあと、
「銀時、腕を上げろ」
言いながら捲り上げた上衣をぐい、と引っ張ると、意外にも素直に銀時は腕を上げた。
そのまま素早く上衣を剥ぎ取り、自らもせわしなく衣服の前をはだけさせ、
互いに露わになった素肌の体温と感触を確かめたくて、肩から胸元から、身体の線を辿ってなぞる。
「・・・・ッ」
勿論それだけではとてもとても足りなくて、少しだけ仰け反った首筋に顔を埋めて舌先で舐め上げると、
濡れた感覚に銀時がぴくりと小さく反応を返した。
這わせたままの舌を、続けて上に滑らせてぱくりと耳朶を口中に含み、
柔らかく食んでやれば、
「ん・・・ッ・・・、待、て・・・・っ・・・」
くすぐったいのかそれとも別の感覚に襲われるのか、銀時はその愛撫から逃れようと耐えようと、明らかに首を竦めて振って。
そんな様子は、普段の・・・・いやいや先程までの女王様然とした態度とは大きくかけ離れていて、
「こ、の・・・・、待て、って・・・・・!」
いくら制止されたとしたって、
「待てるわけがなかろう」
かわいくてかわいくて止めることなんて出来るはずもない。
はみ、と銜えた耳朶に軽く歯を立てて甘噛みすると、今度はより大きく身体を震わせた。
歯に心地いい耳の感触を楽しみながら、桂は手を胸元に持っていく。
全体的に体温を分け与えるように撫でていくと、往復の途中で小さな突起が形作られ、姿を現して指先に引っかかった。
ぷくりと主張し、ほんのりと色付いた胸の飾り。
桂はまだ柔らかいそれを、触れた指先で軽く突付いて転がす。
「・・・っ、ぅ・・・・!」
途端、みるみるうちにツンと硬く尖って色を濃くしていくと同時、銀時が僅かに身じろいで首を振った。
「っ・・・・は、ッ・・・・・」
我慢をしているらしいが、零れ落ちる吐息に混じる熱は隠しようがないらしい。
おまけに桂は間を置かず、もう片方の飾りにはつい、と舌先を伸ばして。
「ッ・・・・!・・・」
両の乳首に与え続けられる刺激に、たまらずビクリと大きく反応した身体を、より強く抱き寄せるように腕を使って抱き込んで、
ずっと吸い付いて離さない舌で飾りを嬲る。
が、自らの唾液で濡れ上がった小さな粒は、濡れて滑って捕らえようにも舌では捕らえづらく、
捕まえたかと思うとつるりと逃げてしまって、なかなか捕まらない。
それでしつこく追い回しているのだが、そんな戯れは銀時にしたら、ただ焦らされているのと何一つ変わりがなくて。
「ッ・・・、こ・・・・の・・・・っ・・・・!」
思わず、罵声を浴びせてやろうとしたところ、
やっと突起を捕らえることのできた桂の唇で、きゅっと突然吸い上げられ、
「んぁッ・・・・!!」
たまらず声を漏らしてしまった。
一方、久し振りに聞けた銀時の本格的な甘い声に桂は俄然、やる気を出す。
交わしたキスも随分と甘く感じたものだけれど、今こうやって吸い付いて愛撫する胸の飾りもとてもとても甘く、
そして更に更に甘い甘い声を聞きたくて、いつの間にか淡い色から濃い紅に染まった突起を何度も何度も音を立てて吸い上げていたら、
本当にたまらなくなってきた銀時に、ぐいぐいと頭を押されて小突かれた。
「し、つけぇよ、・・・・てめーは・・・ッ・・・」
「丁寧にしろと言ったのはお前だろうが」
「そ、れとこれとは違うんだよッ・・・・このヅラ・・・・!」
言いながらも僅かに吐息があがっているあたりが、やはりかわいい。
それでいてどこまでも強気なあたり、
本当にお前は昔から変わらず可愛いな、と桂は小さく笑って。
「・・・・ああ悪かった、だからそう怒るな」
先に謝った者勝ち、と機嫌を取る。
そしてそこでやっと銀時の胸元から顔を上げ、ようやく二つの飾りを解放して、それまでの行為ですでにかなり乱れていた下肢、
そのベルトに手をかけた。


「・・・・っ、」
「・・・・銀時?」
瞬間、ほんの僅かだけの逡巡を銀時は見せたのだが。


「・・・・何でもねーよ」
早く続けろ、と視線で言う。


桂は言われるまま誘われるまま、しかしその前にもう一度唇を味わうために口づけながら残りの衣服を取り去り脱がし、
全て脱がし終えると、胸にしつこいほどの愛撫を受けたがゆえ、すでに頭をもたげ始めている露わになったそこに視線を落とした。
自然、鼓動が早くなるのはやはり相手が銀時だからか、それとも行為自体が久し振り(・・・・)、であるからなのか。
「・・・・・・」


