[ 1275 dollar ]







とても似てる二人だから、
なんやかんやで引っ付いた後でも。
思いのほか割と頻繁に、喧嘩する。








「もう・・・・僕はもう知りません! しばらく距離を置かせてもらいます!!」
「バ、バニー・・・・!」








そんなバーナビーの怒声と、
後追いの情けない虎徹の声が、ブロンズステージの一角に響いて消えたのはつい先ほど、
高速の勢いでジャケットに腕を通した愛しい愛しいバーナビーが怒涛の勢い、
能力まで使って例の如くエスケープ(?)、あっと言う間に消え去ったあと、
ひとり自宅の一階フロア部分にて唖然と佇んでいるのは言うまでもなく、取り残された三十路である。
TPOも何も構わず憚らず、いとしのバニーにそんなふうに飛び出されてしまった原因を、
呆然とした頭で思い返せば。




そもそものコトの始まりは、本当に本当に他愛無いやり取り、
それに到るに当たっても大した原因も理由も無く、ただ普段とまったく変わらない通常日常、
いわゆる 「おうちデート」 から始まったのだから世話もない。




きっかけは、確か虎徹がいつものハンチングをぽーん、とソファー上に放り投げたことが起因だったように思う。
つい半時間前にいつものよう、バーナビーを連れて帰ってドアを開け、
途中で買い込んできた 『今夜も虎徹特製チャーハン』 用の材料だのドリンクだのアルコールだの、
いっぱいに入ったデリカの袋をどさりとテーブル上に置き、
それから無造作に帽子を取って、何の気なしにぽーん、と放ったら。
「どこかに、置いたり掛けておく場所でも決めておいたらどうですか」
とバーナビーに言われてしまった。
この時点ではバーナビーも当然にして他意はなく、
だから虎徹がした返答も、
「んー、まあ、これ一個だからなあ」
他にもいくつかあるなら考えるけどよ、と軽いもので。
それだけで済めば何事も起こらずに終わりだったのに、
あー今日も一日よく働いた、などと言いながらベストを脱いで、
その脱いだそれをまたもやぽーん、と帽子と同じ方向に放り投げた虎徹だったのだが。
空気抵抗の差ゆえかそれとも手元が狂ったのか、うまく放れずベストはバサリと床の上に落ちてしまい、
「あ、」
失敗、と動きを止める虎徹に対し、バーナビーは軽く息を吐きながら。
「そんなふうに何でもどこにでも放って置いておくから、虎徹さんの部屋はいつも雑然としてしまうんですよ」
落ちたそれを床から拾い上げつつ、まるで 「お母さん」 のように。
ごほん、と小さく咳払いをしたあと。


「前々から思ってはいたんですが・・・・、雑誌は読んだらきちんとマガジンラックに戻した方がいいと思います」
「まあ、な」
「棚の本も、分類別、数が少ないのでもしくはサイズ別に並べた方が良いかと」
「まあ・・・・な」
「テーブルの上の酒瓶も、中身が残っているのにキャップが外れたまま放置されてしまっています。 劣化しますよ」
「まあ・・・・・な・・・・」


そんなことから始まって、
最後に部屋の掃除をしたのはいつ頃でしたか、とか、
毛布も布団もシーツもきちんとクリーニングに出さないと、とか、
挙句の果て、洗濯機の中に三日前から溜め込んだままのタオルやらパンツやら靴下やら、
そんなものまで見つけられてしまって、


「少しは片付けたらどうですか・・・・」
「こ・・・・、これが俺の生活パターンってやつなんだよ」
「生活パターンとだらしがないのとは違います。 整理も何も出来ていないだけです」
「ち、違った違った、これが俺の整理整頓の仕方なんだよ!」
「【片付けられないヒト】 の典型的な言い訳ですね」
「な・・・・!」
「なにか反論ありますか?」
「こ、この・・・・!」


以下省略ぎゃんぎゃんギャンギャンわあわあわあわあ、
「ゴミが散らかってるわけじゃねーんだからまだイイだろ!」
「ゴミまで散らかしていたらそれこそ救いようがないですよ!」
「ただ雑然としてるってだけで、誰にも迷惑かけちゃいねーだろーが!」
「そういう問題じゃないんです!」
まるで子供の言い合いのような問答の果て、
ついうっかり口を滑らせてしまった虎徹の。


「別にイイだろ俺の部屋なんだから・・・・バニーには関係ねーだろうが!」


考え無しのその一言に、バーナビーがプチ切れた結果が冒頭の 「もう知りません宣言」、
直後に身を翻して跳ね去って行ってしまい、
後には取り残された三十路が一人ぽつん、という図。




