[ シアワセの定説 ]





銀時が気がついた時には、覚えのある部屋の中、
フトンの上からロープにてぐるぐる簀巻きの状態で転がされていた。




「・・・・あ?」




後頭部全体がガンガン響く。 頭が痛い。
昨晩の空腹で摂った安酒が響きまくっている上、ところどころ記憶も飛んでいる。
けれど。
心許無いことこの上ない細々とした記憶を(スマキ状態のまま) 辿っていくにつれ、
僅かだが少しずつ浮かび上がってきた今朝方の記憶、そして現状はというと。




・空きっ腹に安酒 → 昏酔泥酔状態だった自分
・そんな自分の脇で何やコソコソ画策していた新八と神楽
・思わず訝しく感じ、二人と(酔っ払った自分とで) 目を合わせた途端
・「ゴメン銀さん!」
・「これも全部コメと銀ちゃんのためネ!!」
・そう同時に叫んだ二人
・フトンとロープを手にし、本気で臨戦状態の神楽(否、夜兎) によって一瞬にてスマキにされる自分
・あまりのことに 「何しやがるお前らァァァ!!」
・叫んだ直後、神楽によってゴインと後頭部を殴られ
・あえなくブラックアウト。




・・・・・・・・そして今に至る。




「〜〜〜〜アイツら・・・・!」
身動きできないまま、思わず歯噛みする。
後頭部がこんなにもガンガンするのは二日酔いのせいだけでなく、
まず間違いなく神楽に殴られた一発のせいだ。
雇い主で家主に対してなんだこの仕打ちは、と毒づきつつ、
そんなことより何より、実は意識が戻った当初から最初から初めから気付いていた。








―――――― 此処がヤツの、
あのロン毛変態ヅラの棲み処の一部屋であるということに。








どうやらここ最近の自分の様子に(+奴からの貢ぎ物の減少っぷりに) 気を回した、
いや、気を揉んだ子供二人の暴挙の結果がコレらしい。
「ったく・・・・」
独りガランとした洒落っ気も無い部屋でぼやく。 うめく。 (スマキで)
「〜〜〜ガキの浅慮だっつーの!」
業を煮やしたからとはいえ、ただ放り込んでどうする。 スマキで放り込んで。
大体にして一介の未成年二人がどうしてこの場所を知ってやがんだオイ、とも思う。
一瞬 『新八→お妙→近藤』 経由かと考えてみたのだが、いくら何でもさすがに無理だ。
となるとルートは一つしかない。
『神楽パパ』 経由。 星海坊主だか何だか知らないがとことん娘に甘いあのオッサンだ。
それが一番無理がない。 納得。 すんなり納得がいく。
「・・・・・・・・」
納得がいったと同時、途端にガシガシと頭を掻き回したくなった。(スマキだから出来ないが)
そもそも第一、此処に今この時点このタイミングで奴が居るという事実でもあればまだしも、
仮にもあの変態バカヅラは全国指名手配犯、
いつ何処に身を潜めて一体いつまで潜っているかも解らずの日々だというのに。
(エ? となると銀サン飢え死に? 下手するとスマキのまま干乾びんの俺ェェェェ!!?)
冗談じゃない冗談じゃない洒落にもならない。
何はともあれ脱出しなければとは思い、
四苦八苦足掻いてみるものの流石は神楽、流石は夜兎。
ロープはどこまでも最強の堅結びでこれでもかというほどにぐるぐる巻き、
しかも上・中・下と三段階に分けて縛ってある様子で。
「・・・・解けねェ・・・・」
足掻いてもがいていたのはせいぜい五分足らず、
しかし銀時が自分で脱出するのは到底無理だと悟るには充分すぎるほどの300秒、
おまけに不自然な態勢で不自然に動いたものだから、余計体力を失った。
「〜〜〜〜もう歳なんだよ俺ァ! あんま無茶させんじゃねーっての!!」
ぼやく。 というより叫ぶ。
というかすでに誰に対して叫んでいるのかわからない。
こんなところにこんな状態で放り込みやがった居候未成年二人に対してでもあり、
災難の元凶(?) でもあるクソヅラに対してでもあり。
と、無駄に叫んで更に無駄な体力気力を銀時が使ってしまったそのとき。


「?、」


少し離れたところ、襖の向こう側の廊下の方向から、
スタスタとこちらに向かってくるような足音が聞こえてきた。
この、足音は。
判りたくない。 判ってしまいたくなかった。
普通なら到底判るはずもない判別の仕様であるはずながらも判ってしまう自分に嫌気が差しつつ、
「、 ・・・・」
息を詰めて銀時が待ち構えること十数秒。
微かな音を立てて滑りの良い障子戸がからりと開いた直後、