「・・・・ヅラ?」
思わず動きを止めた桂に、銀時は不審気な目を向けた・・・・・、のだが。


「な、・・・んだよ、――――ぅあッ・・・・!!」
途端、我慢しきれずに手を伸ばしてきた桂に自身を撫で上げられ、びくっと身体を跳ね上げてしまう。
桂は、手に収めたそれをやんわりと握り込み、軽く上下させて刺激を送って。
「ん・・・・く・・・・」
やわやわと擦り上げると、銀時は熱い吐息をこぼし、しかし聞かせたくないのか片手で口許を覆った。
そんな姿が、これまた一層いとおしい。
そうなれば、銀時には悪いが無論のこと声も聞きたくて出させたくて、上下させる手に力を入れる。
「・・・・っ、ん・・・・ッ・・・・」
と、包み込んだ手の中、銀時自身が次第に質量を増していく。
確実に質量と熱を持ち、硬く勃ち上がってくるその先端から、じわじわと先走りの蜜が浮かび、桂が指先を動かすたびに溢れ出すそれ。
最初は先端だけに浮かんでいたのだが、最後に包み込んで一撫でしてやると、その刺激が限界を超えたのか、
ついに先端からつ・・・・、と溢れて零れ落ち、流れて桂の手を伝った。
「ぅ・・・・あッ、っ・・・・あ!」
自らを伝う生暖かい感覚にぞくりと背筋を震わせる様子に、すかさず桂は零れるその蜜を拭い取るよう、
先端を優しく指先で擦り込むと、過敏すぎるその箇所は銀時からくぐもった声をあげさせ、そして真っ赤に色付いていく。
合わせて零れ落ちる量は止まるどころか次々と溢れ出し、指を使って扱き上げるたびに、濡れた淫猥な水音が響くようになった。
「・・・すごい、な・・・・」
昔からの仲とはいえ、まだ陽の高いうちからこんなふうに同衾したことはほとんどなく、
明るい中で展開される情事、そして何よりもとくとくと蜜を零し続ける銀時自身から視線を外せず、思わずそう声を漏らしてしまうと。
「・・・・な、・・・ッ・・・・!」
その声が聞こえたのか、瞬間的に銀時が咄嗟に両の脚を閉じようとした。
が、桂は閉じようとする両膝に手をかけ、力に物を言わせて逆に更に大きく左右に膝を割る。
そんな桂の行動に、さすがに慌てた銀時が慌てて身じろぎ、上半身を起こす。
「な、・・・っにしてんだよッ・・・・離せ・・・・ッ!」
「・・・・嫌だ」
「こ・・・・の、変態ヅラ・・・・っ・・・!!」
銀時は、無理矢理開かせられた脚、その間をじっと食い入ったように見つめている桂の視線が耐えられない。
「は、なせコラ・・・・ッ離せ・・・・!」
何とか逃れようと身を大きく捩るが、自身を掌中に納められてしまっている上、強く両膝を固定されてしまっているため、
脚を閉じようにも閉じることが出来ず、この変態を蹴飛ばしてやろうにも足が上がらなくて。
逆に無理矢理押さえつけている桂は、ここまで来てじたばた騒ぎ出す銀時をものともせず、
眼前の勃ち上がって濡れそぼり僅かに震え、未だ透明な蜜を滴り落としている。
たまらずごくり、と喉を鳴らした。


・・・・・・今まで別に特に禁欲生活をしていた、というわけではないけれど。(花街にだって行くことは出来たし)
・・・・・・正直、こんなに猛って興奮したのは、初めて、否、・・・・とてもとても久し振りで。


唾を飲み込んだ拍子に、もう一度小さく喉が鳴る。


もっともっと気持ち悦くさせてやりたくて、自分の愛撫で乱れた姿を見せてほしくて。
すでに自分もなかなかきついところまで来てしまっているのだけれども、
今回はそもそも銀時の方から誘ってきたわけでもあるし、そして何よりも、普段のあの茫漠とした・・・・(と言うかふてぶてしい)、
理性がどこかへ行ったときの、特別に見せてくれる顔が見たい。
だから。
「・・・・銀時」
銀時によって少々乱された長髪が、僅かなりとも邪魔だ。
落ちかかってくるそれを無造作に払い、背中へやって、ゆっくりと顔をそのまま下肢に近づけた。