けれどまあ、この時点では虎徹もそう深く考えたりはしていなかった。
いつものちよっとした言い合いで、
明日また顔を合わせたときには普通に戻っている。
そう、気軽に思っていたのに。




翌日、出勤後、職場にてばったり遭遇(?) しても、




つーん。




逸早く顔を背けられ、




「バ、バニー・・・・?」




帰り際、声をかけようとしても、




ふいっ。




今度は体ごとそっぽを向かれて、




【返事がない。 バニーちゃんはひたすら怒っているようだ】




虎徹はこんな状況そんな立場。




こうなると、さすがに虎徹の方も意地になってくる。
普段なら自分から折れて(?)、しつこくバーナビーに話しかけ語りかけ、ちょっかいを出しまくるのが常なのだが、
毎回毎回、そうそう折れまくってしまうのも、大人として年上として如何なものか、なんて気になってくる。
だから次の日は、一言も声はかけずにいた。
幸か不幸か、こんなときに限って出動要請は起きずそしてこれから起きる気配もなく、
そのまま三日目に突入、その三日目も何事もなく終了し、一言もしゃべらないまま互いに別々に帰宅する。




・・・・が、
三日間。




まるっと三日もの間、冷戦状態でいるのにもさすがにそろそろ、限界で。




バーナビー曰くの 「雑然とした」 部屋のドアを一人、開ける。
見慣れた部屋。 自分の部屋なのだから当たり前だ。
しかし改めて眺めやると確かに散らかっている。 独りヤモメの住居なのだから当然、とも言うなら言える。
・・・・・・・・けれど。


「・・・・・・・・今からできるだけ、片付けっか」


ひとり呟いて、虎徹はまずシンク上に出しっぱなしだったグラスを流しにまとめて入れて、
それから一通り部屋の中のものを片付けたあと、
バーナビーに言われた通り、シーツと毛布と布団とをベッドから剥ぎ取り抱え上げ、
クリーニングにも、出した。
「・・・・・あ゛」
出してから、店を出てから気付いた。 代わりの布団が無い。
仕上がりは10日間後(!)、と言われていた。
一晩やそこらならソファーで代用できるが、この寒い時期、10日間はいくらなんでもキツイ。
「・・・・・どうすっか・・・・」
少しだけ考えて、
よし、と虎徹は腹を決めた。
「行くか」
言って歩き出した方向は、自宅とは反対側である。




























「・・・・・あ」
「あ・・・・・」




互いの部屋、ブロンズステージとゴールドステージとのちょうど中間点、
シルバーステージのど真ん中、角を曲がったところで二人、見事なまでの鉢合わせ。




「な、なんでこんなトコ歩いてるんだよ」
「虎徹さんこそ・・・・!」




とても似てる二人だから、
限界がくるのも同時だった。




バーナビーとしても、言い過ぎたと後々反省してはいたのだ。
が、持ち前の性格からして、そして虎徹の開き直りっぷりもあって、丸々三日が過ぎ去ったところで、
いてもたってもいられず、かと言ってどう仲直りの方法を取れば良いのかわからず、
一度帰宅したあと、取るものもとりあえず、外に出た。
外に出て、逡巡しつつも虎徹宅へ向かおうとしていたその途中、
その矢先で途端、当の虎徹に出くわした。
「僕は、」
ただ散策していただけです、と誤魔化して、
ひねくれて拗ねることも不貞腐れることも出来たはずだったのだが。
「・・・・・すみませんでした」
自分でも驚き入ってしまうほど、素直に謝った。 謝れた。
一方で、虎徹も虎徹で。
「俺も悪かった・・・・お前の言うコトも最もだったよな」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・だから、な、」
「・・・・・・・・はい」