「ぎ、」


「・・・・・・・・・・」


最早言うまでもなく、顔を出し目が合うなり視線が交差するなり名前の最初の一文字だけを音にしてピタリと凝り固まったのは変態テロリストである。
呆けてただこちらを凝視したまま動かない和服のロン毛の野郎など、このバカの他に誰が居るというのか。 まさしく端っから言うまでもない。
「〜〜〜ヅラ、とりあえず解けコレ」
会ったら、次にこのバカとまみえたら言葉より何より先に絶対ぶん殴ってやろうと思っていた。
なのにこんな状態ではいの一番に張り倒してやることすら不可能で、
結局奴の名前を呼ぶのと「解け」という言葉とが先になってしまう。
それだけでも不本意極まりないというにも関わらず、当のヅラは、桂は。
「・・・・フッ」
どんな反応をするかと思えばおもむろに鼻先でフッと笑い、
「堕ちたな、俺も」
思いきりの、ひとりごち。
「・・・・あ?」
さっぱり無視をされた形(?) の銀時は唖然とする。
一方で、やたら自嘲的に笑うヅラ。
「銀時の声の幻聴だけでなく、ここに至って幻覚まで見てしまうとは」
「・・・・あァ?」
バカだ。 やっぱりこいつは大バカだ。
「あまつさえしかもフトンとロープと銀時が三位一体・・・・鴨がネギを背負って飛び乗った棚からボタモチを落とすような絵図ではないか」
「・・・・はア!??」
大バカも大バカ、バカの筆頭レベルで。
「ロープと銀時・・・・もしこれが現実ならどんなプレイに走れと」
「〜〜〜〜ッ」


我慢の緒が切れた。


「こ・・・・ッのクソヅラァ!!」
「うおッ!!?」
全身スマキ状態での唯一の攻撃方法。
勢いをつけて転がる。 そして目掛けてぶち当たる。 
「な・・・・!」
「何呆けて妄想してやがんだこの期に及びやがってよォ!!?」
ぶち当たった拍子に思いきり態勢を崩しつつやっと目を見開く桂は、
「ぎ・・・銀時、ほ、本物か・・・・?」
「悲しいけどモノホンだわ! ホントは本音は幻みたく消えちまいてーけど残念ながら生身だ俺ァ!!」
「銀時・・・・!」
ようようやっと、現実と現生銀時(・・・・) を理解したらしい。
慌ててがぶり寄って来ようとするのをいつもの通り暴言悪言で堰き止め、
ようやく銀時がスマキ状態から解放されたのはそれからすぐ後のことである。




だが。




ぐるぐるのスマキ態勢から解放されたとはいえ、
そもそも前回からあんな状態で別れたのだ。 そしてここ長らくしばらく会ってもいなく。
そんな状態でこんなふうに顔を突き合わせたところで、結局大した話が出来るわけもなく、
気の利いた科白がどちらからも出てくるはずもない。


