[ bite into, ]







「虎徹さん、その肩に付いている跡は・・・・?」
「ン?」




バーナビーが、虎徹の肩口に付いていたその 『跡』 を目ざとく発見したのは、
つい今しがた、本日は大した事件も起きずの一日で、
淡々と過ごしたトレーニングルームから誰もが定時に帰宅コースを辿る流れの直行便。
特に今日が週半ばということもあって、
すでに自分たち以外はとっくに同僚全員が帰宅してしまった夕暮れの、更衣室内でのことである。




二人、残っていた理由は特に何を示し合わせたわけでもない。
カリーナとパオリンは揃って試験真っ最中、
イワンは夜からどうしても見たいジャパニーズなんとかテレビがあるからとか言っていて、
アントニオは通常通りネイサンに尻を追いかけられて逃げるようダッシュで退散、
残りの一人、キースも 「部屋でわんこが待っている!」 と張り切って(何故) 出ていった結果、
恒例通り(?)、マイペースでゆっくりお着替えをしていた二人が自然、残ったというわけだ。
それでも一足早く虎徹より先に着替えが終わり、何をするでもなく、
携帯ニュースなどに目を通して普通に待っていたバーナビーだったのだが。
たまたま視線を上げたとき、一メートルほど前、目線の高さにあったのはちょうど虎徹が上半身裸になっていたタイミングで、
(もう嫌というほど彼の裸なんて見慣れてしまっているというのに)
露わになった上半身を、特に意識して眺めていたわけでもなかったのだが、
ふと何かの拍子に目に留まったのは肩口の、それ。




「何か、赤い跡が・・・・」
「んー?」




聞かれて虎徹は怪訝そうに首を傾げて一秒、二秒考え込んだあと、
それからふっと気付いたかのよう、「ああ、」 と自らの肩口に目をやった。
そうしてあっけらかん、と。
「この歯形のコトか?」
「歯形!?」
たまらずバーナビーが目を見開いてしまう単語を口にする。
なのに当人はまったく構わず、
「言われてみると、ちょっと目立つか? ま、明日か明後日には消えるだろ」
上半身裸のまま、くっきり付いたその後を指で撫でながら虎徹は苦笑するけれど、
バーナビーからしてみれば、笑ってなんていられない。 笑っている場合じゃない。
「だ、誰の・・・・!!」
いつもいつも、
『あーホント可愛いよなあ美人だよなあバニー』 とか、
『今年中には一緒に住もうぜそうしようぜバニー』 とか、
『そしたらもうほとんど事実婚ってコトでいいだろバニー』 とか、
いくら雑踏の中・もしくは屋内であったり場所はその都度違えどとはいえ、ほぼ公衆の面前でもデレデレを隠そうともしない三十路の台詞。
それをほとんど毎日毎日、事あるごと自分は聞かされ続けてきたというのに。
だから(先週から今週にかけて) ここ数日は虎徹のお誘いを断ることなく、
七日間のうち三日間は虎徹宅で朝を迎えるといった一週間だった。
しかも三日間、当然にして毎夜毎夜 『TIGER × BUNNY』、
ワイルドに猛る三十路のお相手をうさたんはきっちり受け入れていたわけであって、
実は昨夜もその一晩に含まれていたため、
今日も普段に比べて微妙に足元がふらつく一日になってしまって、
ここまで来るとなかなかそれを隠し通すのも困難になってきた状態で。
だからバーナビーとしたら本当に出動要請がなかったことに感謝したい一日であったわけで、
なのに、
なのにそんな自分の気も知らないで、
他の誰かに手を出した上、あまつさえ歯型まで付けさせるなんて一体、
一体いつ、どこで誰とそんな破廉恥な!!
・・・・・・・などと血相を変え、携帯を放り出して一直線に詰め寄った途端。




「誰のって、昨日お前がつけた跡だっての」




またまたあっけらかん、
しかし耳を疑う返答が、直球で虎徹の口からかえってきた。




「・・・・・・・!!?」




詰め寄って、思わずそのままの体勢で固まったバーナビーに虎徹は続けてたたみかける。




「なんだよ、覚えてねーのか?」
「・・・・・僕、が!?」
「つい昨日のコトだろ? まさか忘れちまったワケじゃねぇよな? 昨日に限っちゃ、誘ってきたのはバニーの方からだったし」
「それは覚えてますけど!!」
「だったらお前しかいねえって。 あー、思い出すと顔がニヤけ・・・・」
「思い出さなくていいです!!」
叫びつつ、かああああと真っ赤になるうさたんとは対照的に、三十路はやたら楽しげだ。
にやにや笑いつつ、相変わらず上半身裸のまま、
動転のあまりその場から動けなくなってしまったバーナビーにずいっと近付く。
「ホントに覚えてないのかよ?」
「・・・・・・・・・・・」
「あんなに夢中で俺にこう・・・・・・・・、続き、言ってイイ?」
「言わなくていいです!! だ、だけど僕は噛み付いたりなんて・・・・!」
「いーや。 バニーだって。 お前しかいねえだろうが」
「違います! 絶対僕じゃ・・・・!」