「ッ!?」
桂の意図に気づいたらしい銀時が、再び暴れだす。
だが。
「ちょ、ッと待て・・・・っ! 待ちやが・・・・ッ・・・・・・っ、うぁッ!」
通常ならいざ知れず、現時点では体勢的にも、状況的にもどうしたって桂の方が優位だ。
「待たん」
大人しく諦めろ、と告げて素早く膝に置いた手で両足を更に大きく割り開き、その間に顔を埋めていく。
「ヅラ・・・・っ・・・・!」
制止のために名前を呼ばれたって、待てるわけがない。
桂からしてみれば、一秒でも一瞬でも早く愛してやりたくて仕方がないのに。




「あ、うぁ・・・・ッ・・・・!!」
伸ばした舌先。
それでまず最初に、軽く触れるようにそろりと舐め上げてやり、続けて優しく口中に含み入れる。
先端部分をぱくりと口腔に収め、口内の粘膜刺激で全体的に扱いてやると、僅かに戦慄く腰が与えられる快楽刺激から逃れようと揺れ動いた。
桂はそれを決して逃がすまいと強く腰を押さえ付け、口の中、辿った舌先で裏筋を舐め尽くす。
「・・・・ッんぅ・・・っ・・・」
と、たまらず銀時の指が頭に添えられ、何とか引き剥がそうと髪を引っ張ってくる。
けれど結局のところ、ほとんど力も入らないのか緩く引っ張るだけで、桂の行動を止めるまでには至らない。
構わず桂は、咥えた銀時自身を舌と唇で扱き上げ、空いていた片手も使って、
勃ち上がっている根元の部分、そしてその下部の双珠を包み込み、大きく揉み上げる愛撫を送った。
「・・・・ッ・・・・っ!」
その刺激に、銀時の腰が大きく跳ね上がる。
気を良くして、先端に添えた舌で円を描いてやれば、頭上で響く銀時の息遣いがみるみるうちに乱れていくのがわかった。
「あ・・・・ぁ・・・・ッ、うぁ・・・・!」
「そんなに悦いのか?」
「っ、しゃべんな・・・・ッ・・・!」
至近距離で囁いたため、触れる吐息さえも刺激になるのだろう、
髪に絡めていた指で、銀時が反射的にぐいっと今度は逆に桂の頭を抑え付けた。
「悦いのだろうな・・・・、銀時」
ついそう言ってしまった通り、溢れて零れる蜜の量が目に見えて多くなる。
とろとろと落ちる蜜はこの上なく甘そうで、
「ん・・・・ぅく・・・・ッ・・・」
すかさず舐め取って先端を軽く吸うと、もう堪えきれない甘い声が、仰け反った喉から聞こえた。
こんな時以外は絶対に聞けない声と、見られない姿態。
否が応にも心は昂ぶって、今度は全体的に音を立てて吸い上げてやる。
すると、懸命に何かを堪えているような息遣いに加えて、本人の既知していないところで動く腰。
かたかたと震えて動き出した細い腰は、まるで余計に桂を誘っているように見え、
煽られてすかさず、またもや先端部分、それも括れの箇所に丁寧に舌を絡め、浅く弱く刺激を繰り返す。
一方で、反対側の根元から裏筋にかけては、そっと添えた指先で少々強めに辿り、擦り上げて強弱を与えて。
「・・・・っあ、ぅあ・・・・ッ・・・・く・・・・っ・・!」
しっかりと支え、二つ折りにさせた銀時の太腿が大きく震え始めた。
合わせて腰の揺らぎも大きくなり、口中の先端から零れてくる蜜はもう止まらなくて。
「や、めろ、離・・・・っ」
自らの限界を感じたのか、荒い呼吸でたどたどしく告げてくる。
が、聞こえているけれど離す気など毛頭ない桂はあえて聞こえていないフリをして、
特に敏感な括れの部分を重点的に何度も何度も強く弱く舌先で辿ってやると、腰だけでなく、口内で銀時自身も小さく震え、桂にも銀時の限界が感じ取れた。
「あ・・・・あッ・・・・っ・・・、離せ・・・・ッ」
何回言われたって、離さない。
しっかりと捕らえたまま咥えたまま、更に扱き上げる指と唇の動きを早めてやる。
――――ッ・・・・!? な・・・・ッ、・・・ヅラっ・・・!」
どうやら銀時は、さすがに切羽詰まれば桂が唇をその位置から離すと思っていたらしい。
限界まで来ても、離そうとはしない桂の様子に、思いきり焦ったように腰を引く。
が、桂は離さないだけではなく、退いた腰を一層しっかり引き寄せて続ける愛撫。
「あ・・・・、あッ、ぁ・・・・!」
銀時の呼吸の間と声が、間隔を置かない短いものになってくる。
プラス、大きく上下に動く胸元と、がくがく震える腰はもう本当に絶頂が近い。
「も・・・・っ、離・・・・ッ!!」
抑えた腰が、一際大きく跳ね上がった。
銜え込んだ口許、桂は蜜を抉り取るように、心持ち尖らせた舌先で先端の窪みをくいくいと突付いて刺激を与える。
途端、それが限界だったのか、
「っあ、うぁ・・・・ッ・・・・、 ――――ッ・・・!!」
まるで電流を流されたかのよう、銀時の身体が大きく仰け反って同時、
口中に、温かな白蜜が一挙に吐き出された。