「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」


放っておけばいつまでも延々と続いてしまいそうな沈黙と沈考がしばらく続いた中、
先にその空気を破ったのはいつもの如く、銀時ではなく桂の方だった。


「・・・・そうあまり怒らないでくれ銀時」
様子を窺うよう、探りを入れるよう、控えた科白。
その響きに淀みが無いから、
良くも悪くも深みと抑揚までもあまり無いように感じ取れるのは、
桂の喋り方の所謂一つのクセのようなものでもあって、
だからといって決して上滑りの言葉ではないことも銀時は知っている。
けれど知ってはいるけれど、それはただそれだけのことで。
「怒っちゃいねーよ」
目合わせず、座り込んで畳の数を無意識のうち数えながら最初っから何とも感じちゃいねー、と吐き捨ててやる。
(しかしその言葉と態度ですでにもう 『怒ってんだよ腹立ってんだよ俺ァ』 と声高々に明言しているようなものだ)
「・・・・・・・・嘘だ。 十分怒っているではないか」
まるで子供のような桂の物言い。
そんな言い回しで途方に暮れたようなそんな響き、とてもとても二十代の野郎が口にする言葉じゃない。
「怒っちゃいねー。 ・・・・困ってんだよ」
ただ困ってんだ俺ァ、と繰り返す。
「あんま困らせんじゃねー」
「・・・・怒っているのだ。 そういうのは」
「・・・・・・・・・・・・困ってんだよ」
静かな押し問答。 これじゃいつまでも埒があかない。
と思いきや、
「それなら困らないでくれ。 俺はお前を困らせるも怒らせるのも嫌だ。 そしてお前に嫌われるのはもっと嫌だ」
「嫌イヤ嫌イヤって、ガキかテメーは」
「ガキじゃない。 桂だ。 そしていつでも俺はお前と一緒に居たいだけだ」
「尚更ガキと一緒だろーが。 それじゃ」
「ガキだろうが子供だろうが童だろうが何だって構わん。 ・・・・あの時は俺が悪かった。 意味もなく苛々していたのだ。 情けなくもみっともないことに」
「・・・・・・・・」
んな老成しきったガキなんか何処にもいねーよ、と返事してやろうとしてやめた。
無言の銀時に、桂はゆらりと続ける。
「銀時。 このままでは人類は人間はいつか絶滅するぞ」
弁明から持論へ。 それをここで自分に告げてどうしようというのかこのバカは。
どうしろというのか。
「すりゃいーじゃん」
仕方がないからあっさりそう返事をしてやる。
「いつか近いうち、必ず消えてなくなる」
「安心しろ俺たちゃそれまでぜってー生きてねェ」
せいぜい長く生き延びたってあと100年、
どんだけ頑張ったってその瞬間には立ち会えねーよ、と銀時は嘯く。
150年くらい生きられたらその善き日に立ち会えたかもしれねーけどよ、
と改めて嘯いて、それから。
「そうか」
「そーだよ」
そうだ。 ガキを安心させてやるには落ち着かせてやるには軽く流して笑ってやるのが一番だ。
余裕を持って。
たとえ互いにそれが誤魔化しだとわかっていても。
「それでも、俺はお前を失う度胸は持っていない」
何をかをいわんや。 また生真面目にバカヅラは。
だから笑ってやった。 軽く浅く。
「そーゆーのは度胸って言わねーだろ」
度胸というより、むしろ覚悟か。 たぶんその方がしっくりくる。
そう続けると、
「そんな覚悟なら一切いらん」
と無駄に威張られた。 何故威張る。 呆れたバカだ。
呆れてココロの中でバカだバカだバカヅラだと繰り返し念じていたら。
「というわけでこれで仲直りということだな。 そうなると銀時」
「あ?」
思わず反射的に声のした方を振り向くと途端、
目の前にヅラの、桂の顔があった。
「ギャアアア!!!!」
近い。 近かった。
ずざざざと慌てて飛び退らなかったら間違いなくブチュウウウと餌食になっていた。
寸でのところで避けられた紙一重。
「なッ・・・・なにしようとしやがるクソヅラァァァァ!!」
「チッ・・・」
舌打ち。 逃して舌打ちしやがった。 掴まっていたら本当に危なかった。
「何をするはこちらの科白だ。 仲直りしたらココは、こういったシーンは涙でヌレヌレのお前が熱いキッスをくれるというのが定番のはずだ」
いけしゃあしゃあ。 キモい。 どうしてそうなる。
キモい。 何はともあれそんな自分を思い浮かべるだけでキモチワルイ。
「ざけんなコラァ!! キモチ悪過ぎだろうがそんなんンンンン!!!!」
繰り返すがとことんキモチ悪い。 誰がってそんな想像、いやそんな妄想をするヅラが。
力の限り叫ぶ。
けれどこういう展開になってしまったら我儘ヅラには誰も適わない。
「悪くない悪くないちっとも悪くないぞ銀時。 そもそもお前と布団とロープという三種の神器が目の前にあるというのにムラムラしない方が余程おかしいだろうが」
「おかしいのはテメェだァァァ!!」
「そうか。 それならそれでも俺は構わん」
「待て! オイ待てコラ、なんでテメーはいつもいつもそうやたら鼻息ばっか荒いんだよ!?」
「荒くない荒くない。 ちょっと興奮しているだけだ」
「余計悪ィだろーがァァァ・・・・!!」


会話の間、以下省略。
ずいっと詰め寄られてがぶり寄り押し倒され、あとはいつも通り普段の縺れ込みイン布団上。
その勢いで頬にそろっとかかったヅラのどこまでもストレート、
野郎のくせにツヤツヤキューティクルの効いたロン毛が天パ持ちの銀時としてはやたらと腹ただしい。
だからグイッと強く引っ張って乱暴にたぐり寄せ、噛み付くキスをしてやった。



















ヌレヌレの熱いキッスというよりは、挑みかかられる貪欲な口唇に応えつつ歓喜しつつ、
結局自分は銀時に許してもらう形になったことを桂は知っている。
度量と受け流す懐。 
そういうところが到底自分は銀時にはかなわない。 たぶん死ぬまで。