バーナビーは自分じゃない、と言い張るけれど、
もし違ってたならそれこそさっきお前さん自分で誤解して怒って問い詰めてきた通り、
大問題の浮気問題になっちまうだろそこんとこどうなんだ、と苦笑しつつ、
今にも頭から湯気が立ち昇ってきそうなほど、
余計に真っ赤になって混乱するバーナビーの様子を前に、虎徹は悪戯めいた笑み。




「バニー」
「な・・・・なんですか・・・・」
「なら、もっかい試して比べてみりゃいいさ」
「・・・・・・・え?」
「だからよ、」
言いながら、虎徹はくっきり跡の残る左肩を昨夜と同じ角度でバーナビーの眼前に持って行き、
混乱の極みで、まったく理解できていない彼の後頭部に手を添え、そっと引き寄せて。
「ッ・・・・、」
突然の接近、密着に戸惑いを見せてバーナビーが息をのむ。
至近距離、僅かに肩口に感じる彼の吐息が心地良く、目を細めながら虎徹は。
「もっかい噛み付いて、その歯形を比べてみりゃわかるって」




「な・・・・っ・・・!!?」




そんなこと出来るはずがないでしょう、
こんなところで一体なにを考えてるんですか、
もしも万が一、誰か入ってきたらどうするつもりなんですか、
などと年若いバニーちゃんにぎゃんぎゃん騒ぎ出されるその前に。




「バニー、」
意識して送る、普段よりも低い、掠れた囁き。
ベッドの中、理性もなにも飛ばしてしまっている状態でならともかく、
恥ずかしがりのバニーちゃんは、まあこの状態では十中八九、そんな行動には出てくれないだろうから。
オジサン、先に動いた。




「そんじゃ代わりに俺が、バニーに噛み付いてみてイイか?」




「・・・・・・っ・・・」




言われてバーナビーは、思わず首を竦ませる。
が、
途端、ここに来て、なんとなく・・・・・、
なんとなく、
なんとなし、
思い出した。
・・・・・・思い出して、しまった、 ・・・・・・ような。
昨夜は輪をかけていろいろアレでアレでアレな状態にまで持って行かれてしまって、
いやもう本当に頭の中が真っ白になってしまうほど互いに身体の方が暴走してしまって、
どこにも持っていけない快楽の、苦し紛れ快楽紛れ(?) の果て、
なりふり構わず、眼前の虎徹の肩口に貪り付いてしまった、 ・・・・・ようだ。




「〜〜〜〜〜〜〜!!!!」




しっかりはっきり思い出した途端、
二重三重に輪をかけまくりでバーナビーは耳まで真っ赤になりつつも、




「・・・・明明後日に、雑誌のグラビア付きインタビューが予定に入っているので、」




キスマークとは違う、それよりもう少しだけ過激な所有の印。




「それまでに、消える程度、に・・・・なら、」




OKしてしまったのは、何故なのだろう。
別につい先ほどまで、全然そんな気もそんなつもりもなかったのに。




「・・・・ん」




それを聞いて、拒絶されることなど最初から一切考えてもいなかったの如く、
虎徹は自然な動きで体勢を変える。 バーナビーの右肩に口元を近づけた。
接近して僅かに鼻腔を掠めるバーナビーの匂いはまるで媚薬のようで、
あああヤバイヤバイこのままだとこんなところでサカっちまいそうだ俺、なんて無駄な自制をかけつつ、
許諾を貰ったをいいことにゆっくりとその肩口に歯を立てる。
けれどやはりガブリといくのは思い切れず、
とりあえず二度、三度と軽く甘噛みを繰り返していたら。




「・・・・・・と」




鼓膜を震わす、甘い声。




「もっと、・・・・虎徹さん、」




僅かに息を乱した言葉に煽られて、
そのまま虎徹は躊躇わず、思いきりバーナビーの肩に喰らいついた。
















三日後のグラビア撮影時にも、まだその跡は消えずうっすら残ってしまっていた程の強さで。















もちろんこの直後、「強すぎますよ!!」 と顔を顰めたバーナビーに即座に虎徹は怒られ、
この跡が影も形も消えてなくなるまで、お触り禁止令が出されてしまったというのがオチである。












一方で、
(本人は頑なに否定しているが) 良くも悪くも×××時、バーナビーは理性がすっ飛ぶと時折、
噛みグセがカオを出しちまうんだよなあ、と虎徹は後々、
酒の勢いでアントニオに語っていたりする(※むろんアントニオはどん引きまくりで)、
どうしようもない二人。











それでもヒーロー、やっています。











なんだこの変態クサイ話・・・・・
むかーしむかーし、似たようなネタでたぶん一本、書いたことあった気がしますが、
自分も細かいとこ覚えてないし多分誰も覚えてないだろうと思ったのでネタかぶりで(笑)