「・・・・甘い、な」
口中に満ちたそれを、臆することもなく桂は嚥下。
更に、一度達した後も僅かだが少しずつ、残った分を溢れさせ浮かべている先端に再度吸い付いて、最後まで吸い上げる。
「・・・・っ、は、・・・・はっ・・・・ッ・・・」
銀時は、達したばかりの荒く収まらない吐息の中、
直後でこの上なく敏感さを増している自身をまだしつこく愛撫されるのに堪えられないのか、
桂が残滓を搾り取って吸うたび、びくびくと身体を小刻みに震わせている。
最後の一滴までを吸い上げ、
「大丈夫か・・・・?」
満足した桂がようやくのことで口を離し、そう問い掛けながら身体を起こす。
と、
「こ・・・・っの・・・・」
まだ力のほとんど入らない、震える上半身、それでも銀時は懸命に布団の上に肘をついて身体を起こし、
憤懣極まりない、といった目で桂を睨み付けてきた。
とは言え、睨まれながらもその目は先程までの快楽に縁がほんのりと染まり、更に蕩けているためか全く持って怖くも強くも何ともない。
そして、
「馬鹿・・・野郎・・・・ッ・・・・!!!!」
頭ごなしに怒鳴りつけられたって、以下同文。
「ざけんなこの変態がァァァ!」
怒鳴りながらも、銀時の耳のふちは真っ赤だ。
無論この怒りのせいもあるだろうし、そして先程の行為に対する羞恥もある。
「ま、まあそう怒るな、こういうのも悦かっただろう・・・?」
確かに桂としても、直接に飲み干してしまったのはこれが初めてだと今頃気づいて。
何とか穏便に済まそうとしたいのだが、されてしまった銀時としたら、そう簡単に済ませられるものではないらしい。
「離せって言っただろうがよ、あぁ!!?」
「・・・・すまん、聞こえなかった」
「聞こえねェわけねーだろ!? もう耳まで遠くなったのかこのジジィ!!」
「ジジィと言うな、心はいつでも17歳だ」
「はあ・・・・!? こんな気色悪い17歳がいるわけねェっての! 謝れ! 全国のセブンティーンの皆さまに手ェついて土下座しろ!」
「すいません」
「心が全くこもってねェ・・・・!」
「当たり前だ」
「あぁ!?」
「俺の心はお前のためだけのものだ」
「・・・・ッ」
「だから、お前のものなら全て飲み干したいと思っただけだ。 それが悪いのか?」
「〜〜〜〜〜ッッ・・・・!!」


飄々と恥ずかしげもなく答える桂に、銀時はぎりっと歯軋りをする。
そうだ・・・・、昔からこの男は、桂というコイツはこういうヤツだったのだ。
やっぱり、やっぱりホトケゴコロなんて出してやるんじゃなかった。
手土産を受け取った時点で、蹴り飛ばして追い払っておくべきだった。
キレイな顔して中身はこんなんで、見せかけはあっさりしつつ、そうだそうだ、つまりこの桂という男は。


「こっ・・・の、変態ヅラ・・・・!」
それ以外、言う言葉がない。 見つからない。 っていうか救いようがない。
それでもより罵声を浴びせてやりたくて、『変態』 の最上級って何だ、と少しだけ考えていたら。
「俺のどこが変態だと・・・・。 まあいい、ともかく、お前のならいくらでも飲んでやるぞ?」
その変態ヅラは、更に更に変態じみたことを言いやがった。


「・・・・・・・っ・・・・」


たまらず、ピシリと凍りついてしまった銀時に。
「銀時? 何を固まっている?」
どこまでも真面目くさった顔で桂は問い掛けて、固まったままの銀時の肩に手を回し、
抱き寄せながら再び押し倒して布団の上に縺れ込み、気づけばまた何か言いたげにしていたその唇を、自らの唇で塞ぐ。
「・・・ん、ッ・・・!」
塞いだ後も、僅かに首を振る銀時はやはり何か言いたそうだ。
どうせまた文句なのだろう、と桂は心の中で苦笑しつつ、同じく胸中だけでこちらも告げる。