とても似てる二人だから、
互いの内心を察するのも一緒、ここから先は言わずともがな、口に出さずともがな。
いわゆる 「痴話喧嘩」 モードは、一瞬にして霧消する。


「で、だなバニー」
「?」


早速、次に口を開いた虎徹が何を言うかと思えば。


「お前の言うとおり、布団一式をクリーニングに出してきたんだが」
「?」
「出した後になって気付いた。 戻ってくるのは10日も後だってよ」
「まあ、普通ですよね」
衣類と違って実質それくらいはかかりますから、と言いかけたバーナビーに。
虎徹はきっぱりと。
「そしたら寝られる布団が無くなった」
「・・・・・・・・」
おじさん、はっきりと。
「てコトで、布団が戻るまでの間、バニーのところで寝かせてくれ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「10日間、泊めてくれ。 で、思う存分イチャイチャさせてくれ」
三十路(・・・・)、ズバッと。
言われて咄嗟に、「ッ、」 と口篭ったバーナビーはといえば、
「泊めるのはかまいませんけど、イチャイチャ、って・・・・」
その表現はどうかと、と往来での発言を抑制しようとするのだが。
「いーだろ別に。 あー久々だなバニーんとこ泊まるの。 バニーちゃんの匂いのするベッドもオジサン、随分と久しぶりだよなーーー」
「やめてください気持ち悪い!」
たまらず叫んだバーナビーに、
「失礼なヤツだな、そもそもお前が布団をクリーニングしろって言い出したんだろが」
「それと虎徹さんの問題発言とは別物です! 何か言うときはTPOを少しは弁えて・・・・!」
「なにィ!?」




あああまた、振り出しに戻ってしまいそうな気配。




とてもとても似てる二人だから、
その気配を察知するのも同時、
「あ、」
「、あ」
打ち揃って往来、道端で推し量ってそろって黙り込み、それから。




「・・・・それじゃ、行きますか?」
「おう早速! ・・・・って言いたいトコなんだが、今から一旦戻って、居候セット一式、用意して来てもいいか?」
「ええ、まあ」
「そんじゃひとっ走り、行って来るか。 ・・・・・・・・・・能力使ったらやっぱマズイよな?」
「僕も僕の部屋も逃げませんから・・・・・・」
「そーか? じゃ、普通に全力で戻って用意してそっち向かうから、待っててくれよな」
「はい」
























このあと、、
この上なく浮かれポンチ極まりなしの上機嫌も上機嫌(・・・・)、
ユメのような10日間をたっぷり堪能した虎徹に届いたのは、
ふかふかふわふわまっさらになった元々の寝具一式と、
それに伴い、それ相応の値段の記された請求書。
その額を目にした途端、「ゲッ!」 と絶句して、翌日から虎徹は倹約に努めたとか何だとか。




加えて上機嫌時の勢いで購入してしまったバーナビー宅に置いておく自分用(!) の寝具一式、
更に虎徹宅にスペアとして常備しておくためにこれまたもう一式、
(無論カードでだが) あわせて二つも同時に買ってしまったため、
翌月も虎徹の倹約生活は続くことになり、耐えかねてある日、
「いっそ、バニーと同棲しちまえば、そう幾つも幾つも布団ばっかりいらなくなるんだよなあ・・・・」
そうぼやいたところ。
「虎徹さんが散らかし癖を改めない限り、無理です」
バーナビー、即答。
確かに彼の部屋はどこもかしこも整然と整頓されていた。 キレイだった。
「う、」 と固まった虎徹に、
続けて、
「あの後片付けた、とか言ってましたけどどうせ虎徹さんのことですから部屋も、とっくに散らかり放題になっているかと」
図星。
正鵠を射まくりのうさたんの勘の良さ、推察の正確さに冷や汗をかきながらも、
「んなことねーよ、そんじゃ明日にでも俺んとこ来いって、確かめさせてやるから」
お誘いを投げかけることはしっかり忘れない。
「今日、とは言わないあたりが・・・・」
「う゛ッ」
「その場凌ぎで片付けても、すぐにバレますけど」
「う゛う゛う゛」
と、誘ったはいいがここまでは苦しい展開だったけれど。
ふっ、と口許を緩めたバーナビーが、
「じゃ、明日の夜に行きますから」
苦笑混じり、快い返事を返した途端。
「おっ♪」
虎徹の上機嫌モードは瞬く間に復活。
この勢いで張り切って夜を徹して片付ければ、そこそこ通せる部屋にはなりそうだ。


















とてもとても似てる二人だから、引っ付きたくなるタイミングだってほぼ同じ。
とてもとても似たモノ同士のふたりだから、ケダモノみたく発情期がくるのも同時らしい。






















例のクリーニングに出した布団は哀しいかな、
再びバーナビーが虎徹宅を訪れたその晩一日だけで体液まみれ(・・・・)、お役御免になり、
次の粗大ゴミの日にこっそり出されていた、というのは後日談である。










加えて蛇足、
結局無駄になってしまったクリーニング代金+購入した寝具セット二つを足した虎徹の今回の支払い総額は、今回のタイトルをば、ご参照ください。












本居様からのリク、「喧嘩しました」 です。 痴話喧嘩も喧嘩です。
現在1ドル80円くらい? 多少なりとも変動はあるかもしれないけど
おふとんて高いよね て思いました。 ←・・・・・・・・

なんていうか エロ以外は本当に阿呆なネタばっかりで ごめんなさい