[ Lovely Bunnnnny!5 ]







気付けば6月も中旬で、
今年も残すところあと約半分、いつの間にか折り返し地点に立っている。




つい先日、「ハッピーニューイヤー!」 の声を聞いたばかりだと思ってたのに、
すぐまた半年後に同じ台詞を散々聞かされて、それと同じくらい自分も言うハメになるんだよなあ、
との虎徹のぼやきから始まった、こんな会話。


「やべェ・・・・。 ホント毎日毎月が過ぎ去って行くのがここ数年、身にしみて身に感じて早くなってきたような気が・・・・」
「気のせいじゃないと思いますよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「年齢を重ねるにつれて、そういった時間捉えかたの感覚は早まっていきますから」
「・・・・・・・・・・・・」
「つまり僕が感じている時間と、虎徹さんが感じている時間の流れ方は一緒ですが感覚的には違う受け取り方をしている訳で」


「あーわかったわかったわかってる、皆まで言うな」
どうせ俺はオジサンだよ、と諦めたかのよう手をぶんぶんと振って遮られ、
素直にバーナビーはそれ以上言葉を紡ぐのをやめた。
もはやここ最近は、世間にカオの知れまくった彼の隠れ家的存在(?) となりつつあるブロンズステージ、虎徹宅。
一階部分、いつもの場所で向き合ってアルコールを嗜みつつ、
なんやかやと世間話、他愛無い話を続けて小一時間が経過した頃、
互いに少しばかり程好くアルコールが回り始めてきた頃合、そんなあたりのこんな会話。
「この半年、特にビッグイベントとか何にもなかったよなあ。 バニーも籍、入れてくれねーし」
「もう酔ってるんですか?」
即答。
「モタモタしてると、またさっさと今年も終わっちまう・・・・だからせめて事実婚てだけでもな」
「酔っぱらってますね」
即決。
きっぱり言い切って、バーナビーはアイスペールから彼のグラスに容赦なく氷をどかどか放り込み、
摂取させるアルコール濃度を下げようとしつつ、
「だってなあ、半年間、俺とバニー、ちっとも進展してねぇっての」
「よく言いますよ・・・・」
ぼそり、と半酔っ払いの三十路が漏らした台詞に、
氷を放り込む手を止め、軽いが長い溜め息をついた。


「僕が覚えている限り、」


「ン?」


「年末年始も一緒にいましたし、バレンタインのチョコレート、僕の分まで平らげたのも虎徹さんでしたし、ホワイトデーに二人分のお返しを買いにも一緒に行きましたよね」


一月。 元日から・・・・というか大晦日から一緒にいた(※[ブラック大晦日] 参照)。
二月。 ファンから大量に送りつけられたバレンタインチョコレートに辟易している最中、
「流石は女のコ人気抜群のバニーだぜ・・・・」 とか呆れつつ羨まれたので 「それならいくつか一緒に食べますか、」 と訊ねたところ、「チョコよりバニーが食いたいバニーが食いたいバニーが食いたい絶対チョコよか甘いぜ」 とか訳のわからない理由で押し切られた。
三月。 貰っていた 『義理チョコ』 (※もしかしたらカリーナ→虎徹宛のチョコは本命だったのかもしれないが) のお返しホワイトデー用として、カリーナとパオリンに渡すマカロンやらクッキーやらを大量に買い込んだその夜、ホワイトデーだからなのか何だか知らないが(・・・・) 彼と自分の白いものにまみれさせられた(・・・・) 覚えがあり。


「四月になって、花見に無理矢理引っ張られて強制参加させられた挙句、五月の連休に僕の部屋に連泊していたのは誰でしたか? そして今月、梅雨に入ってからは、」


四月。 せっかく桜が咲いてんだから花見しようぜ! と発起人である虎徹にほとんど拉致されるかのよう連れて行かれ、まあ確かに咲き乱れる桜はキレイだったけれどその時見たのは夜桜、「夜桜のあとは夜バニーちゃんだよなあ」 とか何とか再び訳のわからない科白で押し切られる第二弾。
五月。 その連休中に虎徹宅、つまり此処がこの部屋を含むこの建物全体が、ちょうど耐震耐防の改修工事に入るという理由でバーナビー宅に転がり込まれ、まあ数日とはいえ、連休で割高になっているホテルを使うのも勿体無いですよね、と連泊をOKしたところそんな好機に彼が盛らないはずもなく。
そして今月六月。 「梅雨寒だから引っ付いてたって構わねーって」 とか勝手に頷かれて以下略。