・・・・文句なら、望みなら、後でいくらでも聞いてやる。
だから、今はお前の味を忘れないよう、もっともっと深く交わりたい。








深く長い口付けに、収まりきらない互いの唾液が顎を伝って落ちるのも構わず、
息継ぎのたびに角度を変えてキスは展開されていく。
長い戯れの途中、
「ッ・・・・! ん、ん・・・・ッ・・・・」
するりと下肢に滑り込ませた手で、腰骨のあたりを撫でながら次の行為に続けるための愛撫、
そのために先程達したばかり、精を放ったばかりの銀時自身を柔らかく手の中に導くと、
銀時はたまらずキスから逃れ、首を振って離れ、声を漏らした。
ちらりと視線を落とせば、桂が器用にも手を使って開かせた脚が震えている。
過敏になりすぎた自身に感じる感覚が強すぎてたまらないのか、くせっ毛の間から覗き見える眉は快楽・・・・、というより、
どちらかと言えばつらそうに寄せられているように見えて。
それが少し気になって、理性も何もかも飛ばしたところで銀時には感じて蕩けてほしくて、
桂は開かせた脚、その間に再び顔を落とす。
「・・・・っも、やめ・・・・ッ・・・!」
ふ、と触れてかかった吐息に銀時の腰が身じろぐ。
けれど桂が逃がしてやるはずもない。
眼前、一度自分の与えた愛撫で達し、甘い甘い白蜜を吐き出して熱く濡れそぼった銀時自身。
先走りの蜜と、自分の唾液で透明に濡れて光り、それに僅かに混じる白が余計、情欲をそそり出す。
「だ・・・からッ、変態だっつんだこの馬鹿・・・・ッ・・・・ぅあッ、ふぁ、あ・・・・ッ!」
「何とでも言ってくれ」
「開き、なおんな・・・・っ・・・!! ん、ぁ、ああ・・・・っ・・・・!!」
言葉を奪うように、すかさずぱくりと咥え込むと、甘い喘ぎと共に口中に、先程と同じ味が広がった。
味わいながら、弱い裏筋を何度も何度も舌で舐めていく。
「ぅあ・・・・っ、く・・・・ッ・・・・」
舐めながら甘い声を聴きながら、桂は自らの指をそっと、銀時の奥深い場所に進めて滑らせる。
その指はすでに濡れていて、指先で辿り着いた最奥の周囲を一度、くるりとなぞり上げて撫で回し、
まだ綻びを見せるはずもない、固く窄まった最奥に宛がって。
僅かに力を入れ、埋めようとしてもやはり無理、
爪の先ほども受け入れる様子はない。
「・・・・銀時」
力を抜け、と言いかけたのだが、そんなことは銀時本人だってわかりきっているだろう。
だから告げることはやめ、また力を取り戻しはじめた自身にそっと唇を落とす。
「ん・・・・ぁッ・・・・」
そして今度は、高めるためではなく、意識をそちらに向けさせるため、宥めるように軽くキスを繰り返してやる。
「・・・・っ、ぁ、・・・・っあ・・・・!」
柔らかな愛撫、優しい快楽に、銀時の腰が浮く。
その瞬間、力を抜いた瞬間を見計らい、添えて宛がった指を丁寧に、だが素早く埋め込んだ。
同時、銀時がビクン、と身体を強張らせる。
「・・・・っ、・・・く」
苦しげな声。
「きつい、な・・・・」
埋め込んだ桂も思わず呟いてしまったほど、狭くきつい内側。
それでも、内部の指を試しに少しだけ蠢かしてみると、僅かに熱い吐息が銀時の口から零れた。
「痛いか?」
「・・・・・っ」
気遣う問いに、声には出さず、銀時はただ首を小さく横に振ることで答えを返す。
それに少し安心して、桂は埋めた指を再びゆっくり動かし、内壁を擦り上げほぐしはじめた。
時間をかけて、内部を蕩かしていく行為にゆっくりとだが、肉壁が柔らかくなってくる。
最初は食いちぎられそうなほどにきつかった内側が、次第に熱を持ち、吸い付いてくるような感覚に変わって。