いや、きっと死んでも。
















久し振りにも程がある褥。
互いに欲望の独り処理の仕方は嫌というほど心得ていても、そうしたところで何ら今のこの行為の妨げにはならなかった。
「ッ・・・・」
擦れ合う体温に、意識せずとも声が上がる。
「銀時」
首筋に胸元に口付けながら、桂はいつも何度も名前を呼ぶ。
が、それに対する返答は大抵にして返ってこない場合が多くて、
「ぎんとき、」
それでも今夜ばかりはこたえて欲しくて続けざまにもう一度、名を呼んだ。
「・・・・んだよ」
上半身への愛撫で乱れた着衣と、更に乱れた吐息のもとやっと銀時から応答があった。
僅かに睨むその目は 『イイ歳してヒトを平仮名読みなんかで呼ぶんじゃねェ』 と無言で言っているような、いないような。
「いつもいつでも何度でも言わせて貰う。 俺はお前が好きすぎておかしくなりそうだ」
「おかしいのは元からだろうが」
きっぱり。
即座即答されるがその即発加減がこれまたいい。
言いながらふいっと視線を背ける仕種もイイ。
そんな素振りはこんな時にくらいでしか決して見られるものではなくて、
まだただ上半身に軽く触れている程度でしかないのに、自然と桂の息は上がる。
「そうか。 ・・・・ん? そうか?」
「自覚ねェのか。 アホヅラ」
「いや、あるぞ有るぞ多大にその自覚はあるぞ銀時。 だがそもそも俺をおかしくしたのはお前だ。 全てお前が原因だ一体どう責任を取ってくれる」
「・・・・・・・・それ以上四の五の抜かしやがると捻じ切んぞオラ」
「お前の活約筋で切断されるなら本望・・・・ぐおッ!!」
半ば真剣に返事をした途端、うなりを切って飛んできた腕、それで(しかも無言で) 容赦なく頭を殴られた。
殴られた痛みと衝撃に桂は悶絶してみせる一方、
嬉しい痛みでもあるそれに口許がおのずと緩む。
銀時に 『殴ってもらえる』 距離はいつ実感してみても好くてよくて、
そのシアワセを噛み締めつつ、手のひら全体を使って胸元を撫で上げ、
繰り返すうちに形を現わし始めた肉粒をおもむろに摘まみ上げた。
「、」
すると即、ビクッと反応を見せるしなやかな身体。
「変わらず敏感だな」
「黙、れ・・・・ッ」
感心混じりの事実を伴う呟きに、小さな罵声で返される。
が構わず(それでも一応黙りつつ) 摘まんだ乳首を指の腹でこりこり転がしその感触を楽しんだ後、
間を置かず桂はそこに吸い付いた。
「・・・・ッ・・・っ!」
ちゅっと一度目は強く短く、そうして次はちゅ・・・・、と弱く長く時間をかけて吸い上げると、
銀時は小さく胸元を仰け反らせ、
「・・・っは・・・ッ、・・・・っ」
弱い箇所への愛撫刺激を堪える息をつく。
未だ喘ぎにまではなっていない、しかし甘い吐息のような息を漏らす銀時の様に桂はどうしようもなく煽られて。
更に愛撫を重ね、舌先で上下左右に転がし、時々押し潰しながら前歯で掠めて刺激を送っていくと、自らの唾液で濡れて滑る肉粒はまるで熟れた小さな茱の実のような弾力を持って、朱に染まった。
「も・・・・い、いッ・・・」
長く丁寧な胸への愛撫に、焦れて我慢が効かなくなってきた銀時が制止の声をあげ、
同時に身を捩る。
けれど出来ることなら限界まで銀時の隅々を味わっていたい桂がそう簡単に離すわけもなくて、
一層舌と唇とを使って濃厚な愛撫を施していけば、
「ア・・・・!」
堪えきれない艶声が銀時の噛み締めた唇から零れ落ち、
上気する肌に心持ち体温も上昇して、昇り立つ色香にごくりと喉が鳴る。
「なんかもうこのまま齧り取ってしまいたい程なのだが、どうしてくれよう」
「る、せ・・・・ッ・・!」
たまらず口走った軽挙妄言に軽く跳ねる身体。
ああもう齧りたいどころじゃない。 全て蕩かして飲み干して喉を濡らしてとろけたい。


