[ Lovely Bunnnnny!2 ]







「起きて下さい! 虎徹さん! 今すぐ!!」




そんな絶叫(?) が枕元、いや耳元で喚き渡り、
虎徹が目を覚ましたのは、とある穏やかな小春日和の朝のこと。
今日は完全オフの日で、
だから昨夜は随分と遅くまで一人酒でダラダラグダグダ気ままに過ごしていたりして、
自然、ベッドに潜り込むのが相当遅かった。
それから布団の中でパラパラ雑誌などを眺めていたりしたものだから、
眠りについたのも、たぶん朝方、夜空も白み始めていた時間帯だったのではないかというあたりで。
だから。


「・・・・うあ・・・・? バニー・・・・?」


眠い。 ネムイ。 目が開かない。 ねむい。 大層眠い。
とにかくやたら目蓋が重く、眠かったけれど。
「虎徹さん! 起きて下さい! 早く!!」
必死、とも取れるバーナビーの呼びかけ、
否、叫びを無視してまで延々と毛布の中に居ることなど出来るはずもなく、
現状、現況が何一つ掴めていないまま、ふらつく頭を押さえつつ、のろのろとベッドから半身を起こす。
そのついでに枕元の時計で時間を確認してみれば、まだ朝の7時にもなっていない。
「・・・・どした・・・・?」
そう問いかける声も寝起きプラス昨夜(正確には数時間前) のアルコールも残っていて、非常にかすれ気味。
そんな虎徹の目の前には、バーナビーの、この上なく切羽詰まった顔があり。
とりあえず、寝ぼけていられるシチュエーションではないらしい。
ぶんぶんと二、三度強く頭を振って眠気を追い出すと、
改めて虎徹はバーナビーの方に身体ごと向き直る。
よっこいせと向き直って、
「・・・・どした?」
再び問いかけた。
直後、ふと虎徹は我にかえる。
今の今まで気が付かなかったけれど、気が付いてみれば、一体どうしてバニーがココに、
という単純な疑問。
昨日は普通に、『じゃーまた明後日なー』 と珍しくも(!) 互いの自宅にそれぞれ戻る方向で帰路についたはずであって、間違いなくココに連れ込んだ記憶はない。
かと言って玄関を無理矢理ぶち破って侵入してきたとか、
もしくは窓からこっそり入り込んできたとか、バーナビーに限ってまさかそんな。
しかし時刻といい状況といい、頭の中が疑問符で埋め尽くされそうになる。
そんなふうにぐるぐる考えていても仕方がなく埒があく訳でもなく、とりあえずストレートに。
「バニー、お前さんどうやって部屋ん中、入ってきた?」
聞いてみれば、当のバーナビーは焦りも隠さない表情のまま、
「合鍵貰いましたよね」 とごくごくさも当然の如く、あっさりと。
「あ・・・・合鍵ィ・・・・???」
そんなモノいつ渡した、
いやいつか渡そう渡そうとは思っちゃいたけど確かまだ渡せてなかったハズだよな、
一応とっくのとっくに作るには作ってあって、タイミング的に次のバニーの誕生日にプレゼントと一緒に渡そうと考えてたハズだよな俺、とつられて混乱しかけた虎徹であったのだが、
「・・・・虎徹さん・・・・」
輪をかけて頼りなく自分を呼ぶ声と、おどおど落ち着かない翠色の目が虎徹をじっと見つめてくる。
元々整いまくっている(・・・・) バーナビーのそんな表情にも、そこそこ慣れつつあった虎徹、であるはずだったのだけれども。
何故か、何故か今更ながら 「う、」 と息を詰める程度に心臓が跳ね上がり、無意識にごくりと喉が鳴る。
と。
「責任取って下さい! 間違いなく虎徹さんが原因ですから!!」
唐突も唐突、突然も突然、ほとんど半泣きでそう叫ばれてしまった。
「僕は、僕はこれからどうすれば・・・・!」
「な、何がだよ」
「僕はどうしたら・・・・!!」
何も飲み込めていない虎徹を前に、早々とわあわあバーナビーは喚き出してしまい、
「バ、バニー?」
虎徹はうろたえざるを得ない。
うろたえ狼狽しつつも三十路、バーナビーが喚くその姿に、ふと気付いてしまった。
見慣れた普段よりいつもより、少しばかり細く見えるのは気のせいか。
その肩口が、日頃より平素より小さく、いや、どことなく柔らかみを帯びた曲線じみているような。
「・・・・・・!?」
睫毛が長い。 ・・・・これはいつものことである。 が。
唇が、ほんのり赤く軟らかそうだ。 ・・・・何もしていないのに。
声、も、僅かだがなんとなく、なんとなく高い、 ・・・・ような。


「・・・・・・!!??」


ま、さか。
まさかまさか真逆。


あわわわ、と声にならない声をあげながら、
恐る恐る、視線をバーナビーの顔から下方に移動させ、胸元にとめてみれば、
ジャケットが邪魔をしてはっきりとはわからないのだが、
まず間違いなく、
まあ間違いなく、
Aカップ以上Bカップ未満(※ブルーローズより格段に小さい)、であろうと推定される、胸の丸み。
「バ・・・・!!」
絶句。
馬鹿のようにぽかんと開いたままの口を片手で覆ったまま、
次の言葉が出てこない虎徹はただひたすら、絶句。