記憶を頼りに、確かこのあたりだったな、と少し奥まった場所でくいっと指を押し上げた途端。
「い・・・・ッ・・・!!」
銀時が、突然大きく背中を仰け反らせた。
ダイレクトに悦い箇所を押され、刺激されてしまって抑えきれなかったらしい。
桂は繰り返し、確認も兼ねてその部分を二度、三度と指先で突き上げてみる。
「ッ、っあ・・・・!・・・・!」
漏れる熱く、甘い声。
これは間違いなく、その箇所が前立線だろう。
確信して桂は、内側からだけではなく外側からも感じてほしくなって、小刻みに震えの様相を見せる銀時自身に軽く唇を落としてから、
もう一度丁寧に根元から先端までを余すところなく味わいつつ、埋めた指でくいくいと内部をかき回していく。
「・・・っく、あ、ぅあ・・・・ッっ・・・・・!」
内側からと外からと、過敏な部分を両方とも、それも集中的に刺激され、
銀時は堪えているのだろうけれど、どうしても堪えきれない熱い声を止めることができないらしく、同時に腰が揺らめき出す。
零れる声と共に、内壁も随分と柔らかさを増していき、指を締め付ける力も弱くなってきた。
桂は、銀時自身から零れ落ちてくる蜜を使い、更にもう一本指を内側に加える。
「ッ・・・・・!」
埋め込むこと自体に抵抗はなかったのだが、さすがに倍の質量になったのはつらいらしい。
しばらくはじっと動かさないでいたのだが、銀時の身体から汗を伝ったのを見て、
ずっと自身に這わせていた舌を移動させ、その箇所をぺろりと舐めた。
「ぅあッ・・・!? っな、馬鹿、この変態、やめろてめェ・・・・っ・・・・!!」
舐め上げられた感触に、たまらず銀時が背中を震わせて拒絶する。
桂の意図がわかってしまったのか、
その体勢から逃れようと、慌てて身を捩る。
けれど、組み敷いた身体は桂がしっかり固定してしまっている上、脚も強く強く抑え付けている。
おまけに内部に埋めた指は相変わらず悦いところに触れていて、そうそう逃れられるはずもない。
見越した桂は、じたばた騒ぐ銀時がかわいくてかわいくて、ふ、と口許だけで笑う。
「人が何かするたびにいちいち『変態』と叫ぶのはやめてほしいのだが・・・・」
「変態だろーが・・・・ッ!! ・・・ッあ、あっ・・・!!」
埋めた指で、心持ち強めにぐいぐい押し上げて擦ってやると、罵声をぶつけてこようとしていた口からは嬌声、
そして前からはとろ・・・・、と蜜が落ちた。
シーツに染み込ませるのが勿体無くて、空いて伸ばした手で掬い取り、擦って愛撫を送る。
「んッ・・・・う、あ・・・・ッ・・・・」
と同時進行で、たっぷり自らの唾液を乗せた舌先を再び最奥に持って行き、
差し入れていた指の助けを借りながら滑り込ませた舌で、内部を優しく舐め上げる。
「ぅあ、ぁ―――・・・・ッ!」
行為自体の淫猥さと、感じる感覚に意思を通り越して、びくびくと震える身体を止められない。
桂の手に包まれたそこは、絶えず透明な蜜を溢れさせていて、
手を伝って落ちてくる蜜は最奥まで滴り落ち、指を動くたびに濡れた音が響いた。
「・・・・ッ!!」
舌が入っているすぐ横に、更に三本目の指を挿入すると、潤って蕩けた内部は簡単に全てを受け入れる。
「・・・く、・・・・っあ、ぁ・・・・も、も・・・・い、い・・・・っ・・・」
快楽に浮かされた声。
前方の銀時自身からは、すでに透明だけでなく白色も混じった蜜が零れて溢れ出して。
「っは、早、く、し・・・・ろって・・・・!」
急かされてねだられて、桂も息が荒くなる。
ずっと自分の欲を我慢しているのも、もう限界だ。