しつこく胸に口唇を寄せたまま、脇腹を彷徨わせていた手を続いて下肢に滑らせる。
途中、その手が内腿を通過するとピクンと下半身が軽く戦慄いた。
それを合図として、一度胸から顔を上げて今度は桂から口付ける。
口腔に舌を滑り込ませると、彼の甘い唾液の味が伝わって、
柔らかい舌と舌で貪り合いとことん吸い上げ合う。
が、キスにばかり夢中になってもいられない。
下方に持って行った手で、桂はすでに幾許か硬くなり始めている銀時自身を軽くさすり、
名残惜しくも最後に口腔全体を舐め上げてから口唇を離して、
そのまま銀時の中心部に顔を移動させた。
「美味そうだな」
「〜〜〜〜ッ」
軽発言に罵詈雑言が帰ってくる前に。
ちゅぷ、ぱくり。
「――――ぅ、ッ・・・っ!」
先端を含み、続けて全体を咥えて銀時自身をほぼ口腔内に招き入れる。
舌で丹念に味わいながら口内の粘膜を使いで外周を洩らさず搾るよう扱き出すと、
直接的に伝わってくる刺激を堪えるためなのか、それとも彼の意地が無意識にそうさせているのか、
押し留めるかの如く銀時の手が桂の頭にかかってきた。
とはいえその指にも大した力は入っていなくて、むしろ髪ごしに伝わる手の感触が心地好い。
桂はこの行為、口淫を施してやるのが元々好きで好きで(何故ってそりゃあ今更説明する意味も無いほど正に今更の今更アレでアレでアレだ)、
だがいつもいつも受ける当の立場の(・・・・) 銀時からは 『ねちこい』 だの 『しつこい』 だの 『くどい』 だの非難轟々であるのだが。
然しながらそれは照れ隠し、況や羞恥心もしくは底意地から来ているものであることは無論承知の上で、だから俄然力が入る。
「甘くて、熱い・・・・な」
舌に感じる味はどこまでも甘みを湛えていて、そして熱い。
感じたままをそう素直に口に出したら、
「んなワケ、ねェだろうが・・・・ッ・・・!」
上擦った口調ながらも思いっきり否定された。
が、否定されたって実際事実はどうあれ甘いと感じてしまうものは桂にとってはどんな砂糖菓子より何よりの糖度を持っていて、
おまけに感覚に翻弄されつつある銀時のそんな声はますます桂のやる気に火をつける。
もっと翻弄されて余裕を失った声を聞きたくて喉の奥深くまで収め、
全体を満遍なく愛していくと、自然と銀時の腰が戦慄き出す。
「・・・ン、く・・・・っ・・・」
抑え気味のそれは、まだ快感を堪えようとする漏れる声というより吐息。
顔を上げなくともわかる。 強く目蓋を閉じ、きつく口唇を噛んで我慢しているのだろう。
「悦い・・・か?」
微かに戦慄く腰を軽く押さえ、小さく笑みを浮かべながら確認してみた。
「ぅあ・・・!」
と、喋った拍子に絡んだ息に腰が浮く。
それを逃さず押さえ込み、自らの唾液と銀時の体液とをしとどに混ざり合わせた蜜液を使い、強弱をつけて扱き上げていく。
桂が愛撫を施すたび、摩擦で上がり響く小さな濡れ音。 比例して銀時自身も確実に硬度と質量を増してきた。
「っ・・・・は、ッ・・・・っ・・・」
とろりと伝う先走りの蜜。
零してしまうのが勿体無く、ふるっと震えた先端に慌てて吸い付き、ちゅるっと舐め取れば、
「〜〜〜〜ッ・・・!」
傍目にもわかるほどに悶え、跳ねる腰。
敏感な様に桂は嬉しくなると同時、俄然張り切り出す。
口だけでなく手も使って指を添え、敏感な裏側をゆっくり丁寧に辿り、
括れ部分を口腔でくちくちと揉む刺激。
連動して舌で先端部分を性急に愛してやれば、
「っ・・・・あ・・・・!」
絶頂へ誘う強引な快楽に銀時の喉が仰け反った。
構わず、根元に指を添え擦ってやりながら、色付き上向いてぴくぴく震える自身をたっぷり味わっていく。
そろそろ限界を迎えようとしているほどに膨れ上がったそこからは蜜が伝い落ち、桂の口許を綺麗に汚す。
「・・・・ぁ、うッ・・・く・・・っ・・・」
丁寧だが執拗な愛撫に否応なく連れて来られる絶頂。
押さえ込まれた腰がもどかしくてもどかしくて、銀時は堪えきれない快感の中、
たまらず桂の髪を引っ張る。
「離、しやが・・・・ッ・・・」
「誰が離すものか」
愛しくて愛しくてたまらないというのに何を言う、とばかり目を細めて笑う桂。
それが腹ただしいやら切羽詰まって逸ってもう一度殴ってやりたくなるやら、
「こ・・・・っの・・・・」
ぎりっと睨み付けてやったつもりでも、
「そんなカオで怒られても何も怖くはない。 というかむしろカワイイだけだ銀時」
「っあ、ぅあ、・・・・ッ!」
嬉しそうにますます笑みを深めた桂に、絶頂を促される一層激しい愛撫を受けることになった。
「ン、っ・・・〜〜〜〜ッ!」
全体をあちこち吸われ、銀時の身体の震えが止まらなくなる。
見越した桂が、白の混じりだした先端をちゅうっと強く長く吸い上げた瞬間、
「―――――っ!!」
桂の口内の銀時自身がどくんと短く脈打って直後、
熱い飛沫を音もなく銀時は吐き出した。