「朝、起きたら突然こうなっていたんです・・・・!」
理由も原因もさっぱりです! と、いつかを彷彿とさせるかの如く(・・・・) 泣き喚くバーナビーをとりあえず、とりあえず落ち着かせて宥めるため、
「あああ泣くな泣くな泣くなバニー、とりあえず最初っから話してみろって、大丈夫だから!」
何が大丈夫なのか何処が大丈夫だというのか、当の虎徹本人にも定かではなかったが、
ほとんど年長者としての条件反射でそんなふうに言ってやりながら、
「な? バニー」
条件反射其の二(?)、ぐいっと引き寄せてみると、やはり。
その身体は、ふわんと柔らかかった。




















「・・・・・・で、普通に今朝、起きたらもう身体が女性になっていて・・・・。 本当に、本当に虎徹さん、何も知りませんか何かしませんでしたか?」
「知らねぇよ・・・・。 でもって何にもしてねーよ」
なんとか普通に話せるまでにバーナビーが立ち直ったのは割合とすぐのことで、
二人とも、ロフト上から下のソファーに場所は移動済み。
「本当ですか」
ウソもホントもないだろーが、と虎徹は溜め息を吐きつつ、そして内心途方にくれる。
先日、いや一昨昨日までは相違なく、男だった。
互いに抱き合って(・・・・)、つまりはソウイウコトをしていた訳である。
そんなわけだから絶対に相違ない。
「変なクスリとか、僕に飲ませませんでしたか?」
「んなことしねーよ」
「こう、僕の知らないうちに怪しいドラッグとか・・・・」
「俺・・・・一応正義の味方なんだけど・・・・」
一体どこまで信用ねぇんだ俺、と虎徹が嘆息するに被せ、
「じゃあ・・・・僕はどうして・・・・」
傍目にも分かり過ぎるほど、バーナビーはがっくりと肩を落とした。
「こうなってしまったらやっぱり、ヒーローは続けられませんよね・・・・」
「バレなきゃ平気じゃねーか?」
顔立ち自体は全然変わってねーからさ、
と、あえて明るく言ってみる。 しかし。
「そういう問題じゃないです・・・・」
バーナビーの落ち込みっぷりは激しくて、
ずーーーーん、と地の底まで転げ落ちて行きそうな顔つきで、頭を抱え込んだ。
直後。


「・・・・・ッ・・・」


息を飲む、声にならない短い声。


「ど、どーした?」


今度は何だ、どうしたバニー、と慌てて腰を浮かせかけた虎徹に。
一旦落ち着いて(落ち込んで?)いたにも関わらず、バーナビーは今度は慌てる、というより、
まごつきながら。


「すみません、ちょっと・・・・!」


突然立ち上がったかと思ったが矢先、彼が 「借ります!」 と向かった先はW・C。
その後ろ姿をぼんやり追い見つめ、
「心労で、腹でも下ったか・・・・?」
妙に呑気にそんなふうに思った虎徹だったのだが。




少し経ってから、よろよろと戻ってきた顔面蒼白のバーナビーから発せられたのは、とんでもない台詞。








「・・・・・・・・・・・・・生理まで・・・・来たみたいです・・・・・・・・・・・」








「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何ぃぃぃぃぃ!!??」








唖然。
なんでいきなりそんな急に。 いや仕方のないことなのかもしれないけれど。 だがしかし何故に。 今。
とにかく、唖然。




「生理用品・・・・なんて常備、していないですよね・・・・」
「あるぜ? ・・・・なんて俺がポーンと返事したりしたら大問題だろ!!」


楓だってまだ早い、しかも単身赴任の身の上、買い置き常備なんてしていたらそれこそアレだ、
変態だ。
「・・・・・・・・・虎徹さん・・・・」
「んー・・・・・」
虎徹はそこで少しだけ考える。
少しだけ考え込んで、そうしてそれから腹を決める。 決めた。
「ドラッグストア、はこんな時間じゃまだ開いてないよなあ。 となると、コンビニか」
言外に、『堂々と買ってきてやるよ』 宣言。 
ま、いずれ楓のときもこんな日はやって来るしなあ、と前向きに前向きに。
というわけで。
「で、バニー」
「?」
「敷くタイプと突っ込むタイプ、どっちがイイ?」
そう、訊いた直後。
「〜〜〜〜普通の方!! 敷く方でいいです!!」
物凄い剣幕で、『パワフル吸収体・カンタンスムース・イン』 タイプの拒絶。
それからたぶん、ぽろりと勢いで。