「・・・・っ、銀時、」
舌と指を引き抜いて、逸るココロを落ち着かせる。
そうして、体勢を立て直し、まず銀時の脚を両腕を使って抱え直した。
自分の指と舌で柔らかく解かした最奥に、随分と前から熱く猛っていた自らを強く押し当てる。
「く・・・・」
先端をぐ・・・・、と埋め込む。
シーツを掴んだ銀時の指先に力が入った。
ゆっくりと半分ほどまでを挿入させながら、
「・・・・平気か・・・・?」
問い掛けると、僅かに首が縦に振られる。
その返答を受け、続けて丁寧に根元までを何とか飲み込ませると、
痛いほどの締め付けにそのまま動きを止め、銀時の呼吸が落ち着くのを待って。
「・・・っ、・・・」
そうやってしばらく動かないままでいると、次第に銀時も落ち着いてきた様子。
吐息に余裕が現われ、快楽なのかそれともまだ痛みが先行しているのかは不明だったけれど、
身の内に感じる感覚に耐えながら桂を見上げてくる表情にも、ほんの少しだが余裕が見えた。
「な・・・・に、遠慮してんだ、・・・・ヅラ」
荒い息の中でも、唇の端をつり上げて話す、いつもの口調。
「?」
銀時の意図が読めなくて、思わず首を傾げてしまったら。
「、早く、シろってんだよ・・・・ッ・・・!」
思ってもみなかった、そんな一言。
どうやら、余計な気遣いは不要らしい。
「ああ、・・・・」
「何だよ」
「いや」
表情を伺い見るだに、本当に痛みを感じているようではない。
「動くぞ」
す、と一度息を吸って、軽く腰と自身を抜き挿しする。
内部の感覚に、銀時がピクンと震えて身体を震わせたのがわかった。
が、ただ埋めているだけでもきゅうきゅうと収縮し、きつく絶妙に締め付けてくる銀時の内部の誘いに、もう本当に我慢もしきれない。
最初こそは丁寧に動き出そうとは思っていたのだけれど、
「・・・うあッ・・・!!」
締め付けの中、奥をズッ・・・・、と強めに突き上げた途端、大きく背を仰け反らせて喘いだ銀時の内部の熱さと、伝わってくる快楽に、理性がみるみるうちに消えていく。
「ん、ッ・・・・あ、あぁッ・・・・!!」
激しく腰を使う桂に、銀時の腰が与えられる強すぎる快感から本能的なのか、逃れようと退く動きを見せるが、
抱え込んだ両腕で抑え込み、いいや無理矢理引き戻して更に距離を近づけて、弱い箇所に狙いを定めて何度も先端で押し上げた。
「・・・っう、あ、ああ!・・・・っ・・・・ッ・・・・!」
「ッ、悦い、な・・・・!」
弱い奥の奥を突くたびに、桂自身を内壁が強くきつく全体的に締め付けてくる。
更に搾り取ってくるようなうねりがまた絶妙で、引き摺られそうになるのを振り切るよう、夢中になって律動を繰り返して。
「・・・・っあ、・・・・そこ、や、やめ・・・・ッ」
狙いがとある一点に及んだとき、銀時が懸命に首を横に振った。
過ぎる快感がつらいのか、銀髪を乱して悶える。
「ん、・・・・ココ、か・・・・?」
「ひッ、ぁああ・・・・ッッ・・・・!!」
やめろと言われた一点、前立腺を猛った先端でぐいぐいと容赦なく擦りつけてやると、
充分に昂ぶっていた銀時自身が、互いの腹の間で小さく弾けた。
軽く達したのか、と手を伸ばしてそれを握り込むと、まだ芯を持って勃ち上がったままだ。 完全に放ち終えてはいないらしい。
「ん、う・・・・・・・ッ・・・・」
先端に指を這わせ、追い上げるように愛撫を送ってやる。
と、銀時が焦って力の入らない手で、それを止めようとしてきた。
だが、かたかた震える手では無論のこと止められるわけもなく、逆にそんな可愛い抵抗は、桂のやる気をそそるだけ。
「・・・・う・・・ッ、あっ、んぁ、あッ!!」
添えた指の腹で、粘つく先端を撫で回しながら、下肢を奥深くまでズッと埋め込んだ状態で、
腰のみをがくがくと揺さぶって大きくグラインドさせれば、自らを締め付けたまま肉壁が生き物のように蠢いた。
「ッ、・・・・」
互いに与え合う快楽に、桂も荒くなる呼吸を噛み殺す。
「・・・・っ、銀時・・・!」
「んく・・・・ッ・・・っ、は、・・・・ッ・・・」
名前を呼びながら、突き上げる動きでも荒い律動でもなく、内部を余すところなくかき回し、揃って絶頂に向かうよう丁寧に腰をグラインドさせて。
折り曲げた桂の上体も、銀時の胸板に重なるくらいに近い。
少しでも動くたびに、結合の証、快楽のしるしの濡れた音がそこから響いた。
滴り落ちる銀時の蜜。
それさえも零してしまうのが惜しくなり、寄せた腹で勃ち上がった銀時自身を擦ってやると、
「い・・・っ、――あ、ぁぁっ・・・・ッッ・・・!」
普段ではとてもとても聞けない、愉悦の声をあげる。
腰までが、桂の動きに合わせるように上下に動き出した。
迷わず桂は、寄せて覆いかぶさった体勢のまま、有無を言わせず唇を塞ぐ。
そして、括れの部分で内部の弱い箇所を定めて突き上げ、押し付けると塞がれた唇で、銀時が快楽と閉じ込められた吐息に、苦しげに眉を寄せた。
「・・・っふ、・・・・んッ、ん・・・ぅ・・・・!」
熱く、切ない吐息が桂の喉の奥でかき消されていく。
口付けながら、桂も懸命に零れ落ちそうになる声を飲み込んで。
互いに絶頂が近い。
「あ、う・・・あッ、・・・・っ・・・・!!」
首を振ってキスから無理矢理逃れた銀時が、喉を仰け反らせる。
桂は己の高みを求めて、より激しく貪るように腰を打ちつけた。
「・・・・ん、ぅ・・・・ッ・・・・!!」
噛み締める銀時の声が、切羽詰まっていく。
内部がこの上ないほど収縮し、あと少し、もう僅か。
「っ・・・・!」
同じくらい追い上げられ、自らを銀時の熱い粘膜と締め付けで追い込みながら桂は息を止め、これで仕上げとばかり。
最奥の最奥、銀時の一番悦ぶ箇所をぐいっ、と強く強く突き上げた。