久し振りのその味はやはり少し苦みがあって、
でも輪をかけて甘みもあった。


ごくりと白蜜を嚥下し、身を起こして様子を窺うと銀時は上半身ごと捻って、
半分顔を背けるような体勢で荒い息を整えていた。
気だるげに桂を見やってくる目許はほんのりと紅い。
「飲むなっつってんだろうがよ・・・・毎度毎度」
荒い吐息に掠れた声でブツブツ文句を言われるけれど、爪の先ほども怖くも何ともない。
そもそも第一、飲みたいからそうしているのだから仕方がない。
カエルの面に水、
ヅラの面(?) に銀(時の) 白蜜(・・・・・) といったところか。
「そーゆートコロが毎回毎回変態くせェって言ってんだよ俺は。 ・・・・って、テメ・・・っ!」
銀時がぶちぶち言い出したところをさらりと無視、
そそくさと無言で放ったばかりの先端をまたもやそろりと口に咥える桂。
さすがに銀時は目を見開いて身体を退きかける。
息が収まるどころか、つい今さっきの余韻もちっとも消えていない。
なのに達したばかりのそんな箇所を再び弄られては、身体が持たない。
「な・・・んでッ、んなせっかちなんだよッ・・・・!」
くちゅ、と食まれて舐め回されるぬめった感触に、再び下肢が戦慄く。
またもや早々にもとろりと蕩け出した先端はじくじく蜜を浮かべ始め、それは全て桂の期待通り予定通りで。
「お前相手に悠長になどしていられるわけがないだろうが」
言わずともがな、と桂は溢れ出る体液を舌先で掬い取り、殊更いとおしそうに味わってみせる。
「ッ・・・・、ッう・・・っ・・」
丹念にその味を吟味した後、繰り返し口腔内にすっぽりと収め、適度な摩擦を施していくと、
一度達した後とはいえそこは早急に熱と質量とを持って欲を蓄え始めていく。
一方で、矢継ぎ早に快楽刺激を送って来られる銀時としてみたらたまったものじゃない。
まだ呼吸も整いきっていないというのに、続けざまに軽く口で扱かれて、ずくりと重い快感が腰を貫いて背筋まで伝っていく。
「っ! ・・・・ァ、あ!」
はからずとも上がる声。 当然ながら自分の耳にも否応なしに届いてしまう。
こんな声など、普通なら普段なら通常なら到底そうそう出しやしない。
なのにコイツ相手にこんな変態ヅラ相手には、その都度その都度毎回毎回晒してしまう事実は確かに現実であって、
だからこそよって生まれる僅かな苛立ちと、今更ながらの羞恥。
であるからしてコイツを、ヅラをやたら甘やかさせてやるのは銀時の立場から言えば全く持って得策ではなくて、
なのにどうして結局こうなってしまうかとなると、
導き出される結果は大して面白くも意外でも何でもないが、
所詮は長い腐れ縁の果て、というか、
ヅラのしつっこさに負けたがゆえ、というか、
しつっこさ=一途さ、とも言えないこともない。 というか、
決してその端整な顔立ち自体はキライじゃない(ロン毛はうざいが) というか、
オイちょっと待てちょっと待てちょっと待てェェェこれじゃ俺ってばこのバカに押され押されて流されまくってるだけじゃないのもしかしてェェェ!!!? というか。
愛撫を受けつつもそんなふうにぐるぐる考えて(?) いたら。
「、・・・・ッ!!」
突然、ヅラは銀時自身に舌を這わせたまま、後部の双珠にまで指を滑らせてきた。
意識の外だったところを人差し指と中指を使ってくりくりと触られ、
「つ・・・・は・・・っ・・・」
本当は聞かせてなんか絶対やりたくもない、鼻から抜ける甘い声が漏れてしまう。
意地でも堕ちてやりたくなくて、自分の下肢から顔をずらそうとしない桂の頭に手をやり、
今度はゴツッと突いてみる。 けれどこんな体勢でしかもこんな状態では何の抵抗にもなるわけがなく。
「なんだ? ・・・・それにしても銀時、先程何か余計なコトを考えていただろう」
「あ? ・・・・ッんあ・・・っ!」
こういう時だけキモチワルイほど聡いキモヅラに、意地悪く先端を抉るように舐められ、喉が仰け反った。
抉られた瞬間、とくっと新たな蜜液が溢れて零れ出たのが自分でもわかる。
それを桂は嬉しそうにちゅ、ちゅと音を立てて啜り、
銀時の様子と合わせ、そろそろ頃合か、と濡れた指をするりと奥へ潜り込ませた。
「・・・・く・・・」
「締まる、な・・・・」
さすが銀時だ、と訳のわからない感嘆を用いながらも、桂の指先は銀時の内側を埋めていく。
異物感と侵入感に銀時も眉を寄せはするものの、
今まで多々情事を繰り返してきた身体にはそう大した負担ではなくて。
締め付けは強いながらも、探ってくる指に対する抵抗はほとんどない。
「・・・ふ、・・・っ・・」
奥を緩ませながら、忘れじと前への愛撫も継続させる。
ちろりと舌で裏筋を辿ると、ぶるっと震えて熱い体液が滴ってきた。
溢れたばかりの銀時の体液を余さず口で受け止め、まだ足りないとばかり内側の指を大きめに蠢かせると、過敏な身体は腰をビクンと跳ねさせた。
同時、動かした指先が前立腺を掠める。
「ッ・・・・ッ!」
「ん、此処・・・か?」
看破されたその部位は内側で止まった指の腹で自然と押し上げられる破目に陥り、
「ン、く・・・・っ・・は・・・ッ・・・」
桂は弱いそこに何度も連続して愛撫を送ってくる。
強弱をつけて擦られ、かと思えば爪の先で突き上げられて、
身体の内側からの快楽刺激に、先程から腰に重く溜まっているゾクリとした快感の塊に翻弄されてしまう。
「ぅ、ア・・・・!・・・」
丁寧だが容赦というものをどこかに置いてきたかの如くの桂の施す長い愛撫に、腰が砕けそうになる。
なのにヅラは銀時の様子などそ知らぬフリで、懸命で過剰な奉仕を止めようとはしない。