「虎徹さん以外のモノは、絶対に自分の中に入れたくないですから!!」


「な・・・・・・・・・」


・・・・・・呆然。
「虎徹さんは構わないんですか!? 僕の中に異物が入っていても!?」
唖然の次は、とかく呆然。 どんな発言だ。 一体このバニーちゃんは何を口走ってるんだ。
大丈夫かやっぱ錯乱の極みだろも少し落ち着け、と冷や汗混じりに虎徹は思ってみたりもするけれど、
混乱しまくりのバニーに、これ以上どうこう言うわけにもいかなかったから。
「じゃ、大急ぎで行って買って来るから」
10分で戻る、と言い聞かせ、素早く着替えて扉に手をかけたその背中に。


「その日用の下着もお願いします・・・・」


そんな言葉が、力なく届いて。


「−−−−−−−、ハイハイ。 ・・・・」


色とか形は俺セレクトでイイよな? などとまた訊きかけて言いかけてしまったが、
何だかまた怒られそうなので、やめた。
やめて、
一つ小さく息をついて、虎徹はその表情を改める。
「バニー」
そして名前を呼んで、呼ばれて怪訝そうな眼差しをしたバーナビーに向かって。
もし明日も明後日も明明後日もその次も次も次もずっとこのまま、戻らなかったとしても。
「丸ごと貰ってやるから、心配すんなよな」
言って身を翻し、がばっと抱きしめた。
抱きしめてその勢いにつられて流れてキスをした。 のだが。
「・・・・虎徹さん? 少し顔が赤いですけど」
風邪でも引きましたか、とバーナビーに問われてしまい、
いや元気元気、大抵俺はいつでも元気だぜと笑ってなんとか誤魔化した。


キスをしたとき、ノーブラの胸が思いっきり当たってたし。 などとは流石に言えない。


でもってオンナの体のそんな柔らかい感触自体、一体何年ぶりだコレ、
だなんて本気で指折りカウントしかけたなんて、ますます絶対、言えやしない。







































「買ってきたぜ使い方わかるか!?  ・・・・・・・・って、・・・・・・アレ???」


叫んで、自分の声で目が覚めたら、またもや朝だった。
枕元では、時計が無機質な液晶パネルを見せている。
ぼんやり見やれば、そこに表示されているのは、『AM6:00』 の英数字。


−−−−−夢、か。
そうか、全部夢・・・・・だったのか。
あたりを見回しても、バーナビーの気配は無い。 姿も無い。 いる訳がない。


「だよなあ・・・・」


ひとり呟き、起き上がって虎徹はのろのろと出勤支度を始める。
階段を下りながら、寝起きの、ぼうっとした頭でつい先ほどまで見ていた夢を反芻してみたり。
確か、確か突然バニーが女になっていて、
それでパニックに陥られた挙句、生理用品まで買いに行かされた夢だった。
パンツ(・・・・) は確かピンクを選んだんだよな俺、
などとそんな細かいところまできちんと覚えているあたり、自分で自分に感心する。
続いて、それはそれでなかなかハッピーな夢だったんじゃねぇのかコレ、
とほんの少しだけ残念っぷりも覚えて、直後にやはり訂正。
もうここまで来たら、バニーだったら野郎だろうがオンナ化しようが、いっそもうこの際どちらでも。
そんなことで今更足踏みするくらいなら、最初っから手なんて出しやしない。
溺愛モードに入ったりなんかしやしない。


こんなふうにとことん辿り着いてしまうと、
歳を重ねた分だけ三十路のオトナはなかなか強いのだ。






























そしてその当日、
朝一番、トレーニングルームでバーナビーと顔を合わせた途端、
全部全部本当に夢だったのか、一割くらいどこか現実でも反映されているんじゃないか(・・・・)、
などと僅かに(?) 乱心した虎徹がつい、
人目は憚らずにバーナビーをがばあっ、と後ろから抱きしめてしまったこととか、
それだけならまだしも、確認のために胸元までさわさわまさぐってしまったこととか、
そんな虎徹の血迷いっぷりに驚愕すると同時、「こんなところで何を!!?」 と憤激したバーナビーにきついきついお叱りをいただくことになってしまったこととか、
そんなあたりは些細なことである。 たぶん。




しかし前述の通り、『人目を憚らなかった』 その行いゆえに、
その日から仲間内では、


「ついに全体的にカミングアウトする気になったのね☆」 byネイサン
だの、
「三十路のヤモメ生活も突き詰めるとああなっちまうのか」 byアントニオ
だの、
「ーーーーーーーー!!!!」 by(卒倒しかけた)カ リーナ
だの、




しばらくそんな目 (いや決して間違っちゃいないのだが) で見られまくってしまい、
そんな噂 (いやいや決して決して噂などではないのだが) はしっかりアニエスの耳にまで届き、
揃って危うく減給されかけてしまった (ギリギリのところでそれは免れた) ことについては、
一方的に全面的に虎徹のせい、虎徹が悪いと言えよう。




ちなみにそれからしばらくプスプス怒っていたバーナビーの機嫌は、
夢のお告げの通り(???) 虎徹が自宅の合鍵を渡した時点でころりと直ったとかなんだとか。








何はともあれ、御粗末ながらも(・・・・) めでたしめでたし。









匿名希望します様からのリク、「寝言」 でございました。
寝言→夢→夢オチ という誰もが考え付くベタな話で申し訳なく・・・・。

次は精進させていただきとうございますグスン