「あ・・・・ッ、く、あ・・・・あ・・・・ッッ・・・・!!!!」
瞬間、ぴん、と全身を仰け反らせて銀時は絶頂に達する。
桂は、自分の腹部に銀時の放った白蜜がかかったことを、その熱で感じたあと、
「・・・・ふ、」
自分も同じくらい熱い吐息をつきながら、脈打つ自身を中から引き抜いて、
達した直後で茫漠茫然としている銀時の、肌の上に欲と熱を吐き出した。




















「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」


情事の後、というのは何故にこう意味もなく物悲しいのだろう、と衣服を整えながら、ふと桂は思う。
背中の方からは、銀時の着替えているごそごそという衣擦れの音が聞こえてくる。
やはり意味もなく振り向く気分にもならず、背中を向けたまま、背中合わせにただただ帰るための身支度をしていたら、
「おーい、ヅラァ」
なんだか思いきり間の抜けた声で、そんなふうに後ろから呼ばれた。
「・・・・ヅラじゃない、桂だ」
しつこく訂正してしまうが、きっと何の役にも立たないだろうことくらいは最初から知っている。
一体いつになったらきちんと名前で呼んでくれるのか、と溜め息をつきながら、
じゃあそろそろ辞すぞ、と告げようとして、身体からぐるりと振り向くと。
「次はモンブラン買って来いよ」
食い損ねたのはショートケーキだけじゃねーぞ勿論ホールで丸ごと一個、そこんとこ忘れんな、と妙に当たり前のように言われた。
言われて桂は、ほんの僅かだけ思考停止、ええとそれってつまり、その、あの。


「・・・・・・」
「・・・・何だよ急に黙りやがって」
「それなら、」
「あ?」
「それなら明日にでも、」
買ってこよう、だからまた明日も・・・・!、 と息せき切ったところで。




「テメーは俺をホントに糖尿病にする気かコラァ!!?」




・・・・・・・・やはりと言うか何というか、
怒られ怒鳴られ、仕舞いにはどかあんと万事屋から叩き出されてしまった。


「ぎ・・・・銀・・・・・、」


ピシャリと閉まった引き戸の前、一人放り出された桂の脳裏を、
数時間前までのあの接近が密着が甘さが味が情景が、今となっては走馬灯のように駆け巡って、・・・・・・儚く消えた。












そして一週間後、(指名手配中にも関わらず) またも懲りずにモンブラン1ホール丸ごとを買い込んで訪れた『万事屋』、
しかし出迎えたのは愛しい愛しい銀時ではなく、いつかどこかと同じく定春。
ついでに当のモンブラン1ホールは次に出てきた神楽に一瞬にして、全て食い尽くされた・・・・とか。




人生、そして世間はそうそう甘くない。
そうしみじみ噛み締めた桂の初秋、である。




でも銀時の味は、他の何よりも ―――― 甘かった。















長ッ・・・・!! なんか意味もないのに無駄に長くなっちゃってすみませんでした・・・・。
たぶん、二人のやり取りが書きたかっただけだと思うんですけど、それも見事に失敗、おまけに裏も何が何やらで・・・・ゲフゴフッ。
銀さんには「変態変態」って連呼させちゃいましたけど、この話だとそんなに変態じゃあないですよねぇ桂さん・・・・(苦笑)。
それにしても自分で計画してたほど、小道具としてケーキを上手く使うことができませんでした、ガッデム。
ちなみに目次ページでタイトルの 『S』 『M』 に一瞬でも騙されてくださった方、いらっしゃいます〜? エヘへ。 小細工小細工。