そこから齎される性感の疼きにつられて銀時の内壁も蠢き、
いつの間にか埋められる指の本数が増やされても痛みさえ感じることはなかった。
代わりに訪れるのは、二度目の絶頂。
「っ、―――く・・・!」
嫌でもガクガク揺れて止まらない腰と、気を抜けば甘ったるい声を洩らしてしまいそうになる唇を噛み締めつつ、
強い強い快感に流されそのまま下肢を弾けさせようとしたその時。
焦ったかのように突然指がまとめて引き抜かれ、即座にぱんぱんに張り詰めていた銀時自身をきつく戒められた。
「な・・・・ッ!!」
驚いて目を見開く銀時。
寸前で射精を寸断され、苦しいのはもとより、はちきれそうなほどに膨れ上がり欲を吐き出したい自身が、やり場もなく疼いて甘く痛い。
「何・・・・し、やがるッ・・・!」
「・・・・すまん、もう我慢出来ん」
「バっ・・・バカ、やめ・・・・ッ―――ッ!!」
必死の制止にも関わらず、些か無理な体勢のまま勢いよく侵入してくる桂。
最奥に割って押し入り穿たれてくる熱欲に、中心部を戒められてさえいなければ思わず達してしまっていただろう衝撃。
しかし絡み付いている指の力は決して緩まず、ただ身の内に余計な快感刺激を無理矢理蓄積されるだけに終わってしまう。
「っは・・・ッ・・・こ・・・のバ・・・馬鹿野郎・・・ッッ!!」
腕に少しでも力が入っていたなら、間違いなくぶん殴っていた。
だが、内壁を擦って脈打ち、ドクンと跳ねて明らかに質量を増した内側の桂に、息を飲んでしまい結局罵声だけをぶつけるくらいしか出来なく。
「銀時」
名を呼ばれたかと思ったら唐突に口を塞がれた。 余裕の無い、性急なキス。
我慢出来ないと言ったのはあながち嘘ではないらしい。
「ン・・・・っ・・」
息継ぎの間さえ不器用な程度にしか与えられず、互いにますます荒くなる呼吸の中、
桂は銀時自身をきっちりと戒めたまま、少しずつ動き出す。
「・・・ッ、・・・う、あ・・・・!」
擦られ、奥を突かれるたび銀時からは堪えきれない声が上がった。
そうして徐々に桂の動きは、銀時の悦いところを選んで探す動きに変わっていく。
「・・・い・・・いから・・・っ、フツー・・・に、動・・・けッ・・・ッ」
このクソヅラァァァ、と叫んでやろうとして、銀時が片肘をついて上体を起こしかけた瞬間。
絶妙のタイミングで探し当てられたポイントを、確信犯的にグイッと強く押し上げられた。
「いッッ・・・・!!」
引き攣る喉。
鋭すぎる快感は一種の痛みにも似過ぎている。
一方で桂はほとんど確信犯、嬉しげに目を細めつつ笑って。
「普通? こうか?」
「うァ、あッ・・・・ッ!!」
自らを埋め込んだまま、悦点を突き続けた状態で腰を使い、時折ぬるっと先端を押し付けては抉る。
偏執的だとも受け取れる桂の入念な穿ち方に、おのずとずり上がっていく腰をしっかり抑えて離さず、
一度根元まで抜いてもう一押しとばかり強く強く貫いた。
ずっと戒め続けられている、手の内の肉棒はもう限界も限界で、大きく小さく戦慄き脈打っては甘い苦しみを訴える。
「は・・・・っ・・、凄い、な・・・」
思わず漏れる感嘆の吐息。
桂もすぐに余裕がなくなった。 銀時の内側は容赦なく桂自身を締め付け、
その熱と強さが連れて来る快楽に、目の端が霞む。
「・・・・ッッ!!」
勢いに任せて激しく打ち付けると、たまらず銀時の身が跳ねた。
乱れるあまりの艶姿に、知らずのうちゴクリと喉が鳴り、
戒める力は変えず、そのまま器用にも指を使って裏筋をくすぐった。
「――――ッ!? や、めやが・・・・、うあぁッッ!」
「く・・・!」
途端にこの上なく銀時の秘肉が締まって収縮し、桂の絶頂を誘う。
「あぅ・・・・ッ・・」
孔をヒクつかせ、いじましく濡れてぬめる先端を念入りに擦られ、
漏れるような細い快感が自身を通り、堰き止められているにも関わらず、白蜜が僅かに噴き出た。
このバカヅラが遮ってさえいなければ、もうとうに吐き出している。
なのに快楽の真っ只中で無理矢理押さえ付けられ、こんな過ぎる快楽は責苦に近い。
「あ、ア・・・・っ!」
ずっと前立腺をいじられ続け、まるで神経を直接触られているかのような錯覚さえ起こしはじめてしまい、
がくがくと揺れて止まらない腰はもう自分のものではないかのようで。
「離、せ・・・・っ・・・!」
「・・・・ん、もう、少し」
「っう、・・・・ッ・・・・ァ・・・・!」
奥の奥、最もやわらかな箇所を小刻みに連続して突かれ擦られ、
本当に限界がやってくる。
迫る絶頂に、桂の指が絡められた銀時自身は甘く痙攣し、
真っ赤に色付き膨れ上がって今にも、とその刹那。
寸でのところ、絶妙の時機を見計らって桂はその指の力を緩め、
根元から強く強引に先端までを扱き抜いた。
「っひ、・・・・ッ・・・!!」
堪えられるわけもなく、銀時が白濁を噴き上げる。
と同時、桂を締め付けていた内壁も凶暴にうねって蠢き、
「く・・・ッ・・・・!」
吐精の真っ只中、桂の絶頂をも齎した。
「・・・・っ・・」
自らも熱を吐き出している中、深いところに弾けたものが勢いよくかかる熱量と刺激に、
たまらず全身が二度、三度と小さく震え、軽い絶頂が何度も押し寄せて。
やってくるのは気だるい睡魔。
「・・・・ん、銀時・・・」
内側の桂がようやく落ち着きを見せ名残惜しくもずるりと自らを抜いた頃。
当の銀時は息も絶え絶え、
しかし。
まったくおさまらない吐息のもと、じろりと桂を睨み付け。
「・・・・の、バカ、が・・・・」
それだけ告げて、あとは重力が任せるままに目蓋を閉じた。
そして、寝た。
















