[ タイトル考えること放棄しました ]








突然、バーナビーに面と向かって訊かれた。




「虎徹さん、」
「ン?」




「少し前から気になっていたことなんですが、」
「?」




「虎徹さん、ときどき僕をうさぎ扱いしますよね」
「まあ、な?」




「どうしてですか? いくら名前からこじつけたと言っても、それだけとは思えないので」
「そう、言われてみるとなあ・・・・」




−−−−−−何故、だろう。




正面きって問われてしまうと、自分でもよくわからない。
確かに最初は名前から付けた。 勝手に付けた揶揄混じりの呼称だった。
今もいつもほとんど横に居る、バーナビーは確かにヒトであって、学術上の分類ではうさぎ目・うさぎ科ではないことくらい虎徹だってわかっている。
けれど時折、何故だか折に触れて、本当にうさぎと重なって見えるときがあるのも本当で。
耳が長い訳じゃない。 いつもニンジンばかり齧っているわけでもない。
なのに、




−−−−−−時折そう見えてしまうのは、何故なのだろう。




「・・・・・・なんでだろうな?」




少しばかり考えてみたけれど、よくわからない。
だから、素直に 「わからねえなあ・・・・」 と正直に答えると。
当の本人は、その目を細めて小さく笑った。




「そんなことだろうと思ってました。 たぶん、はじめに言葉ありき、のパターンですよ虎徹さんの場合」
「?」
「自分から呼び出した 『バニー』 の呼称、そのイメージがそのまま纏わり付いてしまった、所謂インプリンティングみたいなものだと」




「あなたは時々、直感だけで行動しますから」
「はは・・・・。 でも、わりと当たっちゃいるんだぜ」




ほとんど思い付き、言葉遊びのようなインスピレーションからつけた 『バニー』 の呼称、
それは本当にそのまんま、名は体をあらわす、を地でいくようにぴったり合致していたし、
『バニーちゃん』 にいたっては正真正銘、Not・うさぎ、Yes・うさちゃん で。
どうだ俺の感性もなかなか捨てたもんじゃないだろ、と虎徹は無駄に胸を張る。
と。




「それなら、どうしてうさぎの眼が赤いのかは知ってますか?」
「は?」




「月にいるうさぎも、絵本に出てくるうさぎも、大抵は白くて眼の赤いうさぎですよね」
「そう言われてみると・・・・そうだよなあ」
違うのはピーターラビットくらいか、と三十路は首を捻る。
どうしてだかわかりますか、と重ねて訊ねられたけれど、今回ばかりはインスピレーションも働かず、
納得のいく答えも閃かず。




DNA、とか。
アルビノ、とか。
優性・劣勢遺伝の法則とか。




まあ普通に考えて、そんなごくごく順当、生物学的には正しいけれどツマラナイ答えなら、
いくらだって思い付きはする。
だけれどバーナビーが求めている返答はそんなものじゃないことは明白で。




「わかりませんか?」
「わからん」




おとなしく白旗を掲げる。
すると当のうさちゃん曰く、




−−−−−−うさぎの瞳が赤いのは、




「昔住んでいた月に帰りたくて、でももう戻ることは出来なくて、たくさん泣いたからです」




空を見上げればいつだって浮かんでいる、月は一番近い恒星。
けれどもう帰れないうさぎにとって、その距離は絶望的なまでに遠すぎて。




「でも、逆に黒い眼のうさぎも同じくらいたくさんいますよね、さっき虎徹さんが呟いたピーターラビット然り」
「言われてみりゃ、アレだ、アレ、えーと、ミッフィーちゃんもそうだしなあ?」
「それも、どうしてだかわかりますか? 黒い理由ではなくて、赤くない理由です」
「さあ・・・・」




またしてもわからないから、首を横に振った。
すると彼は少しだけ遠い目をして、いつかを思い出すかのように。




「黒い眼のうさぎは、もう昔のことなんて忘れて、泣いたりせずに暮らしているんです」
「・・・・・・・・・・・・」
「だから黒い瞳のままなんです」
「バニー?」




「今の自分の居場所はここだから、昔住んでいた月ではないから、空を見上げずにいても平気なんです」
「・・・・・・・・・・」




「過去を忘れることが、本当に幸せなのかどうかは僕にはわかりませんが」
「バニー、」




「泣きたくないうさぎにとって、それが生きていくための必死の方法だったんじゃないかと」
「あのよ、バニー」




「そう考えると、逞しいような気もしますがやっぱりちょっと淋しいですよね」
「・・・・・・・・・・・・」




「それでも、逞しいうさぎは死にませんが、どうせ生きていくなら淋しくない方がいいと思います」




「な、バニー」




先程から何度も呼びかける虎徹のそれを、彼はあえて振り切って、




「・・・・・が、 幸いなことに、僕の目はまだ赤くも黒くもないので」




綺麗な大きい翠色の瞳で、




「他の色に染まらないように、ずっと目の前の緑色だけ見ていられるようにしていてください」




とは言え、僕の瞳の色と、虎徹さんのイメージカラーが同じなのはまあ100%偶然でしょうけど、
と最後に注釈までしっかり加えたあと、




「でも偶然も必然ですよね」




そう言って、笑う。




その笑みにふにゃりと目尻をさげつつ頬を緩めつつ、
だったら虎はどうなんだろな、と何の気になしに虎徹が呟いたところ、




「虎は保護野生動物なので、全体的に保護が必要みたいですよ」
「マジでか・・・・」




なんだかこっちは急に現実味を帯びた答えが返ってきた。 と思ったら。












「ですから常時、僕が保護・管理しないと駄目だということで」




「そんじゃ、宜しく頼むぜ♪」












嬉しい補足に、笑いながら二人でベッドに沈んだ。
















夏バテ真っ只中に書いたのでこんな激甘で不作ブツになってしまいました。 というのは言い訳だらうか
もし あたいが こんな野郎共を見かけたら間違いなく張っ倒してると思います