「・・・・・・・・・・・」


思い出してみればみるほど、もうそんな記憶しか出て来ない。
加えて更に、更に言っておくが(・・・・誰に?) 当然にして当たり前にして、
そんな展開あんな状況こんな状態、に傾れ込んでしまって以下略略(・・・・)、
となったのは勿論もちろん上記に挙げてみたそのときどきだけのことではなくて、
週末一緒に居たりすれば100%、
週半ばでも明日仕事が一緒なら100%、
否否、いたるところつまり時間があれば互いの寝床が目の前にあったなら、
その時点で9割は確実に超えていて、
畢竟、特に季節イベントにこじつけなくても、結局はあれでこれでソンナコト(・・・・)、になるわけで。


そんな件、そんな一幕ばかり思い出してしまった自分に血の気が退きつつドン引きつつ、
拙い、これは僕も結構酔いが回ってきているみたいだ、と少なくなった自分のグラスの中、
炭酸水と氷とを大量に投入する。 
そうして結果、もはやほとんど味のしなくなった 『もしかしてこれ、酒入ってる?』 程度に薄まったほぼ炭酸水、を一口、二口、飲んだところで。


「バニー?」


突如口篭ったバーナビーの顔を、様子を伺うよう、虎徹が覗き込んできたから。


「・・・その都度、その全てにおいて虎徹さんに襲われたのは僕の記憶違いじゃないはずです」


しかも先述の通り、決して決してその時だけではないし。
そして、まあ多分というより十中八九、否、これまた前例に漏れず100%、
今日だって今夜だってなんのかんのと流されてしまうのだろうし。


「ですよね」
「ま・・・・まあ、な・・・・」
「数々の季節イベント時にたがわず一緒にいたのに、何も無かったとか言わないで下さい」
「仕方ねーって、もう一緒に居て当然! てな仲なんだし」
「それは、」
「だろ?!」
一瞬、詰まったお小言バーナビーに、虎徹は逆に開き直ったようだ。
小さく小さく、ニヤリと笑って、
「あ〜、確かに正月は最初っからバニーちゃんと一緒に迎えられたしなあ? 二月も確かにチョコよりお前さんの方が激甘だったぜ、えーと三月? ああ思い出した! シーツとカバーも丸めて捨てたときのことだろ? 今だから言うけどよ、翌日になって結局マクラもゴミ箱行きに・・・・」
「言わなくていいです!!」
慌てて制止、するけれど中年の喋りは止まらない。
「花見の後のバニーも、こう、なあ・・・・? 花見酒っつーかバニー酒っつーか。 で、先月の連休? あのままバニー宅に居候し続けときゃ良かったぜ、まだ梅雨じゃねえってのに、毎日ヌレヌレだったもんなあ・・・・」
「〜〜〜〜〜〜言わなくていいですよ!!!!」
ニヤニヤにんまり、あえて口にしてくるエロ三十路に、バーナビーは声を張り上げざるを得ない。
そんな様子を眼前で見やって、更に虎徹は続けてくる。
「んでもって先週のアレはアレだろ、バニーが寒いって言うからあっためてやったんだろ。 そこんとこは忘れてねーよな?」
しれっと虎徹は言い放つ。
「違います!」
六月上旬、つまり先週。 一週間前のことくらい、言われずともバーナビーだって覚えている。
言った。
確かに、似たようなことは言った。 それは間違ってはいない。
が。
けれどそれは、
梅雨に入ったせいか少し気温が下がりましたね、
寒暖差に気をつけないと体調を崩すので留意しないとetc. そんな言葉を口にしただけであって、
決して、決して虎徹が言ったような意味合いだった訳ではない。
なのに勝手にあえてわかりつつも曲解された挙句、以下略略略。


「まったく・・・・」


長い長い溜め息を隠そうともしないまま、
酒がなくなったグラスを手に、がりごり氷を噛み砕く虎徹をバーナビーは凝視する。
・・・・それでも、バーナビーとしても、虎徹の体温は嫌いじゃない。
嫌いじゃないから今ココにいるのであって、
彼の甘えっぷり暴走っぷり盛りっぷりも、むしろ享受する方向で、
『不本意ながらもイヤじゃない』 を地で行く日々、
だって実際、本気で拒んだことなんて一度もなく。
しかして、
「・・・・こんなヒーローって・・・・」
そんな、今更言ってもこれっぽっちも詮の無いループに迷い込みそうになるバーナビーに、
虎徹はたまらず苦笑、最後の一個になった氷を砕いて飲み込んだ後。