「俺はな、イヌになりたい」
「―――― は?」
情事の後、互いに布団から起き上がりもせず交わす会話に、いつも何も中身はない。
「イヌなら、感情表現が容易くて済むだろう」
ただ尻尾を振れば良い、と桂は呟く。
「・・・・・・・・」
「お前も知っての通り、俺は感情を表情に出すのが少しばかり不得手でな。 大抵にしてあまり動かないこの端整な顔立ちが我ながら少し憎い」
何サラッと地味に自賛してんだテメーはアホか、と銀時は銀時で思いつつ。
「バカ言ってんじゃねー。 コトバがねェ分、犬の方がよっぽど大変だっつんだ」
言いながら、定春をぼんやり思い浮かべる。
「第一、犬にしたって人間にしたって、ただ一概にシッポだけ振ってりゃそれでイイってモンでもねーだろ」
まァそうは言ってもだからって何でも否定して何にでも反抗してさえいりゃ良しってモンでもねーけどよ、と一応刺すところはキチンと釘を刺して。
「そもそもテメーが無表情? ドコが? どのへん? どのへんが???」
分かり易すぎるほど判り易い。 腹が立つほどに。
「むしろカオに出過ぎてキモチ悪いレベルだコラ」
キモいキモい気色悪いと連呼する。
何故ってそう言うしかない。 ナニユエってだって本当のコトだ。
なのに。 けなしまくっているのに。
眼前のロン毛は一瞬、少し考える間を置いて笑った。
「いやなに、なんだ、そんなに誉めてくれるな銀時」
「・・・・・・・・誰も誉めてねェェェ!! 今のコトバのどこが誉め言葉だオイ!」
ついに難聴症状が出始めたか。 とうとうそこまでおかしくなりやがったのか。
否、このバカがおかしいのはもうそれこそ遠い昔、
ウン年十ウン年単位で昔からのことで、


何を今更。


そうして銀時はむくりと起き上がり、


「あ――――。 もうイイ。 もうイイわ銀さん。 もうどうでもイイ」


いちいち考えるのも、
四の五の問答するのも、
ナンダカンダ無駄な気力体力を消耗するのも面倒くさい。


ヅラ相手に。


結局元の鞘に落ち着くだけなのだ。
どうこうしたって、桂相手なのだからつまり結局。
大きく欠伸をする。 運動したから少しばかりカラダが渇いた。 カラダが糖分を欲している。


「そーいやこの前来た時、覗いた戸棚の奥に確か桃缶があったよなァ」
「あああった。 今でもあるがそれがどうした」
「あるだけ持って来い」
桃缶の誘惑。 缶のまま缶を抱えて食べる糖分摂取の誘惑は何物にも代え難い。
「銀時。 バナナと桃缶は病気の時にしか食えぬ特別なものだと知っているのか」
一体何十年前の話だそれは。
とはあえて突っ込まず、
「安心しやがれテメーは年中アタマがビョーキだ」
一息に告げてやったら、また桂は 「ああそうか」 と嬉しげに笑いやがった。
笑って、


「桃缶と俺とどちらがスキかとお前に聞くのは果たして愚問だろうか」


正に愚の見本でしかないどうしようもない問いかけを投げ掛けたまま、
「待っていてくれ今すぐに持ってくる」
と一枚羽織っただけの格好で障子の向こうに姿を消した。




そして銀時は今になって、
以前、今度会ったら有無を言わさず殴り飛ばしてやろうと心に決めていたことを思い出した。












桃缶を持ってきたと同時に突然殴り飛ばしてやったら、
もしかしてそれはドメスティック・バイオレンスになるのだろうか。













あれ? 結局ワンパタ・・・・
それは自分が一番よくわかっておりまする・・・・