「なら、たまにはいつもと違うコトしてみるか」
「は?」
「確かに、最近マンネリじみてきてるっちゃ来てたよな」
「・・・・え?」
「よっし決めた! それじゃ、あのなバニー、」
「虎徹さん?」




「今夜は俺を、バニーの好きなようにしてイイぜ♪」




びしっ、と立てた親指を自らの胸元に向け、言い切り言い張るオジサン。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」




対してバーナビーは、咄嗟に言葉が出て来ない。
どういう意味ですか、なんて聞かずとも大体わかるのだけれど。 わかったのだけれど。




文字通り、固まるバーナビーに虎徹は笑いながら続ける。
「バニーから襲ってきてくれてもイイし、 〜〜〜〜〜襲われたら、まあ、おとなしくしててやるからよ。
今夜の俺はバニーちゃんの言うコト、何でも聞いてやるから」
ほら何でも言ってみな、と煽っているのか、挑発しているのか、それとも。
「・・・・・・・・本当、ですか」
「ウソ吐かねえって」
「・・・・・・・・本当、ですね?」
「バニー???」
遮るよう重ねて問いかけ、訝しがりかけた虎徹に向けて。




千載一遇の、このチャンス。




「それじゃ、あの、」




「・・・・・・ん?」

























「あそこの、部屋の隅に溜まっている洗濯物とタオルの山とを今すぐ洗濯機に放り込んで回してきて下さい。 そうしたら次は冷蔵庫の中で半年以上前から放置されている瓶詰めと保存容器の中の不要なものを全部捨てて、それが終わったら換気扇の蓋を外して、今夜いっぱいかけてこの部屋の掃除を徹底的にしましょう僕も手伝いますから」


























「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぬ・・・・・・・・・・・!!!!???」






















てっきり、
てっきりそこそこ甘い科白、甘いオネガイが聞けると思っていた虎徹に、先制攻撃。
そう毎回毎回、スキなようにさせてしまうにも程がある。 だからたまには。
案の定、今度は虎徹がピシっと固まった。
あまりに色気の無い願いだったかな、と自分でも笑いが込み上げてくるけれど、
三十路やもめの独居らしく、事実、
決して決して 『綺麗に片付いている』 部屋だとは言えない虎徹宅。
とはいえそこまで散らかっているとも何とも判断しにくいところなのではあるが、
つい先程ふと目に付いた未洗いの洗濯物の山(梅雨入りしているのだから全然不自然ではないのだが)、が役に立つこともある。


「そ・・・・そりゃあねえだろ・・・・」
「どうしてですか? 全然おかしくはないと思いますけど」
「バニー〜〜〜〜」


はあああ、と嘆息してがしがし頭をかく虎徹に、バーナビーはふっと視線を和らげ、


「でも、虎徹さん」
「・・・・・・・・・・んー?」


「早く掃除が終わったら、今度は僕が一つだけ、虎徹さんの言うこと聞きますから」
「ホントか!!!!」
「まあ、時間があれば・・・・の話ですが」
「了解! もうすっげえコト頼むからな頼んじまうからなせがんじゃうからな!! 覚悟しとけよバニー!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・」




俄然張り切って立ち上がった虎徹の動きを、不穏な科白に僅かに狼狽しながらも目で追いかける。
1年、365日のちょうど真ん中あたり。
洗濯物の山を抱えて、洗濯機との間を2往復し終えた虎徹の身のこなしを見るに、
巡り巡って結局、最初に言い出した彼の思惑に嵌まりそうだ。
そして以下、迷わず違わず300%略略略略略、
そんなマンネリだって決して決して悪くない。








どうせ七月になったら、海に連れて行かれ(予定)、
八月は花火大会を並んで眺めて(予定)、
九月は十五夜、一緒に浮かぶ満月を仰いで(予定)、
十月に来る自分の誕生日はもちろん、
十一月は本格的に寒くなってきたからetc.
そして気付けば年末十二月クリスマス、
間違いなく一緒にいる。 引っ付いている。 あえてスケジュールも何も、組まなくていいくらいに。




彼が四十路になっても、
自分が三十路になっても。








願わくば、ずっと。










結局のところ、イチャつくんですよ・・・・
けどうちに来てくださる方は今更そんなん100も承知ですよねアハハハハ
ところであの世界ってかあの地域に梅雨ってあるのかしらん・・・・。 絶対無・・・、まあいいや!
・・・・・・・カオを五万回くらい洗って出直してきます